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バーチャルダンジョン攻略部!  作者: 夏畑スイカ
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第二十六話 ボス部屋へ

 みんなから注目が集まる中取り出したアイテム、それはどこにでもある空き缶と糸だった。


「ちょっと待てやテメェ」

「なんだ健吾? 急いでるんだが」

「そのアイテムはどこで手に入れたんだ? そんなモン、ショップに売ってたか?」

「そのことか。この空き缶と糸はあっちの世界から持って来たんだ」

「なにぃ!?」

「どうやって持ってきたっていうのよ?」

「みんな、俺たちの今の恰好を思い出してほしい」


 俺たちが今ゲーム内で着ているもの。それは学生服だ。それも俺たちが通う学校のものと同じデザインのもの。健吾なんかは、現実世界で身に着けていたネックレスまでそのままだ。ということは。


「現実の方で装備していたものは、こっちの世界にも反映されるんじゃないかと思ってね」


 つまり俺は、カバンに入っていた空き缶と糸を握りしめてからゲームへとログインしたのだ。試したことはなかったのでぶっつけ本番だった。だけどなんとなくうまくいくような気がしていた。


「まさかアイテムの入手方法にこんな抜け道が存在していたなんて。やはり祐介君、あなたは――」


 匠がこちらを見て何かを言いたそうにしていたが、その言葉を最後まで続けることはなかった。

 彩華さんと健吾の方もアイテムの持ち込み法について理解したようで、しきりにうなずいている。それから数秒ほどたって、三人の視線が再び俺へと集中した。


「それで、そのゴミと糸を使って何をしようってんだ?」

「前々から不思議に思ってたんだ。あのゴーレムは、どうやって俺たちのことを認識してるのかなって」


 あのゴーレムには、目のようなものが一切ない。岩のカタマリが人のような造形を取っているものの、それだけだ。目や鼻、口といったものが存在しているわけじゃない。

 それなのにアイツは、俺たちのことを正確に認識している。後ろに回り込んだ健吾と彩華さんに対して、後ろを振り返りもせずに腕を振り回して攻撃を当ててきたことすらあった。

 きっとアイツは、目で見ているわけじゃない。


「もしかしたらあのゴーレムは、音で俺たちの場所を把握してるんじゃないかな」


 魔法的な謎パワーで生命力的なものを感知している可能性もあるけど、音で場所を把握してる可能性だってあると思う。


「祐介君のやりたいことがわかりましたよ。糸を通した空き缶を引きずって大きな音を立てながら走ることで、存在する位置を偽装しようということですね」

「そういうことね。もしも本当に音で場所を把握してるなら、効果があるかもしれないわ」


 どうやらみんな理解してくれたようだ。


「はぁ? なんだよ? どういうことだ」


 約一名を除いて。


「投石に対する対処法です。ゴーレムが音でこちらの場所を特定し、岩を投げる場所を判断しているのなら、足音よりも大きな音を出すことでそちらに投石の目標をそらすことができるかもしれません。糸の分だけ距離に余裕があるため、空き缶が狙われた場合はダメージを回避することができるでしょう」

「なんだそんなことか。ったく、そうならそうと最初から言えよな祐介!」

「……とりあえず試してみてもいいかな? 空き缶の数が十分にあるわけじゃないから、まずは一人で行ってみるよ」


 空き缶のプルタブに糸を通してから、扉を出て一本道の直線を走り出す。

 うまくいくかどうかはわからない。けど他にいいアイディアがあるわけじゃないんだ。ダメで元々試すだけ試してみよう。もしかしたらうまくいくかもしれない。そんなポジティブな気持ちを胸に、ゴーレムが出現するダンジョンの奥へと向かっていく。


 ――結果から言って、作戦は大成功だった。





「みんなただいま」


 死ななかったため、俺はそのままリスポーン地点へと歩いて帰ってきた。


「外から戻ってきたってことは、ゴーレムを突破できたのね!」


 そんな俺を見た彩華さんが、飛び跳ねながら全身で喜びを表している。

 そう、俺はとうとう、ゴーレムたちを突破することに成功したのだ。

 ゴーレムが引きずっている空き缶に向かって投石をしている間に走り抜けるということを合計五回繰り返した。つまりゴーレムは全部で五体いたことになる。これだけの数、まともに走り抜けることは不可能だっただろう。


「この部屋へと戻ってきたということは、ゴーレムを無力化する手段があったのですね」

「うん。ゴーレムを抜けた先にコントロールルームみたいなのがあって、そこのスイッチを適当に押したらゴーレムは停止したよ。匠の予想通りだったね」

「やはりそうでしたか。僕は確信していましたよ。そういったものが存在しているとね」


 そうだっただろうか。前に話したときは、かなり半信半疑で可能性の話をしていたような気がするのだが。しかし実際に停止スイッチはあったので、これはこれで良しとしておこう。


「てぇことは、今はゴーレムがすべて停止してるってことか?」

「一階にいる分は停止してるよ。それ以外は確認してないからわからないけど。あと、二階への階段も見つけた」

「それを先に言え! おいみんな、二階へと突撃するぞ。このまま一気にクリアしてやるぜ!」


 言うが早いか、健吾はリスポーン部屋から飛び出し一目散に走り出した。と思ったら、速攻で部屋へと戻ってきた。


「おい祐介」

「なんだよ?」

「さっさと階段の場所教えろや」


 何も考えずに飛び出していったのかよ!


「一階はずっと一直線の道が続くから、まっすぐ道なりに行くだけで階段が見えてくるぞ」

「おおそうか! よしみんな俺に続け! うおおおおおおお!」


 テストが終わったときの死にそうな状態から一辺、今の健吾は実にイキイキとしている。水を得た魚。ゲームを得た健吾だ。


「私たちも行くわよ! 久しぶりにモンスターを殴りまくるわ!」

「うわっ、ちょっと!」

「なんだか疲れてるみたいだったから、私が走るのを手伝ってあげるっ!」


 彩華さんがメイスを持っていない方の手で俺の手を握り、そのまま一気に走りだしたのだ。そのせいで俺は、彩華さんに引きずられるようにして走りだすことになってしまう。


「そう来ましたか。フフッ、それでは僕も参るとしましょうか」


 気のせいか、俺たちの後ろを走る匠がいつも以上にニヤニヤしているように見えた。

 面白いものを見たといった風な匠のニヤけ面を視界からカットしつつ走り続けていると、しばらくして階段の前で仁王立ちする健吾の姿が見えてきた。


「おせーぞ! ようやく攻略の糸口が見えてきたんだからよぉ、キビキビと行こうぜ!」


 健吾は二階へと行きたくてたまらないようだ。無理もない。これまで全く進んでいなかった試練の塔の攻略が、ようやく前進したのだ。クリアのためにも、そしてゲームを楽しみたいという意味でも、早く先へと進みたい。俺だってそんな気分だ。


「そうだな、さっさと行こうか」


 こうして俺たちは二階への階段を上り始めた。

 階層が存在するダンジョンはここが初めてなので少しドキドキした。新ダンジョンに潜るのとはまた違った、新しいエリアへと踏み出すワクワク感がある。

 それはみんなも同じようで、二階に着くまでは誰も一言もしゃべらなかった。


「ここが試練の塔二階か。よし、先頭は俺に任せろ。行くぞ!」


 二階へと到着して早々、健吾が先頭をズンズンと歩き出す。健吾を先頭にして進むことに特に異論はないため、俺たちはそれに後ろからついていく。


「この階層は一階とは違い、道が複雑に分かれているようですね」

「そうだね。覚えるのが大変そうだ」

「その辺は僕に任せてください。ここまでの道筋もしっかり記憶しているのでご心配なく」


 さすがテスト期間中にゲームをやりこむ男。本当に頼りになる。

 分かれ道だらけの二階層目をしばらく歩いていると、目の前からそれはやってきた。


「ようやくお出ましね! この時を待っていたわ」


 彩華さんが目を輝かせて見つめる先にいるもの、それはモンスターだ。健吾と同じくらいの身長の二足歩行のゴーレムが、こちらへとゆっくり歩いてくるところだった。

 数は二体。動きは遅いが、手には鈍く輝く鈍器を持っており、殴られると結構HPを削られそうだ。


「俺が一番乗りだぁあああ!」


 大剣を思いっきり振り上げた健吾が小型ゴーレムへと突進していく。

 

「待ちなさい脳筋! 私の獲物よ」

「うるせぇ早いもん勝ちだぁ!」


 そういうと同時に、健吾は右側の一体に思いっきり大剣を振り下ろした。ガンッ、という鈍い音とともに、小型ゴーレムの体がへこむ。しかし倒すまでには至っていないようだ。小型ゴーレムは武器を振りかぶり、健吾へと襲い掛かった。


「当たるかよウスノロ」


 重たい大剣を手にしているとは思えない身のこなしで小型ゴーレムの攻撃を回避していく。そんな健吾に、二体目の小型ゴーレムが近づいていく。

 いくら健吾でも二対一はキツいだろう。それならば、やることは一つだ。


「よし、俺たちは健吾をおとりにしてゴーレムの背後から攻撃だ」

「何!? そっちで一体引き受けやがれ! 俺をエサにするんじゃねぇ!」

「悪いな健吾、おとり役を買って出てもらって。その分俺たちが思いっきり攻撃してやるから安心して攻撃を受け続けてくれ」

「テメェ! いい度胸じゃねぇか」

「おとり役は早い者勝ちなんだろ? いやぁ、マジで助かるよ」

「クソッたれがぁ!」


 健吾が集中攻撃を受けている間に、俺と彩華さんと匠は小型ゴーレムを背後から殴りまくる。途中でゴーレムの一体がこちらに振り向こうとしてきたが、その直後に彩華さんのメイスが頭へと直撃。その一撃でゴーレムは地面へと倒れ動かなくなった。

 どうやら、硬い装甲を持つこの相手には俺や匠の剣や槍よりも、彩華さんの打撃属性武器の方が効果的のようだ。


「うおおおお、よくもやってくれやがったなぁ!」


 敵の数が一体になったことで余裕が生まれたため、それまでは防戦一方だった健吾が攻撃に転じ始める。

 加勢しようと思ったものの、そこそこリーチのある大剣をめちゃくちゃに振り回すせいで全く近寄ることができなかった。

 攻撃してるのは健吾一人だったけど、それでも攻撃力は十分に足りているようで、程なくしてゴーレムを倒し終わる。


「よし、これで残る敵はあと一体だ!」

「敵があと一体? ゴーレムは二体だけだったし、そいつらはもう倒し終わっただろ?」

「何言ってやがる、ここに残ってるじゃねぇか。覚悟しやがれ。うおおおお!」


 そう言って健吾は、剣を構えたまま走り出した。健吾が向かう先にいるもの、それは――。


「ちょっと待って。もしかして最後の敵って俺か!?」

「大当たりだクソ野郎。人をおとりに使うような邪悪な魔物は正義の勇者様が成敗してくれる!」

「何が正義だ。ただの八つ当たりじゃないか! 待て、待って。うわっ、よっと」


 右から左からと振り回される大剣をギリギリのところでなんとか回避する。本当にギリギリで紙一重だ。

 俺の目の前を大剣の剣先が何度もかすめていく。


「ハァハァ、クソっ、いい加減当たりやがれ」

「ハァハァ、どうした健吾。いつものキレがないみたいだな」

「そういうテメーこそ、身のこなしが鈍いじゃねぇか」

「しかたないだろ。勉強という名の悪魔のような拷問に耐えきったあとなんだから」

「俺だってそうだ。ここ一週間、何度三途の川を泳いだことか。おかげで泳ぎだけはうまくなったぜ」


 それが本当かはわからないけど、健吾は健吾でやはり相当に苦しんだようだ。


「大変だったね、お互いに」

「ああ、本当にな。こんなクソみたいな拷問のない、平和な世の中に早くなってほしいもんだぜ」

「そうなれば俺たちも、もっと心安らげる時間を過ごせるようになるんだけどね」

「いえ、僕たち学生は勉強するのが仕事でしょう。勉強もせずに将来どうするつもりなのですか?」

「俺はあれだよ。将来プロゲーマーになるから」

「俺はいずれ異世界へと勇者として召喚されることになるだろうからな。心配はねぇよ」

「そうそう、心配なんて何もないって大丈夫大丈夫」

「不安しかないのですが……」


 なぁに、なんとかなるって大丈夫大丈夫。


「そんなことよりも、先を急いだほうがいいんじゃないかしら?」

「確かにそうだ! クソっ、バカのせいで余計に時間を食っちまったぜ。みんな急ぐぞ」

「バカのせいで遅れた時間を早く取り戻さないとね」

「自覚があって反省してるとは、殊勝な心掛けじゃねぇか」

「そのセリフ、ソックリそのまま返すよ」

「なんだと!? ……いや違う、今はこんなことしてる場合じゃねぇ」

「……そうだね、そろそろ先に進もうか」


 ダンジョン内を歩き回り、現れる小型ゴーレムを撃破していく。敵との遭遇頻度はそこまで多くないけど、ダンジョンの構造が厄介だ。

 分かれ道がいくつもあって、常に俺たちを迷わそうとしてくる。匠が道を完璧に覚えていなければ、いつまでたっても同じところをグルグルと無限ループしていたかもしれない。


「あそこを見てください。あれは階段ではないでしょうか」

「本当だ。上りの階段がある」


 一時間ほどダンジョンを歩き続けて、俺たちはようやく三階への階段を見つけることができた。


「もちろん三階にも行くよなぁ?」

「当然だろ」


 ここまで来て引き返すという選択肢はない。俺たちは特に考えることもなく、三階への階段を上った。

 三階も二階と同じようにモンスターを倒しながら探索を進めていく。幸い、出てくるモンスターは二階の時と同じく小型ゴーレムのみなので、あまり苦戦することはなかった。

 この調子ならすぐに四階への階段、もしくはボス部屋の扉を見つけられるのではないかと、そう思っていた。しかし――。


「おいおい、どんだけ歩けばいいんだよ? 同じところを歩き回ってんじゃねぇだろうなぁ、おい」

「その可能性はありません。僕はどの方向に何歩歩いたかを大まかに記憶しています。僕の頭の中の地図によれば、ここはまだ一度も来たことがないエリアのはず」

「チッ。その地図は本当にアテになるんだろうな?」


 俺は健吾と違って匠の記憶力を疑っているわけじゃないけど、健吾の言うことも少しは理解できる。俺たちは二時間以上歩き回っているにも関わらず、なんの成果も得ていない。二階の時の二倍近く探索してこれなのだから、不安になるのも無理はない。


「こればっかりは信じてもらうしかありませんね。だからそのビンビンに立ったモノを収めてください」

「はぁ!? ちょっ、オメーいきなり何言いやがる! 俺は別に立ってなんて……」

「腹を立てないでくださいということです」

「紛らわしいんだよクソが!」


 本当に紛らわしすぎる。一瞬マジで健吾が匠を見てそういう状態になっているのかと思ってしまった。……念のため一歩健吾から距離を取ろう。


「おい祐介、なんで距離を置きやがる」

「特に理由はないよ。なんとなくかな」

「嘘つけや!」

「だから健吾君、そのビンビンに立ったモノを――」

「うるせぇ!」

「アンタたち、本当にバカねぇ」


 そんな調子で三階の探索を続けたけど、その日は結局何も発見することはできないまま解散の時間になってしまった。


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