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大魔術師ロットの魔法  作者: 記角麒麟
狂った王国と反逆の魔王
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閑話 七夕

 七月七日は七夕ということで、閑話を挿れようと思います。

 時期は、第一部より前のお話になります。

 それでは、どうぞ。

 その日は、とても暑い夜だった。

 我が自慢の祖母であり、この国――ギト王国最高の、空前絶後の大魔術師であるフローレス・マクトリカは、齢七十後半とはとても思えない、若々しく瑞々しさを残した笑顔で、俺を見下ろしていた。


「ロット、今日はどんな日か知っとるか?」


 ゆったりと、風がそよぐように、彼女は隣を歩く俺に、そう問いかける。


「知ってます!七夕って言うんでしょ、おばあちゃん!」


 当時五歳の俺は、彼女と居られるのがとても楽しくて、ついはしゃいでしまい、着ていた浴衣の裾を危うく踏みそうになりながら、そう返した。


「お、よく知っとったな?ウェンディにでも聞いていたのか?」


「いいえ、絵本に載ってたんです。年に一度、アルタイルとベガが、乳の川を越えて、共に過ごすと」


 この世界での七夕の話には、彦星と織姫という名前ではなく、アルタイルとベガという名前で登場する。

 ちなみに乳の川とは天の川の事だ。


「そうか、書いてあったか!」


「はい!」


 暫くそうやって、俺とフローレスは、ナーゼの森を並んで散策していた。


 鈴虫やらコオロギの声をBGMに、たまにそよぐ風に涼みながら、二人はその日、街へと繰り出していた。


 その日は、ブエルの街で、年に一度の星空祭りが催されるのだ。

 星空祭りというのは直訳だが、言ってみれば七夕祭りのようなものだ。


 笹に願いを書いた短冊を吊るし、願望成就を願う。

 毎年神祇官が街に訪れて、歌や踊りを披露し、それに子どもたちも混ざって、一緒に歌ったり踊ったりする。


 夜店屋台が出たり、花火……のようなものを打ち上げたり。


 この世界には魔法が実際に存在するので、笹に吊るすおまじないも、本当に効力を発揮するというのだから笑えない。


 まあ、そういう笑えない事件が起きない様に、神祇官が笹に魔法をかけて、害意や悪意を叶えさせない様に仕組んでいるのだが。


 と、そんな風に、意気揚々とした足取りで、森の遊歩道を進んでいると、向こうの方から楽しげな気配が聞こえてきた。


 同時に、何かを焼く美味しそうな、香ばしい匂いも漂ってくる。


「……っ!」


 俺は待ちきれず、祖母の方を振り返った。


 すると彼女は


「あまり羽目を外すんじゃないよ?」


 と、にこやかに告げた。




















「はい、おばあちゃん!」


 夜昌石やしょうせきの灯りが並ぶ、星空祭りの屋台。


 俺は、両手に持った烏賊いかの丸焼きの片方を、フローレスに渡しながら、ニッコリと笑った。


 既に俺の腕には、ヨーヨー釣りで得た水風船や、射的で手に入れた景品など、多くのものが提げられていた。


 もう一つ言えば、その金髪の頭には銀狐ぎんぎつねのお面まで掛けられている。


 あまり羽目を外さないようにというおばあちゃんの忠告は一体何だったのか。


 フローレスは苦笑を浮かべながら、ありがとうと礼を言って、その丸焼きを受け取った。


「んふふ〜。どういたしまして!」


 対象的に、こちらはとても満足そうな、満面の笑みを浮かべている。


「あ、おばあちゃん!あっちで型抜きやってるって!」


 他にもっと何かないかなとあたりを見渡した俺は、そういえば前世では見かけたことがあったような、でもやったことないような気がして、興味を惹かれて、風船を提げている方の手で、そちらを指指した。


「食べてからにしんさい。お行儀が悪いぞ」


「はい!(モクモクモクモク、ごくん)食べた!行っていい!?」


 未だかつて、型抜きでこれほどテンションを上げた子供がいただろうか。

 一瞬そんな疑念が頭に浮かぶが、そんな事はどうでもいいと、頭の外に追いやる。


 フローレスは、俺のその様子に呆れたのか、肩をすくめてこちらを見た。


「いいぞ。行ってこい」


 彼女はそう端的に告げると、ゆっくりとそれを食べながら、はしゃぐ俺の後を、ゆったりとついていった。



















 ひとしきり型抜きをプレイしていると、興味深そうに、屋台主が話しかけてきた。


「珍しいねぇ。君みたいなイイトコのお嬢さんが型抜きだなんて」


 声のする方へと顔を向けてみると、そこには無精髭を生やしたおじさんが、こちらを覗き込んでいた。


「これ、結構ハマります。なんていうかなぁ。ギャンブル依存症の人に近い感じてすかね?」


「ギャンブル依存症たぁ、おもしれぇ喩えするなぁ……。うん。一筆何か書けそうだ」


 ウンウンと頷く彼を無視して、俺は再び型へと視線を戻す。


 繊細な力加減を要求するこの型抜きには、何か中毒性に似たものがあると、俺は思う。

 力加減をミスって、型が割れると、負けた気分になる。悔しくなる。

 だから再挑戦して、何度でも、何度でもと、それに挑み続けたくなる。


 喩えるならそれはギャンブルみたいなものだ。


 賭けて、外れてら悔しいけれど、当たれば嬉しい。

 その点においては、型抜きもギャンブルも同じだと思うんだ。


 ちなみに、今俺が挑戦しているのは、一番難しいタイプの型抜きで、抜き取った型の中にも、抜き取る部分が存在する。

 その上、外周の削り取る部分はとても細かく、意識を集中させていなければ、何度やっても成功はしないだろう。


 この型を作った人は、多分相当な器用か、何日もかけて作るような、根気強い人だ。

 きっとそうに違いない。


 ――パキッ。


 短い、そんな絶望を告げるには的確すぎる音が、鼓膜をつく。


「あー、惜しかったねぇお嬢さん」


 ケケケ、としたり顔で笑う男性。


「おじさん、もう一回!」


「んぁ〜、ごめんなぁ、お嬢さん。この一番難しいのは、一人一枚までなんだ。なんせ、元が高いもんでなぁ。数が足りねんだ」


 両手を合わせて懇願する俺に、申し訳なさそうにわらうおじさん。


「そうなんだ……」


 なんだか、残念だ。


 そう思いながら、景品のそれなりに値が張りそうな櫛を眺める。


 赤をベースに、牡丹の花があしらわれた、ちょっと古風だが可愛らしい櫛。


 名残惜しそうに見つめていると、後ろから見知った手が伸びてきて、おじさんにお金を渡した。


「では、ワシが取ってやろう」


「おばあちゃん!」


「おお、孫思いですねぇ。いいですよ」


 言うと、彼はお金を受け取って、型を差し出した。


「どうも」


 祖母は型と楊枝を受け取ると、ふぅ、と息を吐いて、目を瞑った。


「??」


 寝たのかな?

 そんな考えが、一瞬脳裏を過る。


 しかし、刹那。

 フローレスはカッと目を見開くと、溝の一点にその楊枝を突き立てた。

 かと思えば、次の瞬間には、キレイに型から抜けた、鯉の形が、その手元にはあった。


「……」


「……」


 固まる二人。

 まるで、何が起きたのかさっぱり理解できなかったが、一つだけわかったことがあった。


「おばあちゃん、凄いです!」


「そうか、凄いか?それならよかった」


 彼女はニコリと微笑みかけると、屋台主のおじさんから櫛を受け取って、俺に手渡してくれた。


「おばあちゃん、ありがとうございます!大切にします!」


「そうだな。大切にしろ」


 そう言いながら、祖母は俺の頭を優しく撫でた。



















 その後、俺はフローレスと共に、踊りを見たり、短冊に願い事を書いたり、花火を見たりした。


 とても楽しかった。


 また来年も来ようね!

 そう、二人で約束をした。


 ……したんだよな。


 その翌年、フローレスは死んだ。

 次回、オ・フ・ロ♪


 次回の投稿は七月十五日になります。

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