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大魔術師ロットの魔法  作者: 記角麒麟
蒼い海蛇
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向き合う決意

「痛っ……つつつ………」


 あれ、俺ってどうなったんだっけ?


 確か、フロートが揺れて……避難させて……帰って……寝たのか。


 で、目が覚めたら、なぜか俺は瓦礫に背中を預けている、と。


 何故?

 ……わからん。何せ、記憶がない。

 別に酒でも飲んでいたわけじゃない。俺は下戸だからな。


 俺は、痛い頭を擦ると、いまだぼやけてよく見えない視界に目を凝らした。


 擦った手に、何か生暖かなものを感じて、目の前にやると、そこには赤い液体……いや、現実逃避は止そう。そこには、べったりと血液が付着していた。


「ったい……」


 体のあちこちが痛くて、焼けるように熱い。

 よく見たらところどころ火傷を負っている。


 いつの間にこんな大怪我をしたんだ?


 そんなことを考えていると、瓦礫の一つがごろりと転がり落ちてきた。


 天井からは砂が落ちてきているが、それは何か障壁にでもぶつかったかのように空中で跳ねて俺から遠ざかっている。


 もう片方の手首を見てみると、知らぬ間にGuardianが起動していた。

 最近、あの金髪の幼女にアップデートしてもらっていたお陰で、電源を入れなくても、緊急時に自動で起動するようになっていたのだ。


 ……寝るときも着けたままにしてて良かった。


 でも、起動した状態でこの有り様ってことは、防御しきれてなかったってことじゃねぇか。


 ていうか、何が起きているんだ?


 回り始めた頭が、しかしその先を理解しようとは働かなかった。


 俺はとりあえず周囲を確認することにした。


 ぐるりと目だけを動かしてみると、正面に小さな素足が見えた。


 黒い浴衣に身を包んだ脚部から、だんだんと上へ顔をあげていく。

 すると、ある地点でまだ燻っている火を纏った短剣の切っ先が見えた。


「……」


 いや、まてまてまてまて!

 何だ?何が起きている!?


 慌てて目を反らそうとするが、しかし意に反して、その剣の主は俺の方へと歩み寄った。


「……手加減したとはいえ、レーヴァティンの一撃に耐えるなんて、悪運の強い奴だな、ジョン」


 甘く、幼い幼女特有の響きを持ったその声音に、俺は重い首をあげた。


 すると、そこには少しの悔しさを孕んだ驚きの表情を浮かべた、ロット・マクトリカの顔があった。


「あ、あの……何が起きたんですか、隊長?」


「前から思っていたが、俺はもう隊長じゃない。あと、覚えてないならもう思い出すな」


「……はい」


 その返事を聞くと、彼女は満足したように頷いて、その剣を消して、代わりに拳大のキューブを作成した。


「部屋の時間を巻き戻すから、そこをどけ」


「そう言われても、体が動かないんですよ……ってうわっ!?」


 そう応えた瞬間、俺の体は中に浮いて、後方の無傷なベッドの上に寝かされた。


「痛っ!?」


「男だろ、それぐらいでギャーギャー騒ぐな」


 ロットはそう言うと、破壊された瓦礫に向かって、そのキューブを投げつけた。


 すると、次の瞬間、何のエフェクトも発生しないままに、壊れた壁は元通りとなっていた。


「え!?今、どうなったんですか!?」


「知らん。次はお前の治療だ」


 いや、知らんって……。

 ま、いっか。


 にしても、隊長。どうしてそんなに怒ってるんだろう?

 俺、何かしたのか?


「やっぱり思い出せない……」


「次思い出そうとしたら、イザナミにその魂を捧げてやるからな」


 誰だよ、イザナミって。


 そんなことを思っていると、彼女は俺に何か霧吹きのようなものを吹きかけてきた。


 すると、次の瞬間、俺の体から傷が全て癒えていった。


 ……本当に、それは一体どういう仕組みなんだろう?


 気になる。


「……ありがとう」


「ふん。お前は少し、そこで反省しているがいい」


 ──バタン!


(……何だったんだ、アイツ?)















 俺は、ジョンの部屋を出ると同時に、転移魔法で自室に戻った。


 そして、俺はそのままの状態で、ベッドの上にダイブする。


「はぁ……。何やってんだ、俺?」


 あの時の、ジョンの肌の感覚が脳裏に甦る。


「──っ!」


 何あれ何あれ何あれ!?


 あいつ、マジで俺に何しようとしてたんだよ!?


 あいつが俺の鎖骨に触れたとき、何かヤバイような予感がして、とっさにレーヴァティンを抜いたけどさぁ……?


 俺は男だぞ?

 あ、いや、この体は女だから、俺は女なのか。

 だが、だけど幼女だぞ?


 俺も、人のこと言えないけど、でもさすがにあれは……!


「あーーっ!もう!俺はどうすればいいんだよっ!?」


 叫んで、俺はベッドの布団をバスバスと殴り付けた。


 しばらくそうしていると、なんだかだんだん気分が落ち着いてきた。


「……いっそのこと、諦めて女であることを認めるか?」


 しかし、それにしたって抵抗がある。


 ……だったら、男に性転換というのは?


 いや、それも無しだ。

 そんなことをすれば、周りとの関係が崩れ去るに違いない。


 そんなことを考えていると、ベッド脇に設置していた連絡用の水晶玉から、着信が届いた。


「……はい、もしもし?」


『あ、やっと繋がった!ロットちゃん、今大丈夫?』


 なんだ、メープルか。


「この声が大丈夫そうに聞こえるか?」


『酷く疲れてそうだね……。でも、その様子だと、アクシデントは何とかなったのかな?』


「いや、二次災害を被ったよ。マリーナタウンの方は無事だけど」


『二次災害?』


「うん……」


 俺は相槌を打つと、寝返りを打って仰向けになった。


「俺、どうしたらいいんだろう?」


『珍しいね?ロットちゃんが頼ってくれるなんて』


 ……そういえば、確かに俺は、ほとんど他人に頼るということをしてこなかったなぁ。

 今は創造魔法なんてものがあるせいで余計に。


『それで、どんな悩み?私でよかったら相談してよ』


 ……そうだな。


 俺も、誰かに頼ることを覚えないと。


「俺さ。性転換しようと思うんだが、どう思う?」


『……ごめん、何言ってるかわかんない。え、何?性転換?男になりたいってこと?』


 水晶玉の向こうで、皿の割れるような音が聞こえた。

 かなり動揺しているようだ。


「ごめん、話が飛びすぎた」


『飛びすぎだよ!?何!?いきなり性転換とか、びっくりするでしょ!?』


 そして俺は、順番に、そういう結論に陥った過程を、メープルに話して聞かせた。


『……ロットちゃんって、たまに突拍子もないこと言うよね?』


「ごめん……」


『だからロットちゃんはロットちゃんなんだよ?』


「あの、俺の名前を形容詞みたいに言わないでくれます?」


『そんなことはどうでもいいの!』


 ちょ、オイ!?

 それは無いだろ、傷つくぞ、俺!

 俺のガラスハートが粉々だぞ!?


『うっさい!』


「はい……」


 初めてメープルにうるさいって言われた……。

 ちょっとショック。


『……あのね、ロットちゃん。性転換は、しないでください。されたら私が困ります』


 うん。


 俺も話している間に、何で俺はそんなことを思い付いたのか疑問になってきてたところだし、それはいいだろう。


『それと、エインズワースさん、だっけ?彼には、ちゃんとお仕置きしたんだよね?』


「はい」


 秘宝クラスのレーヴァティンで、軽く一発殴ってやった。


『でも、ロットちゃんは、その、襲われた?ことを根に持ってると』


「まぁ、はい」


『……判決を下します』


 判決ってなんだよ。

 お前は裁判官か。


『私は、ロットちゃんにエインズワースさんとのデートの刑を言い渡します!』


 ……エインズワースとの、デート?


「……は?ちょっと待って。意味がよくわかんないんですけど。メープルさんはいったい何をおっしゃりたいのですか?」


『うるさいうるさいうるさーい!』


 水晶玉から彼女の大声が響いて、ハウリングに似たような現象が発生した。


『いい?貴女は、今回のそのデートで女らしさを獲得してくるの!つまり、心の女体化だよ!』


「……心の、女体化?」


 ナニイッテルノカヨクワカンナイナ~。


『ロットちゃんは、自分の心が男だから、今回の出来事に戸惑ってたんでしょ?だったら、心も体と同じく女になればいいのよ!』


 えっへん!

 と、なぜか威張ったようなオーラが、水晶玉を通して伝わってくる。


 ……なんと突拍子もない案だろうか。


 そんな呆れさえ覚えてくるような提案だった。

 だがしかし、それも彼女が頑張って考えてくれた解決策だ。

 試してあげないというのも、お願いしたこちらの恥だろう。


「でも、なんか抵抗が──」


『ごちゃごちゃ言わない!いいから実行するの!参考書が欲しいなら、スズリちゃんに渡しておくからさ!』


「うえぇえ?」


 ちょっとそれは勘弁してほしいんだけど……でもなぁ。

 それを言うのも悪い気がするし……。


『大丈夫だから!元気があれば、何でもできる!1、2、3、d──』


 ──ガチャ。


 あぶねぇ。

 危うくどうにかなるところだったぜ……。


 俺は、ツー、ツーと音を立てる水晶玉を眺めながら、そんなことを思った。


 ……でも、デートか。


「やってみて、損はないかもな」


 俺は、そう独りごちると、再び連絡を繋いできたメープルに、何かよくわからない注意をするのだった。

 次回、エリン

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