オーク・ロード(1)
昼食を済ませた俺たちは、とりあえず今日は宿をとって、明後日帰国しようという話になった。
レヴィアさんは、気になっていたニトンというスイーツがそのレストランには売られていなかったことにショックを覚えたのか、その後彼女は「ニトンぜったい見つけてくる!」と一声叫んで、一行から離れることになった。
俺はレヴィアさんが一人で出歩いて大丈夫かと心配していたが、エリンがそれなら私が着いていきますと宣言したので、エリンも今はレヴィアさんと共に居ることだろう。
さて。
そんなこんなで、俺とロット・マクトリカ隊長は二人きりになってしまったわけだが……。
別に何をするということもないので、二人がどこかへ行っている間に、宿を決めておくことにした。
閑話休題。
俺がロットに代わって、冒険者ギルドが経営している宿の二部屋にチェックを入れていると、ギルドの中に駆け込んでくる足音があった。
「た、助けてくれ!」
振り向いてみると、駆け込んできたのはどうやら、ボロボロのプレートメイルに身を包んだ、三十代くらいの男性だった。
(今時プレートメイルだなんて珍しいな)
そんなことを思いながら彼を見ていると、その男はぜぇぜぇと荒い息を繰り返した。
「と、とりあえず落ち着け!おまえ、『盟友の風』ってパーティの奴だよな?何があった?」
すると、近くにいたガタイのいいオッサンが、飲みかけのエールを机に置いて彼に近づいた。
「ああ、すまない……」
彼は深呼吸をすると、ギルドの店員が持ってきた氷水をがぶ飲みして、息を調えた。
「それで、何が出たんだ?」
さっきの大柄な男が、ボロいプレートメイルを纏った男に、再度そう尋ねた。
すると、『盟友の風』と言われたパーティメンバーであるらしい彼が、厳しい顔つきでこう言った。
「……オーク・ロードの変異種が出たんだ。俺はここに伝えるために一人で抜けてきた。皆はまだ戦っている。だから誰か!誰か助けてくれ!」
オーク・ロードというと、あれか。
オークの最上位種の魔物だった気がする。
変異種は確か、その種の中でも異常に強くなった個体のことだったはず。
(オークか……)
ただのロードなら七等クラス、変異種なら六等クラスといったところか。
出世型オークの最終進化形態。
普通の冒険者にはちょっとキツイだろうか?
「どうします、隊長?」
俺は何か思案顔をしていた金髪の彼女に、とりあえずそう尋ねてみることにした。
「知ってるよ。俺たちなら、被害を最小限にできるってんだろ?」
つまり、助けるってことか。
優しいな。
この前はあんなに俺のことを苛めてたくせに。
「わかりました。では、その依頼は俺たちが引き受けます」
俺はため息をつくと、一歩前に出てその旨を伝えた。
すると、『盟友の風』の人が怪訝そうな顔をして、所属を尋ねてきた。
「し、失礼。貴方は?」
「ギト調停委員会の者です」
ざわり、とどよめく声が聞こえた。
「そ、それはありがたい!」
彼は俺の所属を聞くと、即決でそう答えた。
しかし、次の瞬間。
彼はとんでもないことを口走った。
「でも、いいんですか?」
「いいって、何がですか?」
「子連れのようですけど……」
すると、その声を聞いた瞬間。
隣でダン!と足を踏み鳴らす音が聞こえた。
「誰が子供だ!」
いや、誰がどう見てもあなたは子供でしょうよ?
きっと、ここにいた誰もがそう感じたことだろう。
ロットはそう叫ぶと、フン!と鼻を鳴らして、ブツブツと文句を垂れながらギルド玄関までズンズンと進んでいった。
彼女の前にいた人の海が、まるでモーセが海を割ったみたいに退いていく。
「「……」」
そしてやがて出入り口の前までやって来ると、ロットは足を止めてこちらを振り返った。
「何をぐずぐずしているんだジョン?早く来い!」
そして彼女は扉を蹴り開けると、その目的の魔物がいる場所すら聞かずに、その場を後にした。
閑話休題。
「ほんっとにもう、失礼な奴だな!」
金色の髪を追いかけて外に出ると、彼女は両腰に手を当てて愚痴を吐いた。
「お前は……ジョンは、俺が子供のように見えるか?」
彼女は立ち止まると、振り返らずにそう尋ねた。
その様子はさながら、何か焦っているように見えた。
だが、その真意が理解できなかった俺は、余計なことは言わない方が良いだろうと、肩をすくめて話題を変えることにした。
それに、このまま話を続けていたら、なんだか彼女が可哀想だと思った。
「そんな事より隊長?場所はわかってるんですか?」
「そんなことって……まぁ、そうだな。場所くらい聞かなくてもわかる」
ロットはそう解答すると何か魔力を練り始めた。
(何をするつもりだ?)
そう思っていると、彼女はその練った魔力を薄く薄く引き伸ばして、巨大な地図を作り上げた。
「これは……地図ですか?」
「それ以外に何に見える?……っと、ここだな。ここから約二キロ東に進んだ峡谷か。ここなら、転移で一発だな」
彼女はそう呟くと、俺の方へ手を差し出した。
その手に戸惑っていると、彼女はムスッとした表情で、手を掴めと催促してきた。
「今日はいつもより頼りないな、ジョン?」
「まだ調子が戻らないんですよ」
俺はそう言いつつ、彼女の掌に、自分の手を重ねた。
「うわぁ!?」
次の瞬間、体を強い波に揺さぶられるような感覚がして、思わずたたらを踏んだ。
周りを見渡すと、そこはもう先程までの街中ではなく、殺風景な切り立った崖の上であった。
相変わらず、転移というものは慣れないな。
そんな感慨に耽っていると、ふと手を引く感覚があった。
「行くぞ、ジョン」
彼女はそう言うと、その絶壁を飛び降りた。
「へ?」
それも、俺の手をガッシリと掴みながら。
「うわぁぁぁあ!?」
「うるさい!ちょっと黙れ!耳元で叫ぶな!」
彼女はそう叱咤すると、地面を覆い尽くすほどの無数のオークの群れと、それに向かって魔法攻撃を仕掛けているレイドを見つけた。
「ジョン、中に一発ぶちこんでくれ!」
「はい!?」
「そこに着地するから、穴を開けろって言ってるんだ!」
ロットはそう指示しながら、丁度真下にあるオークの群れに指を指し示した。
用語などの一部説明。
・特位制度(特別階位制度)
ギト王国が設けた制度の一つ。
元々、冒険者を国から独立した便利屋として扱っていたが、ギトはそれとは別に、冒険者としてありながら、兵部省に属する便利屋として取り入れることにしたため、作られた制度。
簡単に言えば、次のようになる。
冒険者→国属しない、自由な便利屋。
↑
↓
特 位→国に属する、半自由な便利屋。
・出世型
ある一定のレベルに達すると、姿形を変えて進化するタイプの魔物の総称。
例)リザードマン→ドラゴニュート→龍人→ドラゴン→竜神
・魔女狩り
古代の魔女の存在により、世界の軍事的バランスの不均衡によって発生する戦争の発動の防止として、評議会連邦の学者集団が示した対策。
その内容は、古代の魔女の暗殺、及び封印である。
・古代の魔女
『白の兄』が持つ異能『偉大なる御霊の主』によって、始めに生み出された最初の六体の人形たち。
以下、その権能
・創造の魔女 想像力と魔力を糧にして物体を創造することができる。
・言霊の魔女 ロゴスの発言により、運命を改変することができる。
・識欲の魔女 対象の知識欲とロゴスを糧に、対象のディープキスを発動鍵にして対象の知りたい知識、知恵を知り、伝えることができる。
・目示の魔女 相手に幻影を見せたり、物体を透化させることができる。
・触発の魔女 触れた相手の痛覚、触覚を思いのままに操ることができる。
・幻香の魔女 権能による特殊な匂いの刺激により、対象を洗脳することができる。
・現在の勢力
古代の魔女を所有している
→ギト国際調停国(創造の魔女・ロット・マクトリカ)
→魔法文明向上協力委員会(言霊の魔女・ハンナ・アルトリス)
→ニュルンベルク(識欲の魔女・トースト=パツィルーィ)
→???(目示の魔女・???&???)
古代の魔女を所有していない
→旧ノスポール帝王
→評議会連邦
・魔女狩りの現状
→評議会連邦が協会に対し、ハンナ・アルトリスの暗殺を決行したが、ロット・マクトリカらの活躍によって一部阻止された。
次回、オーク・ロード(2)




