魔女の真意
兵部省館に設置された和室の一室。
そこの下座に、金色の甲冑を着込んだ鎧武者が腰を下ろして、どうやっているのか、兜の上から湯呑みを傾けてお茶を啜っていた。
対する上座に座っているのは、ギト最強の四人の内の三人――アレイスター・クロウリー、ステイシア・アーカイヴ、スズリ・マーキュライト――であった。
「北の島国の領主との会談を望んだはずだぞ?」
クロウリーがドスの効いた声で、入口付近にて待機するアブルに問尋ねた。
「どうやら気分じゃないみたいでしてね?領主様は気まぐれなのですよ」
しかし、そんなクロウリーの質問に答えたのは、湯呑みから口を話して一服していた鎧武者のカネヒトだった。
そんな彼の態度を見て、肩をすくめるアブル。
どうやらこれ以上は無駄らしい。
総判断すると、クロウリーは小さく舌打ちをして、本題を切り出した。
「今日来てもらったのは、他でもない。蠱毒についてだ」
「蠱毒……?……あぁ、あれね」
彼の北の島国では、犬神と猫鬼に続いて三大禁術に指定されているので、カネヒトもその概要は良く知っていた。
「知っているなら話が早い。それについて全て教えろ」
「すまないですが、それは断らせてもらいます」
中途半端によく知っているからこそ、彼はそれの危険性について深く理解していた。
故の即答。
しかし、クロウリーはそれをどう捉えたのか、バンと力強く机を鳴らした。
「いいから教えろ」
「マナーがなってないですぜ、クロウリー殿。教えてほしけりゃ、相応の作法ってもんがあります」
ケケッ。
顔面を覆い尽くす仮面のような兜の下で、悪い笑みを浮かべるカネヒト。
彼の悪い癖である。
侮辱されたと感じたのか、彼は顔を高調させて怒りを顕にする。
それでも仮面の下のカネヒトは涼しい顔で、そんな様子の若者を眺めていた。
本当に趣味が悪い。いつも近衛の後輩からそう言われ続けていたが、たしかに自分でもこれは質が悪いと本当に思う。
だからと言って、面白い余興を台無しにするつもりは無いのだが。
やがて彼は顔を伏せると、土下座を崩したような態度で、頭を下げてきた。
「お願いします……。国民の命が掛かっているので、教えてください」
しかし。
「だから嫌だといったでしょう?」
カネヒトはそう言って、声が漏れそうになるのを必死に抑えた。
危ない。思わず吹き出すところだった。
「貴様ぁ!!」
「辞めんかバカ者!」
道化のように嗤うカネヒトに憤慨し、とうとう手を出そうとするクロウリー。
しかしそんな威勢は、ステイシアの叱責と拳骨で宥められてしまう。
「すまぬ。では、話題を変えようかえ?そうじゃなぁ……。お前さんの国、旧ウルバーンか連邦と、何か関わりは無いかの?そう、例えば呪具の作り方を享受したとか」
目を細めて言う彼女に、しかしカネヒトは動じることなく即答する。
「外交ならしてますが、流石に呪術を教えるなんてしやしませんよ。知ってるでしょう、ウチは呪術大国。ヒト呪うのは好きですが、呪われるのは勘弁なんでね」
「そうかえ。なら、密入国者や密輸の経歴は?」
「調べないとわかんないですね」
「なら調べてくれんかえ?報酬なら出す」
……ほう。
その言葉に、カネヒトは瞬間的に思考を巡らせた。
そして、最も無難で、それでいて高い益の出る要求を、彼女に提示する。
「んじゃ、報酬は自分個人に対して出してくれませんかね。その依頼は個人として引き受けたい」
対策室に踏み込んだ俺は、そこに展開された資料に目を通した。
けれど如何せん、思考加速を用いて考えても、そういったノウハウや経験、知識や知恵も何もない俺には、探してくれと言われてできるようなものでもなく。
俺は椅子に腰を下ろして、目の前の空中に展開された『拉致現場がマーキングされている地図』と『拉致されたと思われる現場の写真』『囮捜査のリスト』『明らかになっている敵基地の内部の様子』『拉致されていた者たちの証言』諸々を眺めた。
「むーん……半分くらいかな……」
呟いて、空中に書き記したまとめ書きに手を加える。
今のところ理解しているのは、犯人の正体と次の標的、そして犯人の所在くらいだ。
リストを見直してわかった事だが、囮捜査の時、俺はてっきり同性の護衛が遠くから監視しているものと思っていた。
だが、秘書ちゃんの話によれば、「トイレなどで一人になる隙きがあった」という。
トイレで隙きができるってことは、たまたま護衛が異性だったりしたのだろうくらいに考えていたが、いやはやびっくり。
たまにどころじゃなくてほぼ全部がそうだった。
そして、時間や行動から一人になるような場面を試算してみたところ、おっかなびっくり、これが意図されて行われていたように見えるのだ。
「半分って、どういうことですか?」
さっきからアルトリスに代わって、俺に情報を提示してくれている秘書ちゃんが、怪訝な表情で尋ねてくる。
「んー、多分そのくらい協会の中に忍んてるってことだよ」
俺は地図の後ろに隠れていた、ここ最近協会に出入りした人たちのリストを彼女に見せてあげる。
「……すみません、よくわかりません」
「まぁ、つまり……そうだな。敵方のスパイが入ってきてるんだよね」
俺がまず疑問に思ったのは、被害者って協会の人間だけなのかな?ってところだった。
調べてみると、被害者の中には協会の人間じゃない人は、一人も混ざっていなかった。
じゃあどうやって協会の人間とそうでないのを見比べていたのかと疑問に思って、名簿の持ち出し記録を確認してみると、一週間くらい前に、紛失していた記録があった。
紛失したリストは翌日戻ってきていたらしく、管理していた人に質問してみると、どうやら「すぐに戻ってきたし、大事にはならないよね!」と軽く考えていたらしい。
正直、阿呆だ。
おそらくその期間で協会の名簿をコピーしたのだろう。
だから協会の人が誰か分かった。
ここのセキュリティはガバガバなのだろうか?
まあ、そんなわけで名簿を確認してみたら、思ったとおりに侵入している人が何人か紛れ込んでるっぽいなぁってわかったのだ。
そこからは糸をたどるみたいにトントン拍子に解っていく。
これに気が付かない協会も協会だわな。
「でも、そんなことならなぜ俺に頼んだんだろう……」
この程度ならスタッフだけでも処理できたはず。
俺が呼ばれる筋合いはないと思える。
だがハンナ・アルトリスは俺を呼んだ。
なぜ?
(創造魔法か?)
それが今回の依頼の遂行に必要だったのか?
……創造魔法には、自分が仕組みを理解していなくても、自動的にそうなるように中身を作ってくれるスプーキー効果があると俺は以前仮定していた。
これが何か使えそう……あ。
そうか。
最初から考えなくても良かったんだ。
「はぁ。阿呆は俺の方だったのか」
俺はそうため息をつくと、資料を全て床に落とした。
「え、急にどうしたんですか?」
俺の突然の奇行に若干引きながら、秘書ちゃんがこちらを見る。
あ、なんかその表情イイね。
ちょっと何かに目覚めそうなくらいかわいい。
「これから全部わかる」
俺はそう言うと、創造魔法を起動した。
――形状は最適なフォルムであれば指定しない。
――機能は拉致された人間を救出し、犯人を捕縛する。んで、ついでに犯人からは関連情報を全部白状させる。ただし犯人を廃人にする事は却下する。位置情報を常に記録することを許可する。
――性能は完璧で。こと正規利用については欠陥ナシ。ついでにオーバーテクノロジーの使用を許可。
――数は必要ならば複数作成を許可。また、機能に分身の作成を追加。
まぁ、創るなら最高のものを創らないと面白くないしね。
他にまだ付け足せるものは……あ、そうだ。
――随時学習する機能を追加。又、マスター登録を行った者にのみ、随時機能を追加させることを許可する。
うん、こんなところかな。
俺は必要な要望を頭の中で組み立てると、権能を発揮した。
次回、黒髪の生霊
魔法紹介。
アセンブリ:魔力を使って、文字や記号などを空中に描写する魔法。光に関する知識がある程度無ければ使えない。だが、知識があればさほど難しくはないので、初等魔法に分類されている。




