Bevor nach
「……」
「……」
(気まずい……。超気まずいなぁ……)
ジョンは、そっぽを向いている金髪の幼女を眺めて、心底ため息をつきたい気持ちになった。
調停委員会の委員長室。
そこには、困ったような笑みを浮かべている男性と、それに向かい合って座ってはいるものの、なかなか目を合わせてくれようとしない金髪の幼女の姿があった。
いや、正確にはもうあと二人ほどいる。
どこの誰だかは知らないが、興味深げに部屋の調度品を眺めている蒼髪の美少女と、調停委員見習いの茶髪お下げのスタイルのいい十代後半あたりの少女だ。
見習いの女の子は、委員長室であることや、委員長本人の目の前であることに加えて、好き勝手に動く蒼い髪の美少女が、何かやらかさないかというという三重の不安に押し潰されている。
一方でもう一人の美少女は、ところ構わず無遠慮且つ傍若無人に部屋の中を動き回っていた。
「……あの、隊長。まだ怒ってますか?」
「俺が何を怒るんだ?」
「いえ、何でもありません」
この問答、もう三度目である。
何からどうやって話を切り出したものか。
そんな風に困っていることは、両者ともに理解していた。
……していたのだが、なかなか話が進まない。
ロットの方は、彼に対する気まずさがまだ心の中に残っている。
できることなら帰りたい。
帰って寝たい。
そう思っていた。
「……隊長を、ここに呼んだのは……その、ある依頼が届いていましてですね……」
気まずい沈黙をようやく突破しようと最初に試みたのは、ジョンだった。
「依頼?」
「はい。調停委員としての依頼です。内容は、東欧レムリア王国の未開拓地で発見された、遺跡の調査です」
「……ん?それなら、もう既に調査部隊が発足したと聞いたんだけど」
(実験都市イゾルイの巨大テレビで、そんなニュースが流れていたけど……記憶違いか?)
彼女がそう尋ねると、はいと相槌を打って、ジョンはそれに回答した。
「それが、これはまだ報道機関には流していないんですけど、その調査部隊は、隊長と、残り数名の隊員を残して全滅したらしいんです」
「全滅だと?」
「はい。生き残った隊員たちの証言によれば、巨大な魔物が最奥で何かを護っていたらしく、それにちょっかいをかけた隊員を引き金になったらしいです」
ロットはその話を聞くと、顎に手を当てて考え始めた。
すると、その横から、さっきまでずっと部屋を観察していたレヴィアが喋りだした。
「それは、ベヒモスの仕業だな。現在東欧レムリア王国と呼ばれている場所は、かつては白の兄が実験用に造った施設の跡地があるからの」
「ベヒモスっていうと、創世記の?」
「いや、あれはその劣化版として白の兄が創った模造品だ。何、お前の疑似レーヴァティンがあればすぐに低位活動状態に落とせる。心配しないでいい」
彼女はそう言うと、エリンの膝の上に腰を下ろした。
すると、その頭が丁度彼女の胸の下にやって来たので、それを頭の上にのせると、納得した風に微笑んだ。
「……それで、隊長。この依頼を受けるかどうかなんですけど、どうしますか?」
そんなもの、もちろん受けるに決まってるじゃないか!
──と、いうやり取りがあって、俺たちはアビス・メルクリウスに乗って、ここ東欧レムリア王国の未開拓遺跡へとやって来ているのだった。
「おお、これはこれは……」
なかなか近未来的な造りだな。
所々朽ちてはいるが、知らない人間からしてみれば、石造りの巨大な遺跡のように見えなくもない。
そんな感傷に浸っていると、エリンが近くの藪をじっと見つめていることに気がついた。
「どうしたんだ、そんなところなんか眺めて?」
俺がそう尋ねると、彼女はびくりと肩を震わせた。
「お、驚かせないでください、先輩の意地悪!」
俺何かしたか!?
「す、すまん。で、どうしたんだ、そんなところ見つめて?」
一応謝ってから再びそう尋ねてみると、眼鏡の向こうの桃色の瞳を潤わせて、こう言った。
「な、なんかさっきガサッて動いたんですよ!?ほら、今も!」
そう言われて藪の方を観察していると、確かに何か動くような音がした。
「どうせウサギか何かだろ?」
「わ、私先輩みたいな子供は好きですけど、ちっちゃい生き物は苦手なんですよぉ~!」
「ぐ……なんか無性に腹が立つな、その台詞」
(よし、腹いせにちょっと悪戯をしてやろう)
そう考えた俺は、表面上呆れた風な顔を見せつつ心の中では悪戯を仕掛ける子供のような黒い笑みを浮かべて、エリンのその制服の裾を引いた。
「な、何ですかぁ?」
「そんなに怖いなら、俺が何とかしてやるよ」
俺はエリンにそう伝えると、掌に魔力弾(弱)を作ると、軽くその茂みの中へ投げ入れた。
──カサカサカサ
「ヒッ!?」
「うわぁっ!?」
すると、その藪の中から出てきたのは、一メートルはあろうかという巨大なGだった。
反射的に大出力でブレイクを放つ。
すると、ほぼ同時期に、耳元でブーンという羽音が響いた。
「!!??」
背筋が凍るとは、正にこれだ。
俺は恐怖でいっぱいになり、無意識の内にレーヴァティンを抜刀していた。
「せ、先輩!後ろですっ!!」
「滅却──!!」
俺は、彼女の援護に従って、その豪炎の剣を後方へと薙ぎ払った。
──スカァァァァン!!!……ゴォォォォ……
刹那、そんな意味不明な爆音が、遺跡のあるその峡谷に轟き渡った。
その爆音は、人間の可聴領域を悠々にして遥かに越えて、巨大な衝撃波を生み、その熱量は一瞬にしてその一帯を気化させるには充分過ぎる破壊力を持っていた。
……要するに、恐怖に唆されるままに、何のリミッターもかけずに振るったレーヴァティンは、その地形、つまり峡谷にある遺跡という姿を、物凄い勢いで更地へと変える威力を持っていた。
「……や、やり過ぎた」
「いや、もうそういう次元じゃないです、先輩……」
俺は、ガラスと化した地平線を眺めて、乾いた笑みを浮かべるのだった。
──と、普通ならここでさて、これからどうしようかという話に移るのだが、流石は俺。
そこの展開はちょっとどころか百八十度違う方向へ向かっていた。
まぁ、簡単に言ってしまうならば、つまり創造魔法の出番なのである。
俺は、地形だけを元の形に戻す道具を作成すると、それを使って地形だけ復活させた。
ついでに気温とかその他もろもろも元に戻しておいた。
え?それだと遺跡が復活しない?
ノンノン。
そこは意味不の匠、スプーキー先生のお出番です。
ゴキブリの脅威から逃れたい一心で、過超威力で振るわれたレーヴァティンによって、ガラスの平原へと変わり果ててしまった、趣ある古代の遺跡と緑の峡谷は──
──なんということでしょう!
見事に元の姿へと変貌を遂げているではありませんか!
これぞ、匠の為せる業。そういうことなんでしょうね……。
そんな風に一人小芝居をしながら、三人にそれを説明した。
途中、何か可哀想なものを見るような目に変わっていたのは、少し納得いかないけれど。
「ごめんなさい、先輩。ちょっと何言ってるかわかんないです」
と、エリンが口を開けば、
「同じく、何いってるかわかりません。隊長」
「私もちょっとその説明の仕方は引いたぞ……」
と二人が肯定の意を示してきた。
うん。ちょっと悲しい。
三人からすれば、哀しいの方なんだろうけど。
でも、ちょっとだけ傷ついたのは内緒ね?
次回、遺跡探索(1)




