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バーチャルダンジョン攻略部!  作者: 夏畑スイカ
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第十二話 周回プレイ

「おはよう……」

「なんだよ祐介その顔。元々ヒデェ顔が再起不能になってやがるぞ。ゾンビが歩いてきたのかと思ったくらいだ」

「そういう健吾だって、悪鬼がとりついたみたいな顔してるじゃないか」

「気合入れてなきゃ寝ちまいそうなんだよ」

「やっぱり健吾もか」

「てことは、オメーも?」


 自覚がある。今日の俺の顔は朝から酷いものだ。理由は、単純に眠いから。睡眠時間を削るどころか、昨日は徹夜で岩の迷宮にこもってしまった。最近あまり寝ていなかったので、今日は朝から眠気が津波となって押し寄せてきている。


 教室に入ると、すでに匠が登校していた。俺たちほどの変化があるわけじゃないけど、その表情はどこか眠たげだ。


「おはようございます、二人とも。その顔だと、お二人も徹夜したようですね」

「おはよう。もしかして、匠も?」

「つい熱が入ってしまいまして」


 少し話しただけでホームルーム開始のチャイムがなった。どうやら遅刻ギリギリだったらしい。そんなことにも気が付かないほど、今の俺は眠い。

 自分の席へと向かう途中、机で突っ伏して寝ている彩華さんが目に入った。彩華さんも俺たちと同じく寝不足なのかもしれない。

 腕が邪魔で寝顔が見れなかったことを残念に思いながら自分の席へと座る。


 俺も彩華さんを見習って、授業が始まるまでちょっとだけ寝よう。机に額をくっつけながら目を瞑る。

 チャイムの音が聞こえたので目を覚まし体を起こすと、なんと昼休みへと突入してしまっていた。やっちまった。

 記憶をたどると、何回か先生に起こされた記憶はある。しかし、眠気には全戦全敗で今に至る。


「祐介、昼飯食いに行こうぜ!」


 元気いっぱいの健吾が俺を昼飯へと誘ってくる。コイツ、絶対授業中に爆睡してただろ。なぜわかるかというと、俺と同じで元気がみなぎってきているからだ。


「彩華さんと匠は?」

「オメーがなかなか起きねぇから先に部室行ってもらったぞ。それとも二階堂に起こしてほしかったか?」

「何を言ってるんだ健吾。俺と彩華さんはそんな仲じゃないから」

 

 弁当を手に持ち、教室を出る健吾を追いかける。

 本音を言うと少し、ほんの少しだけ彩華さんに起こされたいと思った。けどやっぱりそれは恥ずかしい。特に、みんなが見ている教室だと。


 部室には匠と彩華さんが座って待っていてくれた。先に食べ始めてても全然よかったんだけどな。


「来たわね! それじゃ、食べ始めましょ」


 みんなで弁当を食べながら、午後の予定を相談する。


「今日の午後はどうしますか? さすがに二日連続となると、目をつけられるのではないでしょうか」

「そうね。体調不良ももう使えないわ」


 二日連続で体調不良ってのはさすがに不自然すぎる。二人の言い分ももっともだ。俺も普段ならサボることはしなかっただろう。普段なら。


「ふっふっふ、みんな今日の五、六限の科目を忘れてるんじゃない?」

「五、六限と言いますと、日本史と世界史……そういうことですか」

「山じいと川じいの授業だったわね!」


 日本史と世界史の先生は、あまりにもやる気のない先生として他の学年にまで名をはせている有名な先生だ。授業が始まったときに席についていれば、あとはトイレに行ってようが保健室に行ってようが出席扱いにしてくれる。さらに寝てても注意一つしないというやる気のなさ。それどころか、先生自身がたまに昼寝している。通称セーフティG2。GはジジイのGだ。


「起こされる心配はないから、堂々と教室でログインしよう」

「大胆なことを考えるじゃねぇか。だが、悪くねぇ」

「僕もやりましょう。大いなる目的のためには、多少の勉学の遅れなど大したことではありません」

「私も賛成よ。今まで真面目にやってたんだから、ちょっとくらいサボったって罰はあたらないわ」


 自分で提案しておいてなんだけど、全員乗ってくるとは正直予想外だった。匠も彩華さんも真面目な性格だから、連続で授業をサボってまで攻略を進めようとはしないんじゃないかと思っていた。乗ってくるとしたら、健吾くらいだろうと考えていた。


「四人全員でやるなら、せっかくだし競い合わねぇか?」

「競うい合うって、何を?」

「チームを二つに分けて、どっちのチームがより多くボーナスドロップを手に入れられるかをだよ。周回プレイなんて、ダラダラやってても詰つまんねーだけだろ?」


 それは確かにそうだ。昨日の夜やりまくったからわかる。同じことの繰り返しはやっぱり飽きるしめんどくさい。匠と彩華さんも俺と同じ考えなのか、健吾の提案に乗り気だ。


「全員賛成のようだな。それじゃチーム分けだが、俺は匠と組む。祐介は二階堂とだ。それでいいな?」

「僕はいいですよ」

「私もそれでいいわ」

「決まりみてぇだな」

「俺の意見は聞かないのかよ」

「オメーはどうせ反対なんかしねぇだろ」


 話がまとまったところで、丁度昼休憩の終わりを示すチャイムが鳴り始めた。弁当を片付け、教室へと戻る。その途中、健吾がこっそり近づいてきて俺へと周りに聞こえないような小声で話しかけてきた。


「せっかくお膳立てしてやったんだ。うまくやれよ」


 そう言って、ぐっと親指を立てる。


「う、うううまくって、ななな何を言ってるんだ」


 健吾は何も言わず、教室へと入っていく。あいつめ、相変わらずカンのいいやつだ。


 教室でゲームへとログインした俺と彩華さんは、ひたすら黙々と周回プレイを重ねていく。

 四人でいるときは問題なくしゃべることができたけど、彩華さんと二人になったとたん何を話せばいいのかわからなくなった。せめて電話越しなら、少しは話せるかもしれないのに。


 彩華さんの方も、ゲームに集中しているのか特に話しかけてくることはなかった。

 話しかけられてもうまく答える自身がなかったから、ありがたいことだった。

 そんな調子で大した会話もなく、六限目の授業が終了する時間になってしまう。


 ゲームからログアウトしてしばらくすると、教室には担任の一之瀬先生がやってきた。気のせいか、俺のことをにらんでいるような。いや気のせいだ。にらまれるようなことなんてしてないのだから。


 ホームルームが終わったあと、一之瀬先生は俺の方へと来ようとしていたみたいだけど、怒り心頭といった表情の教頭先生に捕まってどこかへ連れていかれてしまった。原因はどう考えても職員会議で居眠りしてたことだろう。南無。


 部室に着いた俺たちは、さっきと同じチーム分けでひたすら岩の迷宮に潜る。

 ずっと無言ってわけにもいかない。何かしゃべらないと。けど、何をしゃべろう。やっぱりここは、前々から気になっていたことを聞いてみるか。


「ねえ彩華さん、ちょっといい?」

「……何かしら?」

「彩華さんは教室では誰ともしゃべらないのに、どうして俺たちには普通に話しかけてくれるの?」

「前にも言ったでしょ。見どころがあるからよ」

「俺たちにそんなものあるかな」

「あるわよ。三か月くらい前のことだったかしら。祐介、西高のヤンキーグループに殴られてたわよね」


 ……見られていたのか。三か月前、確かに俺は西高のヤンキーたちと喧嘩した。喧嘩というか、一方的にボコボコにされたわけだが。このことが見どころの理由となると、やっぱり彩華さんはそういう喧嘩みたいな荒っぽいのが好きなのだろうか。


「彩華さんって喧嘩が好きなの? それとも人が殴られるのを見るのが好きなの?」

「違うわよ。アンタ私のことどんな目で見てるのよ?」

「冗談だよ、冗談」

「本当かしら」


 ジトッとした視線で睨まれ、ついふっと目をそらす。ごめんなさい、本当はそういう目で見てました。


「まあいいわ。三か月前、アンタはヤンキーに囲まれた健吾を助けるために西高のヤンキーに殴りかかったわよね」


 そこから見てたのか。恥ずかしいところを見られてしまったものだ。


「勝てるような人数差じゃないのに、自分の身を顧みず行動する姿がとても素敵だと思ったの。それと同時に、うらやましいとも思ったわ」

「うらやましい?」

「ええ、私にはそんな友達いなかったから。祐介たちみたいな、常に本音でぶつかり合える関係がうらやましかったわ」

「ただ単に言いたいことをそのまま垂れ流してるだけだよ」

「それがうらやましいって言ってるのよ。……そんな風に言い合っても関係が崩れないのがね」


 俺と健吾と匠の関係は昔からこんな感じなので、そう言われてもあまりピンとこない。友達ってみんなそんなもんじゃないか、というのが正直な感想だ。

 しかしうらやましいと言った、その時の彩華さんの表情は俺の心へとクるものがあった。

 意味合いはちょっと違うとはいえ、女の子から憧れの表情で見られたのなんて、三次元の世界では初めてだ。

 たったそれだけで、俺は彩華さんのことを直視できなくなってしまった。

 何か、話題を変えよう。


「そういえばそろそろ門限の時間だよね? ログアウトしようか」

「もう一周行きましょう。斉藤たちとの勝負には負けられないわ」

「でもそれだと遅くなってしまうよ」

「いいわよ少しくらい門限に遅れたって。お父様は心配しすぎなのよ」


 彩華さんがどうしてももう一周行きたいと言うので、俺たちはもう一度ボス部屋への道を走る。


「それに、今はせっかく二人きりなんだから」

「何か言った? 彩華さん」


 グリーンスライムの突進をよけるタイミングだったので、会話を聞きのがしてしまった。なんて言ったんだろう。


「なんでもないわ」


 最後の一周は、今まで無言だったのが嘘のように会話が弾んだ。とても楽しい時間だった。

 ボスを倒し、とてもいい気分でログアウトして現実世界へと戻る。


 あの二人はもう戻ってきてるだろうか。

 部室を見回すと、いた。二人とも戻ってきている。しかし、部室にいたのはその二人だけではなかった。

 怒りに満ちた、般若のような顔をした一之瀬先生が部室で待ち構えていたのだ。

 

「ようやくログアウトしましたね。平田くん、二階堂さん」


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