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大魔術師ロットの魔法  作者: 記角麒麟
魔女狩り信徒
68/82

密航の決意

「くそっ!カロール!」


「……グラキエス」


 満天の星の明かりに照らされた街に、魔法を唱える二つの声があった。


 一人は息を荒げており、もう一人は感情のない瞳で、その指先をその男性に向けていた。


 息も切れ切れに唱えた男の魔法が、強力な熱をまとって少女へと襲いかかるが、しかし彼女はまるでそれをどこ吹く風とばかりに悠々とやり過ごしている。


 彼女の名前はニュラ・アルテミス。

 ギト国際調停国に、現在四人しかいない一等特級魔導武官の一人である。


「くそっくそっくそっ!」


 男は悪態をつきながら、街角を曲がった。

 しかし、そこにあったのは袋小路であった。


 彼女の緻密な計算によって誘導されていたとも気づかずに、彼はその亭亭たる煉瓦塀を見上げて、絶望の色を顔に浮かべた。

 と、その時だった。


「やぁやぁ。奇遇だねえ、アルテミス王女。それにしても、今宵は随分と威勢がいいようだけど、何かいいことでもあった?」


「……」


 その煉瓦塀の上から、見下した風な口調の、まだ声変わりが始まったばかりの幼い男声が降りてきた。

 彼の隣には、逆光で顔は見えないが、幼い二人の少女がはべっている。


「ぼ、ボス!」


 男はその少年を目視すると、歓喜の声を上げた。

 しかし少年は男を無視して、ニュラから視線を外さなかった。


「何?言いたいことでもあるのかい?」


「……あなた、誰?」


 しかし、どうやら彼女はその少年のことを知らないようであった。

 謎の少年は、そんな様子の彼女を一瞬怪訝な風に見つめてから、ぽんと手を叩いて


「そうだったね。君の記憶はまだ戻ってなかったよね?」


「まぁいいや。王女の記憶が戻ってないなら好都合。今の内に本を集めることにしよう」 


 少年はそう言うと、加えていたキセルを口から離して、ぷふぁあと煙を吐いた。

 次の瞬間には、その少年も、侍らせていた少女も、追っていた男性も、その場から姿を消していた。


「……逃げられた」




















「密航……?」


 怪訝な顔をして尋ねる俺に、ハンナ・アルトリスはコクリと頷いた。


「ええ。貴女、以前契約しましたよね?一冒険者として、協会の護衛を引き受けると」


 そういえば、そんなこともあったな……。

 てっきり忘れてたけど。


「それと密航に、どう繋がりがあるんだ?誰かにレムリアへ渡ったことが知られると、何か不味いことでも?」


「ええ、そうね。少なくともそうしてくれなければ、この国は亡ぶわ(・・・・・・・)


 眉間に皺を寄せながらそう勧告する彼女からは、どこか焦りを感じられた。


 俺は、そんなアルトリスの様子を怪訝に思う。

 何故なら、彼女が拠点として住まう東欧レムリアはギトの属国。支配下にある。

 この国が滅べば、レムリアは自由になれる。


 だが、彼女の考えは違った。

 どうやら話を聞く限り、レムリアはギトに護られているお陰で、平和であり続けられるのだそうだ。


 もともと、レムリアは貧しい国だった。

 今でもスラム街は残っているが、ギトに吸収される前はもっとひどく、暗澹としていたらしい。


 ギトが間接的にせよ政治や諸々の問題に手を貸したお陰で、ここまで立て直すことができた。

 だから、ギトが滅ぶとレムリアも危ない。


「まぁ、理由はそれだけじゃないけれど、とりあえずこれで納得してくれると助かるかしら」


 閑話休題。


「……それで、ギトが亡ぶっていうのは?」


「それなんだけど、以前貴女が捕まえてくれた連邦の魔女狩り部隊を拷問した結果、わかったことがあるわ」


「ふむ」


 俺は頷いて話を促した。


「どうやら彼ら、創造の魔女対策として、蠱毒こどくを仕掛けるみたいかしら。それも、この国全土に影響を与える規模で」


(蠱毒……呪術か)


 蠱毒とは、まあ簡単に説明すると、密室に数種数匹の虫を入れて、餌を与えずに放置し、争わせる。そうして残った一匹を最後に殺して、それを媒介に呪いを発動させるという呪術だ。

 媒介にするのは虫でなくてはならない、という規定はない。

 中には邪教が儀式と称して、奇形児達を媒介に蠱毒を使い、数万の死者を出すほどの規模の地震を起こしたという記録も残っている。


 俺は軽く身震いすると、それを起こすのに必要であろう媒介は何かと考えた。

 だがやはり思いつくのは一つしかない。


「つまり、その残党が蠱毒の媒介を入手するために、協会の人間をさらったりと色々準備してることが分かったから、俺に彼らを救い出してくれと。そういうことか?」


 俺への説明がなぜか毎度毎度と回りくどいのは何故だろうか?

 嫌がらせか何かか?


「ごめんなさいね。そっちの方が説明が早く済むものだから」


「要点だけを話すんじゃなかったのかよ」


 俺は軽く愚痴を溢すと、ついでにため息までついた。


 あぁ、面倒だ。

 本当に面倒くさい。


 けど、俺が動かないと駄目なんだよな。


「それで……お願いは聞いてくれるかしら?」


「どうせ拒否権無いくせに、いちいち聞いてくるのがうざったいわ」


 俺はため息をついて、そう皮肉を口に出した。


「貴女のそういうところ、嫌いじゃないわ」


 斯くして俺は、再び東欧レムリアの地へと向かうことになるのであった。

 次回、捜査


 魔法解説。


 カロール:熱の塊を放って、相手に火傷等の状態異常を与える魔法。中等魔法に分類。


 グラキエス:体の一部を氷点下にまで下げたミストに変質させ、冷気を作り出す固有結界魔法。使い勝てによっては、攻撃、防御の双方を同時に操ることができる。

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