第九話 疑惑の二人
戦い始めた当初こそ、動きが止まったスキに一発殴って速攻で逃げるという一撃離脱作戦で戦っていたけど、ボスの行動パターンが分かってからは俺も健吾もかなり大胆に攻めるようになった。
まず、あの岩のボスが突進のあとに停止する時間は毎回約五秒ほどだ。これよりも早く動き出すということはない。
それから、ボスの突進を早くよけてはいけない。あまりに早くよけると、ボスが物理法則を無視した急旋回でホーミングしてくるのだ。だから、ギリギリのタイミングで突進をかわすのが一番やりやすい。ギリギリのタイミングで左右によけて、転がっていくボスを追いかけて行って止まったところを攻撃する。
結構な距離を転がっていくので、よけたあとにその場で岩が止まるのをまっていたんじゃ攻撃する時間を作れない。
俺たちはひたすら転がる岩を追いかけ、岩が止まったら棒でたたきまくるという、はたから見たらかなりシュールな行動を繰り返していた。
「待てやこの野郎!」
「おとなしくしろ!」
ゴロゴロと転がっていた岩が、ピタッと止まった。かなり近いところで止まってくれた。タップリと殴れそうだ。
「うおおおおお!」
「くらええええ!」
ドコドコドコドコドコ!
ゲームセンターに置いてある太鼓のゲームみたいな感じで、ひたすら目の前の岩を力いっぱいたたきまくる。
さっきからかなりの回数攻撃しているものの、目の前の岩が弱っている様子はない。攻撃は単純だけど、耐久力はかなりのものだ。いかに集中力を持続できるかがこのボスを倒すカギになる。
「うおっ! あぶねっ!」
調子に乗って攻撃を続けていた健吾が一瞬逃げ遅れ、腕に突進がかする。突進はかなりの威力だ。さっき俺もくらいかけたけど、ちょっと当たっただけでかなりのHPを持っていかれた。直撃すれば即死するのは間違いない。
「ドンマイ!」
「そのドンマイは俺に言ったのか? それとも岩野郎に言ったのか?」
「やだなぁ当たり前のことを聞かないでよ」
「目をそらすんじゃねぇ! やっぱり岩野郎に対して言ってやがったか。それでも仲間かよ!」
「健吾だってさっき俺が攻撃かすったとき露骨に舌打ちしてただろ!」
「そんなの当たり前だろ。オメーがやられれば俺の勝ちが確定するんだからよ」
「この自己中ヤンキー!」
「なんだと自己中はテメーもだろ!」
ゴロゴロゴロゴロ!
「うおっ!」
「危ない!」
その場で棒立ちしていた俺たちに向かって転がってきたボスをかろうじてよける。俺としたことが、ついうっかりしてた。今はボス戦の最中だったんだ。健吾にかまっているときじゃない。
よけたときの体制が悪かったから今回はボスを追うことはできない。それは健吾も同じみたいだ。
俺たちは二人そろって立ち上がり、ボスのほうを見る。
「そろそろ決着をつけるぞ」
「行けるか? まだまだかかりそうな気がするけど」
「最初よりも弱っている。そんな気がする」
「ただのカンじゃないか。あてになるの?」
「少なくとも、お前のテストの正解率の二倍は当たるぞ」
「それなら当たる確率は十パーセント以下だね。健吾のカンって大したことないな」
「お前、自分で言ってて悲しくなってこないか?」
「ボスが転がってきた。行くぞ!」
余計なことは考えないようにしよう。今はボス戦だから。テストの点数くらい、悪くたっていいじゃないか。
転がってきた岩のカタマリを左へとよける。今回はよけたあとの体制がよかったので、すぐに走りだすことができた。
「くらえやあああ!」
「いくぞおおおお!」
ドコドコドコドコドコ!
殴る。ひたすら殴りまくる。武器が壊れるほどの勢いで殴りまくる。実際には、武器が壊れることはないけどね。耐久度みたいなめんどくさい設定はこのゲームにはないみたいで、いくら殴ってもひのきの棒が折れることはないみたいだ。だから安心して力いっぱい殴れる。
「オラオラオラ! くたばりやがれぇ!」
岩のカタマリをあいだに挟んで、二人でひたすら殴る、突くの乱れ打ちだ。俺たちの気合が通じたのか、岩にヒビが入っていく。手ごたえありだ。ここで決める。
「うおおおおおおお!」
ヒビはさらに大きくなっていき、そこから光があふれだしてくる。あたりを包み込むほどの強い光が一瞬またたき、光が収まったときには巨大な岩は大小の破片に分かれ砕け散っていた。
『おめでとうございます。ダンジョンボス・ロックスライムを討伐しました!』
軽快なファンファーレとともに、ボスの討伐に成功したというアナウンスが部屋中に響き渡った。
ドロップアイテムの確認もそこそこに、俺たちは一度ゲームからログアウトすることにした。
「どう考えても俺の勝ちだろ!」
「いいや、俺の勝ちだ」
現実世界へと戻ってきた俺と健吾の会話は、五分ほど前からずっと堂々巡りを繰り返している。
「俺の棒の連続した突きが決め手になったのは間違いないよ」
「いいや、お前のショボい攻めなんか余裕で受けられてたな。俺の棒の一撃のほうが力強かっただろ」
クリアするのに二時間以上かかってしまったので、当然ボーナスアイテムのドロップはなかった。それでも、ボスを倒したんだからもしかしたら何かいいものがドロップするかも。そう期待していたけど、ドロップしたものは品質の低い回復ポーション。ビッグスライムがドロップしたものと同じものだ。
だから俺たち二人はピリピリとしていた。
「もう一回勝負だ。ほら行くぞ」
「待てやバカ。今からログインしたらクリアするころには昼休みを過ぎちまうじゃねぇか。授業はどうでもいいが、飯は食いてぇぞ」
「そういえばそうだ」
「それに冷静になって考えたらよぉ、俺たちの目的はレアアイテムのゲットだろ? ならとりあえず匠と二階堂を呼んで四人で行こうや。これどう考えても二人じゃ無理だろ」
健吾らしからぬ的確な判断だ。さっきまでイライラしていたっていうのに、一瞬で冷静さを取り戻すなんてコイツ本当に健吾か? もしかして、本物の健吾はまだゲームの中に閉じ込められていて、偽物の人格が乗り移っているとか?
そういえばこの前読んだ漫画に似たような展開があった。そのとき主人公が仲間に対して言ったセリフがかっこよかったので、俺も一度言ってみたいと思っていたんだ。今がそのチャンスだ。完全に漫画と同じ状況というわけではないから、俺なりにアレンジして言ってみよう。
「健吾、たとえ中身が別人のものに変わってしまったとしても、お前はお前だ。俺の仲間だ」
「いや中身が別人ならそれはもう俺じゃねぇだろ。そのセリフは外見が変わり果ててしまった仲間に対して言うものじゃないのか?」
健吾のいう通り、漫画では外見が変わり果ててしまった仲間に対してのセリフだった。ちょっと失敗してしまったみたいだ。
「バカなこと言ってねぇでさっさと匠たちを誘いに行くぞ。昼休みが終わったら速攻で攻略開始だ。俺は匠に声かけるから、お前は二階堂に声をかけろ」
「わかったよ」
――キーンコーンカーンコーン。
時間から言って三限目のあとの休み時間のチャイムだ。今のうちに教室に戻り、二人をサボりに誘おう。
教室へと戻ると、匠と彩華さんが席に座っているのが見えた。教室を出るときはいなかったけど、ちゃんと学校に来ていたみたいだ。
早速声をかけよう。うん? 気のせいか、クラスの男子の視線が集中しているような。
「帰ってきたぞ。アイツら」
「朝にトイレに行ったっきり帰ってこなかったよな。個室にずっとカギをかけて、何やってたんだ?」
「俺さっき聞いたぞ。アイツら、受けと攻めがどうとか、俺の棒の乱れ付きがどうとか、俺の棒のほうが力強いとか、そんなこと言ってたぞ」
「棒(意味深)」
「おいおい、アイツらそんな関係だったのかよ!」
なんだろう、何かすごく嫌な勘違いをされている気がする。
男子どもの話を聞いた女子たちまで、こっちに意味ありげな視線を送ってくる。
「何入口で突っ立ってんだよ。邪魔だからどけ」
健吾が俺を押しのけて教室の中へと入っていく。そして、そのまま匠の席へと向かう。
「おう匠、一緒にやろうぜ。俺らだけじゃどうにもうまくいかなくてよ」
「丁度僕もみなさんとプレイしたいと思っていたところです」
「うまくイかない、か」
「プレイ、か」
うわあああ、余計なことを言うんじゃない。
もうあの二人は放っておこう。それよりも早く彩華さんに声をかけないと。休み時間が終わってしまう。
そう思っていると、丁度彩華さんがこっちへと歩いてきた。
「ちょっと! サボってゲームやるなら私にも声かけなさいよ」
「なんで俺たちがサボってゲームやってたって知ってるの?」
「カンよ、カン。それとも、男子どもが言っているようなことをやってたのかしら?」
「そんなわけないだろ」
「そうよね、祐介は巨乳好きだもんね。……だよね?」
「ノーコメントで」
「やっぱり巨乳好きだったのね」
何も言ってないのになぜ確信を持たれてしまうのだろう。
彩華さんが心底ほっとしたようなため息を吐いた。もしかして、半分くらいは男子どもの戯言を本気にしていたのだろうか。だとしたら心外だ。
そういえば、彩華さんって前に俺と健吾がつかみ合っているのを見て目を輝かせていたよな。今の反応を見た感じだと、やっぱりあれはBでLなそういうのが好きってわけじゃなくて、もっと別の要因で喜んでいたのかもしれない。
別の要因。なんだろう。喧嘩が好き、とか? 意外と武闘派な彩華さんのことだ、十分にあり得る。
「おい、平田の野郎が二階堂さんと話しているぞ」
「マジかよ。二階堂さんが誰かと休み時間にしゃべっているのなんて初めて見たぞ」
「委員長とだけじゃなく二階堂さんとも仲良くしやがって、人間のクズめクソ!」
「目覚めろ! リア充を爆発させる力! 平田という名のゴミ野郎に天罰を与えたまえ」
「芸術は爆発だ! 恋愛も爆発だ! 俺以外全部爆発してしまえ!」
ちょっと話しただけでひどい言われようだ。このクラスにはやたらと人を爆発させたがる過激派が多い気がする。
彩華さんはともかく、委員長と個人的に仲良くした覚えはない。委員長は誰にでも優しい、と思う。別に俺が特別ってわけじゃないだろう。
「さあ、行くわよ祐介」
「行くってどこに? もうそろそろ休み時間が終わるよ」
「部室に決まってるじゃない。それで、早くゴブリンの住処に殴り込むわよ。アプリが消えるなんて絶対に許さないんだから」
「ちょっと予想以上に疲れることがあったから少し休ませてくれない?」
主に教室内の反応とか。あとダンジョン攻略に二時間もかかってしまったということも。
「しょうがないわね」
「それとダンジョン攻略のことでちょっと協力してほしいことがあるんだ。詳しい話を昼休みにしたいんだけどいい?」
「それってつまり、私をお昼ご飯に誘っているってことよね?」
「ごめん嫌だったら別にいいよ」
「嫌なわけないじゃない! それじゃ、一緒に食べましょ!」
何気に女の子と一緒に昼ご飯を食べるのは人生初のイベントだ。意識したら予想以上に気分が高揚してきたな、俺。
休み時間の終了を告げるチャイムがなったので、俺たちは自分の席へと戻ることにした。




