表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大魔術師ロットの魔法  作者: 記角麒麟
屍霊の襲来
19/82

ジョン・エインズワース

 ──ジョン・エインズワース。


 最後のエインズワース領領主、ベイン・エインズワースの曾々孫に当たる、元貴族。

 最近までは探偵業を営んでおり、その後十年の探偵生活を捨て、傭兵に転職。

 先のウルバーンとの戦争とも呼べぬ殲滅戦──後に魔女の再誕と呼称されるようになる──に参加し、その後行方不明となる。


 探偵時代は、武装探偵──略称武偵──として、各地方の民警と共に、数多くの連続強盗事件、および殺害事件の解決に協力し、その後の傭兵としての三年間の功績──主に二年前のノスポール帝国で起きたテロ事件を単独で制圧した──を持つ。


 ……ギト王国治部省に所属する精鋭諜報部隊が得られたのは、たったそれだけだった。


「それで、こいつがご依頼のジョン・エインズワースかい?」


 長めの銀髪に金色の三白眼。深緑色の外套を纏ったその内側には、炭で輝きを消した、複数の宝珠。

 アブルである。


 彼は、痛みで気絶したのであろうジョンをストレージ・改(生物の収納不可の欠点を改良し、生物を持ち運び可能とした収納魔法)へと投げ入れた。


「そのようですね」


 そんな彼に首肯するのは、また同じ服装の黒髪の女性。

 彼と同じように大量の宝珠を所持しているわけではないが、見た目の服装は同じである。


 彼女は懐から緑色の液体が入っているシリンダーを取り出すと、その中身を一滴だけ、足元の血痕に落とした。

 すると、その血痕は緑色の光の粒子となり、分解されていく。

 他に飛び散っているところがないか、共に来ていた諜報員たちと痕跡の消去活動に移る。


 ここに残っているのは、諜報部隊の中でも戦闘に不向きな人たちである。

 戦闘タイプはごく少数を残して、あの大男の追跡を行っていた。


「さて、さっさとずらかることにしようかな」


 アブルはそう告げると、掌を空中に翳した。

 それに倣うようにして、他のメンバーたちも彼の掌に手を重ねた。


「並列演算宝珠起動──罠魔法、転移」


 すると、彼の掌を中心に、空間が渦を描いた。

 そして、その渦はアブルと、それに触れていた諜報員たち全員を巻き込んで、その場から姿を消した。


 彼らが通った跡には、何も残らなかった。
















「──っは!?」


 見慣れない天井。

 白いタイル張りの天井からは、白熱電球の灯りが吊るされている。


「ここは……つうっ!」


 起き上がろうとして、身体中の激痛に顔をしかめる。


(無くなった脚が復活している!?)


 上体を起こして、視界に入った自分の脚を眺めて、おそらくあのとき誰かが助けに来てくれたのだろうと覚る。

 部位欠損の治癒となると、かなり高位の治癒術士だ。


(いったい、誰がこんなことを……)


 と、その時。向こうの方で扉が開く音がした。


「目が覚めたようだね」


 そう言って、入ってくる男。

 白衣の姿に、メガネをかけた、四十前半くらいの男性だった。


「貴方は……たしか、クルード・マクトリカさん、ですよね?」


「よくご存じで。ジョン・エインズワースさん」


 彼はそう答えると、近くの椅子に腰を下ろした。


「自己紹介は必要ないみたいですね。貴方が治してくれたんですか?」


「いえ、再現しただけですよ。残念ながら、現代の治癒魔法による完全な治療は、未だ不可能なものでね」


「……どういうことです?」


 そんなとき、再びその扉を開けて中に入ってくるものがいた。


「……生きてる。……成功?」


 淡々と、クルードに話しかけているのは、銀髪の美少女。歳はまだ十代というところか。

 だというのに、その格好は軍服を身に纏い、あまつさえ強者のオーラを醸し出していた。


「いや、まだわからないですね。なんせ、アレを投与した患者は歴史上、有史以来彼一人ですから」


「……そう」


「あの、彼女は?」


 ジョンは何か置いていかれているような感じがして、二人に話しかけた。


「彼女の名前はニュラ。ギト王国軍所属、一等特級魔導武官だよ」


「……今日から、君の上司。……よろしく」


 ……上司?

 上司ってことは、俺が軍に所属させられるってことか?


「あの、上司って……?」


 そう尋ねると、ニュラさんは無表情な顔を少しだけ綻ばせて、こう答えた。


「……君は、今日から、対災害指定魔獣討伐小隊第三部隊。……通称ジズに編成されることに、決まっている」


「……え?」


 まて。

 そんな部隊聞いたことがないぞ?

 ということは、新しく、少なくともここ三年以内にできた部隊ということか?


 それに、対災害指定魔獣討伐小隊って……それ、軍の精鋭部隊が担当する部隊じゃなかったか?


「……感激、してる?」


「してません!ていうか、なんでこんな、一端の傭兵がそんな精鋭部隊に編成されなくてはならないんです!?」


 叫んだ喉が少し痛い。


「……興奮、しちゃダメ」


 そう叫んだ俺の唇に、そっと人差し指を押し付けるニュラ。


(……やべ、ちょっと可愛いって思ってしまった……)


 俺は落ち着きを取り戻すと、彼女の手を押しやった。


「……クルード、説明」


 ニュラに促されて、彼はうんと頷くと説明を開始した。



















 ずるり、と下水道の壁にもたれ掛かり、肩で息を吐く。

 彪の獣人は肩の傷に手を触れると、舌打ちをして耳を済ませた。


 バシャバシャバシャと、水を跳ねる足音が遠退いていく。


 ──なんとか撒けたようだ。


 そう安堵して、男は更に奥へと足を向けた。


 レンガが交互に積み重ねられた壁の一角。

 男はそれに手を触れると、ストレージから先程の男の脚の断面を取り出した。


(たしか、この辺りだったか……)


 壁の一角。

 そこに彼の血を十字に塗りつけた。


 その血液は紫色に淡く光り、壁に門を形成する。


 ──エインズワース家の秘術。


 あの男を使ってマクトリカ家から盗んだ、その情報が正しければ。


(もうすぐだ)


 彼はニヤリと笑みを浮かべると、その門を潜っていった。

 次回、偶然


 魔法解説。


 ストレージ・改:生物を収納できない欠点を改良したストレージの魔法。高等魔法に分類。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ