ゲシュペンスト(2)
本当は6月1日に掲載予定だったんですが、間を空けすぎて内容を忘れさせてしまうと何か申し訳ないなぁ……。って思ったので、今日から再開します。
因みに投稿ペースは現時点では7月15日までは周一日、土曜日の午前0時に掲載というところまでは確実です。
それでは、どうぞ。
ノースリーブのワンピースの上から、揺ったりとした丈の長いコーディガンを羽織った姿に着替えると、俺は部屋の窓を解放した。
夜風に髪が揺れて暑苦しい熱を吹き飛ばしていく。
「……行くか」
みんなには内緒で悪いが、これは俺の問題なのだ。
付き合わせるわけにはいかない。
俺は窓枠に足をかけると、二階の窓から外へと身を投げた。
空を飛びながら、俺はとある場所を目指した。
ここがあそこであるならば、あるはずだ。あの、白い塔が。
暫く進むと、昼間にオークを潰した峡谷に出た。
(たしか、この先がパシフィス地峡だったか)
──回想──
「「ゲシュペンスト」」
「それが、この先にいる今回の目的か?」
訪ね返すと、二人はこくりと頷いた。
「この先、パシフィス地峡には、数十世紀も前に廃れた廃教会があるんです」
「それで、以前そこを通った行商人がみたんダヨ~♪」
「見た?何を?」
「一説によると、太古の亡霊だってサ~♪それがもしかしたら魔物だったりしたら危ないからってことで、これから調査に行くところ立ったんだケド……」
「今日は無理っぽいんで、また後日って話になったんです」
「太古の亡霊……」
「ま、今回のオークの騒動のお陰で、その魔物はかなり強いって予想もできた訳ですし、準備が整ったらまた行きますよ」
──回想・終わり──
今回のあのオークたちは、いつもはこの先のパシフィス地峡に集落を築いて生活をしている。
基本、ちょっかいさえかけなければ、騒動は起こさない静かなやつらだったらしい。
それがいきなり、こんな狭いところを行軍してくるものだから、それなりの魔物が出没した可能性はある。
その魔物につけられたコードネームが、ゲシュペンストという訳だ。
そして、なぜ俺がそんなところへ向かおうとしているのかというと、それには理由がある。
その亡霊というのが、もしかすると『白の兄』である可能性があるからだ。
あの夢に出てきた塔。
見方によっては、確かに何かの教会の様にも見えた。
彼はあそこで寿命を迎えた。
俺は確かにあそこに居たことがある。
ゲシュペンストに会えば、何か思い出せるかもしれないのだ。
暫く飛んでいると、下に焚き火が見えた。
おそらくパシフィス大陸からやって来た行商人か何かだろう。
そんなことを考えていると、ふと腹の虫が鳴く声が聞こえた。
(そういえば、夕飯まだだったな……)
少しお供させてもらおうか。俺はそう考えると、彼らの方へと降りていった。
(おかしいな。人の気配がしない)
俺はロンを可視化して辺りを見渡してみるが、そこには人一人としていないことが確認できた。
「テントも焚き火のそのままだし……」
何かあったのか?
そう思って、その周囲をぐるりと歩いてみることにした。
すると、ふと視界に何か転がっているのが見えた。
「ひっ!?」
転がっていたのは、全身から液体が抜けきったかのような、パサパサになった人の体であった。
(これは、いったいどういう……)
ふと、脳裏に危険信号が閃いた。
俺はその直感に従って、防御魔法を二重に展開した。
──カキン!
「こいつは……!」
振り返ってみると、そこにいたのは虚ろな目でナイフを何度も何度も魔力のシールドに打ち付けているゾンビの姿だった。
(もしかして、ここに屍霊の祭壇が設置されているのか!?)
俺はインビジブルを発動させると、つぎつぎと迫り来る奴らに向かって斬りつけていった。
ネクロシアターが作動しているということは、ゾンビを操るための魔力の供給ケーブル的なものがあるはずだ。
俺は魔力の可視化を行うと、そのケーブルのようなものに向かって魔力喰いを発動させた。
しばらくすると、ゾンビは全て地に臥してしまった。
「しかし、なぜこんなところに……」
ふと、そう呟いた俺の脳裏に、ひとつの言葉が甦ってきた。
──『『ゲシュペンスト』』
もし、このゲシュペンストが白の兄だったのだとしたら?
魂だけとなった彼が、もとの肉体に戻るために、何らかの方法を利用した?
ネクロシアターは死者をあたかも甦らせたように見せて、術者がそれを傀儡のように操る儀式魔術だ。
もし、魂だけになった存在が、それを発動できるのだとしたら……それは確かに、復活の可能性もありうる。
ゲシュペンストが白の兄でなかったなら?
その可能性がもっとも高いと言えるが──いや、そもそもネクロシアターをゲシュペンストが使ったという証拠はない。
また違う人物がそれを利用しただけの可能性もある。
……とりあえず、ネクロシアターの場所を特定してみよう。
そうすれば、何かわかるかもしれない。
そう思った俺は、魔力反射の法を発動した。
しかし──。
「術が消えてる……?」
その反応は、どこにも見当たらなかった。
では、あのゾンビはネクロシアターに起因するものではない?
いや、ちゃんとケーブルは見えていた。
なら、場所を知られることを恐れた術者が、術を中断したのか?
──ぐぅぅ。
ふと、腹の音に思考の海から我に帰った。
「はぁ。腹へったなぁ……」
伸びをすると、その場にクッションを創ってその上に倒れた。
「そろそろ何か食べるか」
俺は創造魔法を使って、適当にハンバーガーを用意すると、それにかぶりついた。
食べながらサイドテーブルにコーヒーも用意して、あとポテトも設置した。
食事を終えると、テーブルとゴミを片付けて、再びクッションの上で仰向けになった。
「そろそろ戻った方がいいかな」
あんまり長いこと外に出ていたら流石にバレるだろうし。
俺はもう一度伸びをすると、転移魔法を使って、宿の部屋に帰還することにした。
次回、ゲシュペンスト(3)




