#1 プロローグ
▼プロローグ
朔夜、叶達が水城と云う火を操る陰陽師を味方に付けた沖縄の温暖な気候から一変して、ここ、北海道の北東に位置する択捉島。その島の北東に位置する神威岳は、季節には早すぎる雪が降る程の厳しい寒気にみまわれていた。そして厚着をして万全な体勢ではいるが服を突きぬけ肌に刺す氷針のような風は雅樹の気を乱していた。
確かにこの辺りのハズなのだがと辺りを見渡す。真っ白な視界に埋もれそうで少し意識が朦朧としたが、神が味方したのか目的の地に無事辿り着く事が出来た。
それを確認した時、自らが受け入れた宿命と向き合い、自らの首から下げている笛型のロケットをある思いを込めて決意を新たに握りしめる。これから始まる自らの使命を果たす為に……
出迎えたのは大柄で、2メートルはあるであろう背丈に体つきが厳つい巨漢の、髭を惜し気も無くのばした三十過ぎの男であった。そしてその男こそ捜していた人物である事はすぐに分かった。この男の体からは陰陽師特有の気が発せられている。そして、これから先無くてはならない仲間である事は分かりきっているので、雅樹自身肝に命じて言葉を選らばなければならないとさえ思っていた。
「何じゃいお前は?」
こんな所迄やって来る者がいるとは思っていなかったかのような、訝しげな表情でその男は問いかける。確かに、わざわざこんな所迄出向く者はいない事は分かった。降り積もった辺り一面の雪には自らの足跡しか残されてはいない。
「あなたと同じ、五行を司る陰陽師ですよ。話は中でさせてもらえませんか?道中厳しい雪で凍えそうですからね」
「……判った。中に入れ……」
少しぶっきらぼうな物言いではあるが、あっさり中に入れる辺り人が悪い訳では無そうだ。 中はこの土地に住まない者にしかわからないであろうと思われる程、完壁に冷気を遮断しており、男はのっそりと温かい部屋を案内した。そして、身体を温める為に用意してくれたお茶を飲んだ所で男は話を切り出して来た。
「……で、儂が五行を司る陰陽師と知っとるお前が何故此処にやって来た。わざわざここ迄きたお前に言うのもなんだが、言い伝えを守る為にも儂はここを動くつもりは無いぞ……」
男はまるっきり興味が無いと云った感じで、突き放すように雅樹に言い放つ。
「そう言う訳にも行かないのでね……所であなたは言い伝えを何処迄知ってるんだい?」
当然の言葉を聞き入れ雅樹は改めて問いかける。
「五行が京都に集うことでこの日本が窮地に陥ると云う事であろう?誰がそんな予言をしたかわからんが、余計な事を言ってくれるわ……そのせいでこんな所で生活せんといけなくなった訳だからな」
こんな会話をする為に来たのでは無かったが、一通りの話を聴く。しかし全ての話を聴き終えた時、
「実はその予言の裏には、重大な事実が隠されているんですよ……」
そのまま雅樹は話し続ける。自らが解き明かした重大な真実を……
「で、儂のカを借りたい訳だな?」
「そうですね。敵は既に五行の陰陽師の内の一人に遭遇し仲間になっているようですから。少しでも早い方が良い。荷物を纏めて、身なりを整え、俺について来て下さい。次に向う先はもう分かっていますから」
雅樹は、上手い具合に話が進んだと確信した。だから、
「俺は、五行の木を操る陰陽師。そして、この地であなたを仲間にする事が出来た。俺の相剋である土を操る事ができる陰陽師、泊源蔵に……これからは宜しくお願いしますよ」
その言葉を受け入れたのか、泊はゆっくりと手を差し伸べた。
この一室で雅樹が何を囁いたのか?それを知り得るのは、今の時点この二人しかいない。そしてこれから先の過酷な未来への第一歩であった。
お待たせいたしました。
何とか開始です。書きあがってるんですが、ゆっくり更新していきたいと思います。最後までお付き合い頂けると嬉しいです。