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大魔術師ロットの魔法  作者: 記角麒麟
魔女狩り信徒
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魔女狩り

「ん……っ……くっ……んはぅ……くはぁ……」


 とある宿の一室。

 白い壁紙に草花の柄が描かれたその寝室に、ぺちゃぺちゃと厭らしい水音が響く。


「……どうだ、何か聴こえたか?」


 そのベッドの上に横たわるのは、珍しい鈍色の長髪を携えた少女。彼女は彪型の獣人に抱かれて、その口から白い糸を引き、ぼぅ、という表情をしている。


 彼女はその小さな獣のような耳をピクピクと震わせると、呪力を纏った声音でゆっくりと口を開いた。


「……東欧、レムリア王国の首都……スドビオ……。評議会連邦が……魔女狩りハロウィンを決行……した、様です」


 魔女狩りとは、古代の魔女が現出した時、この世界はそのパワーバランスの不安定さ故に、崩壊するだろうという、その国の学者集団が示した、ひとつの警告に基づく行為である。


 魔女がどこかひとつの国に荷担した場合、その国は絶大なる力を手に入れることになる。

 故に、パワーバランスが乱れ、最悪この世界の均衡は崩れてしまうだろうという憶測。


 事実、ギト調停国に戸籍を持っている例の幼いアルト・ヘクセが、その国にもたらした恩寵は絶大である。

 いくつもの国を、実質的な属国へと変え、その強大さゆえに破滅を恐れた小規模な国家が自ら保護国と成り下がった。


 これを危険視したのであろう。

 その評議会連邦は、例によって魔女狩り作戦を結構に移したらしい。


 というのも、彼らは元より魔女が現れた際に対して、いち早く対応できる様にと以前からそういった訓練や情報収集をしていたらしいのだが……。


 ニュルンベルクは、少しの間考え込むと、ここからは時間との勝負になるだろうと結論をつけた。


(俺が俺であるために、俺は神を殺さなければならないのだ)


 ずっと、ノスポールの彼の王にその命を聞いたときから。

 彼はずっと忘れずにいたのだ。


「……ベルク?」


 しまった。少し考えすぎていたか。


 彼は薄い笑みを浮かべると、彼女のその頭を撫でた。


「他に、何か聴こえたか?」


 彼はその少女──識欲しきよくの魔女トースト=パツィルーィ──にそう尋ねた。


 彼女はそんなニュルンベルクの首に腕を回すと、


「補充……してくれますか?」


 と言って、その男の口に自分の唇を重ねた。


「──」


「──」


 識欲の魔女。

 その権能は、恩恵ギフト聡慧なる鬼耳パイモン』とよく似ている。

 この権能は、唾液の交換を行った者の知りたいことを聴き、相手に伝えるという能力である。


 ロゴスを伝えるのは言霊。言葉には魂が宿る。言霊を紡ぐのは舌。そして、ロゴスを聴くのは耳である。


 故に、権能の発現にはこの行為が必須なのである。


「……っぷは……」


 そして、この行為が長ければ長いほど、より正確な情報を識ることができるのである。


「……ひょっほちょっとひゅうへい(休憩)……はへへくらはいさせてください……」


 そして、発動のタイミングは、魔女本人が識りたいと意識的に願った瞬間である。


 故に、そういう風にしてより正確な情報の取得を行うという方法もあるのだ。


 トーストは口元を拭うと、呂律の回らない舌でそう頼んだ。


 ──コンコンコン。


 しばらくすると、部屋の戸をノックする音が聞こえてきた。


「お客様、お荷物が届いています」


「わかった、取りに行く」


 ニュルンベルクは中居にそう告げると、少女の頭に掌を乗せた。


「すぐ戻る」


 そう言って手を離そうとすると、彼女はそれを掴んで首を横に振った。


「私も、行きたいです」


「……わかった。マントの中から出るなよ?」


 彼は彼女にそう約束させると、部屋の入り口まで足を運んだ。


 扉を開けると、エプロンドレスを纏った中居が、両手に鞄を提げて立っていた。

 顔は髪や三角巾のせいでよく見えないが、その下から何か異様な気配を感じたニュルンベルクは、魔力反射の法を彼女に用いた。


「……なんだ、ハトリか」


「気づかれてしまいましたか」


 鳥ベースの半獣人族の彼女は、にこりと笑うと、失礼しますと一声かけて、部屋の中に入った。


 ハトリ・ブラウン。

 彼女は、ニュルンベルクのテロリスト時代からの愛人である。


 彼がテロリストを抜けて特尉に任命されるその数か月前に、身の危険を感じ始めた彼が国外逃亡を勧めた女である。


 実に、数年ぶりの再開であった。


「元気だったか?」


「えぇ、お陰さまで苦労はありませんわよ」


 彼女はそう答えると、近くのソファに鞄を置いた。


「どこで俺の話を?」


「知ってるでしょう、私の恩恵ギフトを」


「あぁ、そうだったな」


 ハトリは恩恵ギフト持ちである。

 その能力の名は『鳥瞰図ちょうかんず』。

 鳥類であればどんな鳥の眼の視覚情報でも借りることができるのである。


「ということは、こいつのことももう知っているわけだ」


 ニュルンベルクはそう言って、マントの中に隠れさせていたトースト=パツィルーィを彼女に見せた。


「えぇ、もちろんですとも。お初にお目にかかります、識欲の魔女。会えて光栄ですわ」


「どうも……」


 トーストは彼のマントの端を固く握りながら、軽く会釈を返した。


「それで、荷物とは?」


 そう尋ねると、ハトリは持ってきていたその鞄の錠を開けた。

 そこに入っていたのは、二丁の自動拳銃と、六種類の弾倉であった。


「これは……!」


「貴方の後輩さん達からのプレゼントらしいですわよ」


 その魔具は、ドラグフォンと呼ばれている。

 弾倉のような形状をしたメモリーに記載されている魔法式を、本体に接続されている特殊な宝珠によって読み取り、魔法を発動する。


 一つのメモリーに一種類までしか魔法式を搭載できないのが欠点ではあるが、魔法の発動時間だけを見れば、普通に宝珠を使って魔法を発動するよりも早く、魔法を発動させることができる。


 それが、二丁も……。


(彼奴ら……高かっただろうに……)


 彼はそれを受けとると、片方をトーストに渡した。


「ベルク、いいんですか?」


「あぁ。護身用に持っとけ。ハトリ、ありがとう。彼奴らによろしく伝えておいてくれ」


 彼はそう言うと、六本のメモリーをマントの内ポケットに仕舞った。


(後で仕分けしておこう)


「わかりましたわ、アナタ。では、用は済んだのでそろそろ帰りますわ」


「あぁ、気をつけて」






















 ハトリは部屋を後にすると、階段下へと降りて行った。

 そこには、一人の少年が口にキセルをくわえながら柱に背を凭れていた。


「どうだった、魔女の様子は?」


 彼は火のついていないお飾りのキセルを口から離すと、降りてきたハトリにそう尋ねた。


「まだ目覚めたばかりの様子でしたわ。しかし、あの様子ですと、彼が動くのももう時間の問題ですわね」


「そ。なら、ボクたちもそろそろ宝探しに出かける準備をしないとね」


 彼はそう告げると、再びキセルをくわえて、その場を後にした。


(宝探し……ねぇ……)


 彼女は小さく行きを吐き出すと、これからの事に思いを馳せた。


(過重労働にならなければいいけど)

 次回、胎動

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