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大魔術師ロットの魔法  作者: 記角麒麟
古代の魔女
17/82

ニュラの理不尽な怒気

 その日は日差しも柔らかく、昼寝にぴったりな天気だった。

 ヴァイツスネイク──同時10歳──は、お気に入りの庭で、日曜日の協会この時間をこんな風に寝て過ごすことがお気に入りだった。

 小うるさい宮内就きの教師から離れて、束の間の怠楽を暮らす。


(長い幸せより短い幸とは、おじいちゃんはとてもいいことを言うものだ)


 小さな頃から、彼はそういったことを良く口にした。

 そういった点で言えば、今までの歴代の王子より頭は良い方であると言えるだろう。


 ヴァイツスネイクは伸びをすると、再び背中を地面の芝生に預けた。

 すると、首に何か冷たいものを踏んだ感触がした。


 なんだろうとそれに手を伸ばしてみると、シューという細長い威嚇が聞こえてきた。

 はっとしてそれに目をやると、それは白い蛇だった。


「うわぁ!?」


 慌てて飛び退くヴァイツスネイク。

 その様子をうかがうかのように、そいつは鎌首を持ち上げた。


「く、来るな!」


 しかし、蛇は更にその首を上に持ち上げる。


 今や彼の身長より高い位置に頭があった。


 ──シャーッ!


 蛇の威嚇に尻餅をつくヴァイツスネイク。

 白蛇はその隙を見逃さない。


 斯くして彼は、その白蛇に噛まれたのであった。














 気がつくと、彼は何もなかったかのように庭の草地に寝そべっていた。

 時はまだそれほどたっていないのか、外は明るい。


 そんなとき、どこからか声が聞こえてきた。


 ──アッシュバルゼンがお前を探しているぞ。黙って部屋から抜け出した事を怒っているようだ。


 ドキリ、と心臓が跳び跳ねそうになった。


 誰もいないのに、耳元で囁かれた鈴音のような女の笑い声がしたのだ。

 誰だって驚くだろう。


「だ、誰だ?」


 ──私はパイモン。聡慧そうけいなる鬼耳きじ恩恵ギフトよ。


「ギフト……?」


 ──そんなことよりいいのか?アッシュバルゼンを怒らせた上に待たせるとは。度胸のある奴だ。


 パイモンと名乗った恩恵ギフトに言われて、背筋が凍るような錯覚に陥った。


 気になると聞かずにはいられない性格が災いしたのだ。

 しかしまた同時に、飲み込みが早いのはこの場合幸運だったと言えるだろう。


「どうしたら、曾祖父様の機嫌を宥められる?」


 ──そうだな。今から案内する通りに動けば、全て上手く行くだろう。


 パイモンには何か策があるようで、彼はそれに従うしかなかった。


 パイモンの言う通りに進むと、いつも部屋の窓から見えていた月桂樹の下までやって来た。

 そこには、傷ついた白いレッサードラゴンの子供が倒れていた。


「これは?」


 ──レッサードラゴンだな。マーグニの幼体。更にユニーク個体だ。


 ユニーク個体というのは、魔物の中で希に発生する突然変異した個体のことである。

 その事は勉強して知っていたので、さらに驚くことになったのは言うまでもない。


「どうしてこんなところに……」


 ──レッサードラゴンの習性のひとつだよ。己と違う見た目のものを忌み嫌い、群れから追い出す習性があるんだ。それより、私の指示通りに動かないと、アッシュバルゼンの鉄拳を食らうぞ?


 パイモンの忠告に、身震いするヴァイツスネイク。

 彼はパイモンに指示を仰ぐ。


 ──いいか?私の言う通りに呪文を唱えろ。


「わかった」


 魔導兵器である宝珠が開発される以前。

 魔法の発動は、長い呪文の詠唱によってのみ発動されていた。

 そのため、魔法はそういった知識のある人間──主に王公貴族──にしか扱えないと考えられていたのだ。


 ヴァイツスネイクはパイモンに続いて、魔法の詠唱を行った。


 それは、十小節にも及ぶ長い呪文だった。


 やっと唱え終わった頃、そのユニーク個体のマーグニは、みるみる内に傷が癒えていくのだった。


 ──完璧だ。良くできたな。


「……」


 彼はふぅと息を吐くと、ほとんど空になってしまった魔力に苦笑いを浮かべた。


「……ヴァイツ、お前……!?」


「そ、曾祖父様!」


 突如聞こえてきたアッシュバルゼン先王の声に、心臓が跳び跳ねそうになるのを抑えて、ヴァイツスネイクはその人に向き合った。


 アッシュバルゼンは、震えている自分の曾孫に微笑みかけると、その大きな手を彼の頭に翳した。


「……よくやったな。まさか、この歳にしてヒールオールを行使できるようになるとは」


「?」


 アッシュバルゼン・ゼルベノフ・アウローラ・ギト・エイブラハム元97代目ギト王国国王は、何が何か理解できない彼に何かを察した。


「……ところでヴァイツ。その呪文はどこで覚えた?まさか、宮内の医務官から教わったわけでもあるまい?お前はサボり魔だから、自習したとも考えられんが……誰か他にいたのか?」


 ──黙秘だ。


 ヴァイツスネイクはパイモンの言葉にしたがって、目線を明後日の方向にずらしながらも黙秘を行使した。


 しばらくそうやっていると、曾祖父アッシュバルゼンは諦めてため息をついた。


「それほどの使い手がいたなら、会ってみたいものだが……まぁいいだろう。ヴァイツ。今は消耗も激しいだろう、部屋に帰ってゆっくり休め」


 彼はその言葉を受けて返事をすると、自分の部屋へと戻っていくのだった。


 さて、時代は現代に戻る。

 あのような出来事がきっかけで彼はパイモンという力を得たわけだが、この事によって、時代は大きく動くことになる。


 パイモンの発動条件は、白い蛇に噛まれること。

 これをスキル自身から説明してもらった彼は、パイモンの勧めもあって白い蛇をペットにしているのだ。
















 ──という話を聞きながら、俺はアブルの隣に腰を下ろして、竜車の窓から流れる景色を眺めていた。


 あの知られざる騒動(ノブヒトらの誘拐未遂)から年が明けた頃。


 俺はアブルに告げられた帰還命令──発令したのはステイシア・アーカイヴ一等特級魔導武官らしい──によって、現在央都アゼリアへ帰還していた。


 二人の性格を考えると、恐らく彼女らの喧嘩の一端なのは容易に想像できた。

 しかし、帰還命令には別の理由も含まれていた。


「──と、現国王の簡単なストーリー説明をしたわけだが、ロット。なぜ私がこのような話を君にしていると思うかな?」


「久しぶりに会って早々そんなこと言われても、正直頭が働きませんが……王と会うのか?」


 ボーッと外を眺めるのにも飽きたので、彼の方へ視線を傾けるロット・マクトリカ。


「まぁね。君のお陰で新しい装備の開発の目処がたったし、それも済めば特許の獲得のために王に謁見するだろうけど、今回は違う」


 最初に会った頃より伸びたその長い銀髪の隙間から、金色の三白眼がこちらを見つめ返した。





















「失礼します!ロット・マクトリカ特別階位であります!……とかいう茶番劇は、どうせ要らないんでしょう?ニュラさん」


 開け放たれた会議室を見渡して、俺は彼女にそう話しかけた。


「……いい。……うるさいの、苦手だから」


 ニュラはそう言うと、こちらに来るように指事をした。


「……今回、貴女を呼んだのは……対災害指定魔獣討伐小隊第三部隊、通称ジズに入隊する手続きを行うため」


 対災害指定魔獣討伐小隊とは、ギト王国が所有する軍の中で、最小単位で行動する災害指定された魔物、及び魔獣の討伐を行う部隊の総称である。


 ギト王国では、軍隊の階級である大尉や少尉という呼び名で表さず、十等~一等まで存在するなかで、さらに三つに細分化された等級で示される。


 等級の区別は、その人物個人の戦闘能力に由来し、目安として──


 ・十等……一般的な実力者。

 ・九等……小型の魔物一体に対し、小隊を組めば倒せるレベル。

 ・八等……小型の魔物一体に対し、一人で対応できるレベル。

 ・七等……中型の魔物一体に対し、小隊を組めば倒せるレベル。

 ・六等……中型の魔物一体に対し、一人で対応できるレベル。

 ・五等……大型の魔物一体に対し、中隊を組めば倒せるレベル。

 ・四等……大型の魔物一体に対し、小隊を組めば倒せるレベル。

 ・三等……大型の魔物一体に対し、一人で対応できるレベル。

 ・二等……二個中隊で犠牲者をほぼなしで迷宮を攻略できるレベル。

 ・一等……小隊を組めば、犠牲者をほぼなしで迷宮を攻略できるレベル。


──とされている。


 そして、その対災害指定魔獣討伐小隊──10~50人ほどのPt──とは、一等クラスの中でも精鋭の部隊で編成されたチームである。


「私が、ジズに?」


「……」


 無言で肯定する彼女を見て、俺の頭は思考を始めた。


 確かに、俺は軍人ではないが、一等特級クラスの実力があると自負している。

 何故なら、一等特級の目安である、単独による迷宮攻略をクリアしているからだ。


 蹂躙系、という俺の戦闘スタイルも考慮に入れれば、統計上巨大である災害指定魔獣の討伐部隊の編成に加えられてもおかしくはない。


 ……おかしくはないけど……。


「ニュラさん。ジズって、対飛空型の災害指定魔獣の対抗戦力として考案されて、たしかまだ起動していなかった気がするんですが?」


「……人為飛行なんて、古代の魔法を使えるのは、貴女しかいない。……さらに、実力も申し分ない。……よって、これらの理由から、貴女を小隊長に任命する」


 淡々と告げながら、任命書を書き上げて、自分の遣い魔を介して手渡すニュラ。


 だが、その淡々とした声音の中に、何故か怒気を孕んでいたのは気のせいだろうか?


「……二言は?」


 鋭い剣気につつかれて、俺はそれに反抗することができなかった。

 次回、暗闇で

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