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大魔術師ロットの魔法  作者: 記角麒麟
蒼い海蛇
37/82

柩の守護者

 白い髪に、白い肌。大きな黄色い瞳は半開きだ。

 大きな特殊合金の首輪に、手枷、それから足枷。

 袖のない白の膝上丈のワンピースに、幾何学模様が伸びた白い素足がすらりと延びている。


 幼い顔つきの彼女は、宝具『アダマスの鎌』を手に、背後の柩を守るように対峙する彪人間を睨んだ。


「それ以上近寄るならば殺すわ、ニュルンベルク特尉」


「刑部の執行部隊か?てことは、ノスポールの王は俺を見放した訳だ?」


「貴方に関係あると思う?」


 これは勅命だ、と言外に伝える人形・・

 その愚直なまでの遂行心に、彪人間──ニュルンベルクは舌打ちをした。


 宝具『アダマスの鎌』は、神話級ゴッズの秘宝だ。

 我が祖国ノスポール帝国に幾つか立つダンジョンの内、最も厄介だったダンジョンの秘宝であるそれは、刑部省に設置された執行事務局の中でも手練れの局員だけが使用することを許可された兵器である。


 その効果は、触れた瞬間にアダマンティン製の鎌から呪詛が流れ込み、やがてその呪詛が血流に乗って全身を巡ると、呪詛に侵された領域は壊死すると言われている。

 噂では、その血族や眷属にまで、その効果は広がるという。


 別名、『根絶やしの鎌』。


 ……一度手を引いて出直すか?


 しかし、今を逃すのは勿体無い。


 俺は彼女の後ろにあるそれを一瞥すると、後ろを振り向いた。


 ──と、その瞬間だった。


 俺の全身に、何か不吉なものが駆け巡るのを感じ、全力で前へ跳躍した。


「……っ!?」


 刹那、その脇を銀色の尾を引いて、それは停止した。


「残念だわ。でも、流石特尉。冴えてるわね?」


「見逃してくれるんじゃなかったのか?」


「あら、誰がそんな戯言をほざいたのかしら?私は、近寄ったら殺すと言っただけよ?」


 言外に、どうあっても俺の命は刈り獲るつもりだと、そう述べる白髪の人形。


「ぐっ……!」


 繋げて、斬り上げられるその鎌を、必死の形相で避ける。


 縦向きの高速の旋回を横へ逃げる。

 すると、それを追うように、鎌の刃が慣性を無視して方向を変えて、俺の首へ迫り来る。


「い……っ!」


 刀を抜いて、ギリギリで防ぐものの、勁の込められた斬撃は重く、俺の体は用意に吹き飛んだ。


 まさに、体重差無視である。


 考える間もなく、彼女は高速で間合いを詰めてくる。


 さっきの刀は刀身が三分の一ほど無くなっている。

 刀で受けるのは次が最後だろう。


 袈裟懸けに降り下ろされる高速の鎌を間一髪で避ける。

 回避した場所の石畳が粉々に砕け、礫と土埃が舞った。


 音の方向から胴体へ向かって横薙ぎの旋回が来ることを察知し、俺は背後に跳ぶ。

 瞬間、ほぼ同時に胴と足を持っていくラインに鎌の軌跡が走った。


 また横薙ぎの旋回が俺を襲う。


 間一髪で回避、次の瞬間、全力で横へ跳んだ。

 すると、俺がいた場所に、刹那の瞬間、その鎌の軌跡が走った。


 また礫が飛んでくる。


 くそっ!土埃で何も見えやしない!


 そんな悪態をつく暇すら与えずに、次の旋回が俺を襲撃する。


 弾ける礫弾と、高速で、慣性を無視した動きで迫り来る鎌を全力で回避し、俺は反撃の期を伺う。


「あれあれ?貴方、そんなに脆弱だったかしら?」


 声が木霊するせいで、相手の位置が把握できない。

 これは反響発声と呼ばれる技術で、声帯で特殊な振動を作り出すことにより、音を反響しやすくしているのだ。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」


 不味い。こんな短時間で、これほどまでに体力を持っていかれては、反撃どころか逃げることすら──。


 と、その時だった。


 後ずさりを続けていた俺の首に、スッと銀色の線が伸びた。


 恐る恐る振り替える。


「あは!残念だったわね、ニュルンベルク特尉」


 すると、そこには石の塔の上から、アダマスの鎌を俺の首に引っ掻けている白髪の女の姿があった。


「それは、どうかな!」


 俺はその姿を確認するや否や、その石の塔へ向かって全力でタックルした。


「なっ!?」


 あの女の意識の隙間を縫うように動く歩行術を駆使して、巧く相手の認識から外れ、その石塔を崩した。


 女は塔からジャンプして跳び退くと、その石床に降り立った。


 ……これで、柩との距離は俺の方が近くなった。


「……驚いたわ。まさか、ずっとこれを狙って動いていたって訳?」


「さあな。偶然だろ」


 そう嘯くニュルンベルクに、嫌悪と称賛の目で睨む白の少女。


「いいわ……。そこまで言うんなら、少し本気で相手してやろうじゃないの」


 呟いて、彼女はその鎌をストレージに収納した。


 そして、代わりに取り出したのは、赤い直方体の筒。


「──お遊戯あそびの時間よ」

























 ミッドとジョンの二人と別れた俺は、二人をつれて秘湯エリアへとやって来ていた。


「すごーい!露天風呂だぁ!」


 それを見つけたとたん、メープルは物凄い勢いでそれに向かって走り出した。


 ──バシャアン!


 熱いお湯が空を舞って、彼女の体は湯の中へと沈んでいった。


「ここは、俺が内緒で増設したエリアなんだ」


 俺がそう説明すると、彼女はへぇ~とか呟きながら、水面にプカプカと浮かんでいた。


「そんなことして良かったの?」


「いいんだよ、細かいことは気にしなくてさ!そんなことより、早く入ってみてよ。ずっと水着で外を彷徨いていたんだから、体も冷えたでしょう?」


 俺がそう急かすと、ジーナさんはそれもそうねと言って、近くに山積みにされていた桶でかけ湯をしてから、その中へと足を踏み込んだ。


 それにならって、俺もかけ湯をしてから中に入る。


「んー、このお湯、なんだかピリピリするね~?何で?」


 浴槽の縁に背中を預けて、俺に尋ねてくるメープル。


「とにかく、肩こりとか腰痛を改善させる効果を付与したら、なぜかこうなった。理由はわからん」


「ふーん」


 おそらく、弱い電流とか走ってるんだろうな。もしくは、ちょっとアルカリ性だったりして。


 いや、アルカリだったら、たんぱく質とけるからぬるぬるになるよな……何でだろ?量の問題?


 とそんなことを考えていると、ふと、ジーナさんの胸部が目に入った。


 さっきまではずっと薄手のパーカーで隠れて見えなかったけど、この人、結構巨乳だ。


「どうかしたの、ロットちゃん?」


 俺の視線に気づいたのか、俺にそう話しかけてくるジーナさん。


「あ、いや。その……ジーナさんって、着痩せするタイプなんですね?」


 流石に、胸がデカイとかそんなことを直に言うのは躊躇われた俺は、視線を横に流しながらそう返答した。


「も、もしかして、私太ってる?」


「い、あ、いや、そういう意味じゃなくて、えっと、その……!」


 何て言えばいいやら。


 すると、突然俺の後ろから両手が伸びてきて、俺を後ろから抱き締める影があった。


「だめたよ、ジーナ!ロットちゃんは私のものなんだから!」


「ちょ、待てメープル!それは──!?」


「まぁ!貴女たち、いつのまにそんな関係に!?」


「ジーナさん顔を赤くしないで!てかメープル!そろそろ離れろ!」


 背負い投げの要領で、彼女を水面に叩きつける。


「流石ロットちゃん!デレてるぅ♪」


「デレてない!」


 全く、他人の前でよくそんなこと言えるよな……。

 二人だけならば兎も角さ。


 と、そんな感じで、俺たちは満喫していた。


 温泉上がり、俺が用意した衣服に着替え、湯冷めしない内に、俺たちはさっさと宿を決めることにした。




















 白いその女は、取り出した筒を上へ放り投げた。

 俺の視線は、自然とそれに吸い寄せられ──瞬間、頭の中に鳴り響く警報に、俺は全力でその場から退避した。


 しかし、時すでに遅し。


 赤い箱から、何かが飛び出した。

 それは、俺が退避した場所のすぐ手前に落下し、それを確認するとほぼ同時に、人形はそれを手に取った。


 人形はそれを手にすると、強引に地面を抉りながらそれを抜き出し、下から上へと斬りつけてくる。


「じ……っ!?」


 咄嗟に回避行動をとるが、体が追い付かず、俺の左足が持っていかれた。


「……!?」


 咄嗟に残った右足でバックステップを踏むが、力が入らずに体の軸がぶれる。

 それをついて、彼女の旋回させた何かが俺の残りの脚を切って持っていく。


「ぐぅあっ……!?」


 衝撃で俺の体が宙を舞った。

 必死で防御魔法を張る。


 しかし、それもむなしく、彼女の手にした何かは易々とそれを貫き、迫る。


 間一髪、両手でそれを跳び箱の要領で回避した俺は、先程より数百倍の硬さを誇る防御魔法を展開した。


 だが──。


「無駄だわ」


 ギリギリ防ぎきって、それは俺と共に墜落した。


 落下の衝撃を代わりに受けて、防御魔法は決壊した。


「ぐふっ!?」


 ゆらり、ゆらりと揺れて、静やかに彼女は着地した。


 瓦礫の山の上。

 月明かりを背にして、それは快楽に頬を歪める。


「残念だわ。まだ本気の半分しか出していないのに、このザマだなんてね?」


 女は手に持つそれを旋回させると、カン!と音を立ててその瓦礫に突き刺した。


 逆光に揺らめくそれは、大きな鎌の形をしていた。


「いいわ。今は気分がいいの。回復するまで待ってあげるわ。その代わり、私の自慢話に付き合いなさい?」


 彼女はそう言うと、嬉しそうに微笑みながら、その大鎌の柄を撫でた。


「この鎌はねぇ、私の恋人なのよ。体は青生生魂アポイタカラとアダマンタイトの合金で、幻想メフィスト鋼というとっても貴重な金属でできているわ」


 アポイタカラ、とは、ヒヒイロカネと同じ性質を持つ金属である。

 アポイタカラとヒヒイロカネの違いは、その生成までの過程で、ヒヒイロカネが特殊な鉱脈で自然発生するのに対し、アポイタカラは何人もの人柱を使い、特殊な呪法によって錬成される。

 そのため、アポイタカラはヒヒイロカネに比べ、呪力が高い。


 そのアポイタカラとアダマンタイトの合金であるメフィスト鋼と呼ばれる金属は、それが使われている武器を侵食して、使い手の思うままの形へと変形させる。


 つまり、今はまだ鎌の形をしているが、その気になれば槍にでも剣にでもなれるということだ。


 彼女はいやらしい手つきでその柄をさすると、恍惚とした表情で自慢を続けた。


「この子の名はアザトース。究極の虚無と白痴の魔王よ。……さあ、傷は癒えたわね?」


 俺はヒール・オールによって全快した両脚の感触を確かめると、同じく回復魔法によって再生させた刀を腰に構えた。


 彼女は俺の様子を確認すると、瓦礫に突き刺した鎌を引き抜いて叫んだ。


「──それじゃあ、遊戯あそびを再開するわ!」

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