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大魔術師ロットの魔法  作者: 記角麒麟
狂った王国と反逆の魔王
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作戦失敗初日(2)

 治部省から派遣された、アブルを筆頭とする工作部隊が一つ、チーム『夜鴉よがらす』。

 メンバーはディフェンダーにウィリアム、アタッカーにリーシャ、サポーターにアルカードという形で構成されている。


 彼らの目的は、評議会連邦内部に潜入し、速やかに敵の大将、及び武器庫を破壊することであった。


 しかし、先日。

 敵の観測官に、連邦を囲うように配置されていた量子ポータルの存在が気づかれてしまったため、作戦が漏洩。


 連邦外周区で、量子ポータルを護るギト調停国側と、侵略を未然に防ごうと図る評議会連邦側との間で、小規模ながら戦争が始まっていた。


 その戦争はだんだんと大きくなり、ついにはポータルの数カ所が破壊される事となってしまったギトは、内部に潜入させていた『夜鴉』以下数パーティに、作戦の結構日時を早める通達を行った。


 だが、何を間違えたのか、その情報は連邦側に漏洩。


 工作員の居場所が特定され、前話の冒頭に帰結した。


 連邦の公安に所属している特務警察が、夜鴉の隠れ家に押し寄せてきたとき、赤目のビルは酔っ払っていた。


 ……が。


「先に行け。俺が……っく……。足止めしといてやるからさぁ……?っく……」


 ウィリアムはワインボトルを片手に、椅子に座りながら振り返らずに手を振る。


 そんな様子で大丈夫か?

 そう思ったアルカードだったが、確かにこの様子では逃げるのに足手まといだ。

 道連れになるくらいなら、ここに置いていったほうがいい。


 そう冷静に判断した彼は、悔しそうにしているリーシャを無理矢理に脇に抱えて、地下に掘ってあった隠し通路から、外へと逃れるのであった。


 暫くすると、コンコンコンと扉をノックする音が聞こえてきた。


(そろそろか……)


「っく……」


 しゃっくりを一つ、彼は席を立ち上がると、壁に立てかけてあった、黒い大剣を取りに向かった。


「どなたですかぁ〜?」


 大剣を杖のようにして床に突き立てながら、彼は扉の向こうに向かって呼びかけた。


「速達便でーす。荷物の受け渡しに参りましたー」


 扉の向こうから聞こえてきたのは、一人の男の声。


「荷物ならそこ置いといてくれるかなぁ〜?」


「印鑑をお願いしたいんですけどもー」


「はいはーい……っく……」


 ウィリアムは魔力反射の法を発動させると、扉の向こうを覗いた。

 するとそこには案の定、おおよそ配達員と言うには物騒な身なりの人たちが、こちらに銃口を向けて待ち構えていた。


(しゃーねぇ人達だなぁ……)


 彼はため息をつくと、宝珠が取り付けられた指輪を嵌めて、扉の向こう側へと向ける。


「アイシクル・エリア」


 練り込まれた魔力が精霊に呼応し、指定された範囲の熱量が急激に下がってゆく。


 扉の外では、異変に気がついた特務警察が騒ぎ始め……暫くすると、その声は止んだ。


 彼の目の前には、先程の冷気で凍りついた扉が、静かに佇んでいた。


 窓から外を覗くと、そこには案の定、氷漬けにされた数体の彫像が転がっていた。


「ったく。断熱結界くらい用意しとけっての」


 魔力の活性化のおかげか、急速に酔いが覚めた脳みそで、あらゆる可能性を模索してその中で最も可能性が高いものなどを考察しながら、慎重に計画を立て、行動に移す。


 彼は魔法の技量はさほど高くはない。

 魔法の技量は、魔法の効果が及ぶ範囲と、魔力の強さ、思考速度の速さなどで算出されるものだが、あいにく彼は、効果範囲が狭い。


 魔力反射の法を用いて透視できるのも、おおよそ十メートルが限度である。


 その範囲を超えたところに、もし援軍とやらがいれば……。


 そのようなことを考えるなら、先ずはどうすべきか。


 彼はディフェンダーである。パーティメンバーを守りながら、ダメージを最小限に抑えるように立ち回り、攻撃を率先して受ける立場にいる。

 そんな彼には、一つの特技がある。


 それは、イルカやコウモリといったものが使う“反響定位エコーロケーション”である。


「ふぅ……」


 赤目のビルは、目を瞑る。

 意識を耳に集中し、神経を研ぎ澄ます。


 ……この足音は、リーシャとアルか。

 そしてその後ろに四人の追跡者チェイサー……。


(見つかってたか……)


 隠れ家の前には十人程度の彫像……。

 持っているのはドラグフォンと拳銃。

 弾は、殺傷能力は低いが、対魔術師用のものではないな。ゲリラ戦とかで使う、相手を殺傷せず、負傷させることが目的のものだ。

 あとはスタングレネードが数ダース。


 向かいの民家にスナイパー。

 その隣にもいる。

 こちらも弾の種類は同じか。

 あと、小隊が三組ほど、同じ屋根の下に潜んでるな……。


 家の裏にも、小隊が一組か……。

 武器は……宝珠とナイフ……。


「これ、俺一人でやるの?」


 思わずつぶやいた言葉に、溜め息が出る。


 しかたない、やるしかない。


 ウィリアム・マーキュライトはスッと目を開くと、その大剣を下段に構えて、トンとその剣の柄を叩いた。


雲耀磊落うんようらいらく


 刹那。

 爆音とも取れる轟音が、辺一面を轟かせた。



















 轟音とともに、街の一角が土煙によって消し飛ばされる画を眺めながら、彼はキセルを口から離す。


「ヒュー♪やるねぇ。ウチに一人ほしいくらいだよ」


 評議会連邦、アイェーヴォ区上空。

 そこには、幼い二人のメイドを侍らせる、少年吸血鬼の姿がそこにあった。


 彼は、白髪混じりの黒髪を靡かせて、口笛を吹きながら、そんな賞賛を口にする。


「にしても、彼何者?種族は?まさか人間じゃないよね?ね、ハトリ?」


「さあ?私には解りかねますわ」


 背中に生えた鳥の羽に込められた魔力を使ってホバリングしながら、彼女は首を横に振る。


「もし人間なら、“本”、絶対持ってるよね?間違いないよね?」


「そうですわね。持っているとしたら、“力の書”が妥当ではないかしら?」


「いや、“剣の書”かもよ?ハトリは『鳥瞰図』で、彼が大剣を構えたのを見たんでしょ?なら、こっちのが可能性が高い」


「……かも、しれませんわね」


 彼女は、そんなウキウキした様子の吸血鬼の少年を見ながら、心の中で呆れたような溜め息を放つ。


(はぁ……。どうして彼は、ここまで元気なのでしょうね……?)


 ハトリは肩を竦めると、再び恩恵ギフトを発動させるべく目を瞑るのだった。

 次回、ニヒル


 魔法紹介。


 アイシクル・エリア:周囲の気温を急激に下げ、差分の熱エネルギーを運動エネルギーに変換させる魔法。中等魔法に分類。

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