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大魔術師ロットの魔法  作者: 記角麒麟
狂った王国と反逆の魔王
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ニヒル

 統一歴四年。三月八日。

 この日が、世界の転換期である事を、この時は未だ、多くの人類は、知る由がなかった。


 アルトリスから戦争が始まった報告を受けた俺は、急いで魔法道具のイメージ図を書き上げていった。


 魔法発動の一番最初の工程である、魔力を練るという行為は、簡単に言えば折り紙で形を作るものと同じ事である。これを専門用語で、変性と呼ぶ。

 俺が扱う創造魔法は、とても複雑な魔法式(喩えるなら、折り紙の折り方みたいなもの)で構成されている。

 基本的に、この変性と呼ばれる作業はイメージで行うもので、その為、魔法によってその事象を固定させるには、常にそれに意識を向けている必要がある。


 先程の折り紙の喩えで言うなら、ずっと抑えて置かなければ形が崩れるような練り方をしているために、魔法に注意力というものが必要となってくるのである。

 例えば煙突とか。


 だが一方で、この創造魔法は手で抑えておかなくても、形が崩れる事はない。その上、それがもとからそこにあったかのように振る舞うために、魔力は物質性を帯びるのである。

 簡単に言えば、紙をテープで留めているみたいなものだ。


 魔力とは、概念生命体が生み出す、基本的に可逆的な性質を示すエネルギーである。

 この世界の人間には、それを操る技能があり、我が祖母であるフローレス・マクトリカは、その技能を助け、魔力を変数として練り込む(入力する)ことで、自動的に魔力を変性させ、魔法を発動させる、宝珠という魔法道具を開発した。


 俺が扱う創造魔法しかり、宝珠が完成する以前の世界では、この魔力を練るという行為を自らの手で行っているのである。


 話を戻そう。


 俺が今高速で脳をフル回転させて書き上げているのは、世界中の人々に、戦争の惨状を放映するための魔法道具の式である。


 普段は頭の中で組み立てるのだが、このようにして紙に『注文』を予め書いておくと、出来上がった後にミスが少なくて済むようになるのだ。


(こんなものでいいか……)


 やはり、多くの人間の目に入る物は、空が一番だろう。

 なら、仕組みは蜃気楼だな。

 

 方法は、創造魔法お得意のスプーキー効果がなんとかしてくれるさ。


 俺は早速それを創り上げると、レイスに命令して、今一番交戦状況が酷い区域へと転移するのだった。




















『愚かですわね、人という生き物は』


 なぜ戦争が起こるのだろう、などという哲学的な思考を頭の片隅で展開していたところで、レイスが口角を吊り上げながら、そう冷ややかに呟いた。


「仕方ない。生き物なんだから」


 特に、こういった中途半端な知性を持った人間だからこそ、こんなにも醜い争いを行うのだ。


 俺は、呆れ顔……というよりも、若干どこから愉しそうなレイスの表情を見上げて、少し肩をすくめる。

 そして、空中に先程創ったカメラ(便宜上そう呼ぶことにする)を数十個ほど展開して、巧い具合に人の心を揺さぶるように映像を収めるように、レイスに指示を出した。


「さて……。そろそろ、中継を始めるとしま――っ!?」


 ――ザーッ。


 不意に、そんな音が俺の脳を駆け巡った。


「ぐぅっ……!?」


 それは、ひどい頭痛を伴って、俺の脳を焼くように締め付ける。


 突然のアクシデントに、俺の注意は霧散し、行使していた人為飛行の魔法がデリートされた。


『……』


 ばさり。

 レイスはそんな状態になった俺を下から受け止めて、無表情にその顔を覗き込んだ。



















 ――ザーッ。


 いつもより酷い、砂嵐の音が、鼓膜を掠めていく。


 同時に、今まで忘れていた記憶の映像が、沸々と蘇り始めていく。

 そして一緒に、それに伴って、感情の断片が、高速的に私の“中”を過ぎって行った。


 気がつくと、いつもの、白い路地裏に、私は佇んでいた。


 何ともなく見渡したその風景は、よく見覚えのある、あの路地裏の景色だ。


 ガラガラと木の車輪が、レンガ道を轢く。

 わーわーと子供たちの声が、広場の噴水に吸い込まれる。


 だけどどの音もくぐもっていて、私の耳には正しく届くことはない。

 水を潜らせた波のように、それはぼやけて霞んで、意味を為さなくなる。


「君は誰?」


 ふと、はっきりとした声音が、私の耳に届いた。

 視界を彷徨わせると、気づけば目の前に自分がいた。


 ……いや、これは自分ではない。

 同時に自分であり、そうでない何か。


 私は彼女を知っているが、忘れてもいる。


「私の名前は……」


 言おうとして、はっと気づく。


(私の名前……何ていうんだっけ?)


「――私は……わからないよ」


 わからないまま、私はニヒルな笑みを浮かべる。

 ニヒルな、というと、少し誤植かもしれないけれど、目の前にいる私ではない私からすれば、それはニヒルなのだろう。


「知ってるよ、そんなこと。だから私は、君の名前を聞こうとしたわけじゃない」


 なら、一体何を聞こうとしたのだろう?

 そんな疑問に、彼女は答える。


「貴女を、貴女たらしめるもの。分かたれた私達が、個としての独立を得られた、その正体よ」


 分かたれた……?


「――そのうち分かるよ。わかったら教えて」


 問に悩んでいると、彼女はそれに被せるようにして、そう言い放った。

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