目覚め
上空を舞う、巨大な人影。
群れを作らず、好き勝手に暴れまわっているように見えるが、よく見ればちゃんとした連携をとって動いていた。
まるで、パズルのような連係プレー。
アレイスター・クロウリーは、そんな敵を見上げて、舌打ちをした。
「デモン・コール!」
指輪に取り付けられた宝珠へ魔力を流し込み、魔法名を唱える。
すると、上空に巨大な魔法陣が出現し、その中から数百もの真っ黒な人形が吐き出されてきた。
アレイスターの得意とする、召喚魔法の内高位に位置する魔法。
魔力を代償にして契約を結んだ、悪魔を召喚する魔法だ。
普通、一体に対する代償は、それひとつでロン換算で寿命十年分を要するのだが、彼の場合、その特殊な体質によって、それを苦とすることなく支払うことができるのだ。
その体質こそ、恩恵の影響である。
恩恵の名は『新月を司る者』。
空気中の魔力をスポンジの様に吸収し、循環させる。
つまるところ、魔力を完全に貫通してしまうのだ。
簡単に言うならば、魔力食いが能動的な動作なのに対し、新月を司る者は受動的なものである、という点だろう。
召喚された悪魔たちは、アレイスターの命令通りに、空中のパワースーツを装備したmapを相手取る。
しかし、分が悪い。
パワースーツ部隊千体超に対して、悪魔部隊数百。
一機落とすのにも二、三の悪魔が必要となるため、数では負けている。
「くそっ!」
足りないなら増やせばいい。
そう思うかもしれないが、このノヴィルニオにも欠点というものが存在する。
それは、魔力の通りが受動的で制御できないことだ。
限界を越えて魔力を無理に使おうとすれば、全身に激痛が走る。
先程の数百体の召喚は、通常個人が操作できる魔力を大幅に越えているため、かなりの無理になっているのだ。
こうやって悪魔を維持しているのも、あとどれだけ持つか。
「魔導砲部隊は何をしている!?」
「それが、百門ある内の半数以下を破壊され、他残り五十門も火力不足でGuardianを突破することができないため──」
「──ごちゃごちゃうるせぇ!アビメリ(アビス・メリクリウスのこと)の主砲で代用しろバカ野郎!」
「はっ、只今!」
敬礼してその場を去っていく兵に罵声を浴びながら、戦場を見上げる。
空を舞うあの悪魔のような機体は、兵士諸共臣民までも標的にしている。
くそっ。なんで警報が鳴らねぇんだよ!?避難誘導はまだか!?
もし、避難誘導が終えたならば、一度デモン・コールをキャンセルして、ノヴィルニオを経由してスズリの極大魔法雷の黄金を使うことができるだろう。
……だが、一向に避難誘導が終わらないのはなぜだ?
イライラした頭では正常な思考が封じられていた。
激痛のせいで疑問は感じられても理由を理解することはできなかった。
「ちっ!」
鎮痛剤を使えば痛みは収まる。だが、魔法の行使中で使用すると、強制的に魔法がキャンセルされてしまう。
そんなイライラは彼にとってストレッサーの他の何者でもなかった。
そんな時、一人の兵士がこちらにかけよって、とある報告を持ってきた。
「アグニ・ゼルベノフ一等魔導武官より伝言!国王の勅命により、この時を以てジョン・エインズワースの参戦を認める!以上!」
「わかった!いいからとっとと失せろ!」
勅命なら仕方ねぇ。
……が、本当何考えてんだあの老いぼれ国王は!?
全身の激痛によるものからか、激しい苛立ちに見回れながらも了解の意を示した。
そして、その直後だった。
頭上に影が射して、敵の攻撃が止んだ。
「……何が、起こりやがった?」
「ジョン・エインズワース。機会をやろう」
そう言って入ってきたのは、厳つい顔面に黒い眼帯をつけた男──アグニ・ゼルベノフ一等特級魔導武官だった。
「機会、ですか?」
アグニが足でタン!と地面を突くと、何が起きたのか、椅子と体を繋ぎ留めていた手枷と足枷が、一瞬にして破壊された。
「そうだ」
呆然と椅子に座る俺に、彼は肯定した。
「期限は今日一日。外の弾幕を、いかなる手段を以てしてでも防いで見せよ」
アグニはそれだけを告げると、俺に軍服と今まで使っていたデバイスを投げ渡し、その場を去っていった。
去り際に、これは勅命だと言葉を添えて。
(……勅命、多すぎだろ)
まぁ、一つは失敗して死にかけたんだ。
無駄口は言っていられない。
そんな回想をしながら、俺は今、ピタリと止んだ弾幕に、自分の推理の正しさを見いだした。
やはり、これを操っていたのはロットだったか。
深淵の水銀の上から、目前の無人のパワースーツ部隊を睨みながら、確信する。
「この糞ガキー!さっさと姿を見せやがれぇ!」
大声で、俺は叫んだ。
俺の推理では、アイツは絶対、この状況を見ている。
ロットは当然、あの彪だって何らかの方法で覗いているはずだ。
そして、これが正しいのは、この弾幕が止んだことからも理解できる。
絶対に姿を見せるはずだ。
「……」
俺の叫びの名残が完全に消えた頃。
その時は来た。
「……」
金色の髪を靡かせて、光のない青い瞳をこちらに向けている。
まるで空気中から染み出るように現れた彼女には、まるで意志が感じられなかった。
──だが、しかし。
(これは、聞こえているな)
そう判断した理由は、いたってシンプル。
「よお?どうしたよガキ?いつもみたいにやらねぇのか?ん?」
それは、勘である。
俺は、わざと煽るような口調で、彼女に話しかけた。
──ピクリ。
口角が少し動くのが見えた。
(効果あり)
そう判断した俺は、さらに彼女を煽っていく。
「全く本当にさぁ?お前って何でこうも暴力的なんだよ?え?これからあだ名をゴリラにしてやろうか?」
「……」
「なぁ、ゴリラ?まさか寝た振りじゃねぇよな?ゴリラの次はナマケモノか?足して二で割ったみたいな顔になってるぞ?」
「……」
ちっ。
まだ足りないか。
「おいゴーリーラ!ほらゴーリーラ!」
「……」
「暴力女!チビ!やり過ぎ大王!」
「……」
早くしろよ!?ネタ無くなるだろ!?
「つるぺた!男女!オカマ!」
「……っきから……」
まだ目覚めないか……。
んー、こうなったら今までのやつ全部総合してやろうか。
「中二病!泣き虫!この、暴力ゴリラ女!チビでつるぺたな幼女男女!」
そして、次の瞬間。奇跡は起こった。
「さっきから聞いてりゃゴリラゴリラうっせぇんだよ!?手前は小学生か!!」
そこには、青い目に涙をうかべて、俺にそう叫び返すロット・マクトリカの姿があった。
次回、終劇
魔法紹介。
デモン・コール:魔力を代償に悪魔を召喚する召喚魔法。魔力だけを代償とした場合に於いては、下位悪魔しか召喚することができないが、代償として肉体を用意すると、維持に必要な魔力を消費せず、さらに高位の悪魔を召喚することができる。高等魔法に分類。




