金色の悪魔
曇り空の下。その地の上空には、メカメカしいローブを羽織った軍勢が空中浮揚していた。
「魔法式超電磁砲の着弾を目視。防がれました」
「計算通りだ。第二フェーズへ移行しろ」
その中の一人が、一際目立つその男に告げると、男はそう言って片腕をスッと掲げた。
その合図を受け取った他のローブの男は、自分の部隊に何か指示を出すと、蜘蛛の子のように散っていった。
さて、魔女の暗殺はしくじったことは計算の内だ。
おそらく、あの忌まわしき魔女のことだ、その権能を用いて、暗殺を回避する仕掛けを元から仕掛けていることは予想の範疇。
ハンナ・アルトリスは言霊の魔女。
その権能は、望んだ事象を、言葉として紡ぐことで発現させるもの。
だが、それには三つの制約がある。
それは、同時に二つ以上重ね掛けできないという点が一つ。これは、言霊の発動中に、別種の言霊を仕掛けられないということだ。
例えば、『殺されない』という言霊の権能を発動するとしよう。すると、実際に殺傷行為が執行されるまで、その権能は効果を保ち続ける。
だが、言霊は二重に掛けられないので、この『殺されない』という言霊が殺傷行為が執行されるまで効果は保ち続けている間は、別の望み──例えば『裕福になりたい』などの言霊の発現は不可能となっている。
この言霊の効果をキャンセルするためには、その願いを叶え終えることだけしか方法はない。
二つ目は、言霊の効果は、二度続けて発動できないこと。
同じ効果、結果をもたらす言霊は、連続では使えない。
そして最後の制約は、次の言霊の発言には、一週間というクールダウンが必要ということ。
例えば、先ほど例に出した『殺されない』という願いが、第二の制約によって失効すると、次に別の言霊を発言するまでには、一週間のクーリング期間が必要となるのだ。
先程のマギク・ロアの放射により、彼女が仕掛けたと予測される『暗殺回避』の言霊は消し去られた。
恐れるべきものは、もういない。
……が、しかし。
(何か、引っ掛かる……)
男は頭の片隅にあるしこりのような違和感を覚えた。
「統長……?」
先ほど、マギク・ロアの着弾を観測した男が、そんな様子の男に怪訝そうに話しかけた。
「何だ?」
「いえ、何か引っ掛かっているご様子でしたので」
男はその言葉を聞くと、そうだなと一言置いて、その男性に問いかけた。
「マーベ。お前はどう思う?」
「どう、と申しますと?」
「ロアを防いだものの正体だ」
そう言うと、マーベと呼ばれたその男から、驚いたような顔をした気配がした。
マギク・ロアは、高密度に圧縮された電気化された魔力砲を放つ兵器である。
その表面温度は摂氏約1000度にも及ぶ。
その高熱のエネルギーが放たれたのにも関わらず、それが当たったであろう協会の壁には、煤一つついていない。
摂氏1000度ともなれば、並みの煉瓦では耐えられるはずもないし、そもそもその運動エネルギーを鑑みれば、壁は破壊されていてもおかしくはないのだ。
それに加え、高密度に圧縮されたこのマギク・ロアの威力は、如何に優れた防御魔法であろうと蹴散らすほどのエネルギーを有している。
これは評議会連邦の開発部が保証してくれている。
それを防いだのは、いったい……?
──と、その時だった。
「わーっはっはっはっはー。遠路遥々ご苦労だったな!……えっと、これでいいのか?」
男たちの耳に、ふざけたような棒読みの笑い声が響いた。
声のする方を向けば、そこには調停委員の制服に身を包んだ、金髪の幼い少女が浮遊していた。
「誰だっ!?」
「誰だっ!?」
「誰だっ!?」
隊員達が、その謎の少女に向かって、口を揃えてそう叫んだ。
すると、その少女は両拳を腰に当てて仁王立ちをしながら、こう答えた。
「ガッ〇ャマン!」
「……は?」
え?何それ?ふざけてるのか?
いや、考えろ……。これは、何かの合図なのでは?
だとしたらなんだ?
音声認識タイプの魔法道具の起動コマンドか?
男は悩みに悩んだ末、全隊員に防御魔法の展開を急がせた。
すると、その少女は何やら片手を耳に当ててヒソヒソと誰かと通信を始めた。
もしや、ギトへ援軍を依頼して……いや、それならここに出てくる前に済ませているはず。
だとしたら、通信相手は誰だ?
援軍が来ていたとするなら、あれはその合図……?
いや、そうすると時間的におかしい点がある。
唯一解消するなら、すでにここへ攻めてくることを予知していた?
まさか、言霊の権能!?
そう思い、男はその謎の少女の通信の内容に耳を傾けた。
「え、わからない?……いや、誰だっ!が三回来たら普通言うでしょ!……は?……うん。それはたしかにそうだな……はい。ごめんなさい、もうふざけません。……え!?誠意?そんなの要らんだろ?……わかりました、もうふざけません、すみませんでした!はい、通信終わり!」
……やはり、何かの作戦?
そんな様子の彼女にしばし唖然としていると、その少女ははぁ、とため息をついて、肩を竦めてこちらを見つめた。
「……えーと、貴方たちの目的を教えてもらえますか?」
こいつ、まさか何も知らないでここに来たのか……!?
「教えれば、そこを退いてくれるかな?」
「さぁ?ピンキリかな」
そう言う彼女は、その場に胡座をかいて頬杖をついた。
「ほぅ、そうか。なら、言わせてもらおう。我らの目的は、古代の魔女の一人である言霊の魔女、ハンナ・アルトリスの討伐だ」
「そんなの知ってるよ。その目的を言えって言ってんの」
ブラフか?
「それ以上は、遺憾ながら申し上げられない。これでどうだ?」
そう言って、男は後ろに回した手を矛の形にして下へ降り下ろした。
統制射撃の合図である。
すると次の瞬間、後方から叫び声が上がった。
それから、機械がバラバラに分解されるような音が続く。
「不合格だ。これより先には進ませない」
しかし、その声は先ほど彼女がいた場所からは聞こえてこなかった。
何故なら、彼女はもうそこには居なかったからだ。
「ぐぅわぁぁっ!」
「メガデル班長!」
そして、再び上がる絶叫に男が振り返った。
すると、そこには、木剣を肩に担いで、次の獲物に向かって飛んでいく少女の姿があった。
「この、悪魔めっ!」
「止めろっ!撃つな!」
「バカ!止せ!」
セーフティがアンロックされた機関銃を、衝動的にその少女へと向ける隊員。
その射線上にいた仲間が、彼の狂乱した射撃により、装甲を撃ち抜かれて沈んでいく。
「防御魔法が発動していないだと!?」
何なんだ、これは……!?
まるで、踊るように隊員の動きを翻弄し、操っている。
同士討ちを利用して落とす。
木剣で頭蓋を叩き割って落とす。
まるで、悪魔じゃないか……!
男は、ぐっと音がなるほど強く奥歯を噛み締めると、宝珠が取り付けられた大型拳銃型デバイスをその悪魔に向けて叫んだ。
「死ねぇ、悪魔ぁ!」
そして男は、自分の仲間が巻き添えを食らうことを承知した上で、その引き金を引いた。
球状に引き伸ばされた魔法陣が、彼女を包み込む。
「!?」
それを見たその悪魔は、驚愕に目を見開いた。
しかし──。
「──なるほど。東洋の魔法に、確か結界魔法と爆裂魔法を複合したものがあったと聞いたが……。これがそれか」
──しかし、その魔法が発動する直前。
彼女を包んでいた結界が、内側に含んでいた爆裂魔法を発動する式が乗せられた魔力諸とも、その悪魔の胃袋の中へと消えてしまった。
「なっ……、なっ……んだ……と……?」
「魔法を……喰った……?」
その悪魔は、ふぅ、と息をつくと、口元を拭うような仕草をして、ニコリと笑った。
「うん、いいものを見せてもらったよ」
その瞬間。
彼らの戦意や敵意は、音を立てて崩れ去っていった。
その後に残ったのは、ただひたすらの恐怖と、そして畏怖であった。
次回、魔女狩り
魔法解説。
滅結:相手を結界の中に閉じ込め、その内部に設置された爆裂魔法を発動することで、範囲を限定し、尚且つ威力を高めた攻撃魔法。殺傷性が非常に高く、獣人であっても耐えることはできない。高等魔法に分類。




