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バーチャルダンジョン攻略部!  作者: 夏畑スイカ
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第三話 攻略開始

「ほーう、これがパンドラの迷宮か。ゲームとは思えねぇリアルさだな」


 健吾が岩でできた壁をガシガシ蹴っ飛ばしている。ゲームにログインして最初にやることがそれって、いいのかそんなんで。


「信じられないわ。まるで第二の現実世界じゃない! とっても期待が膨らむわね」

「これは驚きを隠せません。まあ僕としては、このリアリティでときめき巨乳学園のリメイクを作って欲しいところですね。そうすれば期待以外のモノも膨らむのですが」


 健吾も、匠も、彩華さんも、このリアルな世界に驚いているようだ。俺はこの岩の部屋に来るのは二回目だけど、それでもこれがゲームだなんてにわかには信じられない。足の裏に伝わってくる感触は岩以外の何物でもない感じだし、洞窟特有のひんやりした空気もただよっている。昨日スライムに攻撃された時は本気で死ぬかと思ったくらいだ。


「期待以外のモノも膨らむのですが」


 匠がさっきからこっちをじっと見つめている。その発言にはつっこまないからね?


「おうお前ら! 早速ダンジョンを探検してみようぜ!」


 岩を蹴り飽きたのか、やたらとテンションの高い健吾がこっちへと歩いて来た。ダンジョンの入り口である扉を見る健吾の目は、輝いている。


「賛成。私も早くスライムと戦ってみたいわ。ワクワクしすぎて夜も眠れなかったくらいよ」


 戦に飢えた戦士かな? 彩華さんって、見た目とは違って思いっきり武闘派なんだね。見た目はお嬢様、心はヤンキー、みたいな。


「それでは早速扉を開けてみましょう」


 そう言って、匠が一歩前に出る。その右手には程よいサイズの棒が握られていた。棒の下の方には皮のようなものが巻かれていて、持ちやすそうだ。それ、思いっきり武器だよね。ゲームの序盤に出てくる、ひのきの棒的な。


「匠、そのひのきの棒みたいなのどこで手に入れたの?」

「何を言っているのですか祐介君、僕のはこん棒サイズです。確認してみますか?」

「いや、下ネタはもういいから」

「残念です」


 外国人のように肩をすくめながら、匠は自分のスマホを俺に見える位置に差し出す。どうでもいいけど、高身長でイケメンの匠はポーズの一つ一つが様になるね。彼女の一人や二人、居てもおかしくないと思う。ただし、中身が普通なら。


 スマホにはインベントリと書かれており、そこにひのきの棒のアイコンがあった。ひのきの棒のアイコンは青い枠で囲まれている。このアイテムを装備しているということかな? というか、この世界でもスマホって使えるんだ。


「インベントリと言う単語の意味はわかりますか?」

「いや、俺そこまでバカじゃないから」

「これは失礼」


 どうやら、スマホを操作することで武器を装備したりアイテムを使ったりできるらしい。

 俺も早速インベントリに入っていた武器を装備してみる。武器の名前はひのきの棒。そのままだった。

 右手の辺りが一瞬光に包まれ、光が消えるとそこにはひのきの棒が存在していた。


「おおー、こんな感じで装備するのか」


 スマホには、今俺が装備しているものが表示されている。


『ひのきの棒』

『学生服(上下)』

『ランニングシューズ』


 なんというか、世界観ぶち壊しだ。学生服って。


「うぉぉぉ、これだよ、これ!」


 同じくスマホを操作して武器を装備した健吾のテンションは、限界を突破している。


「最初は学生服としょぼい装備から始まるんだよなぁ。でも、だんだんいい武器や防具を揃えて、チート能力に目覚めたりして、一気にガーっと行くんだよな。うひょー、楽しみだぜ」


 健吾は自分を大好きな異世界転移ものの小説の主人公と重ね合わせてるみたいだ。うーん、健吾は異世界ものの主人公というよりか、どちらかというと……。


「きくずした制服に怪しげなネックレス。そして金髪。さらに殺傷目的の棒。どう見ても他校に殴り込みをかけるヤンキーだな。警察に補導されるなよ? 健吾」

「あん? テメーこそ、知能のたりねーやつが棒持ってるとか原始人かよ。狩りはいいのか? この辺はマンモスいねぇぞ」

「やんのかクソヤンキー!」

「かかってこいや類人猿!」

「さあ、行くわよ。冒険が私を待っているわ!」


 距離をはかりながら、いかにしてこの棒を健吾の急所にクリティカルヒットさせるかを考えていたら、横合いから彩華さんの声が飛んできた。チラっと横目で見ると、彩華さんが扉を開けている。えっ、ちょっと待って、早いよ。もう行くの?


「待てや二階堂! ダンジョン一番乗りはどう考えてもこの俺だろ」


 健吾がドカドカと入り口へと向かって行く。俺とのことはすっかり忘れてしまったみたいだ。


「出遅れましたね。僕たちも行きましょう」


 匠も扉のほうへとゆっくりと歩いて行く。 三人が扉の前に立つ。残るは俺だけだ。


「おい祐介。モタモタしてねーでさっさとこいや」

「早く行くわよ!」


 彩華がぶんぶんと棒を振っている。どんだけスライム殴りたいんだ。待たせるわけには行かないから、俺も早くいかないと。

 そう思って移動しようとしたのだが。うーん、足が前に進まない。


「どうしたのですか祐介。行かないのですか?」

「はんっ、そういうことか。オメー、ビビッてやがるな?」

「誰がビビッてるって?」

「オメーだよ、オメー。最初にスライムにやられそうになったショックが抜けてねぇんだろ?」

「そうなの? 祐介」


 ぬぬぬ、こんな時だけ無駄にカンの良さを発揮しやがって。そうだ、その通りだ。俺はいまだにスライムが怖い。最初からゲームと知ってた状態で出会っていたのなら、また別だったのかもしれないけど、最初に遭遇した時はそうじゃなかった。健吾じゃないけど、異世界に転移したのかと思ってしまっていた。

 そのせいで、スライムの体当たりの恐怖がバッチリ脳にこびりついてしまった。ゲームだとわかっていても、中々足が踏み出せない。


「このゲームにログインする前に、安全については散々確認しましたよね? だから大丈夫ですよ」


 確かに確認した。アプリ内にある雑談掲示板などを確認したらしい健吾の話によると、過去にゲームから出られなくなった人や、一緒にやってる知り合いなどが行方不明になった人はいないらしい。それに、ダンジョン内で出会うプレイヤーは事前にパーティを組んだプレイヤーだけなので、知らないプレイヤーから攻撃される心配もない。パーティを組める有効範囲はそんなに広くないらしく、パーティに他のプレイヤーがまぎれることもない。


 安全だということは散々確認した。けど、怖い。しかたないじゃないか、死にかけたんだから。

 でも、みんな待っていることだし、そろそろ行かないとな。そうだ、まずは楽しいことを考えよう。テンションが上がれば、恐怖心をごまかせるかもしれない。


 楽しいこと。そうだな、例えば、昨日の晩ご飯のこととかどうだろう。父さんと母さん、それから妹のマユと俺。四人そろっての家族団らんの時間だったはずだ。えーと、どんな会話をしてたっけ。


『おい祐介! 次のテストで、もしまた赤点なんかとろうものなら覚悟はできてるんだろうな?』


 ボキボキボキッ。(拳を鳴らす音)


『そうよ、母ちゃんは心配だわ。……アンタが説教(物理)に耐えられるかどうか』


 カンッ、カンッ。(メリケンサックを机にぶつける音)


 あれ、おかしいな。スライム以上の恐怖が押し寄せてくる。なんで今まで忘れていたんだろう。いやまだだ、マユだ。妹のマユだけは常に俺の味方だ。


『お兄ちゃんは本当にダメダメだね。きっと将来はどこにも就職できないんじゃないかな。でも安心してね。私が就職したら、毎月ちゃんとおこづかいあげるからね』


 正直、マユの言葉が一番心に刺さった。当然のように就職できないと思われていることとか、妹のヒモになるような男だと思われていることとか。いやー、きついっす。精神的に。

 記憶のシメは、父さんのせいけんづきだった。なるほど、これが記憶がトんだ原因か。なるほど、なるほど。


「行こう。冒険の世界が俺たちを待っている」


 俺は気が付くと扉をこえ、ダンジョンに足を踏みだしていた。地味に一番乗りだ。


「もういいのかよ? ビビりの祐介」

「ああ、待たせたな。俺は今までなんでスライムなんかにビビってたんだろうなぁ」


 スライムなんて大したことないよね。巨漢のオッサンのせいけんづきに比べたら。

 俺と健吾が並んで先頭を歩き、その後ろから匠と彩華さんが付いてくる。道の幅が五メートルくらいなので、思いっきり棒を振り回したら隣の健吾にぶつかるかもしれない。うーん、よし。思いっきり振り回そう! ビビり扱いされた仕返しだ。


 隣を見ると、健吾がすさまじい勢いで素振りをしていた。チィッ、こいつも同じ考えか! こうなったら先制攻撃しかないな。一番乗りでスライムにとびかかって棒を振り回そう。

 正面の道からやってくるであろう敵意を探りながら、右隣から放たれる敵意を受け流していると、それはやってきた。


 薄暗い道を、ポヨン、ポヨンとはねてくる、青い物体。スライムだ、スライムがやってきた。


「来たぞ! 戦闘開始だ!」


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