エレオノーラ・マクトルク
第74部までを六月三十日までに収めたいので、ペース上げます。
急な編入という物は、やはりどの世界でも目立ってしまうもののようだ。
おまけに、その編入生が、金髪碧眼の美少女で、それなりに有名な人材となると、周りの学生たちの注目を集めることになるのは、やはり当然と言えようか。
……その編入生が自分というのが、なんだか変な気持ちになるものなのだが。
隣町は、龍車を使って、ナーゼの森を迂回して一分ほどのところにある。
その学校というのは、どうやら俺が以前通っていた小学校の進学先の候補の一つであったらしく、俺があのまま通い続けていれば、いずれはここへやってきていたかもしれないらしかった。
……ていうか、俺が有名視されていたなんて初めて知った。
何か、変な気持ちだ。
きっと、テレビの向こうの人たちも、こんな感じなのだろうか?
「それにしても驚きましたよ。まさか私の担任していた初等部のクラスから、こんな面白い娘が生まれるなんて」
クラスへの自己紹介へと移る前。
教室へ移動する途中、教諭――エレオノーラ・マクトルク――は、微笑みながらそう話す。
「エレン先生こそ。まさかこんなところで再開するだなんて、思っても見ませんでしたよ」
彼女、エレオノーラ・マクトルクとは、以前俺がブエルの小学校へ通っていたときに、担任をしてくれていたので、面識があった。
もっとも、俺の方は完全に忘れてしまっていたが。
「そうですねぇ。私も、特位さんになったと聞いたときは、本当に吃驚しましたから。お互い様です」
そう言って、うふふと笑うエレン。
この人、一体どういう価値観でお互い様と言ったのだろう?
まあ、それはともかく。
「ほら、力を抜いて。リラックスですよ」
彼女はそう言うと、肩をトントンと叩いて、先に教室へと入っていった。
クラスの生徒達にあれこれと質問攻めにあったりしたその放課後。
俺の下へ歩み寄ってくる人影があった。
「クラスには馴染めそう?」
「……上が何考えて、俺をこんなところへ移したのか、ずっと考えてるんだがな。さっぱりだ」
短い黒髪を揺らしながら、俺の顔を覗き見るメテルに、俺はそんな返事を返した。
「そーゆーことは訊いてないんだけど……」
「友達できそう?とかいう質問なら答えはノーだ。あと、もしジョンやエリンに何かしようものなら――」
国ごと焼き潰してやる。
そう口を開こうとする俺に、彼女は掌を向けて制すると、わかってるってと呟く。
「その件は既に話は通したさ。自分はただの治部から派遣された監視員だから?まぁ君が何しようと関係ないけど。あと、怖いから殺気収めてくんない?」
食えない奴だ。
きっと、あの金眼の三白眼の弟子が何かに違いない。
俺はストレージに教科書やら何やらを放り込むと、恐らく校門のところまで待機しているのだろう龍車へと足を向けた。
「ところで、今日の予定を聞いておきたいんだけど」
「特に用事はないぞ。当分は暇になるだろうし、リハビリを兼ねて散歩するか、森で魔物狩りか、もしくは分身と徒手格闘の訓練でもするか。それが終わればゴロゴロするだろうし、学校にいる間も特にそれといった用事は今のところ……あ」
廊下を並んで歩きながら、メテルに今後の予定を話していて、ふと気づく。
「どうしたの?また殺気立っちゃって?」
俺の目の前に回り込みながら、とぼけたふうに質問してくるメテル。
「なあ。魔女狩りの対象って、俺も含まれてるんだよな?」
「そうですね。その通りです」
今まで、俺は自ら行動を起こしたことは無かった。
全ては、流されるままに動いていたに過ぎない。
もし、そんな俺の行動パターンを上の連中とやらが知っていたのだとしたら?
俺をここに左遷した理由は、そこに隠れているのか?
魔女狩りとは、軍事バランスの調整。
評議会の連中は、魔女の暗殺を目論んでいる。
だが、俺は彼らと対峙しても、かすり傷一つ負わないだろう。
なら、俺をこんなところに隠す理由は、魔女狩りではなく、別の理由。
もし仮に。
もし仮に、俺が委員会に戻ったとしたなら、次はどのような展開が待ち受けていた?
メテルは治部から派遣された監視員だと言っていた。
それを俺に口外するということに、どのような意味が?
ジョンは確か、“調停委員から誰かが俺の今後の予定を告げに来る”と言っていた。
その誰かに治部の息がかかっていた。
治部はテロ対策とかに動いている。
このシーンでテロが起こるとしたら、間違いなく魔女狩り。
被害の削減の為にここまで連れてきた?
いや、違う。
たぶんあの眼帯野郎は、評議会を戦争で打ち負かし、取り込むつもりなんだ。
だから俺をここに左遷した。
ブエルの街はギトの北端に位置する。
さらに国境の近いこの隣町であるリヒトの街は、目と鼻の先に国境線が引かれていた。
その先にあるのは評議会連邦。
次の魔女狩りを機に、連邦に切り込む作戦か。
大義はテロ対策?それとも国民保護とかそんな感じか?
連邦は世界で五位以内に入る軍事国家だ。
それを、今勢力を拡大し続けるギトが取り込む。
アグニ・ゼルべノフ。たぶん、世界征服でも狙ってやがるな。
魔王にでもなるつもりか?
「メテル、さっきの取り消し。このまま調停委員会の本部まで行く」
「許可できません」
これで、確信が行った。
俺の目の前に立ちはだかり、一丁の拳銃型デバイスをこちらへと向けるメテル。
ドラグフォン……。しかも、マガジンからは魔力撹乱の式が込められてる……。
(当たりか)
現在の俺の体の構成材質の殆どが魔力でできている。
まあ、そりゃ魔力喰いを連続的に使用していたからな。当然だろう。
だから、今の俺に魔力撹乱を使われると、たぶん体の二割は犠牲を得ることになるだろう。
二割か。キツイな。
「それは、『眼力』の指示か?それともアブルの指示か?」
メテルの呼気や呼吸の音、筋肉のきしむ音から、表情の変異まで、全てに意識を集中させる。
メテルがトリガーに指をかけた瞬間、俺は動く。
大丈夫だ。
銃の奪い方は、漫画で読んだ!
メテルはギリリと歯を噛みしめると、フッと力を抜いて、空気を吸い込んだ。
瞬間、俺の頭の中に警鐘が鳴り響いた。
「っ!?」
咄嗟に、バックステップを踏んだ。
刹那、先程までに俺の胴体があった場所に、一閃の拳が空を切る。
ドラグフォンは囮。
本命は、鳩尾を狙って、俺の意識を刈り取ることだった。
「あれぇ?おかしいな……。巧く行ったと思ったんだけど」
その腕には、小規模だが防御魔法の気配が漂っていた。
しかも、高速で回転している、対物理障壁。
見ればその足にも、同じ加工がなされている。
かなり高度な魔力操作技術だ。
「やっぱり、只者じゃなかったか」
只の中学生に、ここまでの戦闘力はない。
治部のお使いというからには、まあそれなりの戦闘力は保持しているとしてもおかしくはない。
あのりんごの木の下で感じた厄介そうな気配は当たりだったな。
いや。こうもぽんぽんと当たりを連発していると、この先の展開が怖くなってくるな。
LUKが尽きるのも時間の問題かもしれない。
――と、その時だった。
「コラッ!廊下で騒いではいけません!」
聞き覚えのある声が、二人の耳に届いた。
そして、俺とメテルの二人の頭に一発づつげんこつが振り下ろされる。
「うっ」
「あっ」
たんこぶができるかも、と一瞬思ってしまう一撃を食らい、俺達は頭に手を当てて悶える。
「メテルさんも!そんな危ないもの振り回しちゃいけません!これは先生が没収します」
そう言って、声の主――エレオノーラ・マクトルク――は問答無用とばかりに、メテルのドラグフォンを取り上げた。
「せ、先生!返してよ〜!」
「いけません!二人にはおしおきが必要ですね」
次回、ギトの謀




