絶対神言 変圧機関 超過発電
幼少期から物語の英雄に憧れた私は少ない魔力を工夫して使う事を覚えた。
嵐の夜に落雷を見て音よりも光が速いことを理解した。落雷の跡で燃えている木を見て雷は熱を持つ事を学習した。冬の乾燥した日に指と街灯の間に雷が走ったのを見て小さくとも衝撃が強い事が分かった。
15歳で近海の悪魔を魔法で討伐した。
田舎では強過ぎる力に怯えられたので流れの傭兵として旅に出た。大都市に着くとすぐに胡散臭いが信用できる情報屋の女と出会った。何回か世話になり、依頼もされて打ち解けて友人になった。同じ頃に武術を研鑽する変わり者の町役人に出会った。町の依頼窓口だったのでよく話し仲良くなるのは早かった。
2、3年経つと他の傭兵や新人に慕われていた。一緒に依頼をこなし戦い、モンスターの氾濫も迎え討った。何度も宴会をして特に仲の良い友人も誘って騒がしい毎日を送っている内に遂には傭兵団を結成した。
「今日も体に雷光が迸る絶好の狩日和だ」
楽に終わる仕事の筈だった。
圧倒的な兵の数と帝国の最高戦力のスキルさえあれば大した損害も無く戦争に勝てる予定だった。
私が十代で傭兵団を結成して10年、副団長のアイシャとヘサームを筆頭に多くの団員が増えた。
帝国の中でも指折りの傭兵団となり、まだまだ躍進出来ると思いこの仕事を受けた。
もちろん、傭兵団の団長として団員を死なせないためにリスクが少ないことを入念に確認したし、団の幹部にも相談して決を採った。
だから、勝利を確信してノート大陸まで来たのだ。
だが、現実はどうだ?
「定温維持」
少し前に帝国側の真上に巨大な火球が浮いて現れた。帝国にあんな火球を維持出来る人間は聞いたことがないから敵の攻撃だろう。その熱は凄まじく私がいる場所まで届いていた。しかし、熱はたった今、喋った私と対峙する女によって打ち消された。
私はさっきから殴りにかかったり蹴りにかかったりと攻撃をしているが「壁」と言われるだけで目の前に大きな壁が出来るので一回もダメージを与えられていない。それなのに敵はすでに大隊の中まで最前線でも戦える高位魔法使いが攻撃して来ており、その魔法使いよりも強力な力を持った女が目の前にいる。
「…貴女が傭兵団【鯨狩り】団長、
鯨狩りのジュマーナ?他の団員は?
天眼アイシャとか伸長剣のヘサームとか」
女が眠気を誘う蕩けそうな声色で聞いてくる。
傭兵団、一人一人の名前を口に。
私の二つ名どころか他の奴らのも知られてるのか!
「ここには私1人だよ!!
他の団員は別のとこさ!」
完全に嘘だが此奴は他の団員じゃヤバい。
「それより名乗ったらどうだ?」
もしかしたら帝国兵たちが形勢逆転をしてくれて援護に来てくれるかもしれないと万が一、億が一にもありえない望みをかけて無駄な時間稼ぎをし、頭の中に詰め込まれた要注意人物一覧の名前リストを捲る。
「………。
……ギネス。ギネス・ケートス・メルヴィル」
ギネス?
もしかして微睡みのギネスか!?
冗談みたいな二つ名だったので記憶に残っていた。いつも眠たげな表情をした女冒険者の筈がやたらと強い。
なんなんだこのスキルは!?
「壁」
「壁」
「槍」
「火」
「壁」
「火」
ギネスが一言言うたびに壁や槍、火が言葉通りに現れる。
「雷」
ッ!!
降って来た巨大な雷を直接頭から受ける。
これはチャンス!
「…ノーダメージ?
耐電スキルが高い?
でも、あの雷は対電Lv10を貫通する威力だった。
固有スキル?」
なんか恐ろしいこと言ってるが正解だ。
私の固有スキルは変圧機関。
雷魔法に限り自分のMP、1MPに対して100Vの雷を生み出せる。
そして自分の受けた雷属性を100Vに対して1MPへ変換できる。
私のMPが一気に回復し私の最大MPも超え18,000になった。おかげで身体中から魔力が溢れ出てる。
「行くぜ!」
「させない!」
「エレクトロライン!!」
「絶縁球」
バツッン‼︎‼︎
一瞬だけ私の両手から真っ直ぐに150万Vの光の線ができた。
だが、ギネスはまた無傷。と言うか、自分を包み込むように黒い玉を作り出して私の攻撃を無効化した。
「ゴム球に雷は効かない」
「そんな…!!」
雷が防がれたら私は…。
「降伏する?」
…降伏?
それもいいかもしれない。所詮、私は傭兵だ。帝国に恩があるわけでもないし負け戦はしたくない。
考えが降伏一色に染まりそうになった時、私の視界の端に巨大な火球へと振り下ろされる鞭状の線が見えた。
あれは、ヘサームの蛇腹剣!
そうだ。あいつも含めて団のみんなもまだ戦ってるんだ。私が簡単に諦めるわけにはいかない!!
「誰が降伏なんかするか!
変圧機関・超過発電!!
団員の安全が確保されるまで私は戦う!」
無理矢理大気中の魔力を体に取り込み、取り込んだモノからどんどん雷に変換していく力業だ。私の全身から体に掛かる負担分以上の夥しい雷が放たれ続ける。
「…それなら正面から潰すだけ。でも、貴女の覚悟には敬意を表してあげる。
『バートルビーの監獄』」
ギネスが喋ると巨大な建造物が現れた。
高く分厚い壁はカビや水垢で汚れていた。
壁の頂上には数え切れないほどの砲台が並んでいた。その全てが砲身を私に向けて。
「文豪ハーマンが若い頃に訪れた場所や体験した出来事から創作された半虚構の五大小説の内の一つ、バートルビーの監獄。モデルとなった監獄は今もダンジョンとなり残る、難攻不落の大監獄にして対モンスター氾濫要塞。それがコレ」
ギネスの解説が終わると共に全ての砲身から砲弾が撃たれた。
命中しそうな砲弾は雷で無理矢理砕いたけど大きな破片が大量に飛び散った。その中の一つ、4割程に砕けた破片に私は当たり吹き飛ばされた。
地面に体が叩きつけられ意識が遠のく中、ギネスのネタばらしが聞こえた。
「私の固有スキルは絶対神言。
代償の睡眠時間増加を考えなければ出来ない事は無い」
反則だろ。
ごめん、アイシャ、ヘサーム、みんな。
文豪ハーマンの半虚構の五大小説…文豪であり航海士であったハーマン・モビー・メルヴィルが自らの実体験を元に書いた小説。
バートルビーの監獄…冤罪で監獄に囚われたバートルビー男爵が友人であるハーマンの助けを借りて脱獄するアクションストーリー。
バッド達の反乱…船長バッドが旗印となりハーマン達が一隻で重税を課す貿易港の領主に反乱し、勝利、後の船上都市を創り上げる物語。
白い海兵…海兵所属にも関わらずいつ何時も常にハーマンの側にいた性別不明の秘書エイルについて書かれた永遠の推理小説。真相はハーマンの子孫のみが知る。
禁忌庭園…ハーマンの長女と三男が当時、禁忌とされていた近親婚のために姉弟で広大な庭園の奥で暮らす生活を描いた禁断の恋愛譚。
メルヴィルが振り返るとそこには偉大なる白鯨が彼を見つめていた…ハーマンが1日で書き上げた神々の階層の滞在日誌。原書である直筆書には〔夢現と想像の神〕の神紋と加護がある。