青リンゴVS機械人形
「探したよぉ?子猫ちゃん」
エリンがナイフを仕込んだのとほぼ同時に、その人物は現れた。
白い、袖のない膝丈のワンピースに、首輪と手枷と足枷を身につけた少女。
白い短髪、おでこの辺りでまっすぐに切り揃えられた髪はどこか古風な印象を受ける。
その瞳は黄色く、獰猛な色を孕んでいた。
「出来れば、見逃してほしいところですが、その様子だとあり得なさそうですね?」
エリンは銃口を少女へ向けた。
狙うのは、脚。
殺さずに、生かして捕らえる。
「話が早くて助かるぅ!……じゃ、前座はいらないわ、ねっ!!」
──チィン!
次の瞬間、エリンが放った銃弾が、彼女の持つ鞭によって弾かれた。
「なっ!?」
かと思えば、次の瞬間には、エリンは遠くへと弾き飛ばされていた。
(エリン!?)
叫びたくなる口を意思の力で圧し殺す。
俺がここで出ていけば、彼女の行為が無駄になる。
レーヴァティンを使えば、あるいは勝てるかもしれないが……。
エリンはなぜかさほど痛くはない首筋に手を当てながら立ち上がると、もう一度銃口を彼女へと向けた。
「あらぁ?貴女タフねぇ?あれを食らってまだ首が繋がってるなんて、ついてるぅ!」
「うるさい、ですよドS女……!」
──チィン!
(なんていう速さなんでしょう……。鞭の使いも完璧で、肉体に攻撃が当たることなんてもはや天文学的確率……。ですが……っ!)
エリンはしかし、それが防がれるとわかりながらも、その鞭に銃弾を叩きつけていく。
「鬱陶しいなぁ、このモブはぁ。いい加減、無駄なことと悟ればいいものを」
「無駄かどうかなんて、やってみないとわからないですよ!!」
次の瞬間、彼女は鞄の中からマガジンを取りだし、同時にリリース、弾倉の交換を行った。
すると、彼女が使用していた拳銃が、光を放ち、変形した。
『システムをアップデートしました。ドラグフォンを制圧モードへ移行します』
その光が収まると、そこには近未来的なデザインの大型拳銃が現れていた。
「Handtakið!」
「何っ!?」
刹那、彼女が手に持っていた鞭に食い込んでいた銃弾──いや、鉄杭が、それを侵食し、持ち主であるその少女に巻つこうと自ら意思を得たかのように蠢き始めた。
咄嗟にその鞭を手放す少女。
やがてそれは空中で互いに絡み合い、固まってビチビチと屋上の床を跳ねた。
「……ねぇ、子猫ちゃん?貴女、弱いくせに随分と面白いことしてくれるじゃない?」
(してやられたなぁ。まさか、私じゃなくて鞭の方を狙っていたなんてねぇ……)
彼女は、クックッと圧し殺したように笑うと、右手を自分の顔に当てて何かぼそぼそと呟いた。
(……何でしょう、この異様な気配は?)
エリンはその手に持った近未来的デザインの拳銃を構えて、相手ので出方を伺った。
「投降してください。さもなければ命の保証はできません」
すると、彼女はふっと笑うのをやめて、顔に手を当てたままこちらを見上げた。
「……嘗めないでよぉ?この人形風情がぁ!!」
次の瞬間、気がつくとエリンの体は宙に浮いていた。
彼女の体は弧を描いて宙を飛び、その頭は白い髪の少女に鷲掴みにされていた。
そのままの勢いだと、ビルの屋上を越えて地面に落下してしまう。
「エリンッ!!」
俺は物陰を出ると、エリンへ向かって駆け出した。
その、次の瞬間だった。
彼女は空中を飛んでいくエリンを足場にして、俺へ向かって方向転換をしたのだ。
「!?」
その衝撃で落下速度は加速し、エリンは半ば意識を失った状態でビルをまっ逆さまに墜落していく。
「──ミツケタ」
刹那、白い髪の暗殺者は、その腕を俺の首へ向けて振り抜いたのだった。
──嗚呼、これは、確実に死んだな。俺。
俺は迫り来る死を覚悟して、目を固く瞑った。
しかし、その時はいくら待ってもやって来ることは無かった。
「──このうつけ。何をぼさっとしておるのだ?こんな雑魚相手に怯んでおったら、私が恥ずかしいではないか」
聞き覚えのある声に、俺はうっすらと目を開けた。
すると、そこには蒼い髪であの少女の猛攻を凌いでいる、美少女の姿があった。
「リヴァイアサン!?何でこんなところに!?そ、そうだ、エリンは!?エリンはどうなって……!?」
「うるさい人形よな、全く。そうせかせかせんでも、その娘ならそこに転がっておるわ」
彼女はそう言うと、左手でエリンの方を指し示した。
「なかなか面白い体質を持っておった故な。助けておいたのだ」
「あ、ありがとうリヴァイアサン!」
「そう思うなら、私を今度から崇め奉るんだな!……さて、この機械人形だが、壊していいのか?」
彼女は鬱陶しいとばかりに彼女を拘束すると、俺の目の前へと運んできた。
「いや、無力化して放置しておいてくれれば助かるよ」
「む、そんなのでいいのか?」
「いいんだよ。もうすぐエリンの応援も来るし……」
俺はエリンの方へ赴くと、彼女の様子を調べた。
鞭で打たれていた首を調べると、何かわからない力が働いていた。
よく調べてみると、どうやら俺が手渡したナイフによる効果だと理解した。
(あのルーンはそういう意味だったのか……)
意図せずに創ったのだが、なんだかすごいものを作成してしまっていたらしい。
「そういえば、さっき言ってた面白い体質って?」
俺は彼女の無事を確認すると、白い髪の少女を床に転がしていたリヴァイアサンに質問した。
「ん?あぁ。それはだなぁ──」
「──応援部隊、ただいま到着しました!マクトリカ様!早く離れてください!」
すると、見計らったようなタイミングで、エリンが呼んだ応援部隊が到着した。
その応援部隊の平均レベルは、六等劣級相当だった。
……間違いなく、彼らが来たところで役立たずに終わっていたレベルだ。
ていうか、到着が遅すぎるだろ!?
もう終わったよ!?
終わってから来るの止めてよ、恥ずかしい!
「なんだ、あれは?壊していいのか?」
そんな風に頭を抱えていると、リヴァイアサンがそんなことを口走った。
「あれは、そこのボインが呼んだ応援部隊だよ。あと、壊しちゃダメ」
「む、残念だ」
お願い、残念がらないで!誤解を生むから!
俺はため息をつくと、彼女の補足を交えて彼らに事情を説明した。
リヴァイアサンの補足説明で知ったことだが、彼女は俺と会ったあと、人間の姿なら俺達人形を怯えさせずに暇潰しができることに思い至り、食べ歩き世界一周旅行中だったらしい。
その途中、俺の姿を見かけて、その百メートル後方に敵意を持ってる機械人形(これについては、簡単に言えば人工的に作られた人形、つまるところ分かりやすく言えばホムンクルスの下位互換みたいなものと説明してくれた)を見つけたので、ポップコーンを食べながら観戦していたらしい。
それで、とうとう俺がやばそうだったので、手出しした、ということだった様だ。
無論、彼女がリヴァイアサン(神代の生物兵器)であることは隠して話したが、多分報告を聞いたヴァイツスネイク元国王なら、すぐにピンと来るだろうけれど。
事情説明が終わる頃には、エリンは復活していた。
結局、リヴァイアサンか言っていた、面白い体質が何なのかはわからなかった。
けど、まぁいずれわかるだろうし、どうでもいいか。
その後、俺たちはその白い少女を受け渡すと、エリンにつれられて、服飾店にやって来ていた。
リヴァイアサンも、暇だったらしく一緒に店に入ることになった。
それからは案の定、二人まとめて、店員や来客たちの着せ替え人形となった。
リヴァイアサンが意外とノリノリだったことにちょっと驚きはしたが、お陰で安く買い物ができた。
「いや~、ああいうのも楽しいものだなロット・マクトリカよ?」
「まぁ、楽しいのは楽しいんだけど、何か納得いかないんだよなぁ」
俺は、たい焼きをパクつきながら、満面の笑みを浮かべているリヴァイアサン改めレヴィアにそんな返答をした。
「楽しかったなら何よりですよ、先輩!」
「そういう問題なのか?」
「そういう問題です!」
微笑みながら俺にそう返すエリンの顔に、俺はそっかと、納得半分、モヤモヤ半分の声で相槌を打つのだった。
次回、Bevor nach




