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大魔術師ロットの魔法  作者: 記角麒麟
蒼い海蛇
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エリン

「……デートか」


 経験がこれっぽっちもない引きこもりな俺には、少々荷が重い話だ。

 そもそも、デートなんてどこか異世界の話だと……あ、ここは異世界だったか。


「俺にはさっぱりだな」


 別に、どこかに行きたいとも思わないし、何かを買いたいとも思わない。

 なぜなら、買うくらいなら創った方が安価だし、創る方が断然楽しい。

 アイテムを考えることが最近の趣味な俺には、買い物は遠い国の話。


 ……無理だ。

 どう考えたってこなせそうにない。


 俺はそんなことを考えながら、一階の食堂でモソモソと朝食を呑み込んだ。


 ここの設備は、すべて俺が創造魔法で創りあげた代物だ。

 出来合いのものを創ったので、構造はよくわからないが、とにかく便利になるように創った。


 故に、ここの飯は旨い。

 無論、料理人の腕が高いというのもあるのだが。

 ていうか、それがなければそもそもこんなに高度な代物は作れないだろう。


 飯が旨いのは良い。

 けど、それが日常になってしまうと、こう、何というか、有り難みが欠けてくるよね。


 そんな現実逃避を始めていると、俺に話しかけてくる人物がいた。


「そんな怖い顔してると、美人が勿体ないですよ?」


 話しかけてきたのは、明るい茶髪のメガネを掛けた少女だった。

 年は十代後半くらいだろうか?

 長いお下げを背中に流していて、明るい桃色の瞳をしていた。


 知的なイメージ、言ってみればクラスの委員長みたいな風貌の少女だった。

 唯一として、身長が高く、出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいるのが癪に障るところだろうか。


「……誰?」


「私の名前はエリン。ただのエリンです」


 そう言って、制服の内ポケットから調停委員の見習いにだけ配布されている、緑色のネームプレートを取り出した。


「そうか。ならエリン。一つ忠告だが、見習いは必ずネームプレートを左胸に着けておくことを忘れるな」


「あっ!?そ、そうでした!すみません、ついうっかり……」


 彼女はそう言うと、慌ててネームプレートを左胸に装着した。


 このネームプレートには、その人の現在地が記録されている。

 これは、もし所在がわからなくなったとき、簡単に居場所を突き止めるためのものだ。

 特に見習いの場合は、周りの人と円滑に連携をとるために、すぐに名前がわかるように名札を見させている。


「他の人に見つかったら、最悪クビだったぞ?」


「はい、すみません……って、貴女だって名札着けてないじゃないですか!」


「俺は見習いじゃないからな」


「……え?」


 キョトン、とした風にこちらを見下ろすエリンに、俺はクスクスと笑みをこぼした。


「確かに、実年齢はお前より低いかもしれんが、俺はこう見えてここの創立者だからな。委員長より立場は上だ」


「な、なんですとぉ!?」























 エリン。

 彼女には名字が無かった。

 それが示すのは、平民出身の娘である、ということだ。


 調停委員の仕事は、主に属国同士のいざこざを治めたり等の、国際規模の調停を行う風紀委員の巨大版みたいなものである。

 他には、その国が抱えきれないほどの大きな案件を処理したり、テロリストを排除したりというのも、調停委員の仕事である。


 そのため、調停委員というのは、良くも悪くも、そこに見習いとして所属しただけでも社会のエリートなのである。


 故に、多くは権力者の子孫やら金持ちが所属しているのだ。


 彼女が平民の身でそこへ所属するには、かなりの努力が必要なのである。


(こいつ、何かあるな)


 彼女の名前を聞いた時から、俺はそう感じていた。


 もしかすると、このやり取りも何か裏があるのでは?と感じざるを得ない。

 得ないのだが……。


 俺は、とりあえず盆を持ったまま立ち話も何だし、とりあえず着席を促すことにした。


「しかし、平民の出でよくここに入ることができたな?」


「いえいえ。運が良かったんですよ」


 彼女は笑みを崩さないまま、粛然とそう答えた。


「運?」


「はい。運です!」


 ……なんか、釈然としない回答だな。

 ここの試験は、運だけで合格できるような柔なものじゃないと思うのだが。


 彼女はそう答えるなり、朝食を食べ始めた。


(お前、朝から麺類って……)


 まぁ、俺が口を出すことじゃないし、良いけどさ。


 閑話休題。


「……それで、マクトリカ先輩はなぜあんな顔をしていたんですか?」


 両者ともに完食した頃、エリンがそんな質問を投げ掛けてきた。


「……聞くな」


「えー?気になるじゃないですかぁ~。ケチ」


 頬を膨らませながら言う彼女に、俺はチッと舌打ちをした。


 変な奴に絡まれた。

 今日はつくづくついてないな、俺……。


「路肩ですれ違ったような程度の他人に、話せるわけないだろ」


「……それもそうですね。すみません、図々しくて」


 彼女はそう言うと、少し物悲しそうな笑みを浮かべて、席を立った。


「ごちそうさまでした。貴女と話ができて良かったです」


 彼女はそう言うと、一人食器を下げに行った。


(……何だったんだ、アイツ?)

 次回、逃避

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