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大魔術師ロットの魔法  作者: 記角麒麟
魔女狩り信徒
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報告に行く

 ――翌朝。

 俺達は、ハンナ・アルトリスに事後報告を行うために、彼女の執務室へとやってきていた。

 達、というのは、レイスを含めての言い様ではなく、昨日一日、俺を補佐してくれていた秘書ちゃんが同席しているからだ。


 執務室の前で、ちょっと緊張した面持ちで秘書ちゃんはメガネのテンプルを両手でクイッとする。


 ……あぁ、このロリっ娘秘書ちゃんのこの動作、堪んねぇ……!

 もういっそ、家に連れて帰ろうかな……。そんでもって、俺の専属のメイドにでもして……。


 そんなことを考えていると、背後でクスリと吹き出すレイスの気配がして、少しギョッとした。


(レイス、さっきの事誰にも言うなよ?)


(承りましたわ)


 表層意識を読める、という仮説はどうやら正しかったらしい。

 だが、脳内に直接メッセを飛ばせる機能までついているとは微塵も思ってなかった。


 正直なところ、聞こえてきた瞬間ちょっと怖かった。


 こいつは後で封印しようかな……?


 そんな様子の俺に怪訝な表情を浮かべながらも、彼女は執務室へと足を踏み入れる。


「し、失礼します、報告に参りました」


 秘書ちゃんがおずおずといった様相で、カーツィをする。


「待ちくたびれたかしら」


 その言葉を聞いて、俺は彼女が俺の権能目当てで呼びつけたことに確信を持つ。


『お初にお目にかかりますわ、ミセス・アルトリス』


「……えぇ、初めましてなのよね。その様子だと真意は理解してくれたようね?」


 一瞬間をおいて、彼女はそう返答する。


 なんか、意味深だったな。

 レイスが何かしたのだろうか?


「回りくどいんだよ、お前は。何?嫌がらせなの?」


「私は好きよ、貴女のそういう所」


 ニヒルに微笑む彼女を見て、心の奥底まで見透かされているような気がした。

 正直気持ち悪い。


「それじゃあ、場所を移しましょうか」


 ハンナ・アルトリスがそう呟いた瞬間、周りの景色が切り替わった。

 毎回思うけれど、これはどういう仕組みなのだろう?

 魔法の気配は無いし、権能を使ったようにも見えない。


(レイスは何か解るか?)


 そんな疑問を、冷徹な笑みを湛えて微動だにしないアンドロイドに尋ねてみる。


(私が所有しております機能の一つ、固有世界の一《反転世界イマジナリー・パート》と同一のものと判断しますわ)


 固有世界とは、結界魔法、つまり空間効果系の魔法の上位互換に位置する魔法で、簡単に言えば異世界を作り出す魔法の事だ。

 魔法界のオーバーテクノロジーの代表格とも言える。


 それを何故、ハンナ・アルトリスが?


(わかりませんわ。記憶が同じく固有世界にてロックがかけられてありますもの)


(解けるか?)


(容易ですが、推奨は致しませんわよ)


 大量のオーバーテクノロジーを組み込んだこいつがそう言うのだ、きっと何か厄介なことに違いがない。

 なら、諦めたほうがいいというのが無難だろうな。


 俺は肩を竦ませると、その部屋に設置されていたソファにどっかと腰を下ろした。


 部屋の広さは、ブエルの俺の部屋の大体1.5倍ほど。

 俺の感覚が正しいなら、畳に直せば大体36畳くらいだな。


 壁際に設置されていると思われる窓は、すべてワインレッドのカーテンに覆われており、ここがどの辺りなのかは分からない。

 壁際の方扉の隣には背の高い本棚が並べられ、分厚い本が陳列されている。


 入り口に近い方と遠い方で、部屋が二分されており、入り口側に居間が、遠い方にはカウンターキッチンとダイニングが備え付けられている。


 広々とした空間効果を生み出している家具の配置には、程よい上品さと生活感が醸し出されていて、俺は結構好きなデザインだ。


 ……今度俺の部屋も模様替えしようかな。こんな感じで。


 ソファに腰を落ち着けて、そんなことを考えていると、俺の後ろに控えるようにレイスが立った。

 秘書ちゃんはどうやらまだ彼女に馴れないようで、そそくさとアルトリスの背後に隠れに行く。


 俺も、レイスに背後に立たれると落ち着かないんだけどな……。


(ていうか、メインはお前なんだから、机の横に立てよ)


(……それもそうですわね)


 脳内でそう指示を仰ぐと、彼女はゆったりとした所作で、脚の低いガラステーブルの横に控える。

 それに合わせて、離れるように秘書ちゃんがテーブルとは逆側へと退避しつつ


「あ、お茶入れてきます」


 と言って、その場から一時離脱した。



















「それでは、聞かせてもらおうかしら」


 秘書ちゃんがお茶を運んできたところで、ハンナ・アルトリスは話を促した。


『ではまず、犯人の正体から説明させてもらいますわ』


 レイスはそう切り出して、空中からとある物を引っ張り出してきた。

 それは、見覚えのある機械仕掛けのローブであった。


「それは……評議会連邦の魔女狩り部隊が着ていた物か?」


『左様ですわ』


「ということはつまり、正体はやはり連邦ということなのかしら?」


『ええ、半分程はその回答でも結構です』


 半分?

 犯行グループの半数は連邦の人間だったが、残りは違うということか?


 訝しむようにそう尋ねると、彼女は『そのくらいは流石にわかりますわよね』と、馬鹿にした風に笑ってみせた。


 こいつ、後でスクラップにしてやろうか……?


「それで、そのもう半分というのは?」


『北の島国と旧ウルバーンの敵対勢力、及び旧ノスポール帝国にクランを置くテロ組織の一部ですわね。彼らは志を同じとしておりますが、どうやら同盟を組んでいるということでもなく、むしろ敵対もしている、といったところでしょうか』


「では、何故協会の人間を攫ったのかしら?人柱なら他にも沢山居るはずでしょう?」


『それは、蠱毒の特性によるものですわね。みんながみんな、同じ“百虫”を選んだのは、おそらく協会の権力が後々に邪魔になってくるからというのもでしょうね』


 ここまでの話をまとめると、つまりこうなる。


 ・犯行グループは三つ。

  ・北の島国

  ・旧ウルバーンの敵対勢力(ジーナさん達が調べてくれている)

  ・旧ノスポール帝国にクランを置くテロ組織(たぶん、あの彪の獣人が所属してたところのことだと思う)


 ・何故協会の人間ばかりを襲ったのか。

  ・蠱毒の特性によるもの

  ・後々に協会の権力が邪魔になるから←これは、多分ハロウィンとは別の思惑も働いていると俺は思う。ソースは無い。ただの勘だ。


 因みに“百虫”というのは、蠱毒の媒介を作るための材料の事だ。


 蠱毒というのは、レイス曰く、元々は百虫ひゃくむし――蛇のような大きな蟲から虱のような小さな蟲といった、大小様々な種類の蟲――を、一つのツボに入れて、五ヶ月と5日の間密閉し、生き残った一匹に神性が与えられ、それを祀る事で呪詛を完成させるようなのだ。


 この百虫に選ばれるものは、何かで統一しなければならず、例えば今回なら“協会に所属している人形にんげん”が百虫に迎えられたということだ。


「百虫に協会を選んだ理由について、詳しく教えてくれないかしら?どうして、彼らにとって我々が邪魔になるのかしら」


『協会が所有する、魔法道具の開発の権利、及び魔法科講師の派遣が原因ですわね。北の島国はご存知の通り呪術大国。あなた方魔法文明向上協力委員会は、謂わば彼らにとっての異教徒のような存在ですから、排除を図るのは至極当然と言えましょう。今までも、記憶にありませんか?』


 レイスが言う通り、魔法道具の開発には、それを行うための許可証が必要なのだ。

 この許可証の発行には、組織であり、尚且つある程度の規模を持っていることが条件で、これが無ければ、魔法道具を開発してはいけない事になっている。


 尤も、北の島国にとって驚異的だと判明しているのは、協会が派遣している講師や教材の方なのだろうが。


 あの国は呪術大国である。

 呪術という技術は、本来国外への持ち出しが禁じられている代物で、逆に魔法は世界各国が利用している。

 呪術は彼らにとっての伝統の様なもので、魔法が輸入されてくることで、呪術が廃れていくことを拒んでいるのだ。


 故の今回の作戦なのだろう。

 正に一石二鳥というものだ。

 敵勢力の数を減らせる上に、数々の大魔術師を世に放った魔術大国であるギトを壊滅とまでは行かなくとも、それ寸前にまで追い込められるのだから。


 北の島国にとって、美味しい話なのだ。


 言外にそう言われて、アルトリスはそういえば何件か嫌がらせのようなものがあったな、なんて事を思い出す。

 その内容はかなり小さな事だったので、協会としてはどうやら放置していたようだ。


「こちらとしても、余程のことがない限り……それこそ、魔法使いがこの世の人口の100%を満たさないと、人類が、この世界が亡ぶだなんて言われない限り、強制はしないわ。けどまぁ、うちも一枚岩とはいかないかしらね……。協会の過激派が、ちょっかいでもかけたのかしら?」


 そうボヤいて、秘書ちゃんの淹れてくれたお茶を啜る。


 それにつられて、俺もお茶を啜った。


(うん、ちょうどいいお湯度だ)


 そして美味しい。


 お茶で美味しいだなんて感想は持ったことは無かったけど、これは素直に美味しいと言える。


 ……あとでこっそり拉致ったりしたら怒られないかな?


「それで、旧ウルバーンの敵勢力についてはどうなのかしら?うちとは関係ないわよね?」


『それについては、完全にとばっちりを受けた感じですわね』


「……というと?」


 ソーサーにカップを置いて、視線をレイスに合わせる。


『ウルバーンはソビエトと組んでいますの。評議会ソビエトの狙いとしては、ウルバーンを囲うこと、乗じて、ウルバーンを参加に置くこと。同時にレムリアの国力を落とすことと、国を包囲しての、創造の魔女、つまりご主人様の暗殺。それを一度に行うことですわね。言霊の魔女に関しては、おそらくレムリアの国力を落とすことで、権力的不利を被らせて……などと画策しているようですが、こちらの方は無視しても実害はありませんわ』


 なるほどな。

 国を内側から崩落させたいウルバーンと、それで情勢が悪化するギトに呪詛で追い打ちをかける北の島国を隠れ蓑に、評議会はウルバーンを扇動させて色々とゴニョゴニョする、と。


 でも、隠れきれてないんだよなぁ、これが。


 相手は果たして、隠れているつもりなのだろうか。


「じゃあ、ノスポールにクランを置くテロ組織の方はどうなんだ?」


『それが、途中で記憶が途切れていて解らないんですの』


 記憶が、途切れている?


「それは、大体どの辺りから……?」


『一年と半年ほど前ですわね。肉体は記憶を継続しない状態を、その時期から固定されているようですわね』


 記憶を継続しない状態を継続させる……?

 そんなことが可能なのだろうか?


 まず魔法では考えられないよな。

 そもそも記憶操作系統の魔法は、魔法界のオーバーテクノロジーに位置づけられているのだ。

 それを行えるとなると、他の魔女か、もしくはアルトリスの様に、それを完成させて、習得している者か。


 魔法でないなら、呪術という先も考えうる。

 ならば北の島国か。


『お言葉ながらご主人様。全くの見当違いですわよ』


 その旨を話すと、レイスはその様に回答した。


『魔法の痕跡も、呪術の痕跡も無し。ロンを弄った風に見えますが、エルフビーストなどが使うようなタイプとは違い、経絡たる龍骨ロングーを破壊することによって、記憶系統に支障を出しているようですわね』


 基本的に、エルフビーストはロンの流れを掻き乱す事で相手にダメージを与えるという方法を取っていて、経絡たる龍骨を破壊するのは、彼らの間ではご法度なのだ。

 そういえばそんなことを以前ミッドさんがチラリと話していたことを思い出す。


「じゃあ、誰がやったって言うんだよ?」


吸血鬼ヴァンパイアという線が、一番濃いでしょうね』


 ヴァンパイア……。

 居るんだ、この世界に吸血鬼って。


 閑話休題。

 そして俺達は、今後どうするべきかを話し合う事にするのだった。

 長いので、無理やり切りました。


 次回、ちょっと過激なレイスさん

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