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大魔術師ロットの魔法  作者: 記角麒麟
蒼い海蛇
39/82

翌朝

 明けましておめでとうございます。

 今年もよろしくお願いします。

「……祭壇?」


 尋ねると、彼女は頷く代わりにカップに口をつけて、その質問に答えた。


 曰く、この世界は、基本的に二つの性質によって存続されている。


 ここからは哲学的な話になるが、わからないなら後で簡単に説明しよう。


 さて、その二つの性質というのが何か。

 それは、有と無である。


 すべての存在は、その二つに大別される。

 有とは、見えている世界。

 無とは、見えていない世界。存在していない世界。


 この世界における精霊とは、無の状態から有の状態へと変質させる存在であり、魔法とは、その有の性質を指定するものである。


 例えるならば、それはカードの裏表。

 裏を向けている間は、表に何が描かれているかはわからない。

 その情報の可能性は無限大である。

 精霊とは、そのカードをひっくり返す存在であり、魔法を使うというのは、ひっくり返されたカードの表に、自由自在に情報を描き入れる動作に等しい。


 その精霊を調整し世界の均衡を保たせ、世界の混沌の崩壊を抑制するのが、黒い妹の役目である。


 もし、これがなければどうなるか。


 精霊は暴走し、世界は混沌の渦中へ放り投げ入れられることになる。


 つまり、その祭壇とは、精霊の管制塔なのだ。


「……てことは、魔力は、書き込むために必要なインクみたいなものか?」


「おぉ。君は他の人形より理解力があって助かる……ちょっと長話しすぎたかの?」


 彼女は伸びをすると、その髪と同じ蒼い瞳でこちらを見つめた。


「独りが長くてな。今日は楽しかった。……そういえば、まだ本題を聞いてなかったの。私をこんなところに連れ出した理由を聞こうか」


 今更かよ!?

 いや、俺もちょっと忘れてたけどさ。


 忘れていたのは悪かったけど、えーっと、本題は何だっけ?


 急な彼女の切り返しに、思わずたたらを踏んでしまう。


「あー……っと、そういえば思い出した。俺が造らせた人工の島に、貴女の接近を感知して、討伐するか、無理なら進路を変更させるつもりだったんだけど」


 そういえば、あいつら大丈夫か?

 時間的にあいつら帰っててもおかしくないよな?


「その必要はないと思う」


 俺はそう言うと、目の前で未だに湯気をたてているコーヒーに口をつけた。

 なんか、コーヒーなのにちょっと鉄臭かった。


(これ、何入ってるんだ?)


 俺は少し不審に思いながら、カップを置いた。


 それより、いつ離脱しよ……。















「あー、疲れた……」


 俺は、疲れたような顔で、海岸に降り立った。


 あの後、何とか彼女の話を切り上げ、島に戻ってきたのだ。


 難しい話ばかりだったから、頭が割れるかと思ったよ、ホント。


「……帰るか」


 どうせ、宿に戻っても居ないだろうし。


 俺はあくびをすると、一応宿の中を透視してみた。


(うん。やっぱり帰ってた)


 誰もいない、静まり返った部屋を眺めて、一抹の悲しみを覚える。


(……やっぱり、みんな俺のことなんてどうでもいいとか思ってるんだな)


 そう思っていると、机の上に置き手紙が置いてあるのを確認した。


『一応何か不足の事態に備えて、全員に避難命令を出しておきました』


 あ、そういうことか。

 見捨てた訳じゃないんだな。


 俺はほっと胸を撫で下ろすと、透視をキャンセルした。


 ……さて、皆無事なことだし、寮に戻ってゆっくり寝よう。


 そう考えると、俺は転移魔法を使用して、自室へと帰っていったのだった。




















 俺は、その寝苦しさに目を覚ました。


「ん、んん……」


 何かが、俺の腹の上で寝息をたてている。

 薄目を開けて確認してみると、目の前に金色の錦の様なものが目に入った。


 未だにぼんやりとした意識では、それが何かわからなかった。


 俺は、それを確かめようとそれに手を伸ばした。

 さらさらとした、流れるような金髪だった。


 それを撫でていると、一肌に触れた。


(……首か?)


 その瞬間、何か嫌な予感がして、目を覚ました。


「すぅ……すぅ……すぅ……」


 すると、そこには静かに寝息を立てるロット・マクトリカの姿があった。


「!?」


 その瞬間、意識か急速に目を覚まし、高速で思考が回転する。

 その結果、導きだした結論と言えば……


「……」


 俺は、彼女が目を覚まさないように、そっと俺の上から離した。

 同時に、ゆっくりと体をスライドさせて、ベッドから脱出する。


 金色の長髪に、同色の長いまつげ。

 白い肌は少し上気しており、はだけた浴衣の隙間から見える小さなお腹は、寝息をたてて上下している。


 よし、まだ眠ったままだな。


 俺は安堵して胸を撫で下ろすと、彼女のはだけた浴衣を戻そうと手を伸ばした。


「おい、これは何の真似だ?」


 突然、そんな台詞が鼓膜を叩いた。


「……」


 浴衣の襟を両手に持った状態で強ばる俺。

 ゆっくりと視線を上げると、何か嫌悪したような青い瞳でこちらを覗く童顔があった。


「え、えーっと、これはですね……その……」


「このロリコン。変態。淫魔」


 突然のことにあわてふためく俺に、そんな台詞を投げ掛けてくるロット。


 ちょっと心が痛い。


「いや、これは誤解ですって!事故です、事故!」


「どうやったら、幼女の浴衣をはだけるような事故が起こるんだ?」


「えっと、ですから、その……!」


 これがテンパる、という事だろうか。などどうでもいいことを頭の角で思いながら、俺は弁解を試みる。


「お前、散々俺にゴリラだの暴力女だの言ってくれたよな?」


「うっ……」


「この淫獣。強猥男。痴漢。インキュバス」


「いや、だからこれは不可抗力ですって!!」


「ていうか、そもそもなぜ、俺がお前の部屋にいるんだ?説明しろよ?」


 それこそ俺が教えてほしいよ!?


「それは俺が教えてほしいくらいですよ!?」


「お前が見境のない歩く猥褻物だからじゃないのか?」


「酷いな、オイ!」


「うるさい。て言うか、いい加減降りろ。いつまで俺を押し倒している気だ、この変態?」


「うぐっ……」


 俺は彼女のその一言で、何かのタガが外れたようだった。


「なっ!?お前、何を!?」


 その瞬間、俺は彼女の黒色の浴衣をいっそうはだけさせた。


「や、やめろ!お前、急にどうした!?」


 その白く小さな肩が見えるほどまでさらけ出させた彼女の体に、俺はその体を抱きつかせた。


 腕の中で暴れる彼女を、力と体格の差で押さえつける。


「こんなことをして、許されると思ってるのか!?」


 眼前に迫る、その幼い瞳を覗いた。


 ああ、なんと綺麗な目をしているのだろう。


 これほどじっくり眺める機会なんて無かったからな……。


 ──ニヤリ。


 俺の手が彼女の肩に触れた。


 ゆっくりと、撫でるように、肩から腕、そして指先へ。

 そして肩まで戻ってきて、鎖骨に触れた。


 その、次の瞬間だった。


 俺の体は、激しい衝撃と共に宙を舞った。


「……あれ?」


 空中で停止する体。


 眼下に映る、紅潮した面持ちのロット。

 その手には、剣が握られていた。


「許さないって、言ったよな!?」


 次の瞬間、爆発と共に、俺の意識は途切れた。

 それでは、良いお年を。と、最後に書きたかったけど、いつのまにか寝てしまっていました。


 と、いうわけで、今年もよろしくお願いします!


 次回、閑話 正月遊び

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