第十四話 勉強会
明日は彩華さんが俺の部屋に来る。だから今のうちに部屋を片付けてしまわないと。
俺の部屋には漫画、ゲームの箱、ゲーム機本体、ゲーム雑誌や攻略本その他が縦横無尽に散らばりまくっている。この部屋に女の子を呼ぶなんて、とてもできない。
まずは漫画から片付けよう。そう思って近くにあった漫画を一冊手に取る。そしておもむろにページを開き内容を確認する。そのまま隣のベッドに横になり、漫画を読みふける。
気が付くと十冊も読んでしまっていた。そして当初の目的を忘れてそのまま寝てしまった。
朝起きて当初の目的を思い出した俺が思いっきり後悔したのは言うまでもない。
勉強とか部屋の片づけとか、やりたくないことをやろうとしているときに限って漫画を読み始めてしまうのはなぜだろう。
時計を見ると遅刻ギリギリの時間だったので、急いで家を出て学校へと向かう。
学校ではいつも以上に真面目に授業を受けた。テストで五十点以上をとらなければいけないので、時間を無駄にすることはできない。
「行くぞ祐介」
真面目に授業を聞いていたからか、いつもの二倍くらい早く授業が終わった気がした。とうとうこの時が来たか。
声をかけてきた健吾に続き廊下へと出ると、匠と彩華さんが待っていた。
「祐介の家ってどんな感じなのかしら」
「普通だよ、普通。そうだよね?」
「そうだな、よくある一軒家って感じだ」
「斉藤も森原もよく遊びに行くの?」
「中学の頃はよく集まっていましたよ。高校に入ってからは部室という新しいたまり場がみつかったので、そこまで行かなくなりましたが」
三人の中で中学校から一番近かったのが俺の家だったので、集まるときは大体俺の家だった。今となっては懐かしい思い出だ。
中学生の時の話を彩華さんに話していると、ついに自宅へと到着した。部屋に入ったらなぜか散らかった部屋が片付いているとか、そんな奇跡が起きないかな。
「オメー部屋が散らかってること気にしてんだろ?」
「よくわかったね健吾」
「俺は気にしねぇから気を使わなくていいぞ」
「いや健吾に気を使ってるわけじゃなくて。ちょっと部屋片付けてきていい?」
「「お邪魔しまーす」」
「人の話聞けよ」
健吾と匠は勝手知ったる我が家といった感じで、自然体で俺の家へと上がり込んでいった。
「俺たちも行こうか」
「そ、そうね」
「どうしたの彩華さん、表情が硬いみたいだけど」
「なんでもないわ」
彩華さんが玄関へ向かって歩き出したので、俺も家へと入る。二階にある俺の部屋に行くと、健吾と匠がその辺に寝っ転がりながら早速漫画を読んでいた。いくらなんでもくつろぎすぎだろ、こいつら。
「さっすが祐介んちだぜ。読みてー漫画がそろってるやがる」
「相変わらずの部屋で安心しました」
「俺たちは大事な目的があって集まったんだよな? 漫画を読んでる場合じゃないだろ」
昨日のうちに準備しておいた机に勉強道具を置く。それを見た健吾たちもしぶしぶといった感じでノートや教科書を広げていく。
「ところで祐介、実は俺あと少しで武器を買う金が貯まりそうなんだが」
「それがどうかしたのか?」
「ちょっとだけゲームをやってから勉強しないか?」
これは悪魔のささやきだ。コイツの言葉に耳を傾けると、未来には悪夢のような拷問、もとい説教が待っている。
「勉強しないとやばいだろ。死にたいのか健吾?」
「よく考えたらまだ時間はあると思ってよ。少しくらいなら大丈夫だって。一時間だけ、一時間だけやろう」
一時間だけ。その言葉に心が傾きかけるが気力で欲を抑え込む。耐えろ、耐えるんだ俺。
「実は僕もあと少しで装備が買えそうなんですが」
「私もよ。早く新しい武器を装備してみたいわ」
「少しだけやろうぜ。なんとかなるってきっと」
ぐおおおおダメだ我慢しろ俺、なんのために集まったんだ。勉強するぞ、勉強するぞ、勉強するぞ……。
・・・
・・
・
「うおっし! まず一つ目ゲット!」
「残念ながら僕は手に入りませんでした」
「次こそは私の番よ!」
光になって消滅していくロックスライムを眺めながら、スマートフォンをタップしてドロップを確認する。俺も匠たち同様、ボーナスドロップを手に入れられなかった。次は必ずゲットしてやる。
……いやいやちょっと待て、何のんびりとゲームをやっているんだ。こんなことしてる場合じゃないだろ。いつの間にか欲に負け、流されるままにゲームをしてしまっていたがこれじゃいけない。今ここでログアウトするんだ。勉強するぞ。
「何ボケっとしてやがる祐介! さっさと次行くぞ!」
「おう! 今行く」
あと一周したらログアウトしよう。一周くらいなら、大して時間がかからないから大丈夫。きっと大丈夫だ。
◇
「今日はドロップがあまりよくありませんね」
「本当にそうよね。どうしちゃったのかしら。私まだ一つしかゲットしてないわよ」
いつもなら大体五割くらいの確率でドロップするはずなのだが、今日は体感で二割といったとこだろうか。ドロップが渋いせいで金策が全くはかどらない。
……待て、ちょっと待て。俺は何を言っているんだ。金策がはかどらない? 体感二割? そんなこと考えている場合じゃない。欲の波に身をゆだね、流されに流され続けて気が付けば何週もしてしまった。
「なあみんな、そろそろ勉強しないか?」
「あら祐介、このまま大した成果もないまま終わるっていうの?」
「祐介らしくありませんね。石にかじりついてでもゲームをする。それが祐介でしょう?」
「いやだって今日は勉強するために集まったんだろ? 勉強しないとあとでひどいことになるのは目に見えてるよね?」
成績を落とすだけならともかく、そのまま命まで落とすことになる展開は避けたいところだ。もっとも、落とすほどの成績があるのかと言われたらかなり微妙なのだが。
「ったくこれだから祐介は。俺たちの目標を言ってみろ」
俺たちの目標? なんで今更そんなわかりきったことを聞くんだろう。
「家庭訪問を回避するため、テストで平均五十点以上をとること」
「それから?」
「アプリの消滅を避けるため、試練の塔の攻略」
「そうだ、その二つを同時に達成しなければならない。同時にってのがポイントだ。両方の達成を目指すのなら、別にゲームから先にやろうが問題ないだろ?」
少し考えてみたが、健吾は間違ったことは言っていないと思う。ということは、今思いっきりゲームをやってもいいってことか?
「でもなんか不安なんだけど」
「そうだな、ぶっちゃけ俺も説教のことを考えると足が震えるぜ。だからとりあえず、試練の塔に行けるようになるまで進めるってのはどうだ?」
試練の塔は、ゴブリンの住処をクリアすれば行けるようになったはず。前はボコボコにされてしまったけど、新しい武器を手に入れて、四人で挑めばなんとかなる……と思いたい。
「いい考えだと思うけど、問題は装備を買うお金だよな。今日は効率悪くて思うように貯まらなかったし」
「そのことに関しては僕に考えがあります。今日はもういい時間なので、明日学校ででも話しましょう」
「あらもうそんな時間? お先に失礼するわね」
ゲームに夢中になっているあいだにかなりの時間が経過していたみたいだ。完全に欲にボロ負けしていた。こんな調子で本当に大丈夫かな。
不安な気持ちを打ち消すように、その日の夜は勉強に打ち込んだ。
それを見た父さんと母さんが、救急車を呼んだほうがいいだろうかということを話し合い始めやがった。しかも、俺の部屋で。
冗談で言っているのかと思って無視していたら、数分後に本当に救急車が来てしまった。
俺は窓から逃げ出した。




