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大魔術師ロットの魔法  作者: 記角麒麟
魔女狩り信徒
69/82

捜査

『それ、本当なのかい?』


 動揺した様な、震えた声が宝珠越しに聞こえてくる。

 アブルのここまで落ち着きのない声を聞くのは、たぶん私が諜報部隊に派遣されて以来だ。

 もっとも、あの頃の驚きは「え、なんでこんな子供が諜報の試験スルーできんの?」というものだったのだが。


「ええ。しかも、魔女の分身シスターに置き手紙付きで」


 エリンはロットの部屋に一枚残されていた書き置きを眺めながら、肩をすくめる。


『……手紙?内容を教えてくれるかい?』


「“旧ウルバーン勢力と評議会は繋がっている。どうやら評議会は、協会の者を使って蠱毒を画策しているようだ。北の島国も怪しい。俺は協会を助けてくるから、アブルは北の島国を当たってくれ。”だそうです。蠱毒って何ですかね?」



















『――蠱毒って何ですかね?』


 宝珠から聞こえてくる部下エリンの通報に、アブルは冷や汗をかいた。


 見逃していた。

 自分としたことが、なぜその可能性に気が付かなかった。


 創造の魔女と魔女狩り精鋭部隊が真正面から戦えば、間違いなくロットは無傷で勝ちをもぎ取ることができる。

 そんなことは奴らも重々承知しているはずだった。

 なら、正攻法ではなく暗殺の類で攻めてくるだろう。それなら監視をつければ対処は可能だ。


 そう、考えていた。


『あのぉ、アブルさん?』


 訝しむような声が宝珠から流れてきて、アブルははっと自我に帰る。


「あ、ああ。すまないね。教えてくれてありがとう。あとはこちらで何とかするから、君はマクトリカ家の(・・・・・・・)護衛として、任務を続行してくれないかい?」


『あ、はい!了解ですっ!』


「それじゃあ、くれぐれも頼んだよ?」


 アブルは苦笑いを浮かべながらそう告げると、通話を切った。


「呪術……か。また厄介なことに巻き込まれたね……」


 国の趨勢を思ってか、それとも彼の魔女の運命を思ってか。はたまたこれからの仕事の量にうんざりしたのか。

 アブルはそう一人ごちた。



















「――それで、探す手がかりはあるのか?」


 協会へと足を踏み入れた俺は、アルトリスの後ろを歩きながらそう尋ねてみる。


「悔しいけれど、それほどないわ。冒険者に依頼して、幾つか目星をつけているところはあるけれど、今のところは全然って感じかしら」


 どうやら捜索状況は芳しくないらしい。


「誘拐犯はチームで動いていて、拠点は複数。連れ去られた場所は決まって人目の付かない場所で、誘拐される時間帯は日夜を問わない事から、おそらく人避けを使っているものだと思われます」


 俺と並んで、書類をペラペラと捲りながら、司書然とした風貌の眼鏡の少女が、そう注釈を入れる。


「人避けは……心理的なものなのか、それとも呪具を利用したものか。それは判明しているのか?」


「協会もそれを疑って、協会専属のかんなぎに依頼して、霊力の反応を診てもらったのですが、まちまちでして。おそらく両方を使い分けているのかと」


 まぁ、妥当っちゃ妥当だな。

 一つの策ばかりだと、すぐに勘づかれてしまうわけだし。


 ……ん?

 何か違和感がするな。


「被害者が容疑者と接触したと思われた時間帯の、彼らの予定はどうなっていた?誰かに合う予定があったとか、何とか」


「ご家族や友人の方たちとも話をしましたが、皆さん、外出している時間が多かったみたいで」


「つまり、決行する前に目星をつけておいて、よく出歩く奴らを中心に拉致した。そんなところか」


 それがわかれば、対策も取れるな。


「はい。それで何人か囮捜索に協力してもらったんですけど」


「……それで振り出しに戻るってわけか」


「はい……」


 俺は顎に指を当てて、ふむと考え込む。

 よし、情報を一旦まとめてみよう。


 ・誘拐された協会所属の人たちは、皆よく外に出歩く人だった。


 ・冒険者に依頼して囮捜査をしたところ、彼らの拠点は複数あり、チームで動いているらしい事が判明した。


 ・容疑者は呪術的、心理的な方法による人避けを用いて、被害者に対する認識を淡くしてから誘拐していた。


 ・ハンナ・アルトリスは、捜査状況は芳しくないと言った。


 ……やはり、変だ。

 おかしい。


 拠点が複数ある事を知っているということは、少なくとも2つ以上の拠点は発見したということなのだろう。

 だが、捜査状況は芳しくない。

 拠点を見つけても、そこに全員が隔離されていたわけではないからだろう事は容易に想像できたが、だけどやはり違和感が拭いきれない。


「……さっき、攫われたのは人目につかない場所って言ったけど、具体的にはどんなところなんだ?さらわれて人たちに、共通点は他に無かったか?」


 囮捜査という言葉がやけに違和感を持っている。

 囮を警護していた人は必ずいただろう。

 そして、そいつは絶対に容疑者を見ている。


 そして、人避け。

 心理的な人避けは色々種類があるが……うん。


 うまく言葉にできないが、何となく俺の中では、その囮の人物を護衛していたという冒険者とやらが怪しく思える。


 俺は怪訝な表情をしながら、その秘書に尋ねると、彼女は首を振って答えた。


「主にトイレなど、一人になる瞬間のあった場所ですね。他の共通点は……少し調べてみないとわかりません」


 なるほど……。

 これで何となく合点がいった。


 だが、まだ足りないかな。


 そんなことを考えていると、俺達は巨大な門扉の前に出てきた。


 その扉は、樫の木でできた黒い両開きの扉で、隣には“誘拐事件対策本部”と書かれた立て札が掛けてあった。


「着いたわ。ここが、誘拐事件の対策室よ」

 次回、魔女の真意

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