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大魔術師ロットの魔法  作者: 記角麒麟
狂った王国と反逆の魔王
79/82

作戦失敗初日

 評議会連邦――――。


「糞ッ!ビルの奴、あれほど酒は程々にしとけっつったのに!!」


「リーシャ、後の祭りだ。先ずは逃げることを優先しろ」


「わーってるわーってる……!っぶねっ!?」


 一筋の陽炎が、リーシャの染めた銀髪を掠って、常冬の街道に散っていく。


「糞ッ!」


 リーシャはそろそろ逃げるのも難しくなる頃だろうと踏んで、ブレイクの魔法を避けると同時に、道脇に転がっている木箱の後ろへと隠れた。

 合わせて、共に逃げてきた黒髪長髪の男性――アルカードも、反対側の路地裏につながる角へと身を隠す。


(リーシャ、弾はあといくつだ?)


(あと八発しかねぇ……。アルは?)


(あと十二発だ)


 項に装着した念話機を通して、互いの状況を把握する。


(げ、なんでそんなに残ってんだよ!?)


(お前が無闇に撃ちすぎるからだ)


(お前がピンポイントすぎるんだよ!?)


 そうこうしているうちにも、追跡者の足音はだんだんと近くなってくる。


(……で、どうすんの?)


(作戦名『蛇と蛙』でいく)


(了解……。じゃ、フォロー頼んだぜ!)


 二人は素早く作戦を立てると、互いに頷き合って、その場から姿を表した。


「万象に願い奉る!」


 リーシャが詠唱すると同時に、アルカードの銃撃が、追跡者の四人を牽制する。

 人に当てても、防御魔法で跳ね返されてしまうので、魔法使いに拳銃は、それ以上の役割はほぼ果たせないのだ。


 追跡者の行動が一瞬止まった隙きに、リーシャの魔法が完成した。

 地面が凹み、凹んだその質量と同じ量で作成された、煉瓦の鋭い槍が、地面から生える。


 錬金術である。


「せやあっ!」


 弧を描いて、薙ぐように斬り払われたそれは、容易く彼らの障壁を切り裂き、人体を薙ぎ飛ばす。


「ぐはぁっ!?」


「まだまだぁ!」


 今度は柄を突き出して、その柄頭を使って、防殻ごと突き飛ばす。


「なんだ、この馬鹿力はっ!?」


 後ろで呆けていた一人が、ポツリとつぶやいた。

 しかし、その間にもリーシャは距離を詰めていく。


「せいやっ!」


 袈裟斬りに振るわれたその槍は、障壁を圧し潰して、中の人の頭蓋を叩き割る。


 そして、返す太刀で残りの二人を一息に薙ぎ払うと、ふぅ、と息をついて


「我が願い、返上せり」


 と呟いた。


 すると、先程までその手に握られていた槍は、いつの間にか姿を消して、ついでに槍が生えていたところにあった窪みは、キレイに戻っていた。


「いやぁ、楽勝楽勝!」


 両手を上げて、伸びをしながらアルカードの方へと戻っていくリーシャ。


「馬鹿、ボケっとするな。さっさと行くぞ」


「へーい」


 アルカードは彼女をたしなめると、その手を引いて、路地裏へと突き進んだ。



















 ガタガタと木製の車輪が、薄らと雪を積もらせた煉瓦の街道を進む。


「あれは……!」


 不意に、御者は龍車の手綱を引いて、レッサードラゴンを道の脇に停めた。


「何だ、何があった?」


 荷台から聞こえてくる男性の怪訝な問いかけに、御者は振り返らずに話す。


「ロストの原因がわかりました」


「ほう?」


 男は興味深げに相槌を打つとを、荷台の窓越しに外を見て、ふっと笑みを湛えた。


 そこには、スパイの追跡に仕向けていた四人のチェイサーの骸が、無残な形に葬られていたのだ。


 男は龍車を降りると、カツカツと踵を鳴らして、その市街に近寄った。


 一つは肉体が上下に引き裂かれていた。

 一つはほぼ全身の骨が砕け散っていた。

 一つは原型もなくトマトのように圧し潰されており。

 そして最後の――彼から最も近い位置で斃れている彼は、頭の天辺からまっすぐに斬り下ろされて、左右に分かれていた。


「ふむ……」


 これは、鋭利な刃物で斬ったというよりは、その風圧で叩き斬ったと言ったほうがしっくりくる。


「相手は相当な手練……なのでしょうか?」


 荷台から降りてきた女性が、彼の半歩後ろに控えて、そのような感想を呟いた。


「いや、手練であることには間違いはないだろうが……」


 彼は更に数メートルほど突き進むと、腰をかがめて、欠けた煉瓦を指で擦った。


(弾痕か)


 更に視線を巡らせると、路地裏へ続く曲がり角の辺りに、薬莢が落ちていることに気がついた。


(アドスタネイト弾か……)


 アドスタネイト弾とは、対人用の弾丸だが、殺害を目的とはせず、音と光で相手を硬直させる事を目的とした弾丸である。

 アドスタネイトと呼ばれる、かなり強い衝撃を与えると、急速に酸化して、鋭い音と光を放つ鉱石が、弾頭に仕込まれている。


「ただの奇術師だ。万全の対策を取れば、対処は難しくはない」


 彼は薬莢を拾って、ビニール袋に入れてポケットに仕舞うと、女性にそう告げて龍車へと引き返す。


「特務警察に処理を要請しておけ。あとは任せた」


「かしこまりました」


 男はそう言うと、彼女をその場に残して龍車と共にその場を去った。



















 マンホールを下り、二人は進む。


 手元には懐中電灯が一つ、暗く、ジメジメした床を照らしている。


「くちゅん!……あー、寒い……」


 不意に、そんな声が下水道に木霊する。


(おい、あまり話すな)


 念話機の向こうから、そんなアルカードの叱責が聞こえてくる。


(今のは不可抗力だろ?)


(だとしても、最後の台詞は不要なはずだ)


(そんな堅いこと言うなって。だからモテないんだぜ、きっと)


 言いながら、両手を首の後ろに回すリーシャ。


「……ん?」


 すると不意に、二人の足音に混じって、何か別の者の足音が二人の鼓膜を刺激した。


(追手か?)


(いや、どうやら違うようだ)


 言うと、アルカードは足元を照らしていたライトを、ゆっくりと上の方に上げていった。

 するとそこには、真っ黒なコートに見を包んだ、黒い髪に赤い目をした、中年の男性が、ニッコリと笑みを浮かべて立っていた。


「よ!」


「なんだ、ビルか……。脅かすなよなぁ〜」


 彼女は、はぁ〜と盛大な溜息を吐きながら、彼のもとへと歩み寄っていく。


 彼の名前はウィリアム・マーキュライト。

 スズリの従兄にあたる人物である。


 二つ名は、“赤目のビル”。


 そんなリーシャの態度に、にこやかに笑いかけながら、彼はそのモサモサの黒髪を掻いた。


「やぁ〜、危なかったぜ……」

(サンキューな、リーシャ)


 ビルはリーシャから受け取った念話機を項に装着すると、そうお礼を述べる。


(よく言うよ、まったく。……それで?まさか手ブラってわけじゃないんだろ?)


 彼の笑顔に、少しだけ顔を赤らめさせながら、リーシャは話題を振る。


(ああ。敵の大将の名前がわかった。ソシュール・メレッツォだ)


(ソシュール……。聞いたことがないな)


 先程まで空気と化していたアルカードが、顎に指を添えながら、そうつぶやく。


(ああ。なんでも、ここ約一年の間に就任したって話だ)


(それで、そいつは今どこに?)


(わかってたら、俺一人でやってるさ)


 彼の問に、肩をすくめてそう返すウィリアム。


(そっか……。なら、しかたないよなぁ……)


 リーシャはそうボヤくと、下水道の道を、再び歩き始める。

 それに着いていくようにして、残りの二人もゆったりと歩をすすめる。


 幾つかの角を曲がり、時折下水道内に湧いている魔物の殺人蝙蝠キラーバットを適当にあしらいながら先を進むと、ふと真横に現れた、管理人用の休憩室の扉を潜る。


「はぁーっ!疲れたぁ……」


 灰色のダッフルコートを脱ぎ捨て、空調の効いた休憩室のソファにダイブするリーシャ。


「寝る前にちゃんと風呂入れよ?」


「わーってるわーってるってぇ……」


 ウィリアムにそうたしなめられつつも、今日一日の疲れからか、どっと襲ってくる睡魔に身を委ねるリーシャ。


「そんな奴は放っておけ、ビル。それより、先に結界を張らないと」


「そうだったな」


 アルカードに急かされて、肩をすくめながら、彼はポケットから宝珠のついた指輪を取り出して、装着する。


「ハイド」


 ウィリアムが魔力を練ると、空間が揺らぎ、精霊たちが呼応する。

 後は、宝珠の中に組まれた魔法式に従って、自動的に魔術が発動する。


「これでよし!じゃ、先に風呂貰うぜ〜」


 彼はふぅと息をつくと、やっと休めると言わんばかりの勢いで、ルンルンと備え付けの浴室へと脚を向けていった。

 次回、作戦失敗初日(2)


 魔法紹介。


 錬金術:情報量保存の法則に基づいて行われる、物質の操作を行う魔法。宝珠で今回リーシャが使った魔法を発動しようとすると、「形状分離、再構築、武器構成、槍、クリエイト」と、非常に長くなってしまうので、詠唱という形を用いることにした。中等魔法に分類


 ハイド:結界魔法に分類。対象に認識阻害の効果を付与する。高等魔法に分類。

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