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大魔術師ロットの魔法  作者: 記角麒麟
魔女狩り信徒
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りんごクッキー

 どうやら、俺が目覚めるまでの七日間、色々なことがあったそうだ。

 その中で最も話題とされたのが、俺が創り出した、識別名称“被造物クリケリオス”についてである。


 通常、魔法によって作り出されるものと言うのは、周囲の環境を操作して、間接的に発生させることで、存在している。

 具体例を挙げると、例えば水。これは、大気を冷却させることで、飽和して発生した水蒸気を、冷却時に引き抜いたエネルギーを用いて収束し、一点に固めることで発生させている。

 つまり、別に無から生み出しているというわけではない。


 だが一方で防御魔法や風魔法、熱魔法といった、エネルギーを無から生成する必要があるものは、まあ、これも実は無からではなく魔力というエネルギーを用いているわけだが……。

 いずれにしろ、魔法で何かをするには、魔力で存在を固定し続ける必要があるのだ。


 しかし。

 俺が使う創造魔法は、魔力を用いるものの、一度発生させてしまえば、それが元からそこにあったかのように振る舞い、結果魔力で固定し続ける必要がなくなるのだ。


 だが、このプロセスにもまだ謎が多く残っており、もし仮に術者が死亡、もしくはそれに近い昏睡状態に陥ったとき、被造物クリケリオスがどうなるのかは、一切不明である。


 この魔法が、俺の意識とかそんなものに深く影響を受けているかもしれない以上、俺の昏睡状態というのは、この国の防衛から何までに影響を与えていた。


 まぁ、だからこそ、装備の開発なんかは、俺は案を出すだけまでに留められていたのだが。

 それでも、足りない間は、俺がサンプルを生成して使用するしかないけどな。


 ……と、そんな諸々の話を、今しがた見舞いに来てくれたジョンから聞いたわけだが。


「笑わないでください!こっちは大変だったんですからね、隊長?」


 何か大袈裟だなぁ、と思いながら、ニコニコと話を聞いていると、呆れたように肩をすくめながら、彼は言う。


「はいはい」


 聞けば、俺が完全に頭から忘れていた遺跡調査の件の報告も、全て彼が請け負ってくれたそうだ。

 でもまあ、委員長なんだし、どのみち報告するんだから、自分の目で見て正確に報告できた分、えーっと……まぁ、良かったんじゃないかな?本人は過労死寸前の様な顔をしているけど。


「それじゃあ、報告は以上です。この後、調停委員の何人かが、隊長の今後の予定について話しに来ますので」


「ん」


 俺は短くそう告げると、ちょっとした悪戯心で『天使の笑顔』を彼に向けた。

 すると、ジョンは顔を紅潮させて、し、失礼しますとつぶやきながら、その場を足早に離れた。


 うん。なかなか面白いな、この技。



















 昼下がり。

 俺は少し体を動かすために、中庭に出ていた。


「懐かしいな……」


 邸で暮らした年数よりも、外で暮らした時間の感覚の方が長いような気がする。

 これが郷愁というものなのだろうか?

 外にいた頃は、そんなものを考える事なんて……意図的にしないようにしてたからな……。

 なんたって、急に兵部の方へと赴いたんだ。気まずくもなるさ。だから余計、手紙を書くことが億劫になっていった。


 ……駄目だな、俺は。

 おばあちゃんが死んで、皆を守るために強くなりたいと思ったものの、今はそれができるかどうかわからない。


 権力はないし、知力も知恵も半端。

 単純な武力だって弱いし、一つあるとすれば、創造の魔女の権能くらいなものだ。


 ――単能であるな、汎用であれ。


 いつかのカギネの言葉を思い出す。

 思い出すたび、自分がまだ子供みじゅくであることを思い知る。


 俺はため息をつくと、西側に設置された温室へと足を向けた。


 温室の扉を開けると、段々と涼しくなってきた外よりかは幾分かマシな、暖かな空気が、俺の頬を撫ぜる。


「ご友人はもうよろしいのですか、お嬢様?」


 温室に咲いている亜憂曇あうどんの小さな白い花を眺めていると、奥の方から、老年の女声が聞こえてきた。

 母ウェンディの専属メイドであるアルクだ。


「ええ。少し小言を貰いましたけど」


 口調に気をつけながらそう返答すると、ニコリと彼女に微笑みかける。

 正直、こういうところでも気を使わないと、後でウェンディにチクられて痛い目を見るのだ。それは嫌だ。


「顔が引きつってますよ。肩の力を抜いて、なるだけ相手を意識しないようにしなさい」


「はい」


 難しいことを言う。

 魔力の微細な操作ならいざ知らず、こういった表情の訓練レッスンはサボりまくってたから、あまり得意ではないのだ。

 俺は心の奥底でため息をつきながら、しかしそれを悟られまいと光線の歪曲魔法を併用してみる。


「そうやって、幻覚魔法を使って誤魔化すのは、悪い癖ですよ?フローレス様が見たらなんと仰るか……」


 そこでおばあちゃんを出してくるのは卑怯だ!


「すみません、以後気をつけます」


 俺はそう応えると、さっさと温室に背中を向けた。


 何だかこの人は苦手だ。

 他のメイドと違って、面白くない。

 昨日だって、俺の渾身の『天使の笑顔』にそよとも靡かなかったんだから。


「ああ、そうですお嬢様。これを」


 さっさとその場を出てしまおうとする俺を呼び止めて、彼女は一切の音を立てずにこちらへと近寄ってきた。

 その手には、バスケットが提げられていた。


「それは?」


「りんごのクッキーです。お出かけするなら、おやつにでもお食べください。ナーゼの森のりんごの丘なんて、いいかもしれませんね」


 でも、たまにこういう事をしてくれるから、嫌おうにも嫌えないんだよね、彼女。


 俺はお礼を言うと、早速ナーゼの森へと足を運んだ。

 次回、ちょっと本気の『天使の笑顔』


 魔法解説。


 幻覚魔法:光線を歪曲させて、実際とは違う形に見せる魔法。幻に関する魔法には主に三種類の区分けがあり、実際の光線を歪曲させて、相手に誤認させる『幻覚』、相手の視神経の伝達情報に、人為的に齟齬を生じさせる『欺瞞』そして、光の波長を操作して、魔法の効果を第三者にも自覚させる形で虚像を生み出す『迷鏡』である。

 幻覚魔法は中等魔法に分類される。


 話は逸れるが、魔物であるサキュバスがもつスキルには、《催淫》《魅了》《魅惑》《幻惑》《搾精》《欲情》《快楽》《限界突破》《話術》《絶頂》《演技》などがあるが、夢魔はこれらのスキルを『幻覚』や『欺瞞』、『迷鏡』などの魔法と併用して、餌となる人間の嗜好にあった姿に変身している。

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