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バーチャルダンジョン攻略部!  作者: 夏畑スイカ
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第二十話 お母様襲来

 落ち着いた雰囲気で漫画などの余計なものがないからか。それとも彩華さんの家に来ているという事実のおかげか。勉強に対する俺の集中力は過去最高といってもいいくらいだった。


「ちょっと休憩しようぜ」


 そう言って健吾がぐったりと机へと倒れこむ。図書室内にある華美な装飾が施された時計を見ると、俺たちはどうやら二時間ほど勉強していたようだ。こんなに時間がたっていたのなら、健吾が疲れるのも無理はない。


 時間を気にかけずに机に向かったのなんて何年振りだろう。もしかしたら初めてかもしれない。

 これは真面目に部屋の漫画やらゲームやらを片付けることを検討するべきだろうか。


「ありがとう匠、彩華さん。色々教えてもらっちゃって」

「いいのよ。分からないことがあったらなんでも聞いてね」


 一人で勉強しているときは、どうやって解けばいいのかわからない問題は放置気味で進めていた。だけど匠と彩華さんがいてくれれば、解き方を聞けるので解けない問題をそのままにしないですむ。


「当然のことをしたまでです。次回の中間テストは連帯責任ですから、僕だけ課題をクリアしても意味がありません」

「こうやって俺や健吾に勉強させるのも一之瀬先生の作戦なんだろうなぁ」

「でしょうね。悪い点数の影響が僕や『二階堂さん』にも及ぶとなると、さすがの祐介も少しは勉強するでしょう」

「なんで彩華さんを強調したの?」

「僕の口から理由を聞きたいですか?」

「いや……」


 実際匠の言う通り、俺のせいで彩華さんに迷惑をかけたくないってのと、かっこ悪いとこを見せたくないってのはかなりある。もちろん匠にも迷惑をかけたくない。

 連帯責任なんていう縛りがなかったとしたら、ここまで真剣にやらなかったかもしれない。それはきっと、健吾も同じなんじゃないかな。


「そういえばここに来る途中肖像画が飾ってあったけど、あれは彩華さんの父さんの肖像画?」

「そうよ、あれはお父様ね」

「彩華さんの肖像画とかもあったりするのかな」

「あるけど見せないわよ」

「なんで?」

「だって恥ずかしいじゃない! それに私には似合わないフリフリのお洋服を着せられて描かれたんだもの。せめて制服が良かったわ」


 なんとなく聞いただけだったけど、俄然興味が湧いてきた。思えば、彩華さんの私服姿は見たことがない。


「どんな服なのか見てみたいな。想像が膨らむね」

「膨らませるのは想像だけにしておいてくださいね」

「えっ?」

「膨らませるのは想像だけにしておいてくださいね」

「いや二回言わなくていいから。匠じゃあるまいし、変態的な意味で言ったんじゃないから」


 まったく、隙あらば下ネタをねじ込もうとしやがって。俺をその手の話題に巻き込むんじゃない。


「そ、そんなに興味があるなら特別に見せてあげても……」

「みなさまお疲れ様です」


 背後から、見知らぬ人の声。振り向くとそこには女性が立っていた。両手でお盆を持っており、その上には湯気の立つ飲み物らしきものとお菓子らしきものが乗っている。もしやこれは差し入れというやつだろうか。

 飲み物やお菓子持ってきてくれたことは素直にうれしいけど、今の俺にはそれよりも気になることがある。それは、差し入れを持ってきてくれた女性のことだ。

 この女性、かなり美人な上にやたらと彩華さんにそっくりだ。姉妹がいるって話は聞いてないけど、もしかしてお姉さんかな?


「お邪魔しています。僕は平田祐介、露出狂です」

「こら匠! 俺の名前で変な自己紹介をするな!」

「ちょっとした冗談ですよ。改めまして、僕は森原匠です」

「俺は平田祐介。別に露出狂じゃないですから。あとそっちで力尽きているのは斉藤健吾」


 健吾はさっきからピクリとも動いていない。よほど疲れたのか、机に体を投げ出したままだ。

 

「こんにちは。私は彩華の母でございます。よろしくお願いしますね」

「へー母さんなんだ。って母さん!? ちょっと若すぎない?」

「あらあら、平田君ったらお上手なんだから」


 お世辞でもなんでもない。一見女子大生にしか見えないこの女性が、彩華さんの母親だと?

 しかもこの女性、服の上からでもわかる見事な巨乳だ。さらに歩くたびに揺れる見事なおっぱい。つまり何が言いたいかというと、非常に胸がでかい。


「お茶とお菓子を持ってきたのでどうぞ」

「ありがとうございます。ありがとうございます」

「どこを見て言っているのかしら?」


 ついうっかりととある一部分をジロジロと眺めてしまった。早く目をそらさなければ失礼だな。しかしそんな俺の考えに逆らうように、視線はおっぱいへと吸い込まれてしまう。なんという吸引力だ……!


「キョニュウは悪。キョニュウは敵。キョニュウ滅びるべき……」


 しまった、彩華さんの巨乳アレルギーが発病してしまった!

 身内に対してもその殺意のまなざしを向けるなんて、彩華さんと巨乳の間にある因縁は相当根深いのかもしれない。


「あらあら? へぇ。あらー」


 その殺意の波動を正面から受けた彩華さん母は何やら理解した顔だ。親子だからこそわかる何かがあったのだろうか。

 彩華さんに対して意味深な視線を送っていた彩華さんの母さんが、いきなり俺の方を見た。しかもただ見ただけじゃなくて、じっと見つめてきた。


 美人な女性と心の準備もなしに見つめ合うことになってしまったので、ドキドキが止まらない。

 しばらく見つめ合っていたが、やがて彩華さんの母さんは俺から視線を外し、健吾と匠を数秒見たあと、持ってきた飲み物とお菓子を食べ始めた。自分で食べるのかよ。


「みなさんも遠慮せずに食べてくださいね」

「ありがとうございます」


 喉が渇いていたので、お茶を受け取って飲み始める。


「みなさん、彩華ちゃんと仲良くしてあげてくださいね」


 喉を潤しつつお菓子に手を伸ばしていると、彩華さんの母さんが俺たちに向かって話し始めた。


「この子は小学生の時以降ずっと友達がいないさみしい子です。ちょっと荒っぽいところもあるけど、とっても良い子なのですよ」

「お母様! 恥ずかしいこと言わないでよ!」


 ダンジョンの中で喜々として武器を振り回す姿を見ている俺としては、ちょっとという言葉に疑問を持たざるを得ない。

 あれがちょっとだとしたら、世の中の女子の九割はおしとやかな子ということになるだろう。


「何かしら祐介、その視線は」

「なんでもないよ。いやなんでもないです」

「なんで丁寧語に言い直したのよ!」


 身の危険を感じたから、とは口が裂けても言えない。それを口にすると本当に口が裂けてしまいそうだ。暴走した彩華さんの手によって。


「二人とも本当に仲がいいのね。これなら安心かしら。それではみなさん、勉強頑張ってくださいね」


 そういうと、彩華さんの母さんはお菓子をもぐもぐしながら図書室から立ち去って行った。

 どうでもいいけど、あの人一人で半分くらいお菓子を食べていったな。残るお菓子は三分の一くらいだ。健吾が目を覚まさないうちに全部食べてしまおう。

 休憩のあとも一時間ほど勉強して、その日はお開きとなった。





「祐介、オメー最後にパンドラの迷宮にログインしたのいつだ?」


 集中力が付いたのか、それとも本来の力に目覚めたのか。彩華さんの家で勉強し始めてからは、一度もゲームにログインせずに自由な時間をすべて勉強へと充てている。


「俺はもう一週間以上インしてないな。そういう健吾はどうなんだ?」

「半日くらいインしてねーな」


 それって昨日ゲームやってたってことじゃないか。コイツ、ダメすぎる。


「そんなんで大丈夫かよ? 大体、ゲームをやるなら四人でパーティ組んだ方が効率いいだろ。だから家では勉強、四人集まったときにゲームって感じにした方がいいぞ」

「……まさか祐介ごときにそんな正論を言われるとは思ってもみなかったぜ」


 うわあ、コイツ殴りてぇ。けど殴ったら俺の命が危ないし、そもそも俺はそんな暴力にモノを言わせるような卑劣な人間ではない。だから、今度学校の内履きに画びょうを入れるくらいで勘弁してやろう。


「そこっ! しゃべってないで集中しなさい! 集中!」

「ごめん彩華さん、バカが迷惑かけちゃって」

「ようやく身の程をわきまえたか。テメーちゃんと謝っとけよ?」

「バカは健吾のことだよバーカ!」

「なんだとっ。やんのか? ああん?」

「うるさーい! ちゃんとやりなさいよね!」

「ご、ごめん」


 ちょっと気を抜きすぎたか。最近はずっと彩華さん家の図書室を使わせてもらっている。だからこれ以上彩華さんに迷惑をかけるべきではない。

 それに自分のためでもあるわけだから、彩華さんの言う通り集中しないと。


「なぁ、ゲームしようや」


 英文を暗唱し始めた矢先、悪魔の誘惑が俺の耳へと入り込んできた。


「なぁ、ゲームしようや」


 無視だ無視。俺はゲームの進行具合に比べて、明らかに勉強が遅れている。両方のバランスをとるなら、勉強を優先するべきだ。

 俺たちの言い合いには目もくれず、ペンを走らせ続けていた匠が手を止め顔をあげる。

 何か言うつもりかな。それなら匠からもあのバカに言ってやってくれ。今は勉強をやるべきだってな。


「いいですね。僕もみなさんと一狩り行きたいと思っていたのですよ」


 匠め、裏切ったな。


「祐介君もやりましょう。たまには息抜きも必要ですよ」


 畜生、悪魔が二人に増えやがった。こうなると、このあとの展開なんてあまりにも読みやすすぎる。


「いいわね。丁度休憩しようと思ってたとこだし、久しぶりにやりましょう」


 圧倒的多数決にあらがうすべを、俺は持っていなかった。

 ゲームをやることが決定した瞬間である。


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