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#7 夢のまた夢

▼夢のまた夢


 再度眠りに就く朔夜の夢の先は真っ暗な闇だった。しかし、今度は一歩踏み出した時いつも現れる階段が浮き立った。

 どうやら、現実と夢は近い所に有るらしい事が解った。近づいた。いや?二つの世界が融合し始めたのでなかろうか?と感じた。

 階段を下りると、再び扉が立ち塞がる。いつもの事だと云う様に扉に手を触れた。するとあの声が聴こえてきた。

「都住朔夜」

 パスワードは完全クリア。そして、再び光の中に躍り出る。真っ白な光の中に、目を凝らし、落ちて行く身体を感じながら、

「ハーム!」

 もう、忘れる事の出来ない固有名詞が口から漏れる。その声と同時に、ハームは朔夜の前に現れ上手く朔夜を背中で受け止める。トスンと云う軽い音が聴こえた。

 眼下には、秋の様相があちこちに見られる。色とりどりの紅葉した森が眼下に広がっていた。少し肌寒い空気が朔夜の身体をすり抜けて行く。

「モノは手に入れたのかのう?」

 ハームは朔夜の片腕に有る白い袋を知り得ていながら問いかける。

「ええ。これで、全て片がつくでしょうね?」

 朔夜は、このハームの事が不思議に感じられて来た。一体このハームは何者なんだろう?こんな事の橋渡しを買って出て、何もかも知り過ぎている。そんな事ができるのは、この世界をおさめる神しかいないのでなかろうか?

「何者かか?ガハハハハ!そんな事はどうでもいい事よのう〜?人の子よ?事を見守るモノがあっても何も不思議では有るまい?どんな世界にでも法則と言うモノがある。我が輩もその一部。そなたもその一部。解るか。人の子よ?」

 何だか不思議な気分だった。このハームは人の心を読む。もう、このハームが何モノでも良いような気がした。そう、朔夜がこの占夢をしているのも、世界を動かす一部なのだと理解した時に決まっていたのかも知れない。

「納得したか?ほれ、目的地はそこだ。行って参れ。上手く事が済めば、また一歩心理に近づくのであるのだからな!」

 ミズチは下降し森の入りロへと朔夜を誘った。

 森の入り口に下ろされた朔夜は、ハームが立ち去って行くのを振り返らずドンドンと歩み進む。

 そして、再びあの場所に辿り着いた。

「持って参ったか?」

 ミズチは、今か今かと侍ち望んでいた物を……朔夜の肩から掛けている白い袋を掻っ攫うように奪い取ると、その中身を確認した。

 確かに二本の角と、鬣がその中にあった。

 それを取り出し、ミズチは自らの子供を呼び寄せた。子供は母親ミズチの間をかいくぐりヒョロヒョロと這い出して来て、父親の所迄やって来る。

「これをお前に託そう」

 ミズチの子供の頭にその二本の角を翳した。すると驚いた事に切り取られたはずの引っ付くはずもないと思われたその角がその子供の頭に吸い付けられるように引っ付く。

 まるで、夢のようだ。いや?ここは夢と現の狭問だった。引っ付いたとしてもおかしくはないのだと朔夜は納得した。その瞬間、世界が蠢いたような気がした。ドドドという遥か彼方の土地が動いたかのような、そんな感触。しかし、その感覚はすぐに落ち着いた。何だったんだろうか?と、思いはしたが、朔夜は、次のミズチの儀式を見守った。

 ざんばらに切り刻まれた鬣。それをどうするのかと朔夜は興味を持っていたからである。

 ミズチの父は、袋から余す事無く取り出したその鬣を手の平に掬い出し、辺り一面に振りまく。すると、磁石がミズチの子供の背中に取り付けられているかのように、全ての毛と言う毛が一気にミズチの背中目掛けて飛んで行った。そして、ミズチは竜神とまるで変わらないように変化した。

「これで完壁だ。我が愛し子よ、去るべき場所に還れ!そしてこの世界を元に戻すのだ!」

 朔夜は、目を見開く。今何を言ったんだ?去るべき場所?世界を変える?と、理解不可能な頭を抱えた瞬間、地面が盛り上がった。いや盛り上がったと言うのか、地割れが起きたと言うべきか?地殻変動がこの森に起こったのでる。

「都住よ。お主の事はこの世界で語り継がれようぞ……そなたも居るべき場所に還れ!」

 その言葉で、朔夜は意識を失った。


 居るべき場所?


 何故か叶や、かえで、水城達の事が頑を過った。しかし、次目を開いた時は塔の中だった。その上、塔は崩れかけていた。そして、占夢を行った時居たはずの竜軸二体の姿は何処にもなかった。

 朔夜は辺りに目を見張った。パラパラと石煉瓦の崩れる破片が朔夜の目の端に映り込む。何だか煙たい感じがして咳き込んだ。

 ベッドから『ミヤーミヤー一』と云う鳴き声が聴こえた。何かがいる。直ぐさま朔夜は立ち上がりベッドに駆け寄った。するとそこには、手の平サイズの猫のような?虎の子供のような赤ちゃんが丸くなって鳴いていた。

 朔夜は、その子供を取り上り上げ、抱きかかえた。

 突然崩れ落ちる石煉瓦。間一髪でその子を抱え込んだ時、上から落ちて来たのである。ホッと息を吐いたが、一安心など出来ない。何とかここを脱出しなければならない。朔夜は、扉を『バンッ』と放って抜け出し、下に降りる為の階段を飛び下りていた。上がる時も大変だったが、降りるのも大変だ。 しかし、悠長にしている事は出来ない。朔夜が隆りて行く度に後ろからドンドンと石煉瓦が崩れて行く。間一髪くぐり抜けてはいるが、いつ自らの足下が崩れ落ちるか気が気ではなかった。時には二段とばしで駆け降りる。そうしないと、上から落ちて来る石煉瓦に漬されかねない。そして、足下がなくなる。

 そうして、無事塔最下部に辿り着いた時、一気に外へと駆け出した。

 外は冬の様相。辺り一面銀色の世昇だった。降り積もった雪の上にほ足跡一つない。

 空を見上げるが竜神はいない。もしかしたら、この冬の季節には冬ごもりをしているのかも知れないと想った。

 肌に刺す冷気が、朔夜の身体に突き刺す。凍えそうだった。どうやったらコノ世界から抜けだせるのか?もう何がなんだか解らなかった。普段冷静に振る舞う事が当たり前だった朔夜ではあったが、この状況ではもう冷静でいる事など出来なかった。

 遠く先を見る。地面がない?というか、世界が崩れ始めている。そう思った。もうダメかも知れない?終わりかも知れないと思ったその時、

「何故儂を想い出さんのじゃ?」

 と頭の中で声が鳴り響いた。

「ハーム?」

 朔夜は、その声の主を思い浮かべた。

「ハーム!」

 朔夜は、思いっきり声を張り上げその相手を呼んだ。ヒェーっと飛んで来るその姿が目に映り込んだ時、朔夜は膝を落としそこに座り込んだ。ハームは、

「お主はもっと賢いかと思っとったぞ?ガハハハハハ!」

 人の気も知らないと……毒づきたくはなったが、この状況を後ろ向きにしか考えられなかった朔夜にしてみれば笑われても仕方ないとも思えた。朔夜は、腕の中に抱えている搭の子供を抱えたまま、ハームの背中に乗り込んだ。

「この子の両親はどうしたのでしょうか?」

 朔夜は心配になり、ハームに問う。

「その子の両親はもうこの世にはおらん。己の命をその子に託した。あの時、お主が占夢を行った時、定められていた運命じゃ……」

 ハームは少し躊躇いながら、話した。

「運命?」

「そう、運命じゃ。ミズチの種族は細かくは四種類に別けられる。そして、今回異積族の子供がそれぞれ異種族間に産まれ落ちた。そこから運命は決まっておった。そうしたのは儂じゃ。この世界を統べる儂の意志じゃ……いや?この世界を創り上げたのは人聞でも有るんじゃがの?判らんかもしれんが、全ての世界は繋がっとる。連鎖じゃ」

「達鎖……」

「その子はもう、この世に居てはならん子じゃ。お主の居るべき世界で成長することじゃろう。今生まれ変わったのであるからのう。新しい生命じゃ……」

 そこ迄言うと、ハームは、急遠に空高く舞い上がった。希薄な空気で朔夜は眩暈がした。ハームが何を言っているのかさえ聞き取る事が出来なくなっていた。そんな朦朧とした意識の中で、朔夜は、意識を失ったのである。

 遠くで自分の寝前を呼ぶ声が聴こえる。もう少しこのままでいたい。しかし、意識はハッキリと現実に戻ったのである。


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