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バーチャルダンジョン攻略部!  作者: 夏畑スイカ
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第十六話 買い物

 どうやって戦うのかを相談しようと思ったけど、足音が聞こえる距離で会話をするとゴブリンたちに存在がバレてしまうかもしれない。ゆったりとした足音からして、幸いなことにあっちはまだ俺たちのことに気が付いていないみたいだ。

 せっかくだからそのアドバンテージをフルに使いたい。それならば、取るべき行動は一つ。気づかれる前に先制攻撃だ!


 そう決めると同時に、俺は一気に足音がした方へと向かって走り出した。

 先頭を歩くゴブリンがこちらへ気づき、慌てて戦闘態勢を取ろうとしていたけどもはや手遅れだ。スライムに対して散々繰り返した渾身の突きを、ゴブリンの胴体に向かって放り込む。

 突き刺さることこそなかったが、骨の折れるような感触があった。致命傷を与えたのは間違いないだろう。


「死にさらせやぁあああ!」


 俺と同じようにダッシュしていた健吾が、武器を構えようとしていたゴブリンの首を横へのスイングで叩き折る。健吾に攻撃されたゴブリンは地面へと倒れ、光になって消えていった。一撃かよ。バカ力に磨きがかかっている。

 というか、さっきこんなヤバいスイングを俺に向けて振るっていたのかよ。


 俺たちに少し遅れてゴブリンの元へと到着した彩華さんと匠も、戸惑っているゴブリンに対してそれぞれ先制の一撃を入れている。

 二人とも一対一なら割と余裕があるようで、危なげない戦いを繰り広げている。そんな様子を横目で見ながら、突きを当てたゴブリンにトドメを刺す。


 ゴブリンを倒したことを確認してから二人の方を向くと、あっちも決着がついていた。

 ゴブリンの住処での最初の戦闘は、あっという間にカタが付いた。


「楽勝すぎだろ。こいつらこんな雑魚だったか?」


 健吾の発言に心の中で同意する。初めてここに来た時に比べて手ごたえがなさすぎる。本当に同じダンジョンなのか疑うレベルだ。


「パーティを組んでいるとはいえ、前に来たときはもっと苦戦したような気がするわね」

「彩華さんもやっぱりゴブリンの住処に挑んだことあるんだよね? その時はどんな感じだった?」

「ゴブリンを絶滅させてやりたいと思ったわ」

「そ、そう。よくわかったよ」


 ボコボコにされたんだな。俺と同じように。


「僕の計算通りですね」

「匠はこの展開を予想していたの?」

「ある程度は、ですけど。僕たちのステータスは前に比べればかなり上昇していますよね?」

「そうだったっけ? 俺はレベルアップした時しかほとんどステータスを見ないんだよな」

「相変わらずのバカっぷりじゃねぇか! オメーこのゲームにはレベルがねぇんだぞ。そんなんでいつ能力を確認するんだよ?」

「……」

「お前、もしかして忘れてたのか? レベルの概念がないことを」


 ちゃんと覚えていたさ。記憶の片隅、心の奥底に。


「バカはほっとくか。んで匠、ステータスは確かに上がってるけどよ、それにしては楽勝すぎなんじゃねぇか?」

「上がったのはステータスだけではありません。みなさんはここ数日、走り回ったり武器を振ったりする動作がスムーズになったと思いませんか?」

 

 このゲームに最初ログインした時に比べたら、両方とも上達したと思う。ずっと走り回るような状況なんて今までなかったわけだし、武器を振る機会なんてもっとない。さすがの健吾だって、現実世界で毎日何時間も走ったり武器を振るなんてことはしない、と思う。完全に断言できないのが健吾の恐ろしいところだ。


「つまり、体の動かし方自体が上達したってことかしら」

「そうです。ステータスの上昇に加え、戦うこと自体に慣れたことが大きな要因でしょう」

「なるほどな。それならよぉ、早速狩りまくろうじゃねぇか。クソゴブどもをな」


 ダンジョンの奥を見据える健吾の目は、鋭い殺気を帯びている。コイツは前にボコられた時からこの日が来るのをずっと楽しみにしていたんだろう。やられっぱなしで済ます男じゃないからな、健吾は。


「斉藤の意見に賛成よ。アイツら根絶やしにしてくれるわ」


 おっと、ここにもゴブリンへの殺意を貯めていた人物が一人。昨日の元気のなさが嘘のような気合の入り方だ。やっぱり彩華さんはこうじゃないとね。


「俺にいい考えがあるんだけど、ちょっとやってみない?」

「どんな作戦なのかしら」


 俺が考えた作戦、それはおとり作戦だ。おとりといっても健吾をおとりにするわけではない。今回おとりにするのは、弱ったゴブリンだ。

 ゴブリンのパーティに遭遇した時、わざと一匹だけ適度にボコったうえで逃がしてあげる。そしてそいつが連れてきた仲間のゴブリンをボコボコにするのだ。もちろん、また一匹死なない程度にボコったゴブリンを生かしておくのを忘れない。


 この作戦をみんなに話した結果……、ドン引きされてしまった。


「さすが祐介だぜ。クズの極みだなおい。いくら俺でもそこまではやらねぇぞ」

「テレビゲームであればよくある稼ぎの方法なのですが、まさかリアルなこのゲームでそれを実行に移そうとするなんて。いやはや末恐ろしい」


 ちょっと酷くない? 散々時間がないとかなんとか言ってたんだから、多少アレな方法でも効率のためなら積極的にやるべきだろ。


「あら? 私はいい方法だと思うわよ。斉藤も意外と手ぬるいのね」

「やっぱり今は手段を選んでいる時間なんてないよな? 彩華さんならわかってくれると思ってたよ」

「当然じゃない。私をそこの口だけの男と一緒にしないでほしいわ」

「本当これだから口まで筋肉でできた男は困るよ」

「テメェら、覚えとけよ」


 時間がないのは事実なので、健吾が襲い掛かってくることはなかった。しかしあの目は、機を見て復讐をしてやろうと考えている目だ。なるべく健吾に対して背中を見せないようにしよう。


 ゴブリンたちと戦った場所からもう少し奥へと入ったところで、俺たちはおとり作戦を実行した。 おとり役を作るのは俺の役目だ。素早く仲間を呼んでほしいので、足への攻撃はなるべく避ける。そしてパーティの中で、一番身のこなしがよさそうなのを選んで攻撃してやった。

 ゴブリンの仲間たちが現れたら、そいつらを素早く倒してまた同じようにおとり役を作る。それを何度も繰り返した。


 作戦は大成功だった。次から次へと現れるゴブリンを倒すことで、岩の迷宮の周回に匹敵するほどの効率を得ることができた。そのおかげで、全員一時間ほどで目標金額までお金が貯まった。

 

 予想以上の成果にウキウキ気分でリスポーン地点である最初の小部屋へと戻る。いよいよ前から楽しみにしていたお買い物タイムだ。いやがおうにもテンションが上がる。


「みんなは何を買うかとかもう決めてるの?」

「俺は両手剣を買うぜ。岩野郎に攻撃が通らなかった時から、一発の火力を重視した武器を買うって決めてたからな」


 意外にも健吾はちゃんと今後のことを考えた武器を選択するようだった。俺たちのパーティでもっとも力があるのは健吾なので、重い武器を装備して一発の攻撃力を出す役は健吾がうってつけだ。

 ロックスライムみたいな防御力の高い敵には、きっと手数よりも一撃の重さの方が重要なはず。そのことを考えた上でのことだろう。


「僕は槍にしようと思っています。運動能力で劣っているのは自覚してますからね。少しでも攻撃機会を稼ぐため、リーチのある武器の方がいいでしょう」


 匠は槍を選択するのか。リーチのおかげであまり近づかずに攻撃できるので、確かに攻撃するチャンスは今よりも増えるだろう。さらにそれだけではなく、敵との距離があるため、攻撃を回避するのだってやりやすいはずだ。自分の能力をしっかりと把握したうえでの選択。頭脳派の匠らしいチョイスだ。


 二人とも戦略を考えた上で武器を決めているんだな。ただ単にかっこいいからという理由で片手剣を買おうとしている俺がバカみたいじゃないか。


「オメーはどのカテゴリの武器を買うんだ?」

「俺は片手剣にしようと思ってるよ」

「その理由は?」

「えーとパーティのバランスを考えて……」

「嘘だな。相変わらず表情が読みやすい奴だぜ」


 くそ、速攻でバレてしまった。しかし付き合いの長い健吾に嘘がバレるのは予想の範囲内だ。


「理由を当ててやろうか? お前このあいだ俺に漫画をおススメしてきたよな。確かその漫画の主人公が片手剣で戦うタイプだったはずだ。大方、漫画の主人公にあこがれて片手剣を選んだとかそんなところだろ」


 な、なんて鋭さだ。ここまで正確に理由まで当てられるとは思ってもみなかった。というか、そこまで俺のことを理解しているなんて……。


「健吾って俺のストーカーか何か?」

「相手を知り己を知れば百選危うからずっていうだろ?」

「それだとまるで俺のことを倒そうとしているみたいじゃないか」

「……」


 否定しろよ。

 ま、まあ健吾もきっと冗談で言ったんだろう。この話はここまでにしておいた方がよさそうだ。


「彩華さんはどの武器を買うかもう決まっているのかな?」

「私はまだ決めてないわ。ほら、私って荒事とは無縁のか弱い女の子でしょ?」

「そ、そうだね」


 か弱い女の子は根絶やしなんて言葉使わないと思う。


「武器を選ぶなんて経験これまでなかったから迷っちゃうわ」

「それならば、メイスなんてどうでしょうか?」

「なんでメイスなの匠?」

「僕たち三人は斬撃属性の武器を買う予定だからです。打撃属性である武器を持っているプレイヤーも一人くらいいた方がバランスがいいかと思いまして」


 そういえば、叩いても全くダメージが通らないスライムが、突きなら大ダメージを与えられるようなゲームだ。パーティメンバーで武器の種類をバラけさせておくというのは、意外と大事かもしれない。


「聞いただろ祐介。これがバランスってやつだ」


 その話はもういいだろ。


「メイスねぇ。祐介はムチの方が好きだったりしない?」

「前も言ったけどそれは匠の嘘だから! むしろムチはもう見たくないよ!」

「祐介君は飽きるほどムチで叩かれているんです。察してください」

「それだと新鮮味がないわね。ムチはやめておくわ」

「そうしてくれるとありがたいよ」


 なんだか微妙に勘違いされているような気もするけど、気のせいであると信じたい。

 そのあと四人でさらに話し合った結果、俺が片手剣、健吾が両手剣、匠が槍、彩華さんがメイスを購入するということに決まった。

 ようやくひのきの棒からの脱出だ。早速新しく装備した片手剣、スチールソードを眺める。うん、かっこいい。買ってよかった。


「早速だが、このままボス部屋にのりこまねぇか?」

「ゴブリンの住処をクリアしようってことか」


 先ほどまでの戦闘にはかなり余裕があった。初期装備でさえ余裕があったんだから、新しい武器を買った今ならもっと楽に戦闘を行えるはず。ボスだって倒せるかもしれない。


「丁度試し切りがしたいと思っていたんだ。時間もまだあるし、行ってみよう」


 リスポーン地点兼スタート地点である小部屋から出た俺たちは、ボス部屋を目指して歩き出した。

 途中ゴブリンのパーティが何度も襲い掛かってきたけど、パワーアップした俺たちの敵ではない。スチールソードの一振りで倒せるので、サクサク進むことができる。

 一時間ほど探索を続けた結果、俺たちはボス部屋の扉を発見した。


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