翌朝
明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
「……祭壇?」
尋ねると、彼女は頷く代わりにカップに口をつけて、その質問に答えた。
曰く、この世界は、基本的に二つの性質によって存続されている。
ここからは哲学的な話になるが、わからないなら後で簡単に説明しよう。
さて、その二つの性質というのが何か。
それは、有と無である。
すべての存在は、その二つに大別される。
有とは、見えている世界。
無とは、見えていない世界。存在していない世界。
この世界における精霊とは、無の状態から有の状態へと変質させる存在であり、魔法とは、その有の性質を指定するものである。
例えるならば、それはカードの裏表。
裏を向けている間は、表に何が描かれているかはわからない。
その情報の可能性は無限大である。
精霊とは、そのカードをひっくり返す存在であり、魔法を使うというのは、ひっくり返されたカードの表に、自由自在に情報を描き入れる動作に等しい。
その精霊を調整し世界の均衡を保たせ、世界の混沌の崩壊を抑制するのが、黒い妹の役目である。
もし、これがなければどうなるか。
精霊は暴走し、世界は混沌の渦中へ放り投げ入れられることになる。
つまり、その祭壇とは、精霊の管制塔なのだ。
「……てことは、魔力は、書き込むために必要なインクみたいなものか?」
「おぉ。君は他の人形より理解力があって助かる……ちょっと長話しすぎたかの?」
彼女は伸びをすると、その髪と同じ蒼い瞳でこちらを見つめた。
「独りが長くてな。今日は楽しかった。……そういえば、まだ本題を聞いてなかったの。私をこんなところに連れ出した理由を聞こうか」
今更かよ!?
いや、俺もちょっと忘れてたけどさ。
忘れていたのは悪かったけど、えーっと、本題は何だっけ?
急な彼女の切り返しに、思わずたたらを踏んでしまう。
「あー……っと、そういえば思い出した。俺が造らせた人工の島に、貴女の接近を感知して、討伐するか、無理なら進路を変更させるつもりだったんだけど」
そういえば、あいつら大丈夫か?
時間的にあいつら帰っててもおかしくないよな?
「その必要はないと思う」
俺はそう言うと、目の前で未だに湯気をたてているコーヒーに口をつけた。
なんか、コーヒーなのにちょっと鉄臭かった。
(これ、何入ってるんだ?)
俺は少し不審に思いながら、カップを置いた。
それより、いつ離脱しよ……。
「あー、疲れた……」
俺は、疲れたような顔で、海岸に降り立った。
あの後、何とか彼女の話を切り上げ、島に戻ってきたのだ。
難しい話ばかりだったから、頭が割れるかと思ったよ、ホント。
「……帰るか」
どうせ、宿に戻っても居ないだろうし。
俺はあくびをすると、一応宿の中を透視してみた。
(うん。やっぱり帰ってた)
誰もいない、静まり返った部屋を眺めて、一抹の悲しみを覚える。
(……やっぱり、みんな俺のことなんてどうでもいいとか思ってるんだな)
そう思っていると、机の上に置き手紙が置いてあるのを確認した。
『一応何か不足の事態に備えて、全員に避難命令を出しておきました』
あ、そういうことか。
見捨てた訳じゃないんだな。
俺はほっと胸を撫で下ろすと、透視をキャンセルした。
……さて、皆無事なことだし、寮に戻ってゆっくり寝よう。
そう考えると、俺は転移魔法を使用して、自室へと帰っていったのだった。
俺は、その寝苦しさに目を覚ました。
「ん、んん……」
何かが、俺の腹の上で寝息をたてている。
薄目を開けて確認してみると、目の前に金色の錦の様なものが目に入った。
未だにぼんやりとした意識では、それが何かわからなかった。
俺は、それを確かめようとそれに手を伸ばした。
さらさらとした、流れるような金髪だった。
それを撫でていると、一肌に触れた。
(……首か?)
その瞬間、何か嫌な予感がして、目を覚ました。
「すぅ……すぅ……すぅ……」
すると、そこには静かに寝息を立てるロット・マクトリカの姿があった。
「!?」
その瞬間、意識か急速に目を覚まし、高速で思考が回転する。
その結果、導きだした結論と言えば……
「……」
俺は、彼女が目を覚まさないように、そっと俺の上から離した。
同時に、ゆっくりと体をスライドさせて、ベッドから脱出する。
金色の長髪に、同色の長いまつげ。
白い肌は少し上気しており、はだけた浴衣の隙間から見える小さなお腹は、寝息をたてて上下している。
よし、まだ眠ったままだな。
俺は安堵して胸を撫で下ろすと、彼女のはだけた浴衣を戻そうと手を伸ばした。
「おい、これは何の真似だ?」
突然、そんな台詞が鼓膜を叩いた。
「……」
浴衣の襟を両手に持った状態で強ばる俺。
ゆっくりと視線を上げると、何か嫌悪したような青い瞳でこちらを覗く童顔があった。
「え、えーっと、これはですね……その……」
「このロリコン。変態。淫魔」
突然のことにあわてふためく俺に、そんな台詞を投げ掛けてくるロット。
ちょっと心が痛い。
「いや、これは誤解ですって!事故です、事故!」
「どうやったら、幼女の浴衣をはだけるような事故が起こるんだ?」
「えっと、ですから、その……!」
これがテンパる、という事だろうか。などどうでもいいことを頭の角で思いながら、俺は弁解を試みる。
「お前、散々俺にゴリラだの暴力女だの言ってくれたよな?」
「うっ……」
「この淫獣。強猥男。痴漢。インキュバス」
「いや、だからこれは不可抗力ですって!!」
「ていうか、そもそもなぜ、俺がお前の部屋にいるんだ?説明しろよ?」
それこそ俺が教えてほしいよ!?
「それは俺が教えてほしいくらいですよ!?」
「お前が見境のない歩く猥褻物だからじゃないのか?」
「酷いな、オイ!」
「うるさい。て言うか、いい加減降りろ。いつまで俺を押し倒している気だ、この変態?」
「うぐっ……」
俺は彼女のその一言で、何かのタガが外れたようだった。
「なっ!?お前、何を!?」
その瞬間、俺は彼女の黒色の浴衣をいっそうはだけさせた。
「や、やめろ!お前、急にどうした!?」
その白く小さな肩が見えるほどまでさらけ出させた彼女の体に、俺はその体を抱きつかせた。
腕の中で暴れる彼女を、力と体格の差で押さえつける。
「こんなことをして、許されると思ってるのか!?」
眼前に迫る、その幼い瞳を覗いた。
ああ、なんと綺麗な目をしているのだろう。
これほどじっくり眺める機会なんて無かったからな……。
──ニヤリ。
俺の手が彼女の肩に触れた。
ゆっくりと、撫でるように、肩から腕、そして指先へ。
そして肩まで戻ってきて、鎖骨に触れた。
その、次の瞬間だった。
俺の体は、激しい衝撃と共に宙を舞った。
「……あれ?」
空中で停止する体。
眼下に映る、紅潮した面持ちのロット。
その手には、剣が握られていた。
「許さないって、言ったよな!?」
次の瞬間、爆発と共に、俺の意識は途切れた。
それでは、良いお年を。と、最後に書きたかったけど、いつのまにか寝てしまっていました。
と、いうわけで、今年もよろしくお願いします!
次回、閑話 正月遊び




