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大魔術師ロットの魔法  作者: 記角麒麟
屍霊の襲来
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ある日の日常

 結界の外に出ると、大量の死体があちこちに転がっていた。


 教会を出る前に、あの祭壇の魔法式を破壊しておいたお陰だろう。

 もっとも、出る直前になって、破壊を忘れていたことに気がついて、あわてて破壊に行ったわけだが。


「……ゾンビ、死滅した?」


「多分。視る限りは居なさそうですね」


 そう返すと、俺はグッと伸びをした。


 魔力を酷使した為だろう。

 身体中が痛い。


 どうやら分身魔法はこちらに負担がかかるようだ。

 次からはちょっとだけ自重しよう。


 俺はそんなことを考えながら、徒歩で省館へと帰還する。

 一応、生き残りが居ないか確認するために、上空にグラン・ジェルを放ったが、近寄ってくるものは何もいなかった。


「……ふぁ」


 街を歩きながら、ニュラが欠伸をした。


「……こんなに疲れたのは、久しぶり」


「以前にもバイオハザードが起きたことがあるんですか?」


「……ある。……けど、忘れた」


 ふぅん。


 後で調べようかなぁ。

 新しいアイデアが浮かぶかもしれない。


 街灯の灯らない夜道を歩きながら、俺はふと思考する。


 この世界では、本当に何でも起こりうる。

 魔法しかり、呪術しかり、科学しかり。


 この世界での魔法は、魔力による化学反応の誘導で起こる。


 例えば、大質量の水を発生させて打ち付けるウォーターハンマーは、可変領域と呼ばれる領域の気温をある程度下げることで大気を結露させ、水を発生させる。

 水を発生させるのは実は魔法ではなく、魔法の効果として正しくは『気温を下げて、発生した水の塊を打ち付ける』なのだ。


 可変領域内でしか、魔力は操れない。

 可変領域とは、精霊が存在している領域のことで、この世界は全て可変領域であるといえる。

 精霊とは概念生命体なので、そこにいると思えばそこにいるのだから。

 それを正しく理解する人だけが、大きな魔法の力を得ることができる。


 まぁ、人それぞれによって、操れる魔力の量や、コントロールできる範囲も変わってくるのだけど。


 俺?

 俺は二十メートルくらいかな。


 それじゃあ、なぜ教会を囲えるほどの結界を作れるのかって?

 そんなものは簡単だ。


 これは、分身魔法の特性とも言えるのだが、分身が1体増えると、支配領域(魔力をコントロールできる範囲)が二倍になる。

 二体になると、二倍の二倍で四倍。

 つまり、俺の現在の支配領域は、二十の五十乗くらいある計算になる。


 正確な数値?

 電卓で調べたけど、1.1259e65って出てきた。

 eって何だよ?

 俺そこまで数学できる訳じゃないし、高校も……あれ?


 俺、今気がついたけど、前世の記憶で、自分に関することを殆ど覚えてない……。


 あれ?

 おかしいな……。

 高校生くらいで死んだことは覚えている。

 何で死んだのかは覚えてない。

 前世での自分の名前や、家族。学校の人たちの記憶も無くなっている。


 ……ほとんど、知識だけが頭の中に残っている状態だ。


 なら、今の俺は何者だ?

 前世から引き継いだ記憶の欠片が自我を持っている?

 それが、今世に引き継がれて?


 ……不味い。混乱してきた。


 これ以上考えるのはそう。

 本気で気が狂いそうになる。


 俺は頭を振ると、頭の中を無にして省館へと向かった。















 帰ってくると、その後色々報告や書類整理、それから街の復興に駆り立てられた。


 忙しい毎日だ。


 そんな様子の上官──ロット・マクトリカ──が、ある日俺の部屋に訪ねてきた。


 ──コンコンコン。


 三回のノックが聞こえて、俺は作業を中断する。


「どうぞ」


 扉を開けてやると、ロットは、自分の頭以上の高さに積み上げられたファイルなどの書類を両手に、部屋に入ってきた。


 背中には少し大きめのリュックも背負っているようだった。


「ありがとう、ジョン。しばらく借りるぞ」


 彼女はそういうと、どさりと音を立てて、その荷物を床に置いた。


「それはいいですけど、その荷物はなんですか?」


「ん、これか?」


 そう言うなり、リュックを下ろすと、肩をグリグリと回して肩をほぐした。


「これはな。ちょっと技術開発部門からの依頼で、ここにある魔法道具の設計図を参考に、新しい兵器を作ってくれと頼まれたんだ」


 なるほど。

 それで俺のところに。


 魔法道具の改造や考案はエインズワース家の十八番だ。


 無論、俺も子供の頃親父と魔法道具の魔改造をしたり、面白い道具を考案して、一緒に設計図を書いたこともあった。


 ロットの魔法道具の設計図を作ったりした経験があるようだが、まだまだ未熟だからとかいう理由で、俺に頼みに来たのだろう。


 そんなことを予想しながら、俺は息抜きついでに手伝ってやる事にした。


「ところでジョン。話は変わるが、さっきは何してたんだ?」


 段ボール箱に入ったファイルをテキトーに漁りながら、不意にそんなことを聞いてきた。


「この前の騒動で、人が大量に死んじゃったからな……。戸籍とか、色々書き換えたりしているんだよ」


「ふーん。俺はてっきり、官能小説でも書いてるのかと」


「子供がそんな言葉を使ってはいけません!」


 いきなり何を言い出すんだこの人は!?


「確かに、まだ九つだが、子供扱いされるのは腹が立つぞ?」


「背伸びしたい時期ですか?」


「む……。次言ったら声帯を凍らせてやろうか?」


「……それは勘弁してください」


 勢いで言ってしまったが、この人なら本当にできそうなのが恐い。

 何せ、この人は初めて古代の魔術の一部を自力で行使できるようになった人物なのだ。

 幼女とはいえ、こと魔法においては侮れない天才だろう。


 さすが、マクトリカの血筋だ。


 そんなこんなで、資料を漁っている内に、いくつか凄いアイデアが浮かんできた。


 例えば、深淵の水銀アビス・メルクリウスを、魔物の形ではなく人の形に変形させることで、食料を必要としない兵団をつくるとか。


「あ、それは思い付かなかった。なんならいっそ、それにガーディアンを装備させればどうだ?」


「それもいいですね。あ、アビス・メルクリウスを鎧にするというのはどうです?」


「ああ、パワースーツか。いいね。じゃあ案をこの紙にメモしといてよ」


 そう言うと、平然と何もないところから紙束を取り出した。

 一瞬だけ、ちらりと何か空間に亀裂のようなものが走ったような気がしたけど……。

 もしやストレージか?


 でも、ロットだしな。

 何でもありだろ。


 俺はそう思い込むことにして、思考を強制終了させた。

















 数時間後。


 結構な量の魔法道具の案が出てきていた。


 以下、その一覧。


 魔導歩兵

 ・アビス・メルクリウスの人型バージョンにガーディアンを合体。遠隔操作で安全なところから兵を送ることができるように、主要部には無線カメラを搭載する。これが支給されれば、兵士が死ぬことはなく、安全に戦争ができるというわけだ。


 パワースーツ

 ・深淵の水銀を応用することで、携帯可能なパワースーツをいつでも瞬時に装備できる。ガーディアンを搭載することで、ある程度のダメージは無力化させられる。機体の防御性能を上げるという手も考えたけど、やっぱりこっちの方がカッコいいと思うんだ。


 魔術符

 ・使い捨ての魔法を発動させるカード。これは、仕様の問題で、どうしてもカード本体の耐久力が、発動する魔法の威力に耐えられないので、使い捨てにするしかなくなった。


 光波制御型簡易変装装置

 ・別名フール。光波の振動を機械部分で操って、簡単な迷彩、もしくは変装として利用する。魔導歩兵やパワースーツと組み合わせれば、なかなかに面白い戦法も開発できると思う。


 簡易ストレージ

 ・収納魔法であるストレージの魔法式を、鞄などに組み込むことで、異世界転生系ラノベでお約束の冒険者鞄みたいなものを考えてみた。これがあれば、生き物を収納することはできないという制限がつくが、従来の持ち運びがかなり簡単になるはず。


 ビッグマウス

 ・和訳、大きな口。これは、簡易ストレージから派生した考えで、ストレージの収納能力を、逆に防御や攻撃に転用するものである。これをもし攻撃として利用したなら、あらゆるものを切り裂く(正確には亜空間に飛ばす)ことができるようになるだろう。逆もしかり。



 ──と、まぁこんなところだ。


 俺は、次々とその口から出てくる案に、ため息をつきたい気持ちになった。


 ロットは簡単に言うが、簡易ストレージはともかく、ビッグマウスの作成はほぼ不可能だと思う。

 なぜなら、そんなことをしてしまえば世界が崩壊する危険性があるからだ。


 昔、マグリードという魔法学者がギト王国にいた。

 彼は、あらゆるものを魔力(正式名称:可変的万能エネルギー体)に戻す物体があると考えた。

 しかし、他の魔法学者たちは、もしそんなものがあるならば、この世界はとっくに崩壊しているだろうと相手にしなかったのだ。


 その事を伝えると、ロットはあからさまにげんなりした顔になった。


「あはははは…………」


 だが、今になって思う。もしかしたらマグリード博士の言っていたことは、ある部分において正しかったのではないだろうか、と。


 でも、その証拠がまさか、この目の前にいる金髪の幼女だとは、絶対に誰も予想できないだろうな……。


 そんなことを考えなから、俺は目の前にいる幼女を眺めた。



















 ジョンは、非常に俺と気が合う。


 俺は、思い付いた案を纏めた紙束を片手に、隣で資料を運んでいる彼を見上げながら、ふと思った。


 ひょっとすると、彼は俺が求めていた『対等な友人』になり得る存在なのではないだろうか?


 ……友達、か。


 思えば、産まれて此の方、一度も心を許した友達というものが居なかった気がする。

 いや、認めよう。俺には友人がいなかった。


 それが、何の拍子か、こうして友人と呼べそうな関係の人間が、一人できた。


 今はまだ上官と部下という立場だが、いずれそういうのも綺麗に払拭して、対等な関係になりたいものだと、そう心から思う。


 そんな意味もあったのだろう。

 俺は無意識に、こんな言葉を述べていた。


「今日は、ありがとうな。押し掛けた上に手伝わせて。そっちにも色々仕事があっただろうに」


 すると彼は、にこりと微笑みながら、こう返答した。


「これぐらいなら、いつでも構いませんよ。まぁ、いい気分転換にもなりましたし」


「そっか。そう言ってくれると助かる」


「あれぇ?今日は自棄に素直なんですね?訓練の時とか、結構暴力的なのに」


「暴力的で悪かったな!」


 そう言いつつ、ジョンの龍節へ肘鉄を食らわせる。


「う゛っ!?」


 呻きつつも、山積みの書類を落とさないジョン。流石、十年も武偵をやっていただけはある。


「な、何するんですか、いきなり!」


「少し腹が立ったんだ」


 プイ、とそっぽを向く俺の顔には、楽しげな笑顔が浮かんでいた。


 きっとこれから先、俺はこいつとこんな関係であり続けるんだなと思うと、少し嬉しくあった。


 そんなロットの考えを梅雨とも知らないジョンはと言えば──


(え、何この娘!?人を殴って優越に浸ってる!?)


 もしや、サディストの素質があるのでは?


 ──等という、とんでもない勘違いをしているのであった。


 こうして、二人の日常は始まりを告げる。──そう。そのはずだったのだ。

 しかしそれは、あるひとつの出来事を切欠として、唐突な終わりを告げたのだった。

 その事をこの二人はまだ、知る由もない。

 次回、パイモンの思惑?

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