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#6 取り違え

▼取り違え


 今度こそ夢の中だと……そう思いたかった。しかし目の前は真っ暗だった。また、振り出しに戻りたかのようだった。朔夜は諦めたかのように、またあの時と同じように歩き始める。すると、今度はいとも簡単に蝋燭が灯る階段が現れた。

「同じ事の繰り返し?なのでしょうか?」

 はあ〜と溜め息が出た。

 そして再び突き当たった扉に手を触れる。

「誰じゃ?」

 再び、岡じ声の主が同じ事を問う。しかし、さすがに今度は驚かなかった。

「都往朔夜」

 朔夜はいつもののんびりとした口調で答えた。今度はさっきとは違う。すんなりと扉が開かれた。そして、同じように光の中に身を投じることとなった。

 その先は、やはり空中で……地上を落下しながら眺めると、地上は縁が碧青とした夏の様相。

 いましがた迄雨でも降っていたのか?キラキラと乱反射する大地。そして、空の彼方に虹が薄らと掛かっている。二重になっている虹を見るのは初めてであった。

 再び、空気に溶け込もうと試みたがどうやら今度も適わないようだ。

 そこで思い出した。確か……

「ハーム!」

 朔夜は辺りを見渡しながら、ハームを呼んだ。ハームは何処からか飛んで来て朔夜を受け止めた。

「良く覚えておったなも〜ガハハハ!」

 気分良さ気にハームは朔夜に話し掛ける。

「これは現実なのかい?」 

 朔夜は、取り乱すことはなかったが、いささか不満だった。

「夢なのか?現実なのかは己が感じたように振る舞う事じゃの〜儂は何も知らん。が、色んな事を知っておるのよのう〜ガハハハハ!」

 何を言いたいのか?朔夜には判らなかったが、こうなってしまえばもう行き着くとこ迄やってやろうとそう想った。同じ事の繰り返しになっても良いと思った。

 しかし、ハームは今度は塔がある所へと向う事はなかった。塔の上空を飛び去る。その事が不思議に思え朔夜は問いかけた。

「どうしたんです?塔に向うのではないのですか?」

 その言葉に、

「誰もそんなことを言った覚えはないのだがのう」

 ハームは再び大声で笑っていた。

 何を考えているのか解らなかったが、どうやら今度は深い森の中へと向っているようである。どうもこのハームは、何かを確実に知っている。いや自覚がないのかも知れないが、確かに朔夜をある一点の方向へと導いているかのようである。

「さて儂が入れるのはここ迄だ。後は自分の手で道を切り開けよ。人の子よ」

 朔夜を地上に下ろしそう言うと、すんなりとその場から飛び去って行った。

 一人取り残された朔夜はその後を目で追っていたが、暫くすると踵を返し、森の中へと踏み出したのであった。


 森の中は鬱蒼としていた。光が差し込まむいようなそんな森の中、道にそって歩く。時々、枝に止まっていた鳥が飛び去って行く。朔夜の気配を感じたのであろう。落ちた小枝を踏みしだく度に、足音が響く所ではその現象が何度となく起こる。そして、遠目でも解るようにある一点にだけ薄らと光が差し込んでいる箇所がこの道ぞいにある事が解った。朔夜は何かが誘いかけているかのように駆け出した。何かが自分をそこで待っているかのような?いや、呼んでいるかのような気がしたのである。


 その場所に近づいた時、ある影が朔夜の前に現れた。それは、ミズチであった。あの、水晶の中に封印されていたミズチ。いや?でも何処かが違う。そう、角がない。鬣がない。こんなに大きくはない。そして、虎のような立派なミズチだ。

「待っておったぞ……占夢者よ」

 野太い声が朔夜を招き寄せるように囁いた。

「持っていたのですか?この僕を?あの……僕には良く理解できないのですが?」

 朔夜は心の中で思っていることをそのまま口に出した。まるで、このミズチは朔夜の心の中を覗き見るかのようなそんな目つきであったから。

「うむ。その気持ちは解る。汝に望む事はただこちらからの望みだけだからのう〜」

「要望……ですか?」

「塔へ行って来たのであろう?」

「ええ。行きましたが……そして、占夢を行った。しかし、結局導かれて来たのはこの場所で……」

「ここは、夢と現の狭間じゃ。汝を呼んだのはこの儂じゃ。要望はただ一つ。塔で生まれた子供のことじゃ……あれは儂達の子供かもしれん」

 すると、そのミズチの奥からまた一体のミズチが現れた。

「ですが、あの塔にいたミズチ達は、自らの予供だと言ってましたが?」

「だから、その証を確かめたいと想っとる。ここに儂の子供がおる」

 そこには、竜神と同じミズチの子供がいた。軽くその子供と言われるミズチを見たが、一瞥しただけで、話し始めたミズチの親に視線を戻した。

「取り違いっ子なのか?それとも、この事が本当に正しいのか?儂らには解らんのじゃ」

 横にいるミズチもそう考えているらしく、軽く領いている。

 朔夜は、混乱していた。どう言うことだ?子供が取り違えられている。そんな事があり得るのか?ミズチの世界に病院でもあるのかと考え込んだがそんな物はあるはず無いだろう。

「生れつきなのでしょう。違うのですか?」

 塔からこの森はかなり離れている。だけど、実際生れ落ちたのは似ても似つかない種族。親が心配するのは当たり前だ。そして、今度は子供のミズチをしっかり見た。良く見ると鬣がない。角もない。

 確かに、竜神と云われてる物が備わっていない。

「向こうの子供を見たか?鬣が有るか?角は有るか?」

 ミズチは問うた。

「……ありました」

「ならばここに差し出せ。そのモノを!」

 朔夜は、押し黙った。差し出せと言われても、どうやって?

「自ら確かめに行けばよろしいかと思われますが?そして話し合うのが良案でしょう?」

 しかし、その問いに関して直ぐさま否定の言葉を返して来た。

「ダメなんじゃ。それは出来ん。儂らの世界での種族のしきたりじゃ罪を犯す事は出来ん」

 ハッキリとしたロ調と大声がまるで朔夜をかみ殺すぞといわないばかりで……朔夜は内心弾かれたような心職の鼓動を感じた。

「しきたりですか……だからこの僕を橋渡しにしようと考えたのですね?」

「長い事待った。この日を……」

 長い時間。その言薫は今の朔夜の心に響いた。現実で待っている少年もこうやって長い時を、死もなく生き抜いてきた。同調しているのかも知れない?このミズチの子供たちに……

「解りました。ならば、説得して来ます。鬣と角を条件ということで良いのでしょう?」

「そうだ。それを儂達の前に差し出せ。それだけで良い。それ以上は望まない。ただし、偽物を持ち込むことは出来ぬと思え。その事が守れない眼り、この占夢は成功しないと思え!」

「解りました」

 朔夜はその言葉を最後に、意識を開放した。


 朔夜は、自分がいる所を確認した。間違いなく塔の中にいる自分を把擢した。

 その起き上がった朔夜に、塔の中にいる竜神二体が心配そうに見詰めていた。

「どうでしたか?成功したのですか?」

 母親の方は一杯一杯の感じで朔夜を見詰めている。とにかく何とか成功して欲しいのであろう。

「森の中にいるミズチの子供の話は御存知ですか?」

 朔夜は少し回りくどいかも知れないが、取り敢えず聞いてみようと想った。

「森の中というと、あの別種族のミズチか?」

 父親が訝しげな表情で朔夜に問い込した。

「ええ。そうです。御存知ですか?」

 その答えは『ノー』であった。

「占夢で、あなた方の子供の鬣と角を要求して未ました……必ずこのミズチの角と鬣を……」

 父親は乱暴にその話にも『ノー』と言った。母親も然りである。

 竜神であるこのミズチの大切な身体の一部を要求していると云うことが許せないらしい。確かに、このミズチとその両親の正統なるつながりだと言えるだろう。

 しかし朔夜は、

「それが適わないならば、あなた方の子供はこのまま一生眠り続ける事になりますよ?それでも宜しいのでしょうか?道は一つしか有りませんよ?」

 気持ちは解るが、この両親にとって眠り続ける子供を見守るのは辛いであろう?だから残酷な事を言ってみせた。

 両親は自らの子供を見詰めた。どうすれば良い?実際グラついている感情が手にとってわかる。

 角をもぎ取り、鬣を切り落とし……そんな酷な事をこの己の一存で出来やしない。子供可愛さと、助ける為の二者択一。

 その為、父親と母親は判断する為の討論をし始める。その場に朔夜がいる事を忘れているかのように激論は続く。朔夜はそれを黙って聴いていた。何も口を挟むことは出来ない。時間は容赦なく過ぎて行く。

 どれほど時間が過ぎたであろうか?朔夜は余りにも時間が過ぎている内に、眠気に襲われ近くに有る椅子と言うには大きすぎるひじ掛けに身を委ねていた時の事であった。突如静かになった。

 どうやら結論が二体の竜神達の間で決まったようである。

「わかった。この子を助ける為にも、その要求を飲もう」

 唸るように父親の方のミズチが言った。

「それしか方法がないのであれば……」

 母親の方も納得したらしい。

 朔夜はいたたまれない気持ちを心に秘め領いた。

「ならば、実行に移しましょう。僕が全てを見守ってますから」

 こうして、全ての取り引きが終わる。


 見事に切り落とされた二本の角。そして削ぎ落とされた鬣を、真っ白な大きな袋に詰め込んだ。それを受け取った朔夜はズシリとその重さを腕に感じた。いや?腕と言うより心に感じたと言った方が適切かも知れない。とにかく、三体分の思いがここに詰まっている事は確かだ。そして、気持ちを整理 すると、

「行って来ます」

 再び、あのミズチ達の元へと旅立ったのであった。

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