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大魔術師ロットの魔法  作者: 記角麒麟
魔女狩り信徒
73/82

ちょっと過激なレイスさん

「さて、そろそろ頭も疲れてきただろうし、サラッと纏めてみようか」


 俺は、秘書ちゃんが水屋に隠していたチョコレートを口に含んで、空中に文字を書き記していく。


 まず、協会を襲った犯人は次の通り。

 ・評議会ソビエト連邦魔女狩り班

 ・旧ウルバーン領に潜んでいる敵対勢力

 ・北の島国にいて、ソ連に呪術を伝授したテロリスト

 ・旧ノスポールにクランを置くテロ組織を、何らかの方法で操った吸血鬼


 尚、吸血鬼が用いた“何らかの方法”とは、レイスの予測によると、スキル《魅了》である可能性が大きい。


「スキル……?」


 ゲームとかだとよく話に聞いたが、この世界には魔法があって魔物がいるくせに、あまり聞かなかった単語だ。


 この世界にはそれが実在していたのか。


「えっとですね。修練によって得た技を武技や技巧などと呼ぶのに対して、魔物などが生まれ持って保有している特性などをスキルと呼びます」


 秘書ちゃんが俺の疑問に、思い出すような素振りを見せながら答えてくれる。


 あぁ、何か癒やされる。

 メープルとはまた違った趣きもあって、なんかいい感じだ。


 ……よし、いつか連れて帰るぞ!

 これは決定事項だ!誰にも邪魔されてなるものか!


 と、それはともかくとして、なるほどなるほど。


 魔物が持つ特性の事をスキルって呼ぶんだな。

 スキルの例として幾つか挙げられるものがあるが、例えば吸血鬼の場合は


 吸血鬼

 ・スキル

  《不老不死イモータル》寿命がなくなり、再生能力が異常に高くなる。

  《吸血レンフィールド》血を啜ることで、対象の生命力ロンを吸収する。相手のスキルを奪うことも出来る。

  《魅了マニプラーテ》相手を魅了して、思いのままにする。

  《麻酔ニューロパシー》相手の感覚を鈍らせる。

  《霧化ミーア》霧になれる。

  《再構成アルキミア》スキル《霧化》発動後、様々な姿に変身できる。

  《超感覚エスプ》すべての感覚が鋭敏になる。

  《縮地法フリット》異常な速度で走れる。

  《身体能力異状イリーガル・ハイ》常に相手より高い身体能力を発揮する。同じスキルを持っていると相殺し合う。

  《浮遊レヴィオ》空を飛べる。

  エトセトラ


 ――と、このような感じになる。

 吸血鬼はドラゴン等を除けば、魔物の中でも頂点に立つと言われているが、その理由は一重に所有するスキルの量なのだ。


 それで、そのスキル《魅了》というものが、今回ノスポールにクランを置くテロ組織を操作していたものの正体なのでは?と、レイスは推理しているらしい。


 次に、理由と目的。

 各々のグループは、どのような理由で協会の人間を攫っていったのか。

 ・全てに共通する点は、ギトに蠱毒を仕掛けて混乱を引き起こすこと。

 ・ソ連の主な目的は、創造の魔女――つまり俺――の排除。

 ・旧ウルバーンの目的は、ギトの乗っ取り。

 ・北の島国の目的は、呪詛技術の守護。

 ・旧ノスポールの目的は……というより、そのテロ組織を操っていた吸血鬼の目的はよくわからん。


 今ふと思ったけど、ウルバーンの戦略って、“トロイの木馬”に似ているような気がする。

 そう考えると、始めからそのつもりで戦争を引き受けたんじゃないのか?

 譲渡も一つの戦略として組み込めるという図り方は分からないでもないが……。


 俺はまとめた文章を紙に転写すると、一息ついて、お菓子を手に取った。


「四面楚歌っぽいなぁ、この現場」


 いや、正確には完璧にそれを打破する事ができるので、四面楚歌とは言わない。

 もう一つ付け加えるなら、この世界に四面楚歌という言葉はない。楚なんて国が生まれたなんて歴史は、ここには無いからな。


「それで、これからどうするつもりなのかしら?」


 カップを傾けて、書類に視線を流しながら、そう尋ねる。


「どうするも何も、俺にそれを決める権限はないよ」


 あくまで、俺は一調停委員。

 委員長よりは、調停委員としては権限が少ないし、だが個人的には委員長であるジョンより上の立ち位置にいるという、歪な存在だ。

 そんな俺は、一応特位なわけで、ほぼ自由に活動できる。

 まあ、流石に軍部動かすことはできないけど。


 この内容がお偉いさんに露見したら、さてどのような方策を取るか。

 その他諸々の背景を鑑みるに、北の島国とは争いが起こることは間違い無し。

 評議会連邦とは交戦待ち。

 ウルバーンとは水面下で何やらしていそう。

 ノスポールは……まあ、放置かな。相手がわからないんじゃ、手の出し用がないから、おそらく治部のどこかから捜査が入るだろうね。


 でも、俺的には戦争を起こして血を流してくれるのは、ちょっと違うと思うんだよね。

 そもそも、ギトが評議会を求める理由がわからない。

 向こうは確か、魔法兵器とかその他諸々の開発、研究が盛んに行われていたから、それが目的とか?

 排他的経済水域の奪取とか?

 要は資源?


 考えれば切りがない。


「――でも、私的な事を言っていいなら、ギトと連邦の戦争はやめさせたいかな」


 背景に何かあるかは知らないけど、やっぱりそういうの駄目だと思うんだよな。


「そうね。それには賛成かしら」


「わ、私も、人が死ぬのは、良くないと思いますっ!」


 アルトリスと秘書ちゃんが、俺の考えに賛成してくれる。


「でも、それってどうすればいいんでしょう……?」


 しかし、秘書ちゃんはその先に手を伸ばしていた。


 言うのは簡単だ。する事となると、それはまた別で、これはとても難しい話だとは、昔からよく言ったものだ。

 彼女は今、それを指摘している。


 しかし、そんな不安は、先程からスリープしていたレイスの提案によって、一つの方針が決まってしまった。


『手始めに、戦争を邪魔して見ては如何?そして、両国の目があるところでこう宣言するのです。――これからこの世界を、我らが古代の魔女が征服する――と』


 レイスの発言に、茫然自失となる俺。

 目の端で、アルトリスと秘書ちゃんを視認してみると、こちらもどうやら唖然としているらしかった。


 ……いや、アルトリスはちょっと違うか。

 ハンナは顎先に指を添えると、目を瞑って何やら思案を始めた。


 何か思いついたのだろうか?


「魔女による世界征服……全ての魔女が力を合わせれば、できないことは無いと思うわ。けれどレイス、貴女は大事なことを見落としてないかしら?」


『その心は?』


「人は皆がみんな、同じ考えではないということなのよ」


 確かに、アルトリスの言うとおり、七人が七人とも同じ考えを持っているかと聞かれれば、確実にNOだろう。

 事象に対する判断の基準というのは、その人物が生きてきた人生によって左右されるものなのだ。


 これは極端な例だが、かの有名な巨人と人が争う漫画に登場する巨人のモデルにもなった、かの氏族は、昔から通行人を襲い、人の肉を主食として生きてきたが為に、人=食糧という判断基準が生まれていた。

 だが他方我らには、人=食糧という判断基準は存在しない。


 昔から盗むことを生業としていて、そうでもしなければ生きていけなかった人たちには、


 自分には何もないし、手に入れる術もない→奪わないと死ぬ→なら奪わないといけない→人のものを盗まないと生きていけない→盗むことは生きるために必要のことである。


 と判断してしまうだろう。


 人の生活環境によって、人の判断基準は遷移する。

 だから、皆同じ考えとは限らないのだ。


『……では、どう致しますの?』


「だから、それを考えているんじゃないか」


 不服そうに顔を顰めて聞き返すレイスに、俺は肩をすくめる。


「待つかしら。まだ私は話の途中なのよ?」


「えっと、どういうことですか?」


 アルトリスは人差し指を目の前に掲げると、それにフッと息を吹きかけて、空中に円を描いた。


 そんな彼女に、怪訝な眼差しで見つめる秘書ちゃんは、やっぱり可愛かった。


 暫くすると、部屋の扉を叩く音が聞こえてきた。


「失礼しゃーっす。あれ、姉御!久しぶりっすね!なんでこんなところに?」


 声が聞こえた方を向くと、そこには柄の悪そうな青年が、台車にダンボール箱を乗せて、立っていた。


「あら、知り合いなの?」


「いや、知らん。記憶にないぞ」


 俺はそう言うと、姉御と呼んだ不良青年を観察する。

 見た瞬間にデジャヴュっぽいものを感じた気がしたが、まるで見覚えがない。


 すると彼は


「ヤダな〜、姉御!冗談キツイっすよ!ほら、マリーナタウンの建設のとき一緒しましたよね!?」


「すまん、覚えてない」


「なん……だと……」


 彼はそう呟くと、両手両膝をついて、あからさまに残念な風を装ってみせた。


「お取り込み中のところ悪いのだけれど、急を要するのよ。直ぐに持ってきてくれるかしら?」


 しかし、そんな彼の苦難は、アルトリスの無慈悲な采配でぶった切られてのだった。

 と、言うわけで、長い長ーい伏線回収の章でした。


 次回、登場人物紹介

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