発症
俺が街に到着すると、目に映ったのは地獄絵図だった。
人が人を襲い、呪いが感染していく。
(思った通りだ……)
──あの時。
おそらく、俺を追いかけ回していたあの男の仕業だろう。
どこで知ったのかはわからないが、これだけは言える。
これの原因は、エインズワースの秘術、屍霊の祭壇によるものだ、と。
「……これは」
「なるほど。儀式魔術によるテロ、といったところか」
しばらくして追い付いてきた二人が、そのようにコメントを入れる。
ロットに於いては、ほぼ正解の答えを導きだしていた。
「そんなことわかるんですか?」
「見ればわかる。大方、発症地は教会だろう。あそこの地下には大量の死体が埋まっているからな。それに、死者を傀儡にするなら、数時間あれば俺一人でも再現できる」
さらっととんでもないことを口走る金髪の幼女。
……この人、さっき空を飛んでたし、絶対ただ者ではない予感しかしないんだが……。
「……対災害指定魔獣討伐第三小隊に告ぐ。……市民の安全を守りつつ、対象の無力化、及び魔法式の破壊を命じます」
「わかりました。じゃ、エインズワースさん。避難誘導お願いします。時間稼いでる間に、魔法式を消し飛ばします」
は?
魔法式を消し飛ばす?
ニュラさんご命令を下したその直後に、隊長は俺にそう告げるとさっさと走って行ってしまった。
「……ジョン。早く行く」
その事に呆然としていると、ニュラさんにそう催促された。
「はい……」
襲いかかってくるゾンビをスルーしつつ、通り抜け様に魔力喰いでディスペルを施していく。
この儀式魔術を用いたテロを理解するのに、そう時間は用さなかった。
何せ、それぞれの屍霊たちの頭から魔力の糸が発生し、それが教会の一点に集束されているのが見えたからだ。
無論、認識したというのなら、ここから一気に根本を叩く、というのもできるのだが、残念。
時間がかかりすぎる。
なので、近くまで行って、祭壇ごと破壊しようと考えたのだ。
こっちの方が早くて単純なのである。
ロット・マクトリカは半径20メートル圏内ならば、ほぼタイムロス無しで魔力喰いを行使できた。
故に、俺が通る度に敵がバタバタと倒れていくのである。
ジョンには、俺が手の回らないところを相手してもらっている訳だが……。
いかんせん、人数が足りない。
こんなにバタバタ接近してきていたら、犯人もそれを察知して逃げ出すだろう。
──だが、それでいい。
俺の狙いはそこにある。
どうやらジョンの奴は俺の行動を見て、俺の思惑を推理したようだ。
元武偵というのも、嘘の情報ではなかったらしい。
(さすが探偵。察しの早いことだ)
あれほどの経験があるんだ、相手がどこに逃げるかくらいは推理できるだろう。……けど、念には念を、だ。
俺は改編魔法を使って、自分を複製する。
無論、自我は組み込まない。
自分の命令に従うだけの人形を創ったまでだ。
後に、この魔法が分身魔法と呼ばれるようになるのだが、それはまだ先の話。
俺は分身に、俺から逃げ出すように動いているロンを検索して追跡するように命令した。
ロンは生体エネルギーだ。
つまり、生きていれば誰でも持っているもので、それを隠すことは生物には不可能なのだ。
故に、ロンを追えばそこに人がいるという発想なのである。
俺は、教会に向かって一直線に飛翔する。
速度は普通電車並で十分だろう。
この速度を超えて、生身で移動できないのは知ってる。
だが、しかし。
(検索結果に該当する反応がありません)
分身から検索結果が報告されるのを聞いて、思わず急停止をかける。
カギネから教わった体魔力法が役に立ち、俺の急停止は難なくクリアされる。
なぜだ?
もしかして、逃げていないと?
だとすると、それほど自信があると推測され──まさか!?
そこまで考えると、次に俺は分身に命令を上書きする。
(命令の上書きを命ずる。現在展開されている儀式魔術の座標付近のロンを捕捉し、その座標周辺にて警戒網を張れ)
(命令の受諾を確認しました)
俺はその反応を聞くと、とりあえず上空に上がってジョンの座標を確認した。
次回、爆弾
魔法解説。
屍霊の祭壇:儀式魔法の一種。死者を傀儡にして、バイオハザードを起こす。高等魔法に分類。
分身魔法:改編魔法の派生。自分の情報をコピーして、魔力にて同じものを作製する。高等魔法に分類。




