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大魔術師ロットの魔法  作者: 記角麒麟
屍霊の襲来
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爆弾

 祭壇の向かいに腰かけて、彪型の男は、目の前に祀られている一人の少女のような外見をしたクローン体に話しかけた。


「この世に存在するものは、全て未完成のまま生まれてくる。なぜだか知っているか?」


「……」


「輪廻転生章には、こんな一文がある。曰く──『神は、人間を作ったとき、彼らに個性ペルソナを与えなかった。代わりに、同じものを三つに分けて散在させたのだ』」


「……」


「俺にはまだ、その三つの意味がわからないのだ。王からの勅命を受けて至るのに、なんたる怠慢なことか」


 自嘲するような声音で、彼は首を左右に振った。

 しかし、目の前の少女は一切動く気配がない。


 それもそのはず。

 まだ彼女を起動させるに足る条件が揃っていないからだ。


 屍霊の祭壇ネクロシアターとは、元来古代の魔女を神と崇めた信者の末裔、エインズワース家が、マクトリカ家と協力して魔女の再誕を願うためにつくられた秘法である。


 この世に産まれた中で、最も神に愛された、最初の人形・・


 それが、古代の魔女。


 俺の任務は、彼女を復活させ、神を降臨させ、弑し、我らが皇帝を、真なる人間に進化させることだった。


 だが、とその男は考える。


 俺が先に、その神とやらを弑すれば、自分がこの世を統べる王となれる日が来るのではないか、と。


 しかし、そんな人間に仕えてみたいというのも、また事実。


 彼の中で葛藤が生まれるが、しかし今はそんなときではない。


 先程から、集まってくる魂の数が減りつつある。

 それも、急速に。


 いくら教会の死体を使ってねずみ算式に増えるように設定したからといい、まだ、世界を征服させるには早い。


 ……これは、予想していた通り、早くも何らかの対抗処置が施されたと考えるべきだろう。


 俺はそう思うと、予め内包させていた罠魔法を発動させたのだった。


















 悲鳴。

 あちこちで聞こえる、恐怖の叫び声。


 ネクロシアターによる魔術的な呪いの感染は、今や体力のない小さな子供や老人を中心に、ねずみ算式に増えていっていた。


 ネクロシアターとは、俺もよくは知らないが、従姉の姉が言うには、何らかの儀式を行う準備を整えるための、前儀なのだという。


 それが何なのかは、あの人も知らないらしかったが、調べてわかったのは、どうやら今テロの犯人の制圧に向かっているマクトリカの先祖に関連があるらしかった。


 俺が武装探偵になった理由は、ネクロシアターを調べることと、それをカモフラージュするためのものだった。

 なぜ、カモフラージュする必要があるのか。


 以前、探偵行を始める前に、姉から言われたのだ。


 ネクロシアターは、公に出ていい代物ではない、と。


 それくらい、自分でも理解していた。


 死者を傀儡にしてバイオハザードを引き起こす。

 それが、いったいどういう意味を持つのかは、当時十代後半だった俺にでも理解できた。


 バイオハザード、というのは、生体兵器による危害の要因を示す。

 今回のそれは、謂わばゾンビだとか呼ばれるものだ。


 仕組みはよくわからないが、何らかの魔術的なウイルス感染により、対象となる個体情報を改編し、上書きしているのだろう。


 屍者の動きはそんなに速くはない。


 が、囲まれると厄介なのは間違いなかった。


「皆さん!早くこちらへ!」


 大声で手招きをして、避難場所に指定されている省館へ誘導する。


 そんなとき、遠方で爆発が起こるのを確認した。


「!?」


 一瞬、静かになる。


 そして、ゾンビは先程の爆発が起きた方向へ顔を向けた。


(音に反応した?──もしかして)


 先程の爆発は気になるが、先程のゾンビの反応。


 どうやら、音に反応するらしい。


 と、先程の爆発音で驚いたのか、所々から子供たちの泣き声が聞こえてくる。

 再び喧騒に包まれる避難民。


 そして、こちらを振り向くゾンビたち。


 ……間違いない。


 奴らは音に反応するんだ!


 さっきはみんなあちこちで騒いでいたから、ゾンビたちがどこへでも、纏まりの無い動きをしていた。

 そして、一瞬の静寂で理解した。


 奴らは音に反応して動く。


 ……つまり、これよりもさらに大きな音を出して、気を逸らせられれば、時間を稼げる!


「ニュラさん、少し試したいことがあるんですが」


「……何?」


 そう言って、上官の許可をとる。


「ニュラさん。省館にいる魔導官で防音結界を使える人達に要請して、省館を防音結界で覆ってください」


「……わかった」


 そう言うと、彼女は懐から水晶玉を取り出すと、魔導官たちに命令を飛ばした。


「……今、全武官がゾンビの対処に当たる準備をしてる。……ここは頼んだ」


 彼女はそう言うと、その場から離れて、教会方面へと抜けていった。

 おそらく、小隊長の援護に向かったのだろう。


「皆!早く中へ!」


 俺はそう叫ぶと、前空に向かって大出力のグラン・ジェルを放った。


 再び、ゾンビ達が気を反らす。


 恐怖の悲鳴に煽られるなか、人々は誘導されて省館の中へと雪崩れ込んでいった。
















 突然、目と鼻の先で爆発が起こった。


「っ!?」


 急ブレーキをかけて、爆発から身を護る。


(なんだ!?何が起こった!?)


 爆煙が立ち上るその向こうを、魔力反射の法で確認する。


 逃げ遅れた臣民が、数人爆発に巻き込まれて怪我をしていた。

 そしてどうやら、その爆発の中心には、焼死体という解析結果がもたらされていた。


 更に細かく診ていくとどうやら人体が内側から弾けたような、そんな風に観察できる。


「……!!」


 瞬間、脳裏をあの肉の味が掠めた。


「おばぁちゃん……」


 嫌だ……。


 嫌だ嫌だ嫌だ!


 体に震えが走り、恐怖で吐き気がもよおす。


 俺は、脳内で乱れる魔力の流れを意思の力でねじ伏せた。

 三大欲求の抑制試練を受けていなければ、今頃発狂していたところだった。


(落ち着け、俺……)


 死体なんざ、去年大量に作っただろうが!

 今さら何を震える必要がある!


 自分を叱咤して、状況の整理を、加速させた思考回路で素早く処理していく。


 ──おそらく、状況から察するに、あれはすでにゾンビになっていた死者だろう。

 となると、この爆発もテロリストの仕業と考えられる。


 おそらく、あわてて罠魔法を起動したのだろう。


 爆発した場所は、俺の魔力喰いが通用する20メートル圏内だ。

 おそらく、儀式魔法の影響か切れた瞬間を発動のトリガーに設定していたのだろうな。


 爆発の仕組みは、大方脂肪を分解してグリセリンをつくって、そこからニトログリセンを精製してドカン、といったところか。


 言わば、死体の形をしたダイナマイトだな。


 そう理解した俺は、対策を考えようと、ふと下界を見下ろした。


 ……静かだ。


 俺はそれに違和感を覚えて、地上を観察する。


(ゾンビが、全員こちらを向いている……?)


 もしかして、こいつらは音に反応するのでは──。


 しかし、そう考えた頃には、喧騒は元に戻っていた。


「……ロット、大丈夫?」


「は、はい。……ていうか、いつの間に来てたんですか?」


「……今来たところ。……待った?」


「あの、すみません。デートの待ち合わせみたいな台詞吐かないでくれませんかね?」


「……冗談」


 冗談言ってる場合かよ!?


 ……でも、頭の中の靄は、これで少しは晴れた気がする。


「……どうした?」


「何でもないよ。さ、手っ取り早くテロリストを制圧しようか!」


 俺はそう決意を叫ぶと、分身魔法によって大量の自分を作り出した。


 チラリ、と、ニュラの方向を見る。

 どうやら驚いていないようだ。さすが一等特級クラス。


(さて、まずは手始めに、あれをやろうか!)


 俺は分身たちを上空に展開させて、巨大な魔法陣を描き出した。


 分身一体一体が、極大魔法を放つ準備をさせて待機しているのだ。

 これで、逃亡されても、相手がどれだけ協力だろうが灰燼に帰すこと間違いなしだ。


 そう思ったとき、ニュラに強力な蹴りを腹に食らった。


「何するんだよ!?」


「……ロット、やり過ぎ。……捕獲が、優先」


 はいはい。わかりました。


 でも、俺はこの極大魔法の待機は継続させることにする。


 さらに分身を作って、巨大な結界魔法を教会を中心とした半径二百メートル圏内に発動させた。

 極大魔法に耐えられるように、三重に展開させる。


「これでいいですか?」


「……う、うん……」


 何か一瞬、戸惑いの色を浮かべたような気がしたが、気にしないで教会の中に足を踏み入れる。


 さあ、炙り出してやろうぜ、テロリストを!

 次回、さあ、炙り出しの時間だ!

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