第十五話 ゴブリンの住処
学校の授業は相変わらずつまらないけど、今日もちゃんと聞いている。眠気が頻繁に襲ってくるが、眠気に負ける心配はない。体に刻み付けられた恐怖が俺に声をかけてくるからだ。お前、真面目に勉強しないとどうなってもしらないぞ、と。
そんなこんなで昼休みになったので、俺たちは部室へと勝手に侵入して弁当を広げる。教室には人の爆発を心から願う危険人物がいるのでできるだけ距離を取りたい。お昼ご飯くらい、ゆっくりと食べたいものである。
「それで、昨日言ってた考えってのをそろそろ聞かせてくれない?」
弁当を食べながら、俺は昨日から気になっていたことを匠へと質問する。
匠は昨日、いい方法があると言っていた。金策がうまくいくかどうかは、試練の塔攻略に大きく影響することなので、どんな話なのか非常に気になる。
「わかりました、話しましょう。それではまず、岩の迷宮の効率が落ちた原因から話します」
「ドロップが落ちにくくなったのって、単に運が悪かっただけじゃないの?」
なんらかの原因があって効率が落ちたのだとしたら、今日同じように周回しても全然お金を稼げないということになる。それは非常にまずい。
「運が原因ではありません。前に掲示板で見たのですが、同じダンジョンを何度も連続で攻略するとドロップにマイナス補正がかかるらしいのです。昨日アイテムが落ちなかったのは、これが原因でしょう」
「そんな仕様があるのか。けど一体何のために?」
「運営としては色々なダンジョンを攻略してほしいのでこのような設定を入れた、という噂です」
せっかく作ったゲームなのだからいろいろなところに行ってほしいという気持ちはわかる。けど、急いでいる今の状況では迷惑極まりない仕様だ。大体、色々なところに行ってほしいのなら、制限時間内に試練の塔を攻略しろとかいうのはなしにしてほしい。
「掲示板で一つ思い出しました。最近一つの論争が話題になっているのですが……。いえ、やはり今は話すときじゃありませんね。聞かなかったことにしてください」
「なんだよ気になるな。健吾は何か知ってる?」
「俺は最近掲示板見てねぇわ。そんな時間あるなら狩りだよ狩り。俺らには時間がねぇってことわかってんのか?」
「そんなのわかってるよ」
「じゃあ話を戻そうぜ。匠、早く金策のアイディアについて話してくれ」
そうだ、金策の話を聞かないと。俺たちには達成しなければいけない目標がある。今はそのことを一番に考えるべきだ。
「それでは結論から言います。僕としては、ゴブリンの住処へと行くのが現状最も稼げるのではないかと考えています」
「ゴブリンの住処だって?」
ゴブリンの住処といえば、前に調子に乗って挑んだ結果、速攻で囲まれて速攻で袋叩きにされてしまったダンジョンだ。
名前の通りゴブリンしか出ないダンジョンで、ゴブリン自体は大した強さじゃない。ただし、アイツらは常に三匹から四匹のパーティで行動している。これが非常に厄介だ。
一匹一匹は大したことなくても常に集団で取り囲んでくるし、アイツらは数が減ると仲間を呼ぶ。倒すのにもたつくと、ドンドンと増えて、ガンガン袋叩きにされる。俺の中でやってられないダンジョンナンバーワンだ。
「それって大丈夫かな。今の俺たちで攻略できるか心配なんだが」
「僕の計算ではなんとかなるはずです。最悪でも、ボコボコにされてリスポーン地点に戻されるだけで済むでしょう」
「それなんとかなってないよね? 普通にボコられて死んでるだけだろ?」
「一度戦ってみましょう。そうすればハッキリします」
つまり今の時点でははっきりしてないってことじゃないか。不安しかない。
「話を続けます。僕がゴブリンの住処に目を付けた理由、それはモンスターとの遭遇率です」
「遭遇率? 確かにあそこはものすごい数のゴブリンがいたな」
「ええ。単純にお金を稼ぐなら、モンスターがたくさん出てきた方がいいでしょう? 常に集団で行動をしていて、しかも仲間まで呼ぶゴブリンたちは金策にピッタリだと言えます」
行ける……、だろうか? 正直不安しかないものの、匠の表情には自信がみなぎっている。不安材料は多いけど、匠の話を聞く限りうまくいけばかなり稼げそうでもある。
代替案があるわけじゃないし、それに失敗したところでデメリットも少ないからやってみるのもアリかもしれない。
「それじゃあ早速今日の放課後行ってみるか。場所はまた俺の家でいい?」
「僕と健吾はかまいませんよ。……彩華さんはどうですか?」
「いいに決まってるでしょ。というか私に話を振る前の不自然な間は何よ?」
「深い意味はありません。昨日ちょっと様子がおかしかったような気がしたのでね」
そういえば昨日の彩華さんは若干表情が硬かったよう気がするし、口数も少なかったような。何か嫌なことでもあったのだろうか?
「部屋の汚さに対して嫌悪感を感じているなら遠慮なく言ってください。僕はそういった指摘は気にしないタイプなので」
「俺が気にするよ!」
そりゃいくら汚いと言われたところで匠は気にしないだろ! だって俺の部屋なんだから。
まったく、人の部屋を堂々と汚いと言い放つとはなんて奴だ。しかし散らかっているのは本当のことなので、これ以上のことは何も言えない。
丁度放課後の予定が大体決まったところで昼休みの終了を告げるチャイムがなったので、俺たちは教室へと戻って授業を受けた。
そして学校が終わったあとは、予定通り俺の家へと集まりゲームを開始する。
ゴブリンの迷宮へと入った俺たちは、ゆっくりと入口の扉を開けてダンジョン内へと入り込む。
一度やられたダンジョンだ。なるべく慎重に進むべきだろう。
このゲームはデスペナルティは特にないけど、やっぱり死ぬのは嫌だ。死なないためには何か策を講じる必要があるだろう。……よし、いざとなったら健吾をおとりにして逃げよう。これしかない。
「……っ……ス」
ん? なんだろう。どこからともなく謎の声が。
「……切っ……ら……ス」
声が小さくていまいちよく聞こえない。確か健吾がいるあたりから聞こえて来たよな? そっちの方向にもっと耳を澄ましてみよう。
「裏切ったらコロス」
随分と危険で心がこもった健吾の独り言だった。これはマジでヤバいかもしれない。
しかしその程度のことで行動をやめる俺ではない。俺は有言実行の男。必ず健吾を見捨てて見せる。
ブォン! 俺の目の前を健吾のひのきの棒が通り過ぎていった。
「危ないだろ!」
「気にすんな、ただの素振りだ」
絶対に嘘だ。そう思ったけど、それを言う勇気は俺にはなかった。
そうだ、そもそも健吾をおとりにするような展開にならなければいいだけじゃないか。
現れたゴブリンを一匹残らずボコボコにしてやる。俺はそう心に誓った。
ゴブリンの迷宮の作りは、岩の迷宮よりも始まりの迷宮に近い作りだ。通路はあまり広くなく、岩でできた洞窟という点も変わらない。ただし、始まりの迷宮よりも入り組んだ作りになっているので、迷わないように気を付ける必要がある。
音を立てないように気を付けながら歩いていると、正面の通路から複数の足音が聞こえてきた。足音は三つ、いや四つかな? ゴブリンのパーティが一つ、こちらへと近づいてくるようだ。




