表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大魔術師ロットの魔法  作者: 記角麒麟
狂った王国と反逆の魔王
75/82

作戦

 日焼け跡の残る小麦色の肌をした、金髪の不良青年らしい見た目の男は、アルトリスに急かされるようにして、その大きな荷物を机上へと運んだ。


「下がっていいわ」


「了解ッス。では!」


 青年は彼女に敬礼をすると、回れ右をしてその場から立ち去っていった。


「それで、話の途中なのだけれど」


 青年が部屋から居なくなったことを確認すると、彼女はその趣味の悪い紫色の口紅が塗られた口を開いた。


「先ずは、この箱の中身を見てくれるかしら」


 促されて、俺はそのダンボール箱に手をかける。

 ガムテープを剥がして、中身を除くと、そこには緩衝材に覆われた包が、幾つか並んでいた。


「これは?」


「協会がギルドに提供している、スキルホルダーという魔法道具です」


 尋ねると、秘書ちゃんが丁寧に教えてくれた。


「スキルホルダー?」


「はい。魔物が持つスキルは、魔物の体液中に含まれている、と言う事が、随分と前の研究でわかっていたんです。そこで協会は、魔物の血中に含まれている『スキルソース』と呼ばれる、言わば小さな脳ミソのような神経細胞を体内に取り込むことで、魔物のスキルを人間が使えるようにしようと、研究を重ねてきたんです」


 おそらく、名前からして、スキルを人間が使えるようにする、というのがこの魔法道具の概要なのだろう。


「それで、これがその研究の成果だと?」


 コクリ。

 秘書ちゃんは頷くと、ダンボール箱の中から一つを取り出して、俺に手渡した。


「私も、幾つかスキルを所有しています。例えばこれです」


 手渡した緩衝材に包まれたそれには、『ゴルゴーン《石化》』と書かれていた。


「石化……?」


「はい。直視したモノを、生物、非生物に関わらず石に変えるというスキルです」


 へぇ……。そりゃ、強力なスキルだな。

 空からその目に景色を映すだけで、その視界に入った全てのものが石化してしまう。


 見た目にそぐわない、末恐ろしい能力だ。


「ですが、まだ上手く制御できなくて……。こうして、眼鏡をかけることで、スキルを一時的に封じているんです」


「へぇ……。でも、よくそんな恐ろしい物を作ったな。悪用されたら終いじゃないのか?」


「そこまで強力じゃないですよ?この石化のスキルだって、数秒から数分程度の効果ですし。それに、適合しないスキルソースの注射は、死亡する可能性だってありますから」


 なんだ、そうなのか。


 ちょっとがっかりしてしまった。


 そんな俺の様子に、アルトリスはクスクスと微笑んだ。


「……それで、これが何になるって言うんだ?」


 尋ねると、彼女はニヤリと口角を吊り上げて、作戦を話し始めた。


「先ず、世界征服の宣言の前に、しておかなければならないことがあるかしら」


「しておかなければならないこと?」


 いつもの如く、勿体ぶった言い方をする彼女に、俺は怪訝な眼差しを向けた。

 それがまさか、あんなことになるとは微塵も思っていなかった。



















 二ヶ月後――十二月二十日――。


 俺の目の前には、眼鏡をかけた、四十過ぎくらいのオッサンが、手揉みをしてソファに座っていた。

 俺が座る座席の後ろには、相変わらずレイスが控えており、そして俺の隣には、まだ慣れないのか、ガチガチに固まってしまっている秘書ちゃんが腰を下ろしていた。


「いやぁ、その節はどうもお世話になりましたぁ〜」


「いえいえ、こちらも十二分に利益を貰ってますから。お互い様(ギブアンドテイク)ってやつですよ」


 横目に、株の推移が表示されたテレビ画面を見ながら、俺はそう嘯いた。


「いやいや!フローラ殿が居なければ、今頃はまだあの小さな魔法道具メーカーのままでしたよぉ〜!あなたにお会い出来て、本当に良かった!」


 ちなみに、フローラとは俺の偽名である。


「そうですか。そう言ってもらえると嬉しいですね」


 俺はそう言うと、ニヒル十割の『天使の笑顔』を浮かべながら、そう相槌を打った。


 なぜニヒル十割なのかって?

 バカ、こんなクッサイジジイにリビドー丸出しのニヤニヤ顔を向けられて耐えられると思ってるのか?

 断言する。

 俺は無理だ!

 だから、こんなのはただの営業スマイルだ。

 俺だって好きでやっているわけじゃない。これも全て、アルトリスが立てた作戦の一部に過ぎないのだ!


 俺は演出として足を組み替えると、回想を始めた。


 このオッサンは、二ヶ月前は、世間ではあまり注目を浴びていなかった小さな魔法道具メーカーの社長だった。

 当時の会社の名前はシナプスだったが、俺が仕掛けたとある事業によって巨大化し、幾つかの中小企業を呑み込んで、今ではホライズン・カンパニーと名乗っている。


 なぜ、そんな事になったのか。

 簡単である。


 この世界には、自動車というものがない。

 一般的に車といえば龍車を指し、民間用の自転車はあれど、ガソリンを燃料にして走る自動車やバイクといった乗り物は存在していなかった。

 あるとしても、かろうじて実験都市イゾルイにモノレールが二、三本通っているくらいである。


 だから俺は、自動車やバイクといった、貴族ではない、ただの民間人でも手が届く自家用車を創造魔法で創り上げ、そして売りつけたのだ。

 設計図や取扱説明書など諸々を含めて。


 いや、売りつけたというのは正確ではない。

 出世払いでいいから、これを造れ、みたいなことを言ったのだ。


 最初は渋っていたこの社長だが、協会が資金提供をする旨を書いた誓約書を見せれば、その態度は一変して、早速自動車の製造に取り組んだ。


 普通なら一発でちゃんとしたものを造れるはずがないし、動かせるわけもないのだが、そこは言霊の魔女の権能で、成功するように運命を力づくです捻じ曲げてやったので充分だ。


 斯くして、その自動車(ガソリンではなく、レムリアの領海に大量にある代用マナタイトから魔力を取り出して動く、魔導車)は発売される事となったのだ。


 以前話した通り、魔法道具の開発には許可証が必要になってくる。

 この開発の許可は、企画の時と完成後の動作テスト前の二回の段階で貰うことになっている。


 当然、この魔導車が開発されたときには、マスコミやら何やらが押しかけてきたり、注文が殺到したり、なんてこともあった。

 許可を貰うこの式典とも呼べるそれには、毎回多くの記者が雪崩込んで来るので、それは当然の結果と言えよう。


 開発資金は国からも出るので、それなりに早くことは進んでいった。


 レムリアの首都オビドスには、数日の内に数軒ものガソリンスタンドならぬ代用マナタイトスタンドが建ち並んだ。

 この仕事の速さは、さすがドワーフといったところだろう。


 ……え?

 そんなことより突っ込みたいことがある?


 ……フムフム。

 なぜ、俺みたいなちびっ子が、よくこんな話を持ち出してきて怪しまれなかったな、だって?


 そこはこの一節を思い返してから言ってほしいね。


『ちなみに、フローラとは俺の偽名である』


 実は、偽名を用いる際に、協会の力を使って、色々と俺の個人情報を操作した際に、年齢の設定を二十五歳にしたのだ。

 だから、俺はそれに合わせて、創造魔法で創った変身ポリモーフ薬で、見た目年齢を偽装しているのだ。

 ついでに秘書ちゃんも変身ポリモーフ薬を飲んで、大人の色気が漂う秘書然とした、凛々しい姿になっている。


 まあ、言ってみれば現在の俺は、幼女フォルムではなく、お姉さんフォルムなのである。


 仕事ができる風を装って、ちょっと背伸びして黒スーツに金髪ポニテにしているところが、俺的にはポイントが高いと思っている。


「〜〜〜!」


 オッサンのてれ顔なんて興味ないので、幻覚魔法でモザイクをかけておくことを忘れない。


「で、では、そろそろ本題に移りましょう。これが約束のモノです」


 ホライズン・カンパニーの社長はそう言うと、後ろに控えさせていた、言うなればお付きの者から、ジュラルミンのアタッシュケースを受け取って、机に置いた。


「で、では、確認させていただきますっ!」


 声が裏返りそうになるのを必死にこらえている秘書ちゃん。


 うん。残念秘書感が半端ないね。

 けど、そこがイイ!


 思わずへにゃりと口元が歪みそうになるのを必死でこらえて、恐る恐るケースを開く秘書ちゃんを眺めた。


 そして、チラリとケースの中を覗き見ると、もう恒例となりつつある秘書ちゃんのフリーズタイムが始まった。


「た……確かに、受け取りました……」


 そっと、丁寧にケースを閉じる秘書ちゃん。


 うん。

 かわいい。


 今日こそは部屋に呼んでチョメチョメしよう。

 いや、一緒にお風呂ってのも捨てがたいかな。


 俺はそんなことを頭の片隅で考えながら、事務的な話を繰り返した。


 それから、次の計画などをペラペラと語ること約数分。

 名残惜しそうな社長の「まだ居てもいいんだよ?」光線に、丁重にお断りして、ホライズン・カンパニー本社から退散した。


「お疲れ様です、フローラさん……」


「メイリーこそお疲れ様。今日も残念秘書感が超可愛かったよ」


「うぅ……。からかわないで下さい!本当に、ほんっとうに疲れるんですからぁ!」


 黒い魔導車に乗り込みながら、俺は秘書ちゃんに労いの言葉を返す。

 メイリーはそんな俺が、彼女をからかっているのだと勘違いしたのか(まあ、実際にそうなのだが)可愛く唇を尖らせて、抗議の眼差しを向ける。


 あぁ、本当にかわいいよ秘書ちゃん……!


 ちなみに、メイリーという名前も偽名である。

 あ、メイリーっていうのは秘書ちゃんのことだからね?


 それにしても……。


 この二ヶ月で、シナプス時代の業績を軽く上回るほどの利益が出るとは、予想外だったなぁ。


 今ではてっきり龍車の需要はなくなって、魔導車ばかりが目に入る。


 それもそのはず。

 龍車は扱いが難しい上に、維持費が馬鹿にならないほど高いのだ。

 それに加えて魔導車は、単純なハンドル操作に加えて、幾つかの仕掛けを足や手で操るだけ。

 レッサードラゴンに比べれば、慣れるのに掛かる時間は異常なほど短い。


 スピードはまぁ、龍車の最高速度である音速超えには遠く及ばないが、普通に乗る分にしては、ちょうどいいくらいだろう。


 自分好みに魔法道具を設置して、アレンジできる点もポイント高めかな。


「……フローラさん」


「ん?」


 オビドスの街を眺めていると、ふとメイリーが俺に話しかけてきた。


「私、あの会社を潰したくないです」


「……」


「だって、あんな嬉しそうな顔……!やっぱり、戦争を止めるためとは言え、可哀想過ぎます」


「……そうだな」


 作戦第一段階。弱小企業を大企業に進化させる。

 そして第二段階。その会社の株を空売りして、乗っ取る。


「……初めは、こんな事……こんな感情になるだなんてこと、思っても見ませんでしたけど……。でもやっぱり、情が湧いてきてしまって……。やっぱり、乗っ取るなら別な企業を……!」


「初めから大企業を選ばなかったのは、損害が激しすぎる上に危険だからだ」


 まだ若い企業なら、その損害もある程度抑えることはできる。

 それに、今回の場合は、初めから全ての流れが手の内にあるのだ。途中参加で何も知らないままよりかはマシだ。


「……わかってます、けど……」


「でもまぁ、情が湧いちゃうってのも、分からないでもないしね。俺だって、一から手懐けた物を、自分の手で壊すのには躊躇いがあるさ」


 でも、この娘は純真そうだからな。

 割り切れないんだろう。


「……悪かったな。気分の悪いものに付き合わせて」


「い、いえ!フローラさんが謝ることなんて一つも……!」


「そうか……。ありがとな、そう言ってくれると少し軽くなる」


 斯くして、魔導車は協会が経営しているホテルの前に停車したのだった。

 次回、閑話 七夕


 次回の投稿は七月七日になります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ