落下方向決定権
「さて、どうしたもんかな」
アレックス・ゴーギャン
彼は、コートをはためかせながら目の前に広がる5万の軍勢と対峙した。
私の名前は北条御影。
ドイル王国軍の中将をしている。
アレックスは私たちが物心付く前に家族で近所に引っ越して来たので良く遊び国立初等学校から大学までずっと一緒の幼馴染みだった。彼は幼い頃から頭が良く学校では常に1番の成績を維持していた
大学時代には私は軍事学部、彼は研究学部に分かれたがそれでも暇な時には会って交流は続いていた。
アレックスが大学でスキルを創り上げた時には他学部だったが同期で交流のあったクロノス殿下やヴィヴィちゃん、エイプリルさんと一緒にお祝いもしたし、その後2人きりになった時も結構良い感じになった。
ただ、迂闊にもお酒を飲み過ぎて2人とも眠ってしまったことには後悔した。
そのまま大学卒業をしてしまい私は国軍へ入隊、アレックスは実家を出て別の街で一人暮らしを始めた。
時々、会いながら私は彼への想いを募らし軍の任務をこなした。東方の要塞都市ロックフェラーに赴任した時には霊峰ノギから下りてくるドラゴン系のモンスターたちを狩りまくって龍斬長の称号を取得し20代で中将まで上り詰めた。スピード出世いや光速出世だ。
これなら神童、天才、次代の賢者とまで言われたアレックスにも劣らず胸を張って告白できるかもしれない。そう思ってたのに…。
戦争で担当の国門に行くとアレックスがいた。
至高級称号、壁踏主を持っていたため招集され配属されたらしい。一緒にに戦えることに私は内心テンションMAXで踊り出しそうになったが部下の手前なので我慢した。平静を装いアレックスに挨拶した時、彼女はいた。毛糸のぬいぐるみ(編みぐるみ)を持ち、アレックスに寄り添う少女、ルイーズ・シュピリ。
一目見てライバルだと互いに理解した。
すぐに牽制したかったが(もう手遅れな気もするが)戦争なので渋々引き下がった。
さて、私たちの相手はブラウン大陸帝国中将破軍将トーラスバンが率いる5万人の帝国兵だ。
「ミカゲ、何か作戦とかあんの?」
アレックスが作戦を聞いてくる。
何を言ってるんだ?
「私たちの方が圧倒的に強いんだぞ?
元帥閣下も大将閣下も参謀も作戦なんて立てて戦力を制限しても戦争が長引くだけだから全戦力をもって速攻殲滅しろとなっている」
「他国も見てるのに良いのか?ドイルの保有戦力とか」
「こんなくだらない戦争が長引く方が嫌だろう」
「…確かに。
なら俺も最初から飛ばすぞ?」
「私を含めて皆最初から飛ばすさ。早く帰りたいからな」
軽口を叩きながら装備を整えていると帝国側から騎馬が走って来た。降伏勧告だった。こちらの方が兵の数が少ないので勧告受けると思われたのだろう。アクビ混じりに断ってやると騎馬は怒って帰って行った。
騎馬が戻ってすぐに帝国側から大声があがった。
さあ開戦だ。
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戦争が始まり敵兵がこっちに向かってくる。周りを見ると知り合いが何人か敵兵に向かって走っていた。俺も遅れまいと敵兵へと突っ込む。
そして敵兵とぶつかる瞬間、俺は固有スキルを発動した。
「落下方向決定権発動」
俺に触れた全てのモノが弾かれる。
正確には落ちて行く。
正面から貫こうとする槍は前方へ落ちて行く。
背後の死角から叩こうとした鞭は後方へ落ちて行く。
右から振り抜こうとする大斧は右方へ落ちて行く。
上から踏みつぶそうとする騎馬は上方へ落ちて行く。
下から上に向かって切り掛かって来たモノは地面に落ちた。
落下方向決定権は俺に触れたモノ全てを任意の方向へと5秒間落下させることが出来る。このスキルのお蔭で俺には一部の特殊攻撃以外は全てが一切効かない。
さあ帝国兵諸君、どう攻略する?
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