第二十五話 第二の目標
一日目。努力の甲斐あって、最初から最後までスムーズに答えを書くことができた。これなら平均五十点の大台も夢ではない。
その日のテストが終わったら即家に帰り、次の日の科目の勉強を開始する。
俺の気迫が伝わったのか、父さんが呪術師を勧めてくることはなくなった。母さんは丑三つ時に謎の祈りを捧げているらしいが、父さんと同じように何も言ってこなくなったことがありがたい。
マユだけは俺を堕落させようとあの手この手で邪魔してくるので、部屋にカギをかけておいた。
そんな環境で勉強を続けながら、二日目、三日目のテストをクリアーしていく。
そして度重なる一夜漬けで疲労がピークに達したころ、ようやくすべてのテストが終了した。
「終わった……。やり遂げた、俺はやり遂げたんだ」
「本当にお疲れさま」
気が付くと、俺の横には彩華さんが立っていた。声をかけられるまでまったく気が付かなかった。やはり、かなり疲労が溜まっているのかもしれない。
健吾なんて最後のテストが終わった瞬間獣のような雄たけびを上げ、そしてそのままいびきをかいて豪快に昼寝をし始めた。
健吾の方も健吾の方で、疲労のピークだったのだろう。
「最後までよく集中できていたみたいね。これならきっとなんとかなるわ。……ありがとう」
「お礼を言われるようなことなんてしてないよ。自分自身のためでもあるんだから。それに、まだ最後じゃない」
そう、俺たちにはもう一つ、やり遂げなければいけないことがある。
「明日の夕方までに、なんとしても試練の塔を攻略する。彩華さん、手伝ってくれる?」
「もちろん手伝うわ。放課後は当然として、家に帰ってからも一人でできる限りダンジョンに潜ってみるつもりよ」
「あんまり無理はしないでね。パンドラの迷宮って結構疲れるから」
「さあ、どうかしら。祐介は私が同じことを言ったとき、聞き入れてくれたのかしらね」
痛いところをついてくる。ここ最近、無理をしまくっているのは彩華さんにはバレバレだったようだ。
「さあ、そろそろ部室に行くわよ。タイムリミットは待ってはくれないわ」
「了解。彩華さんは先に行ってて。俺は健吾をたたき起こしてから行くよ」
「わかったわ。早くしなさいよね」
教室を出ていく彩華さんを見送ったあと、俺も新たなクエストへと挑む。
さて、どうやってアイツを起こそうか。
考えていても時間が無駄に過ぎるだけなので、ここはシンプルに行こう。
「燃え尽きてないでさっさと起きろ。ダンジョンへと行くぞ」
そう言って、思いっきり健吾の頭をはたいてやった。俺は有言実行の男。たたき起こすと宣言したからには、それを実行するまでだ。
「んぐぉ。誰だ人が気持ちよく寝てるときに不意打ちしてくる卑怯ヤローは!」
「隣の席の山本だ」
「おのれ許さん! 覚悟しろ山本!」
「待て待て待て俺じゃない! 俺はやってない!」
「うおらぁぁぁぁ!」
「うあぁぁぁぁぁぁ!」
ちなみに山本は、毎晩俺の髪の毛入りの藁人形に釘を打ち込んでいるらしい。だからいつか罰を与えてやろうと思っていた。ふぅ、スッキリした。
「その辺でやめておけよ健吾。山本だって、ちょっとした冗談のつもりだったんだよ。ここは俺に免じて、許してやってくれ」
「ちっ、しゃあねぇな。この辺にしといてやるか」
「待て待て待て、はたいたのはお前だろ平田! 何善人ぶってやがるんだ!」
「あっ、そういえば山本。お前さっき健吾をはたく前に財布も漁ろうとしてたよな。さすがにそれはどうかと思うぞ」
「なんだと! ぶっ殺す!」
「違う俺はそんなことしてない信じてくれ……、ぐわぁぁぁぁぁ!」
天罰覿面。悪は滅びる運命なのだ。
邪悪な呪術師を成敗して満足したことだし、そろそろ本題へと入ろう。
「健吾、さっさと部室に行くぞ。時間がないんだ、わかるだろ?」
「むっ」
健吾の方も勉強で貯まったストレスを発散できて満足そうだ。
健吾もスッキリできて、俺もスッキリできた。これがwin-winの関係というやつか。誰も損をしていない、優しい世界。
「オメー、やけに気合入ってるじゃねぇか。その顔じゃ、まだ諦めてねぇんだな?」
「当然だ。第一の目標が終わった時点で熟睡する腑抜けと俺を一緒にしないでほしいね」
「あれはちょっと油断して睡魔に負けただけだ。俺だってまだ全然諦めてねぇぜ!」
「それじゃあ早く行くぞ。彩華さんは先に行ってるし、匠も多分行ってるはずだ」
「よぉぉし! 行くぞ!」
健吾は俺を置いて猛ダッシュで教室から駆け出していった。
俺はすぐには健吾を追いかけず、少し準備をしてから部室へと向かう。テストが終わったと同時にいくつかの考えが俺の疲れ切った頭へと降り立ったのだ。
もしかしたら、試練の塔攻略に役に立つかもしれない。俺の頭に降り立ったのは、そういうアイディアだった。
そのアイディアを実行するために必要な道具をそろえてから部室へと入る。部室にはすでに全員揃っていた。
「おせーぞ! 何してやがったんだ」
「ちょっとした用事があってね」
「さっさと行くぞ。時間がねぇんだからよ」
「爆睡してたやつに言われたくないな」
「うるせぇ! 行くぞ!」
時間がないことは事実なので、さっさとパーティを組んでダンジョンを選択。選択したダンジョンはもちろん試練の塔だ。
久しぶりのゲームに入り込む感覚を全身で感じながら俺の視界はブラックアウトしていき、そして数秒後にはいつものリスポーン部屋へと立っていた。
「まだ一日の猶予があるとは言え、なるべく早く攻略を進めたいところですね。できれば今日中にボスの部屋を見つけておきたいところです」
ログインして早々、匠がそんなことを言い出した。
「具体的に明日のどのくらいの時間までがリミットだっけ?」
「僕がゲームを起動したのは、確か十八時過ぎくらいだったと思います。祐介君はそれよりも十分ほど早かったので、リミットとしては十八時前後といったところでしょうか」
明日の十八時がタイムリミット。その時間までに試練の塔をクリアできなければ、ゲームが消える。
「なんとしてでもクリアしないとな」
「ええ。あまり根性論は好きではありませんが、気合で行くしかないでしょう」
「何かいいアイディアとかはある?」
俺のその質問に対し、匠は眉根を寄せて肩をすくめることで答えた。
「やっぱり攻略法は見つからなかった?」
「みなさんが勉強に集中している間に、色々と試しては見たのですが。結果は芳しくありません」
「えっ? ソロでダンジョンに潜ってたの?」
「僕は余裕が有り余っていましたので」
なんてうらやましいことを平然と言う男だ。俺なんてここ最近、徹夜のし過ぎで意識がもうろうとしてるっていうのに。
「最初は、投石に耐えるために背中に盾を背負ってみました。しかし投石の威力はすさまじく、盾もろとも吹っ飛ばされてしまうという残念な結果に終わりました」
「盾を買うお金なんてどこにあったんだ?」
「もちろんソロプレイで貯めました」
まさかそこまでガッツリとゲームをプレイしていたとは。どうやら俺が思っていた以上に、余裕が有り余っていたようだ。
「受けるのがダメならと、今度は回避することを考えました。ゴーレムの投擲モーションは常に一定です。なのでタイミングを計れば、岩が投げられた瞬間に左右へ動くことで回避できるのではと思ったのですが」
「結果はダメだったと」
「あまりにも岩が飛んでくる速度が速いため、ゴーレムの手から岩が投げられてからでは回避が間に合わなかったのです」
表情はいつもと変わらない、さわやかイケメンスマイルだ。しかし長年友達をやってきた俺にはわかる。匠は今、ものすごく悔しがっている。
匠だけじゃない。俺だって、試練の塔をクリアしたいと思っている。
使い道はともかくとして、俺も匠も金のためという共通した目標がある。だから匠の気持ちはよくわかるつもりだ。
なんとしてもクリアしないと。
「一つ試したいことがあるんだ」
みんなに聞こえるようにそう言って、俺はインベントリからアイテムを取り出した。




