訪問客(3)
その後、防音結界を取り外した俺は、メープルとジーナに近況報告をしていた。
「それでさロットちゃん!デートの件、どうなったの?どこか行った?」
「ふぁ!?」
メイドが運んできてくれたシャルロットを口に運びながら、唐突にそう尋ねるメープル。
「あら、デートですか?」
「そうそう!えーっと、確かあれは今年の……ほら、マリーナタウンに遊びに行った頃の話だよね!」
青い瞳に浮かぶ切れ長の瞳孔を開いて、興味あり気に質問してくるジーナさんの目は、どこか爛々とした光が灯っているように見えた。
アニメならきっと、その瞳には♢が点滅していたことだろう。
「実はその後日談なんだけどさ〜。ロットちゃんったら、あのジョンって男の人に襲われちゃったみたいでね!」
「ロットちゃんが、襲われたんですか……?」
「そうそう!それでそれで――」
あの、ジーナさん。目が笑ってないです。あとさっきちょっとだけ不穏な匂いがしませんでしたかねぇ?
……これ、後であいつに伝える必要があるな。
伝えておかないと、あいつの身が危険な気がする。
それから、メープルによる事の発端の説明と俺の注釈を交えて、そのデートの話をジーナに聞かせてみせた。
しかし、その結果どうなったかを俺が話して聞かせると、メープルはなんだかがっかりした風にうなだれてしまい、逆になぜかジーナさんはどこか安堵したような雰囲気だった。
「でもさ、これからってこともあるよね!?ね!?」
「無い。断じてそれはありえないから」
しかし、それでも諦める気は無いのか。メープルは食いついて引き下がらなかった。
そんな様子をジーナは微笑みをたたえながら聞いている。
俺は、そんな様子の彼女が時折見せる、目が笑ってない笑顔――名付けて『女神の笑顔(裏)』――を見つけては、ジョンの冥福を祈った。
もはや注意勧告も風前の灯なのだ。彼の貞操は諦めるしかあるまい。
それから、頃合いの時間になるまで、俺たち三人は談笑に耽るのであった。
「ふぃ……。疲れた……」
メープルのお陰で、ジーナさんにあらぬ誤解を抱かせかけたが、どうやらジョンの貞操は守れそうだ。良かった。
俺はうんと伸びをすると、ストレージから本日宿題として出されていた課題に取り組むことにした。
課題の内容は数学。内容は二次方程式。
正直、覚えてるかどうか不安だが、やってみるしかあるまい。
しばらくそうやって式を解いていると、コンコンと扉をノックする音が聞こえてきた。
「誰だ?」
扉の方を向かずに、式を解くことに意識を傾けながら、短くそう尋ねる。
すると、予想外の人物の名前が、俺の耳に伝わってきた。
「ハンナ・アルトリスよ」
「!?」
俺は驚いて、扉の方へと向き直った。
その名前もそうだが、聞こえてきたのが意外にも近くだったので、急いで回した首の骨が、少しあらぬ音を立ててしまったり、椅子からずり落ちてしまった事は、この際目を瞑るとしよう。
しかし。
「な……どうして、ここに……!?」
魔法の気配は一切しなかった。
そういえば以前、あの迷宮からスドビオのあの場所まで転移したときも、一切の魔法の気配が感じられなかったような……。
唖然としている俺を見るなり、彼女は逡巡したかのように視線を反らすと、話を切り出してきた。
「あまり時間がないから、要点だけを話すわ。貴女、今からレムリアに密航してくれないかしら?」
次回、密航の決意




