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大魔術師ロットの魔法  作者: 記角麒麟
屍霊の襲来
26/82

パイモンの思惑?

 嫌にならない、調度のとれた豪奢な内装。

 中央には、香木を削り出して作られた、大きな丸テーブルが一つ。

 そして、その席についているのは、上座からアグニ・ベルゼノフ、アレイスター・クロウリー、スズリ・マーキュライトステイシア・アーカイヴ、そしてニュラ。


「さて、そろそろ教えておかねばなるまい」


 ベルゼノフ一等特級魔導武官が、そう重々しく口を開いた。


 そのギラギラと輝く隻眼に気圧されて、俺の体は今、ガチガチに固まっている。


 恐怖にも似たそれに、俺の体は一切の微動を許さない。


 ──眼力のベルゼノフ。


 その異名は、決して伊達ではないのだと、このとき俺は心の奥底から思った。


「今日、貴官をここに召喚した理由は、他でもない。災害指定魔獣討伐小隊第三小隊ジズの真実についてだ」


 ……?


「ジョン・エインズワース。貴官はジズについて、どのように教えてもらっているかね?」


「は。対飛空系の災害指定魔獣の討伐部隊と聞き及んでおります」


「表向きはそうだ」


 ということは、別の何か?


 一番可能性があるとすれば、それはロットの事だろう。

 彼女は異常だ。

 異常な魔法力を有している。


 聞けば、あのフローレス・マクトリカの孫だというではないか。


 それに、彼女は誰も為し得なかった、人為飛行などの古代の魔術と称されたそれを獲得している。


 鑑みるに、本来の理由は、彼女の保護ではないか?

 部隊に所属させていれば、緊急の戦力としての活用もできる、と?


「……それは、本当の理由は、ロット・マクトリカ特別階位小隊長の保護が目的である、ということですか?」


「……ほんま、流石やねぇ探偵さんは。あんたが敵やなくて良かったわ」


 俺の回答に、スズリ・マーキュライトがうんうんと頷いた。

 すると、次の瞬間、勝ち誇ったようにステイシア・アーカイヴが笑った。


「これで、お前の頭の悪さも用理解できたや。賭けは妾の勝ちよ」


「胸くそ悪い女やな?やから男も近寄らんのとちゃうか、ステイシアはん」


「ふん!妾は高嶺の華よ。お前のような頭の悪い金鶴女とは訳が違うんじゃよ」


「なんやと、このナルシストがぁ!」


「なんじゃ成金娘?カルシウムが足りてないんじゃなかか?」


 ダン!と机を拳で叩いて、スズリが席から立ち上がった。


「止めんか、二人とも」


 取っ組み合いが始まろうとした、その瞬間。


 ベルゼノフが二人を一喝した。


「「……」」


 途端に、静まり返る二人。


「……気を取り直して。──さて、エインズワースよ。もうわかっていると思うが、貴官に勅命を下す」


 勅命?

 ……あー、そういうことか。


「今日、この時をもって、貴官をロット・マクトリカの護衛に任ずる」




















 はぁ……。

 なるほど。俺を探していた理由はそういうことか。


 表向きにはジズの隊員としての勧誘。しかし裏はロット・マクトリカの護衛として選別された。


 勅命という言葉からも理解できる通り、これはヴァイツスネイク国王のパイモンが、この先何かが起こることを予見し、下に情報を流したのだろう。


 例えば、マクトリカ家の滅亡とか。


 ギト王国にとって、マクトリカ家は戦術級の兵器にも等しい価値がある。いや、ひょっとすればそれ以上。


 ロットがやる気なら、ものの数時間あれば、この国を恐慌に陥れるのは容易いし、噂によれば一時間もしない内に、一軍を全滅させたというではないか。


 それらを計算に入れて鑑みるに、おそらく彼女を取り込もうとする輩、もしくは暗殺を目論む国があるかもしれない。


 そういうわけもあり、名目上の部隊に彼女と護衛の俺を一緒に入れることで、相手国への牽制を同時に行っているわけだ。


 俺は廊下を歩きながら、後頭部に手を当てる。


 なんだか憂鬱だ。


 つい数ヶ月前にあの屍霊の祭壇によるバイオハザードが発生したというのに。

 まだあれから教会からは何も見つかっていない。


 祭壇は破壊されているが、おそらく魔法式や祭壇の造りは記録されて盗まれているだろう。

 またどこかでゾンビ騒動が起こることを考えるが、起こるなら国外、もしくは辺境だろう。


 相手の思考としては、離れたところで大量の屍霊兵を作り、こちらにけしかけるとかなんとかなんじゃないか?


 ……ま、別にどうでもいいけど。


 俺は言われた通りの仕事さえ、こなしていればいいんだし。


 そんなことを考えていると、ふと視線の先に、壁に頬を押し付けているロット小隊長が映った。


 ……何してるんだ、あの人?


「おー、ジョン」


 へなへなと、力の抜けたような声で俺の名前を呼ぶ幼女。


 ……これが戦術級の兵器に匹敵する?


(やっぱ無いわ……)


「何してるんですか、ロットさん?」


「お前もやってみろよ?冷たくてひんやりして、気持ちいいぞ~?」


(子供か!)


 いや、よく考えなくてもこいつはまだ十歳前後のガキだったな。


「遠慮しておきます」


「えー?暑いだろぉ?ここ、クーラーも設備されてないんだぞ~?」


 クーラー?

 なんだ、それは。


 キョトン、とした顔で、俺はそのアザラシの様に壁にはりついている彼女を見る。

 すると、ロットは何か思い付いたように叫んだ。


「あ!そっか!無いなら作ればいいんだ!」


「……はい?」



















 と、いうわけで。

 俺は現在、小隊長の自室(女子寮)にやって来ていた。


 ギト王国の兵部省には、女性職員の数が少ない。だいたい男女比は5:1くらいだ。


 そんな女子寮の──しかし相手は子供だが──部屋に、俺は入っていた。


 そして俺は、ドキドキしていた。

 いや、潜入調査やら何やらで、女性の部屋には入り馴れている。

 だから、この鼓動は別のものである。


 俺は、目の前に広がる子供らしからぬ部屋にちょっとした絶望を感じていた。


 あるのは、書類、書類、書類。


 壁一面の本棚には、ファイル分けされた書類が並び、また、魔法に関する参考書や、古代の魔女に関するお伽噺や神話等で埋め尽くされていた。


 勉強机だけは、かろうじて女児用とわかるデザインだが、その机の中はおそらく、開発部からの依頼書等で溢れているのだろう。


 そんな呆然とした態度の俺に、ロットは何でもないように床に座るように促した。


「なんか、書庫みたいですね?」


「定期試験が近いんだよ。諦めろ」


「定期試験?」


「定期的にアブルの奴が試験を受けさせてくるんだよ。若い内に知識を身に付けておけってさ」


 そう言うと、肩を竦めてちゃぶ台の上に顎をのせた。


 アブル、というと、兵部省で武官の管理、育成を担当しているあの人か。


「それは、大変だな」


「大変大変」


 彼女はそう言うと、頭を横に向けた。


「なあ、ジョン。部屋の気温を下げるには、どうすればいいと思う?」


 さっき言ってたクーラーの話か。


「冷却魔法じゃダメなのか?」


 冷却魔法は、分子運動のエネルギーを支配領域内に於いて低下させる魔法だ。

 これなら、部屋を涼しくするには充分だろう。


「ダメ」


 即答。


「なぜ?」


「探偵ならわかるだろう?反動がパないんだよ」


「魔力に変換すれば?」


「ん?……んー。無理。いくら古代の魔術を一つ二つ使えるからって、俺はそんな万能じゃない」


「なら、風魔法は?」


「扇風機なら試した。けど、風が当たらなければ意味は──いや、待てよ?技術開発部に電気モーター置いてなかったっけ?」


 すると、ロットは何か思い付いたのか、席を立って右に左にと右往左往。

 そして、よしと何か思い付いたのか、彼女はその部屋を後にした。


「……あ、護衛!」


















 ……危ない危ない。

 危うく忘れるところだった……。


 ていうか、勅命を破るとか、下手すれば死刑──いや、さらにその上の根絶やしの刑に処せられるかもしれないのに。


 俺はそんな冷や汗をかきながら、ロットの後について技術開発部に割り当てられている第三研究室に足を踏み入れる。


「部屋で待っていればいいのに」


「あー、何となく気になっただけですよ」


「そう。ならいいけど」


 なんとか誤魔化すジョン。


 表向きには軍属ってことだし、護衛のことはバレちゃならんのだろうね……。


 数十分後。


 必要な道工や部品を箱に入れて、ロットが戻ってきた。


「そんなもので、クーラー、というものは作れるんですか?」


「そうだな。正確には、今から作るのは扇風機だけどな」


 そう言いながら、第三研究室を後にした。


















 さて、そうして出来上がったのがなんともいびつな形の箱だった。


 電力で動き、取り付けられた五つのモーターにつけられたファンが回転することで風を起こす。

 ファンは箱の中に取り付けられていて、箱に開けられた穴から、フィンによって風向きを指定する。


「ふぅ!」


 彼女は出来たそれを壁に取り付けると、リモコンを使ってそれを起動させた。


「……」


「……」


 冷たい風が、扇風機から届く。


 ……涼しい。


「成功したな、ジョン?」


 嬉しそうな、達成感を孕んだ笑顔で、彼女は俺に笑いかけた。


 正直に言おう。


 こんなものを手作りしてしまうだなんて、思ってもいなかった。

 どうせ途中で投げ出して、諦めるものとばかり思っていたが……。


「ですね~」


 どうやらそれは杞憂だったようだ。


 その日は一日中、その扇風機の下でゴロゴロしているのだった。

 次回、漁師の町(1)

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