#2 雨の宮島
▼雨の宮島
広島空港に到着した朔夜、叶、かえで、水城の四名は、大雨の空港から足を踏み出す事を躊躇っていた。それもそのはず雨天時の用意をして無かったからである。
「朔夜ちゃん?これからどうするの?」
とにかくいつまでもここにいる訳には行かないと思い、かえではつまんなさそうに独りごちていた。天候が悪いと返って気分が優れないとでも云うように。
水城自身、この広島に来てからは余り良い表情をしない。何だかブスっと不機嫌であった。先程から下を向いて無機質な空港のロビーの床とジッとにらめっこをしている。
「しゃーないなあ〜。どっかで、一時休むか?俺が思うには、この広島の南西に位置する所に目的としとる陰陽師がおる気はするんやが……」
先に行っておいた五行を担う者に掛けた術による一種の勘である。
「うん。お兄ちゃんが言うように、それは当っていると想うよ。この土地の気の流れが教えてくれるから……本土にはいないね……」
覇気は無いにもかかわらず水城もそう答える。
「南西ですか……で、本土にいないとなれば、離島でしょうか」
「南西ね〜となると、一番有り得そうなのは、宮島かな?あそこの厳島神社は有名だもんね?」
その言葉を受けいれるといなや、嬉々として広鳥の地図を広げながら、かえでは考えられそうな土地を指差す。
安芸の宮島。それは、日本三景としても有名で、京都の天の橋立、宮城の松島と並べて名高い。その上世界遺産として指定される程有名だ。そしてそこは旅行者が多い事でも有名な土地でもある。
「神社かいな……」
叶は、いささか思い出したく無い事を思い出してしまった。しかし、今はそんな事を思い出している暇は無いと振り切る。いつまでも過去の事を振り返っている事は前に進むに必要な事では無いとそう判断したからであった。
一行は広島から空港を出、路面電車で一時市街へと足を運んだ。必要であろうと思われる物の買い出しと、雨宿りを兼ねてである。
それから少しだけ、小腹が空き飲食店に入る事になった。
「広島に来たからにはこれを食わにゃあな!」
「叶って大阪人だよね?で、それで何でこうなるの?」
叶が進んで足を運んだ先は、広島特有のお好み焼き屋であった。
「お好み焼きにも違いがあるもんや!俺は味にはうるさいでぇ〜早よメニュー見て決めんかい!」
大阪の平べったいお好み焼きに比べて、広島のお好み焼きは何重にも重なった層の上に焼きそばが乗っている。その上にもまた層が。その重厚な満腹感を感じるに値するそれは大阪の物とはまた異なっていて楽しみ甲斐がある。
東京では、もんじゃ焼きが有名で、もちろん叶はその黙々と土台を作り、それを崩しては箆でチビチビと食べるのも面白いと思っていた。何にしろ、食いしん坊の叶にとってこうやって土地ならではの食を堪能する事は生きている上の楽しみであった。
その叶に、かえでは呆れてはいたが店中に広がる香ばしい匂いには勝てずに早速メニューを見始める。他の朔夜と水城も同様で、かえでと同じ行動に出始める。何よりこう云った時間は時が経つのを忘れさせてくれた。
「納豆のお好み焼きも有るのねえ〜」
そんな中、叶の苦手な食べ物を言うかえでに苦い表情をした叶ではあったが、メニューを厳選してじっくりと見るとオーダーした。
そして、忘れてはならないとご飯も叶は頼む。関西人らしい所を見せつけられ、残りの三名はロを開いて驚いてはいたが、何も気にしない辺り、叶の神経は鈍かった。
「うん。美味しかったね!」
水城は先程迄の不快な表情から一変した表情でテーブルの端で満足そうに笑っていた。
「せやろ〜!さて、外の様子はどうやろか?」
今迄雨宿りをしていたような一行は、気になったのか外の景色に目を配った。
「小降りとはいえないようですが、降ってますね〜この後どうします?」
デパートで買った雨具は万全。もちろん宮島まで足を運ぶ事も可能だった。
「時間にそこ逃余裕は無い事やしな〜思い切って出かけるか……」
その一言で、朔夜達一行は船に乗る為に、宮島ロ迄足を運び宮島を目指した。
宮島迄は、船を利用して足を運んだ。約十分もすれば目的地へと到着する事が出来た。遠目でも分かるくらいに目と鼻の先にある訳である。
水城はもちろんの事、朔夜や叶、かえでもその土地に足を運んだ事は無かった。船を降りて取り敢えず観光名所の厳島神社へと地図を頼りに移動を開始する。四つの色とりどりの傘は、行き交う人達に紛れて右往左往しながら動いている。もちろん、水城の歩幅に合わせての移動なので時間がかかる。そんな一行に気を遣ったのか、そそくさと一行から離れ人目につかない所へと移動する。そして水城は、変化の術を使い大人モードへと変化した。
「こっちの方が、何かと身動きとれやすいでしょ?」
辺りに人けが無い所で行った為、誰もその事には気がついた様子は見受けらない。
「え?この子があの水城ちゃん?」
かえでは水城のこの術の事を知らなかった為、あんぐりとロを開けて呆然としている。
「かえでお姉ちゃんは知らなかったんだよね?うん水城だよ〜」
ニコニコとしたあどけない笑顔はやはリ水城のものだと判り、かえでは何とか把握する事が出来たのである。そして関心したように不思議そうに大きな瞳を瞬かせた。
「うーん大人になったらこんな感じになるんだ〜でも可愛いから許しちゃう!」
かえではその水城をギュッと抱き締めた。端から見たら何をやっている一行なのだろうか?少し不自然では有るが、それに対しニコニコと微笑んでいる水城がまた可愛くて仕方なかった。
「やはり、保父さんより保母さんがいてくれた方が心強いですね。叶?」
完全にかえでのお目当ては水城一点に変わり叶は面白くは無かったが、こういう旅には必要なのかも知れないと思うと何とも言えない心境だった。
「でも、かえでちゃんがこの旅に同行して、危険やなかろうか?俺らはええよ?それなりの事件やらで免疫はついとる。やけど、かえでちやんにはそれがあらへん……」
それが一番心配であった。もちろんこうやって一緒にいる間は良いかも知れない。しかし、もしもの事があった時、自らそれを回避する為に動く事が出来るであろうか?
「かえでちゃんが望んだ事です。勿論危険が迫ったら、それに対して僕達が何とかしないといけませんね。あ、もちろんその役は叶に一任しますね?」
朔夜は面白おかしく叶に言葉を放つ。ただ朔夜は叶の表情を見て楽しみたかったのであろう。それに対し叶はあんぐりとしたロをすぐにへの字に曲げる。いつも、いつも叶にそのお鉢は回って来る。でもこうなった以上は、是が非でも守り通さなければと叶は思い直ったのであった。
狭いようで広いこの宮島は宮島桟橋から徒歩で十分程度で厳島神杜に着く。そして観光名所で特に見知られる大鳥居は背後にある海の青の中で映える朱色を鮮やかに優美に立っていた。もしこの雨が無ければもっと美しい景観であろうとそう感じる。
時代は推古天皇の時代まで遡る。当時は祭神、天照大御神の娘、市杵島姫命と田心姫命、湍津姫命の三神が敬われ奉られ始めた。そして、平安時代末期、平清盛のロ添えで厳島神社を造営。それに着手した訳としては、『平家物語』で語り継がれている。高野山に参拝した折り、霊夢を感じ夢の中に現れた老僧の勧めであったと云われている。
そして、四人はそんな歴史深い神社内を散策しお参りをする事にした。まずは、祓殿、拝厭、弊殺、本殿と順に歩いて回ることになる。
この神社は、海上安全。商売繁盛で有名で、余り叶達には関係はないが、お参りをする際念じる事はみんな決まっていた。しかしその途中、叶は気を張ってアンテナを張り巡らせながら歩いていても、次に捜している五行の陰陽師を見つける事は出来ずにいた。
その後、今日のこの天候で観光客の少ない水面に近いその場所へと足を運ぶことにした。
いつしか満潮時から干潮時へと時が流れ、楠の四脚造の大鳥居が下から覗く事ができる迄潮は引いていた。そして、うっとうしい雨は小振りではあるが未だシトシトと降っている。
そんな中、その引いた潮の先に身汚い一瞬見て新宿に蔓廷るホームレスのような色合いの、元は白い羽織だったであろう服と、槌せた紺の袴を履いた子供が叶の目の端に映った。
歳の頃は、背の高さや体つきから推測するに小学6年生くらいでは無かろうか?水城をほんの少しだけ大きくした体型である。その上、目に止まるに値出来たのは、後ろ姿だけ見ると、外国人では無かろうかとさえ思える程、色素の薄い白銀髪の少しウエーブの掛かった一見軽い感じの腰まで伸びた髪が印象的な少女の様な者がそこに立っていた。
この厳島神杜の関係者としてみる事もできるが、それにしては余りにも薄汚れた見た目。そしてその姿に何かしら悲壮感が漂っているようでどう云う訳か見逃せないと思い、その子供の後ろ姿に叶は目を見張った。
「なあ、あの子、独りやけど……こんな所で何しとるんやろ?どう見ても観光客っちゅう感じやないで……地元の子やろか?」
叶が突然周りの一行に注意を促した時、その子供は、海面へと足を運び始めたのである。
「え?」
まるで、水に弾かれたかのように海面を歩き始める。押し寄せる波をものともしないで……そして、この雨の宮島にごく自然に溶け込むかのように薄らとその姿が消え掛かかっている。それを一行が目にした時、
「あ、あの人!」
水城はその子供の過去を自ら受け入れ偏頭痛をもよおしていた。
水城の頭に流れ込んで来たその風景は、平安時代の悪霊退治や、戦国時代の戦風景。そして、原爆の火の海のフラッシバック。全てが脳裏を過りパニックに陥りそうな程の眩暈が押し寄せていた。フラリとよろめくその水城の身体に気付き驚いてかえでは抱きとめる。
「止めな!……ちゅうより、どうなってんねん?」
朔夜を振り返って、どうすれば良いのか意見を求めた。こんな事があり得るのは、霊としか考えられないが叶のアンテナに霊としての気は感じられなかった。いつもの胃を突かれるような吐き気が起こらない。本来霊に対しては敏感では有る叶である為その子供が生身の人間だとそう悟った。後、こんな事をなし得るのは……自らが捜している陰陽師くらいではなかろうか?
「呼び止めましょう」
朔夜は慌てている叶を他所に短く淡々とそう言うと、傘を投げ出し走り始める。その後を叶違は今迄海水の下であった砂の上に足をとられながら追い掛け始めた。現時点誰だか分からないその人物を……
「ちょい待ち!あんさん、どうするつもりやねん!」
駆け出した四人の中で、体力的に優位に立つ叶。一番乗りで辿り着いたその先の子供は、もう全身半透明で薄らとしか見えない。そしてその子供が振り返った時、あまり自信は無いが、少年である事に気が付いた。しかし、叶が投げかけた言葉に振り向くと、その少年は不思議そうに叶を見上げた。
「何じゃろう?」
少し怪訝そうに叶を見上げるその表情に、叶はこの状況下あり得ない事は分かってはいるものの、
「……入水自殺でもするんかと思うたで?」
しかしその少年は、叶の言葉を受け取らず、
「そうけえ?まずい所を見られてしもうたけえ……記憶を消させてもらわないといけませんなあ……」
一方的に少年は叶の目の前にを手を翳し暗示を掛け始めようとする。しかし、
「あんさん、陰陽師やろ?五行を操る!」
直球のその言葉に、少年は色素の薄い大きな瞳を見開いた。するとたちまち消え掛かっていたその姿が露になる。
「あなたは何者です?」
その瞬間、叶はしっかりとその少年の手首を引っつかんで止まらせた。そして驚きのあまりこの冬真近の冷たい海の水に脚半分浸かっている事も忘れていた。しかし、当のその少年は海面に軽々と浮いている。その様子を遠巻きで朔夜、かえで、意識を取り戻した水城は見守っていた。
「あんさんを捜しとった者や!俺は、塚原叶っちゅねん。あんさんと同じ陰陽師や……あんさんの名は?」
「名前はとおに忘れたけえ……」
「忘れた?記憶喪失かいな?」
「長い事前の話やけえ……覚えとらん」
「長い事って……あんさん幾つや!」
その答えを云う事無く、この状態を他の者に見せる訳にはいかないと思ったのか、その少年は陸地へと一瞬弛んだ叶の手を振り切り歩き始める。その後を叶達はパタパタとその少年を追い掛ける事になったのであった。
この少年の話は、厳島神杜を彩るに相応しい新緑の山、弥山で行われる事となった。弥山と云えば、一九九六年に厳身神社と共に世界遺産として名乗りを上げた山である。この時期は雨さえ降っていなければもっと良い風景を拝めるであろう。そんな原生林で覆われた弥山は古くから神体山として信仰厚く、山項付近には謎めいた奇岩が点在している。そして、その弥山の展望台へとその少年の指示でロープウェーに乗り込み五人はさらに移動し始めた。
「お兄ちゃん……この人、ただ者じゃあないわよ……」
ロープウェイに乗ったとたん、子供モードに戻った水城は肩をガタガタと震わせながらボソリと呟く。その姿はまるで、車のライトを真っ向に浴び立ちすくむ猫のようにも感じられた。どうやら先程感じた少年からの過去のイメージが余りにも悲惨で悲しい物であったから……それがどうしても頭から離れなかったらしい。
「どういうこっちゃ?」
心拍数が異常じゃ無いかと思える程、胸の鼓動が止まらないのか、水城は青ざめた表情で叶に呟く。
「少なくとも、千年は生きてる……」
過去が見える水城にとってこの少年の過去はそれほど凄まじいのであろう……しかし、問題のその少年は無ロなのか?何を考えているのか?全く一言も話さない。
そんな中、まだ何も知らない四人と一人は静まり返りっていた。その後ロープウェイから下りた一行は黙々と人けが少ないであろう場所を目指した。そして、その場所に五人は腰を下した。
「さて、ここ迄来たんや、どう云う事か話してもらおうやないの!」
叶は、雨宿りができる五人が座れそうな場所を見つけて話を切り出した。
「名前を忘れたとはどう言う事です?」
相反して、朔夜は落ち着いたロ調で、叶のような脅迫じみた言葉を和らげた。相手は何はともあれ見た目は少年だ。
「私は、この安芸で生まれ育ったのですが、今は広島と言うのでしたか。もともとは本土で生まれ育ちましたが、時が経っに連れ、宮島に移り住みました。さて……どれだけ生きたか知れません。千年は経っているでしょうが……色んな名前をその時その時に合わせ名乗って来ましたゆえ……それから、私はこの姿を雑持している訳では有りません。ある事情で死ねない上に、成長が止まりまったままなのです……」
少年は、長い年月を生きて来た憂いか、この弥山の頂きから眼下を見渡す。そして、少し寂しそうに笑った。標準語を話そうと努力している風では有るが、所々広島弁が耳に残る。そして少年は続ける。
「この地の洞窟というのでしょうか、人の出入りが無い氷室に眠っている伝説のミズチと私のこの体質に関係が有る事だけは確かなのです。そのミズチの眠りを引き起こし、そしてその魂を自らの精神に宿す事でその時初めてこの後の私の成長が始まる。それが私の現状と云う訳です……」
ミズチとは、想像上の生き物とされており、一般には大蛇とも水中に往む竜の一種、足は四つ、頭に角が二本あるとも言われている。
朔夜は、自ら持ち運んでいるノートパソコンを徐に開くとその意味を調べた。そして、その画面を興味深く少年を除く四人は覗き込む。
漢字では鮫(蛇に似て四脚を持ち毒気を吐いて人に害する)蚊(水中に住む竜の一種。蛇に似て四足あり大きい物は人をも飲み込む)他、(黄色い竜。また角の無い竜。伝説上の猛獣の一種。虎に似て鱗がある)(竜の子で、二つの角が有ると云う想像上の動物。また、角の無い竜)(想像上の動物で、竜の類)など五種類があげられていた。
これらは同じミズチと呼ばれるものでも、形状が似通ってたり似通って無かったり色々である。それを連想するには太古の人達の想像力を頭に叩き込む事も難しい。とにかく伝説を語り続ける事を信じるのは困難な訳である。
そんな生き物にまつわる話に出くわそうとは思って無かった為、叶達は意外な表情でその話に耳を傾けた。とにかく、内容を把握する程頭がこなれては無かった訳である。
そして、一通りの話が終わり、叶達一行は呆然とした。一番心に残ったのは、どれほどの歳月が彼をここ迄この地に押し止まらせたのであろうか?と云う事であった。色んな出来事が有ったはずだ。それに名前も思い出せない程色んな名前を名乗って来たと云う事は、出会いも別れも数え切れない程であろう。老いをそれ程実感して来た訳では無い若さに満ちあふれた叶達にはその壮絶な一生をどう把握して良いのか分からないが、死を恐れる必要が無いなんて、羨ましいなぁ……とかそう云う類いを口走る事などこの少年の前では決して出来ない。それほど強烈な印象を少年に抱いてしまったのである。
そんな中、おかしな点が有る事に朔夜は気付いた。以前、叶に陰陽師は夢に介入する事ができると聞かされた。そして、宮古島でのハイジャック事件では水城が見事に記憶階層に介入する事までも成し遂げている。それらを鑑みるに、この陰陽師として生きて来た少年に出来ないはずは無い。それならばその伝説のミズチを捜し出せていないのか?いや、場所を知っているから、それは無い。ならば、ミズチは人間と違うからその手段を取る事が出来ず上手く事に及ばないのか……だから、
「ところで、そのお話のミズチは捜し出せたのですか?」
静かなロ調で朔夜はこの名を忘れた少年に問いかける。
「勿論捜せ出してます。この先の滝が在るその奥に洞窟があるんじゃけど……封印されたままで……私のカではどうする事も出来ませんゆえ……やけぇ……実は待っていたのですよ。占夢ができる本物の占夢者人を。そして、感じたんじゃよ。本土にその占夢者が来ている事を」
その話に、
「それって、もしかして朔夜の事なんとちゃうか?」
叶は勢いに任せて身を乗り出し少年に問いかけた。『本物』と云うのはどこまでをそう云うのか当の朔夜は分らないが、陰陽師とはまた異なったものなのかも知れない?ふと考えが巡った。
「どうじゃろか?私にそんな未来を予測するカはないものですけぇ……ただ、いつかは分からないが必ず現れるとは言われてました。私が産まれ落ちたその後にこの現象を察知した両親の元、ある占い師に……」
五行の者捜しのハズのこの旅。しかし五行の話は既に忘れ去っていた。今はただこの少年の話に全ての者が耳を傾け聞き入っている。何とかしてあげたいと云う思いの方が強かったのかもしれない。
「ふ〜ん。なら、試しにその洞窟に行ってみれば良いじゃない?朔夜ちゃん。カになってみても良い事だと思うよ?」
全ての内容を口を挟まず静かに聴いていたかえでが提案する。自らカにになれないが、こういう者を放っておける程かえでは冷たくは無い。逆にロを挟んで来るのがかえでの性分とも云える。つまりお人好しの世話好きなのであろう。
「簡単に云いますが、かえでちゃん……僕にそのカが有るかは行って確かめなければならないのですよ?」
朔夜自身、そのミズチを起す事ができるかなど分からない。カになってあげられるのであれば、いくらでもなってあげたい。しかし、全てはその場に行ってからの話ではある。だから、
「案内して下さいますか?そのミズチがいるという場所へ……」
その言葉に、叶は元気に言い放つ。
「要は、出たとこ勝負や!」
そしてそれを合図に、黙って立ち上がった少年を先頭として五人はその場を立ち去り始めたのである。