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大魔術師ロットの魔法  作者: 記角麒麟
魔女狩り信徒
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太古の記憶

 ……しくじったよなぁ、確実に。


 どうやら俺は、ロマンスの塊たる遺跡に足を踏み入れたことに加えて、似た境遇と思われる人物に遭遇したことに対して激しく興奮していたようだ。


 まぁ、そのことごとくが滑ってしまっていたわけだが。


「はぁ」


 なるほど、人形か。

 酷く痛感したよ、自分の個性の定まらなさに。

 これがおそらく、個性の欠如なのだろう。


 今まではそんなこと、考えたことすらなかったわけだが、なるほどなぁ。


 俺はため息をつくと、その青色の猫型ロボットを回収した。


 データの読み込みが終了するまで、この空間はずっと無言だった。

 重い程の沈黙だ。

 空気が固くて、息を吸うことすら難しい。

 それほどに重圧だった。


「あ、隊長。終わったんですか?」


「ん?あぁ。終わった終わった」


 俺はそう返すと、近くに設置しておいた寝袋の上に、ごろりと転がった。


 野宿の用意は、暇だったのでデータ収集の間に済ませておいたのだ。

 お陰で、今すぐにでも寝ようと思えば就寝できる設備は調っていた。


「お疲れ様です、先輩」


「おつかれー」


「うん、ありがとう」


 俺は労いの言葉をかけてくる二人に、寝袋の上に転がったままそう返事をした。


「……ところで、これからどうするんですか?」


 ジョンは薪をつつきながら、これからの方針を尋ねてきた。


「とりあえず明日の目標は、偽ベヒモスをどうにかすることかな」


「それなら、すぐに終わりそうですね!終わったらどうします?」


「帰る」


 それ以外することもないし、まずは報告が優先だろう。

 俺は、ゲームでは依頼を受けてミッションをクリアしたら、寄り道せずに直ぐに達成報告に行くタイプだからな。


 俺がそう答えると、エリンはちょっと面白くなさそうな顔をして、レヴィアに話を振った。


「うわ、即答ですね先輩。海とか行かないんですか?」


「私がもう海は飽きたから却下だ。そんなことより、ここのニトンとかいうスイーツが食べてみたいのぅ……。あれは見た目もさることながら、味も中々のものだとイゾルイできいたぞ?」


「良いですね!ついでに家族にお土産とか買って帰りたいですし!」


「エリン。これは遠足じゃないんですよ?」


「う……わかってますよ、それくらい……」


「そんな固いことを言うな若造。ちょっと観光するだけだ、それの何が悪いのだ?のう、ロット?」


「え……?」


 あ、なんか途中からうとうとしてて話聞いてなかったや。


「ゴメン、なんだっけ?」


「仕事が終わったら、ついでに観光するぐらい良いだろう?って話だ」


 観光?

 レムリアを?


 ふと、メープルの言葉が頭を過った。


(デートチャンス……)


 いや、これはあくまで、俺の精神的なそれの改善のための行為だ。

 本気のそういうアレじゃない。


 俺は頭を振ると、その思考を振り払った。


「良いんじゃないか、別に。達成報告は転移魔法を使えばすぐにすませられるし、その後ならいくらでも好きにできるだろ」


 東欧レムリア王国は、表面上はギトの属国扱いだ。

 いや、もう少し正確に言えば、ギトの領内でもある。

 入国審査は不要だから、転移魔法による行き来なら楽勝だ。


 俺はそう返答すると、一つ欠伸をした。


「俺はもう眠いから寝るよ……んじゃ、他のところは任せた」


















 ──ザーッ。


 ふと、そんなノイズが鼓膜を打った。

 テレビの砂嵐のような音だ。


 そんな音が聞こえたかと思えば、俺は見覚えのある路地裏に居た。


 真っ白な世界だ。

 空は白く塗りつぶされていて、外壁も、それに蔦を伸ばす蔓性植物も、何もかもが真っ白だった。

 強いて言えば、輪郭がにわかに理解できる程度の白。


 見える窓は嵌め殺しの鉄格子がついている。

 格子窓の向こうには、なにやら人形が見えた。

 何もかもが白いのに、部屋の向こうだけは見えない。影になっているわけでもないのに、変な感じだ。


 あぁ、そうか。

 ここはあの時の場所か。


 どれくらい前だかは覚えていないが、俺が古代の魔女としての力を手に入れた場所だ。


 ……だが、今回は前回と様相が違った。


 前回は全く人気がなく、そして導く声のようなものがあったのに対して、今回はその真逆だった。

 全体的に白いのは対して変わらないが、いや、やや淡く色が見えるような気がしている。


 実際、色はないのに。


「……空虚だ」


 虚しくなって、空を仰いでみる。


 ──ザーッ。


 また、何かノイズが走った。

 この雑音は一体何なのだろう?


 俺は、路地裏から見える外の路地に視点を移した。


 行き交う人々。

 人間たちの話し声が聞こえる。

 けれど、何を言っているかはさっぱりだ。

 何か、纏まりの無い言葉のように聞こえる。


 ……俺、何してたっけ?


 そんな疑問がふと頭の中を過っていった。


 天空は異様なほどに白い。

 変わりない夜空・・だ。


 俺は無表情にその情景を眺めると、その足を踏み出した。


 ──ザーッ。


 次の瞬間、場面が切り替わっていた。

 驚くほど何も感じない心境で、俺は目の前に伸びる高い塔を見上げていた。


 俺は、この塔を何だか知っているような気がする。

 何か、大事なもののような気がしている。


 再び、場面か切り替わる。


 ──ザーッ。


 わたしは、何も見えない、黒い髪の老人の顔を見下ろしていた。

 顔は白い影でよくは見えないが、その人が年齢の割には若々しく見えるような気がした。


「なぁ(──ザーッ)よ。俺は、もうすぐ死ぬことになりそうだ。寿命が近いのかもしれん。その時は、お前に(──ザーッ)」


 その時、わたしの心の中に、何か酷く冷たいものが流れ込んでくるような、同時に何か暖かいものが注がれていくような気がした。


 言葉は途中でノイズが混じって、よく聞き取れなかった。


 だが、俺は、それをどうとも感じなかった。

 まるで、心が無いかのような、そんな感じだった。


 ──ザクッ、ザクッ、ザクッ。


 再び場面が切り替わった。

 俺の足は、お花畑を踏みしめていた。


 目の前には石碑があり、誰かの名前が記されていた。

 その名前を読み取ることは出来なかったが、唯一それが日本語であることは、理解できた。

 石碑は三つあった。

 一つには十字架の模様が刻まれていて、白い蔓が蔓延っていた。

 もう一つには、鉤十字が刻まれていて、白い苔が生えている。


 日本語のそれは、二つに比べて最近建てられたばかりのような風貌だった。


「……空虚だ」


 そう呟いたわたしの声には、どこか快々おうおうとして閑散としていた。


 ──ザーッ。


(皆、居なくなってしまえば良いのに……)


 ──ザーー……



















 



 目が覚めた。

 石の天井から、青い光を放つランプが揺れているのが見える。

 ランプには蛾か蝶に似た虫が舞っており、耳には鈴虫か蟋蟀のような鳴き声が聞こえてくる。


「……顔寒い」


 湿度、気温から推測するに、まだ夜は明けていないようだった。


 俺は、火の代わりにしてある夜昌石やしょうせきと呼ばれる石をじっと眺めると、意を決したかのように上体を起こした。


 夢についてわかっていることは少ない。

 ただ、最近発表された研究によると、どうやら夢とは現実に体験した記憶と、これから起こりうる事象、つまり未来と何らかの関連性があるらしいということがわかっていた。


 これを見つけたのは、西欧ニースタル共和国の、夢について研究している研究者団体ヒュノプである。

 何でも、量子力学による研究の末、集合的無意識の存在を確信したが、隠匿しているらしいという都市伝説が流れているらしいが……。


 そんなヒュノプに言わせれば、夢とは魂の記憶、ということなのだろう。


 もし仮に、その説が正しいのなら、あの夢は俺が現実に知り得た記憶であると言わざるを得ない事になる。


 俺は、高鳴る鼓動を落ち着けようと、深呼吸をした。


 寝袋から出て、三人の寝顔をチラリと眺めてみる。

 レヴィアは気づいた上で寝た振りをしていそうだけど、特に止めもしないので、俺はこのまま抜け出すことにした。


 ……暗い夜道。

 一寸先には漆黒の帳が落ちている。


 そんな中を、俺は迷わずに突き進んで行く。

 罠は全て防御魔法でごり押しにする。

 途中巨大な岩の球が転がり落ちてきたが、分子同士の連結を破壊して塵に変えた。

 後ろに被害は出ないだろう。


 そんな風にして歩き回っていると、いつしか俺は、その遺跡から離れて、開けた小高い崖の上にやって来ていた。


 ──ザーッ。


「……夢と同じ場所、か」


 俺は、そこに建っている三基の墓石を見て、そう呟いた。


 それが、疑問が確証へ変わった瞬間だった。


 どういうことかと言えばつまり、俺は以前古代の魔女本人だった、ということだ。

 いや、何。ヒュノプが提唱した説が真実ならば、だ。

 だが、どうにもそれは、覆しようのない真実であるらしい。


 俺の心の奥底でざわついているこの何かが、それを何よりも雄弁に物語っている。


 蔓性植物が絡み付いた墓石には、十字架が彫られていた。

 苔の蔓延っている墓石には、卍を逆向きに描いた鉤十字。これはルーン文字の一つで、勝利を意味するシグルを二つ重ね合わせた、相乗効果を持つルーンだ。

 見て思い出したが、ナチス・ドイツのあのシンボルもこれだったな。

 そして、その二基の墓石に挟まれた中央にあるのは、日の丸印が刻み込まれた、その二つより新しい墓石だった。


 日の丸印から連想されるのは、やはり日本か。

 であるなら、右の鉤十字の下に眠るのは、白の兄に協力したドイツ人で、左に眠るのはおそらくだが、バチカン市国の協力者か。

 それが何者かはわからないが、そう推測するには十分すぎるほどの情報が、墓石には刻まれていた。


 ──ザーッ。


 再び、砂嵐が鼓膜を打つ。


「……記憶、戻るんだろうな」


 それも、もう時間の問題のような気がしてきた。


 ──もし、その記憶が戻ったなら、俺はこれからどうするのだろうか?


 ふと、そんな疑問が思考に上ってきた。


(考えても仕方ないか)


 俺はかぶりを振ると、その三基の墓石の掃除を始めるのだった。

 次回、墓の下に在るものは。

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