#4 ミズチ
▼ミズチ
時間は刻々と過ぎて行く。宮島の空は、雨であるにもかかわらずだんだんと陽が暮れて行き、今では今何処を歩いているのか分からない程迄暗くなっていた。天空には星も月も出ていない。光がない。そんな暗闇の中、一行は少年の後をついて行った。
「まだなんかい?疲れたで……」
叶は、はじめの内は疲れなどみせず、ズンズンと勢い良く地面を足で踏みならしながら歩いていた。しかし、目的の場所はかなり遠かった。人を気にして少年が遠回りをしているのかも知れないと云うのにその事には気がついてないらしい。
そんな叶に、朔夜は後ろから思いっきり足を上げケリを入れた。その勢いで叶は思いっきり転げた。
「何すんねん!朔夜、このボケ!」
と立ち上がったは良いが、後ろを歩いている朔夜、かえで、水城はデリカシーの欠片もないと言いたげな頗をして叶を見ていた。今日は流石に何も言えなくて、しょんぼりと肩を落とす。
そんな時、
「もうそこです……」
道を駆け出した少年の後に続く。
そこは、滝のある場所であった。上から下に流れ落ちる水。勢いが良すぎて一瞬眩暈がしそうかくらいだ。しかし何処にも洞窟らしいものは見受けられない。
「何処なの?」
かえでは、分からかいわと云った顔で少年を見下ろした。
「この滝の裏じゃ。気を付けて下さい……暗いですから。足下を踏み外さないように」
そう促すと、少年は滝の裏へと歩いて行く。でも、この暗さでは余りにも危ないと察した水城は近くにある木の枝をとり、
「点火!」
松明代わりにと、先をいく少年の後に続く三人に手渡した。そのおかげで何とか足場は確保した。
少年の言う通り、その先には大きな穴があった。岩肌を深く抉ったたかのまうな穴。それが洞窟の入り口なのだと察しがついた。
「こんな所に隠されてるなんて……」
少年がどれだけこの宮島を散策したか知れない事を想うと、かえではいたたまれない気持ちが心を押さえ込んだ。
そして、一行は中に入った。
中は外気よりもヒンヤリとしていた。
氷室は、夏迄に永を貯えておく為のものだと言う事は知っていたが、こうやって入る事は、初めてである。三人は興味と恐怖を感じながら歩を追めた。
そして、数十分進んだ所で足を止めた。
驚いた。氷が先を行くものを阻止するかのようにそそり立っていたのである。
「氷?いや、これは……」
朔夜は、その壁に手を当てた。冷たくない。
「クリスタル?」
そう、それは紛れもなく氷ではなく水晶であった。そして、その中を覗き込もうと、四人は少年の前に躍り出てよく中を見ようと松明を翳した。
「……!」
四人は凝視した。その奥には、巨大な、体長3メートル以上あるであろう、額に角を二本持った白い虎の化身が身を丸くして眠りに就いていたのである。綺麗な鬣。そして、鋭い牙と爪。荒々しそうでどことなく品がある。
「白虎みたいだね……でも白虎は角なんてないけど……」
白虎とは、中国の伝説の生き物で、四方を守る内の、西を守護する生き物だ。そして、五行の元素の内、確か、金の属性を持うモノ。水城はその事を思い描き大きく目を開いて見上げていた。
「これが、ミズチ……」
目を見開いて、朔夜はこの生き物の眠りを醒ます事が出来るのであろうか?一瞬、考えてしまった。出来ない……ような気がする……何だか途方に暮れそうになった。
「本当に生きてるの?」
かえでは目をパチクリしながら、呟いた。生きてる事はすぐに判った。ミズチの鼓動が辺りに反響していることは誰の耳にも聴こえているのだから。
「困りましたね……僕には……」
朔夜は否定の言葉を出そうとしていた。しかし、
「朔夜、やってみんかい!出来るかどうかは、その後で結果としてあらわれるんやから」
叶が、さっきの礼だと云うかのように、朔夜の背中を叩いた。後押ししている。でも……何だか不安が押し寄せる。人間以外の占夢をした事がない。その上、これはどう考えても難しい……でも……
そう。このミズチから眠りを取り除かないと少年はこのまま一生生き続けなればならない。迷ってる朔夜に、
「朔夜おじちゃん?」
水城が突然話しかけた。
「おじちゃんには出来るような気がするよ」
今迄引きつっていた頬を、満面一杯の笑顔で応えた。まるで、このミズチなるものを本気で起こせると言いたげに。
「どんな夢を見ているんですか?」
朔夜は恐る恐る、少年に問いかけた。しかし少年のロから出た言葉は、
「私には分かりませんのじゃ……」
の一言であった。
「分からないのですか?でも何かしら思い付く事があるのではありませんか?」
その言葉に、
「一応試してみたんじゃが、扉は開かない……どう云う訳か……よって、どんな夢を見ているのかなど理解できないと云う訳じゃのう……」
「試して、扉が開かれない?」
朔夜は困惑した。意味が分からなかった。
「それだけ特別なんじゃうな?私はそう思っとるわけじゃよ」
つまり、伝説の占夢者しかこのミズチの眠りは引き出されないと云う事だと改めて思い、朔夜は肩に重圧を感じた。
「チャレンジしてみます。ただし期待はしないで項けませんでしょうか?僕には全くの未知の世界と言って過言ではありませんので……」
呟くようにして、朔夜はことに従事する事を承知した。
「では行って来ます……」
意識をいつものように飛ばした。
十分な睡眠の上にこの行為。果たして上手く行くのか?ズシリと頭の中に何かが舞い降りたかのような重圧。そして、パタリと倒れ込んだのである。




