第四話 スライム
先手必勝だ。とにかく攻撃しよう。攻撃は最大の防御って言うしね。棒を振りかぶり、スライムへと突進する。
「うおらああああああ」
隣では、健吾が雄たけびを上げながらスライムへとすごいスピードで向かって行く。さすがの運動神経だ。俺が走るよりも全然早い。
「くおら! おらぁ! ふん!」
誰よりも早くスライムに接近し、上から右から左からとスライムを滅多打ちにし始めた。明らかに殴り慣れている。なんなんだよその動き。
このままじゃ健吾一人にスライムを倒されてしまう。俺も早く攻撃しなきゃ。健吾とスライムの距離が近いからフレンドリーファイアしてしまいそうだけど、そんなこと言ってられない。むしろ行くべきだ。行くぞ!
「うおおおお!」
ぶおん! 俺の髪の毛を健吾の棒が掠めていく。危ない!
「何すんだ健吾! 味方を攻撃するつもりか!」
「すまん。背後から邪悪な殺気が漂ってきたからつい」
なんてカンの鋭さだ、狙いがバレているなんて。しかも、背後を攻撃したあとも正面のスライムに対してスキを晒していない。戦闘力が高すぎる。
しかたない、仕返しはまた今度にしよう。よく考えたら背後からいきなりとか卑怯だよな。寿命が延びたことを感謝しろよ、健吾。
健吾はスライムに対して棒をひたすら打ち込み、スライムが体当たりをして来たらさらに棒を打ち込みスライムを跳ね返す。そんな感じで滅多打ちにされて動かなくなったスライムは、光になって消えていった。光になって消えるところがとてもゲームっぽい。リアルな世界だけど、やっぱりゲームなんだな。
「うし! 初勝利だぜ!」
確かに初勝利だ。だけど、なんか物足りない。
「ちょっとアンタ、何やってるよの! 私の出番がないじゃない。この野蛮人!」
「なんだと!? テメーが攻撃しなかっただけじゃねぇか二階堂!」
「できるわけないじゃない。あんなメチャクチャに棒を振り回してたら近づけないわよ。このバカ!」
「そうだそうだ! この能無し! 戦闘狂! バカヤンキー!」
「なんだと祐介もういっぺん言ってみろ!」
「能無し! 戦闘狂! バカヤンキー!」
「ぶっ殺す!」
健吾の言う通りにしてやったのに殴りかかってくるなんて酷い。健吾が棒を振り回してくるから、それを右に左にステップしてかわす。ふふん、健吾の攻撃はさっき一回見たもんね。そう簡単には当たってやらないぞ。
「クソ、相変わらず動体視力だけはいいな」
そうだろう、そうだろう。このまま攻撃をよけきって、健吾が疲れたところに一撃入れてやる。
正面から棒が振り下ろされたので、それをバックステップしてそれをかわす。棒は無事よけられたけど、背中には謎の衝撃が。なんだろうと思って振り返ると、そこは壁だった。いつの間にか壁へと追い込まれたみたいだ。まずい。
「相変わらず、バカだな」
「ちくしょぉぉぉぉ」
健吾は棒を振りかぶり、たっぷりと力を溜めている。少しでも左右どちらかに動くそぶりをしたら迷わず攻撃してくるだろう。絶体絶命だ。どうしよう。
「スライムが来ましたよ。それも二匹です。祐介君、健吾君、遊んでいる場合じゃありません」
助かった、救世主が来てくれた。天は俺を見放さなかった。
「チッ、あとで覚えてろよ」
健吾はその場で振り返り、スライムが来た方向へと走っていった。ふう、危なかった。スライムと戦う前にHPがゼロになるところだった。いや、パーティを組んでいたらHPは減らないのかな? どうなんだろうか。あとで匠にでも聞いて見よう。
「斉藤! 今度はちゃんと周りを見て攻撃しなさいよ!」
「わーってるよ。オメーらこそ、足引っ張んじゃねーぞ」
「努力します。前向きにね」
スライムは二匹並んでやって来たみたいだ。大きさや動きはさっきと大して変わらない。健吾は右のスライムに殴りかかり、匠と彩華さんは左のスライムと戦っている。完全に出遅れた。俺も急いで加勢しないと。
健吾は一人でもスライムを倒せるからほっといても大丈夫だ。俺は左のスライムを攻撃しよう。彩華さんはよくわからないけど、匠はそんなに運動が得意じゃなかったはずだ。
左のスライムに近づく。彩華さんが前衛としてスライムを何度か攻撃したみたいだけど、ダメージを受けているのかはよくわからない。
「加勢するよ彩華さん!」
「助かるわ祐介。コイツ思ったよりも厄介だわ。殴ってもいまいち手ごたえがないの」
地面をはねて動けるだけの弾力性が、棒の衝撃を吸収してしまうのかな?
「よくこんなのを一人で倒せたな健吾は」
「バカのバカ力よ。私たちには真似できないわ」
「この弾力性、Eカップくらいでしょうか」
匠は相変わらずだ。何を考えているのかよくわからない。いやわかるけどね。おっぱいのことを考えているのはバッチリわかる。これだけ余裕なら、急いで助けに来なくてもよかったかも。
「僕に考えがあります。お二人はスライムを殴って気を引いてくれませんか?」
「了解!」
「信用できるのかしら」
「大丈夫、匠はこう見えてやる時はやる男だから」
「祐介がそう言うなら……」
強い目的を持った時の匠の思考力は別格だ。匠はこのゲームにログインする前、このゲームで一儲けしてエロゲーを買いあさりたいと言っていた。つまり、今の匠は無敵だ。
「とりゃあああ!」
「はあああああ!」
俺と彩華さんは同時にスライムに殴りかかる。力任せに棒を叩きつけまくったけど、ポヨンポヨンとはねていまいちダメージが通っているのかわからない。これは確かに厄介だ。
スライムの体当たりをよけ、着地したスライムを彩華さんと二人でボコボコにして、またスライムの体当たりをよける。一度よけ損なって腕に体当たりが当たってしまったけど、痛みはない。痛みの代わりに衝撃がくるみたいだ。これがダメージを受ける感覚か。
戦況に変化があったのは、五回目の回避のあとだった。
「今です。攻撃してください」
気配を消していた匠が、着地したスライムに全身で覆いかぶさり、地面に押さえつけた。スライムは必死に逃げようとしているけど、全体重をかけた匠からなかなか離れられないみたいだ。
「攻撃はできるけど、致命傷は与えられないわよ」
「点です。面ではなく、点で攻撃してください」
そうか、なるほど。そういうことか。
スライムへと駆け寄り、ひのきの棒を振りかぶる。今までのように振り回して殴るんじゃなくて、棒をスライムへと真っすぐに突く。俺が繰り出したひのきの棒がスライムの柔らかボディに突き刺さった。決着がつくほどの一撃じゃないけど、今までに比べたらはるかに手ごたえがある。これは間違いなく効いている。
「そういうことね!」
彩華さんもスライムへと突きを繰り出す。その間に、俺はもう一度スライムを突く。二人で何度かひのきの棒を突き刺すと、スライムは動かなくなり光になって消えていった。なんとか倒すことができたみたいだ。
「お疲れさまです」
「匠のほうこそお疲れ」
「やるじゃない! アンタただの変態じゃなくてかしこい変態だったのね」
酷い言われようだけど、匠はまったく気にした様子はない。肩をすくめ微笑を浮かべるだけだ。
「おーう。そっちも終わったようだな」
健吾のほうも終わったみたいだ。こっちに近づいて来た健吾が、右腕を頭くらいの高さに掲げてそのまま歩いてくる。これはあれだな。ハイタッチだ。お互いの勝利を祝してハイタッチをしようってことだな。
俺も健吾のほうに歩み寄り、右手を掲げる。そして俺の右手と健吾の右手が触れ……ない。健吾の右手が俺の右手を通りすぎ、そのまま俺の頭へと絡みつき……。
「さっきはよくも言いたい放題言いやがったな!」
「ギブギブギブ! 放して! HP、HP減ってるから」
ヘッドロックを仕掛けてきやがった!
ダメージを受けた時の衝撃が俺の体を駆け抜けていく。そして俺のHPがじわじわと減っていくような感覚が。死んじゃう! このままじゃ死んじゃうから!
「ごめん、許して健吾!」
「健吾様、だろ?」
「許してください健吾様」
「ふんっ」
ようやく解放された。スマホに表示されたHPのゲージを見ると、三分の一くらい減っていた。味方を殺そうとするなんて、恐ろしい男だ。
「ちょっと! 祐介が死んじゃったらどうするのよ!」
「大丈夫だ。そいつはゴキブリ並みだからな。知能が」
そこはゴキブリ並みにしぶといっていうところじゃないのか!? どっちにしても嫌だけど、どうせゴキブリに例えられるならしぶといって言われたほうがまだマシだ。
「嘘だと思うならオメーも俺と同じようにヘッドロックやってみろよ?」
「私が、祐介にヘッドロックを?」
「待って待って、これ以上はマジでやばいから!」
「ヘッドロック、密着……。悪くないわね」
「悪いから! 俺の体に良くないから!」
忘れていた。健吾ほどじゃないにしろ、彩華さんも武闘派なんだった。このままじゃダンジョン攻略の前に力尽きてしまう。
素早く地面から立ち上がり、その場から移動する。
「こんなとこで油売ってないでさっさと行こう。あんまりモタモタしてると門限越えるよ?」
「それもそうね。ヘッドロックはまた今度にするわ」
よし、ピンチを切り抜けられたぞ。
なんだよ健吾そのニヤニヤした顔は。俺のピンチがそんなに嬉しいのか。
◇
「祐介! そっち行ったぞ!」
「任せろ!」
飛び跳ねてきたスライムをよけて、着地のスキを狙ってひのきの棒をスライムへと当てる。ダンジョンの壁に叩きつけられたスライムに、思いっきり体重を乗せた突きをお見舞いしてやる。棒が深く突き刺さり、スライムは力尽きた。ふう、大分慣れてきたかな。
健吾も俺と同じように、スライムを壁に叩きつけてから棒を突き刺してスライムを仕留めている。彩華さんは匠が抑え込んだスライムに突きを繰り出しているところだ。
このダンジョンはスライムしか出ないみたいなので、みんなスライムと戦うことに慣れてきた。匠なんて、スライムを抑え込みながらついでにスライムボディを揉んでいるほどだ。行動の意味はわからないけど、慣れてきたのはたしかだな。
「で、だ。とうとう来たみてぇだぞ。最深部にな」
俺たち四人の目の前には、とても大きな石でできた扉が立っている。扉の左右には、燃え尽きることがないたいまつが延々と燃え続けている。これはあれだ。明らかにボス部屋っぽい。
「扉を開けるよ。みんな準備はいい?」
「たりめーだ。誰に言ってんだよ」
「私はオッケーよ」
匠は無言で手をワキワキしている。うん、準備オッケーてことかな。たぶん。
石の扉は見た目ほど重くなく、割とあっさりと開いた。
中はこれまでの道中と同じように岩でできた部屋だ。全員が部屋に入ると勝手に扉が閉まり、薄暗い部屋にたいまつがともっていく。
炎の明かりで照らされた部屋の中央にいたもの。それは、俺の身長をはるかに超える大きすぎるスライムだった。




