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バーチャルダンジョン攻略部!  作者: 夏畑スイカ
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第十話 タイムアタック

 ボーっとしながらゲームのことを考えていると、気が付くと授業は終わっていた。

 彩華さんと、それから健吾と匠にも声をかけて部室へと向かう。食べ終わったらゲームをすることを考えると、部室が一番都合がいい。

 部室に到着すると健吾が真っ先に弁当を広げ、そしていただきますも何も言わずいきなり弁当を口の中へとかき込み始めた。

 よほど腹が減っていたのだろう。

 実際に体を動かすわけじゃないけど、パンドラの迷宮で冒険すると本当に運動したかのような感覚が体に残る。だからか知らないが、運動した時のように腹が減るのだ。

 つまりサボって二時間ゲームをやっていた俺も、健吾と同じように腹が減っている。


 部室の椅子へと腰かけ、弁当を広げて食べ始める。俺の右隣の席には彩華さんが座り弁当を食べ始めた。

 ちらっと横目で彩華さんの方を見ると、彩華さんは女の子らしいかわいいお弁当をチマチマと口に運んでいる。

 良かった、普通のお弁当だ。見た目と性格にギャップがある彩華さんのことだから、もしかしたら野球部の男が食べるような量をガツガツと食べ始めるのではないかと恐れていたけど、ただの杞憂だったようだ。


「何かしらジロジロと私の方を見て。私の顔に何かついているのかしら?」

「なんでもないよ。女の子らしいかわいいお弁当だなって思っただけだよ」

「まるで私が女の子らしくないお弁当を勢いよく食べ始めることを想像してたみたいなセリフね?」


 うっ、なんてカンの鋭さだ。ピンポイントに考えていることを当てられてしまうなんて。あんまり変なことを考えているって思われたくないし、フォローしておかないと。


「そんなことないよ。彩華さんのことだから、きっとお弁当も女の子らしいんだろうなって思ってたさ」

「ふぅん。まあいいわ」


 なんとかやり過ごせたようだ。

 それにしても、彩華さんはなんで俺たちには普通に話してくれるのだろうか。今だって、話しかけてくれたのは彩華さんの方からだ。

 別に特別な会話ってわけじゃない、どこにでもあるような雑談の一つだった。しかし彩華さんが教室でそんなよくあるような雑談をしている姿を俺は一度も見たことがない。

 それなのに、俺たちにはこうやって普通に話してくれる。前に聞いたときは見どころがどうのこうのって言ってたけど、本当にそれが理由なのか気になるところだ。

 女の子から話しかけられる理由か。これまでの人生経験を生かして少し深く考えてみよう。


 まずパッと思いついたのは、罰ゲームかな? クラス一のバカどもとしゃべってこいという罰ゲームだ。

 しかし思いついておいてなんだがこれはないだろう。確信をもって言える。

 その理由は、彩華さんに罰ゲームを出す相手がいないからだ。誰ともしゃべっていないのだから、罰ゲームを出す相手がまずいない。


 次は、そうだな。怪しげな団体に追われているから、いざという時の身代わりのために近づいてきたとか。

 これはちょっとあるかもしれない。

 前に健吾に怪しい宗教団体相手に身代わりにされかけたからな。彩華さんがそういう状況なのだとしたら、もしかしたらそういう可能性もあるかも。


 三つめは、美人局とか?

 仲良くなった時を見計らって、怖い兄ちゃんが登場するとかそんな展開。

 うーん、これも微妙か。そんなに彩華さんはお金に困ってるわけじゃなさそうだし、やる理由がない。

 考えても何もわからなかったが、一つだけハッキリとわかったことがある。それは、俺の人生経験がクソだってことだ。こんな役に立たない人生経験は心の奥底にしまい込んでしまおう。グッバイ過去の俺。

 思ったよりも長く考え込んでいたのか、気が付いたら弁当は空になっていた。

 弁当箱をカバンに片付けると、丁度いいタイミングで健吾から声がかかる。


「そろそろみんな食い終わったころだろうから説明すっぞ」


 腹がいっぱいになり落ち着いた健吾が、匠と彩華さんへと掲示板で得た情報を話していく。


「岩の迷宮ねぇ。どんなアイテムがもらえるのかしら」

「それは書いてなかったみたいだから実際に手に入れてみないとわからない」

「面白そうね。早速やりましょう」

「なんらかの金策が必要だと考えていたところです。やってみる価値はありそうですね」

「それじゃ行くわよ」

「俺や祐介は別にいいけどよ、匠と二階堂は授業をサボってもいいのか? お前らは普段真面目に授業聞いてんだろ」

「まるで俺が真面目に授業を聞いてないみたいな言い方やめてくれない?」

「お前真面目に聞いててあの点数なのか? だとしたら余計ヤバいと思うんだが、そこんとこどうなんだ」

「そういえば全然真面目に聞いてなかったよ。本気出してちゃんと真面目にやればもっと良い点数取れるんだけどね。本気出せば、平均点八十点くらい簡単なんだけどなぁ」

「わかった、わかったから。そういうことにしておいてやるよ」


 ようやく健吾も俺がやればできる男だということを理解してくれたか。テストの平均点は八十点どころか五十点も取ったことないけど、それは今まで本気を出していなかっただけだ。やる気になればそれくらい簡単だろう。俺は自分の可能性を信じている。


「んで、二人は本当にいいのか?」

「大丈夫よ。五限目と六限目の先生には、私と祐介と森原は体調不良で保健室に行くって言ってあるわ」

「準備がいいね彩華さん。だから昼休み、部室に来るのが遅かったんだね」

「おい、俺のことはなんも言ってねぇのか?」

「アンタは釘バットを持って西高がある方向へと走りだして行ったって言ってあるわ」


 西高とは、この辺では有名なヤンキーが集まる高校である。


「テメェそれだと俺が殴り込みをかけたみたいになってるじゃねぇか!」

「リアリティを重視した結果よ」

「俺は殴り込みなんてやったことねぇぞ! リアリティ皆無じゃねぇか。俺も普通に体調不良ってことにしとけよ」

「でも先生はまたですか、しかたないヤツだな。とかなんとか言ってたわよ」

「やったことねぇっつってんだろ!」


 ちなみにこれは本当だ。健吾は殴り込みをかけたことは一度もない。殴り込みは、ね。


「そんなどうでもいいことより、早くゲームしない?」

「それもそうね。時間は有限だわ」

「ようやくですか。時間を無駄にすれば、それだけ試練の塔を攻略できる確率が減ります。そうなると、高校在学中にエロゲーを千作買うという目標が遠のいてしまいます」

 

 それはちょっと買いすぎだと思う。そんなでかすぎる目標があったから、匠は真剣にパンドラの迷宮をやっていたのか。


「待てや、どうでもよくねぇだろ」

「パーティの申請出しておいたよ。それじゃ、行くぞー」


 数秒のカウントのあと、俺は迷宮のスタート地点へと立っていた。

 健吾や匠や彩華さんの姿もある。せっかくサボった時間を無駄にするわけにはいかないので、ダンジョンの説明もそこそこにして扉を開けて中へと歩きだす。


 一度クリアしたダンジョンなので、道に迷うことはないだろう。そもそも一本道なので迷う要素は皆無だ。素早くダンジョン内を移動しながら襲ってきたグリーンスライムを倒し、ダンジョン内を駆け抜けていく。

 しばらく駆け足で進むと大きな石の扉が見えてきた。ボス部屋に続く扉だ。

 さっき見た時と同じように、松明が燃えている。俺の右隣には、これといったダメージを受けていない匠と彩華さん。そして俺の左隣には――。


 グリーンスライムの踏み台へと成り下がった健吾の姿があった。


「クソッ、なんで俺ばっかり襲いやがるあのクソスライムめ」

「普段の行いが悪いからだな。間違いない」

「それだとテメェはもう死んでるだろ」

「現実を見ろよ。踏み台ヤンキー」

「ぐぬぬ」


 意外と言ったら失礼だけど、匠も彩華さんもうまくグリーンスライムの不意打ちをかわしていた。特に匠は運動能力では健吾に大きく負けるのに、岩から飛び出してきたグリーンスライムをひょいひょいっとよけていた。

 その一方で健吾は、まあ言うまでもない。


「ここまで来てようやく確信が持てました。このダンジョンのボスまでの道のりには、明確な攻略法が存在します」

「攻略法だとぉ? そんなもんあるのか?」

「この方法なら、大幅にタイムを短縮できるでしょう」


 そんな方法があるのなら是非聞きたい。一度目の攻略よりも大分早くここまで来れたとはいえ、まだまだ三十分を切るにはほど遠い。ボスの耐久力が異常にあるということを考えれば、できるだけ道中のタイムを縮めておきたいところだ。


「僕なりのグリーンスライムの対処法を教えます。あのスライムは、重量がかなりあります。それは健吾君が体に教え込まれましたね?」

「おう、その通りだ」

「体に教え込まれましたね?」

「なぜ二回言う」

「なんとなくです。それから、あのスライムの移動方法は飛び跳ねての移動です。あの重量の物体が飛び跳ねるわけですから、当然足音がします。正確には足ではないのですが」

「音、だと?」

「そうです。あのスライムは正確に僕たちめがけて跳んできますから、スライムがはねる音が聞こえた瞬間に左右に転がり込めば、回避することができます。スライムが隠れられる大きな岩から距離を取り、一度の跳躍で攻撃を受けないようにするのもポイントです」


 そういうことか。健吾って一緒にFPSゲームをやってる時も全然足音聞いてなかったな、確か。のしかかられるのは当然の結果だったわけだ。

 

「よく気が付いたね匠」

「エロゲーマーなら自然と足音には敏感になるものです。特に家族のものにはね。ですよね祐介君?」


 そこで話を俺に振られても困る。なぜなら、俺は健全な精神が服を着て歩いているような男だからだ。


「祐介ってエロゲーマーだったの?」

「俺はエロゲーなんてしたこと、あんまりない」

「あるんだ……」


 あるかないかの二択で答えるのなら、ギリギリきわどいところでしたことがあると言わざるを得ない。しかし健全な男子高校生ならエロゲーをたしなむのは当然だ。隣のクラスの男子も、学校の先生も、その辺のサラリーマンもきっとやってるはず。俺が特別エロいわけではない。そこのところ勘違いしないように。


「匠が回避できてた理由は分かった。祐介と二階堂はなぜ回避できてたんだ?」

「不穏な音が聞こえてた気がしたからかな」

「テメェ何が普段の行いだ! 音に気が付いてたなら一回目の攻略後に言えよ!」

「無意識だったんだ。匠に言われてようやく自覚したんだよ」

「本当かよ!? チッ。二階堂はどうなんだ?」

「私は祐介の後ろをついて行って、祐介が回避行動をとったらそれをすぐに真似してたわ」


 やけに彩華さんの視線を感じると思ったら、そういう理由だったのか。惚れられたのかと危うく勘違いしてしまうところだった。

 

「話を戻します。攻略法その二ですが、僕の予想ではあのスライムの持久力はそんなにありません」

「持久力がないって、すぐに疲れるってこと?」

「そうです。健吾君にのしかかったスライムを見ていると、飛び跳ねる勢いに不意打ちの時ほどの勢いはありません」


 言われてみると、岩陰から飛び出してくるときは素早いけど、のしかかったあとは割とゆっくりとした動きだったような気がする。


「ですから、素早く動けるのは限られた時間だけなんでしょう。ということは、スライムに襲われても相手にせず逃げることが可能です」


 そうか、素早くクリアすることだけが目的なら、いちいち相手にせずに逃げればいいんだ。そうすれば戦闘に使う時間をカットできる。これはすごいぞ。これができればタイムは一気に縮む。


「ナイスだよ匠! やるじゃないか!」

「当然です。今の僕には夢がありますから」


 匠は普段から冴えてるけど、エロが絡んだときは本当に別格だ。匠を見ていると、人間の本能の偉大さ、力強さをまざまざと見せつけられる。エロのパワーはすごい。すべてはこの一言に集約される。


 匠のアイディアのおかげでボス部屋にたどり着く時間は一気に早くなった。

 健吾は運動神経自体はいいので、話を聞いた次の周回からは全く攻撃を受けなくなっていた。何度か周回を繰り返し、最適なルートも発見することができた。しかしタイムは良くなったものの、最大の難関はやはりあの岩のボスだ。


 三十分を切るタイムでボス部屋に到達することはできるようになってきたが、三十分を切るタイムでクリアできたことは一度もない。ボスが硬すぎて、倒すのに時間がかかってしまうからだ。

 気が付くと、彩華さんの門限の時間が迫ってきている。そろそろクリアしてしまいたい。しかしボス攻略の糸口がみつからないまま、時間だけが過ぎていく。


「くたばりやがれぇ!」


 いち早く岩のボスへと追いついた健吾がボスを殴りまくっているけど、効果は薄い。今回は二十分前後の好タイムでボス部屋に突入できたが、ボスとの戦闘で既に二十分は経過している。つまり、ボーナスアイテムのドロップは不可能なタイムだ。


「クソが! かてぇんだよこのクソ岩!」

「何か弱点でもないのかしら」

「あっ、そういえば……」

「何か思いついたの匠!?」

「そういえば、配達先を自宅から変更し忘れたままエロゲーを購入してしまったかもしれません。十九時までに家に帰らなければ、大変なことになってしまいます……!」

「そ、それは大変だね。本当に」

「すみませんが、あと一回周回したら僕は帰らせてもらいます」


 そういう事情なら仕方ない。匠の焦りはよくわかる。痛いほどによくわかる。なぜわかるのかは、トップシークレットなわけだが。


「私もあと一回で帰るわ」

「それじゃ、次がラストかな?」


 丁度、健吾の攻撃がトドメになりボスを倒せたみたいだ。ドロップの確認はする必要がない。ずっとショボいポーションしか手に入っていないからだ。

 数分だけ休憩し、すぐに次の周回へと突入する。これがラストなので、気合を入れていかなければ。


 ボスの部屋へと向かうあいだに何かいい方法がないかを考える。しかし何もひらめかないままボスの部屋へと到着してしまう。考え事をしながらでも余裕をもってたどり着けるくらいにはこのダンジョンに慣れてきた。だけどボスだけは、攻略の糸口すら見つけていない。

 今日だけで何度も繰り返されたボスとの戦闘がまた始まる。


「行くぜオラァ!」

「今回こそ倒すわよ!」


 ボスの突進を回避した健吾と彩華さんが猛然と走っていく。その数歩後ろから俺と匠もボスを目指す。

 攻撃をしながらも考えることはやめない。

 三十分を切るためには、きっと何か方法があるはずだ。それは、ただ力任せに攻撃することじゃないと思う。


「硬いですね。僕のこん棒より硬いかもしれません」

「森原が装備してるのはひのきの棒でしょ?」

「こん棒も装備しているんですよ」


 匠がこっちに視線を送ってくるけど無視だ、無視。俺のほうを見るんじゃない。今は下ネタに付き合っている余裕はないんだから。大体、どう考えても岩のほうが硬いだろ。正面からぶつかり合ったら匠のこん棒はたたき折れるに違いな……い……。


 俺の頭に一つの考えが浮かぶ。もしも、折れなかったら? ボスの突進の速度を逆に利用できたら?

 攻略を開始してから二十八分が経過している。時間から考えて、チャレンジできるのは一回だけだろう。しかしこのまま攻撃し続けてもクリアの可能性は薄い。だとしたら、試してみる価値は十分にある。


「みんな、やってみたいことがあるんだ。一対一でボスと戦わせてくれないか?」


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