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大魔術師ロットの魔法  作者: 記角麒麟
古代の魔女
14/82

原石と宝石

 翌日。俺はメープルと共に、ミッドさんから仙流の扱いを学んでいた。

 曰く、神気は主に補助的な行動に用いるようで、攻撃に転用することはほとんどない。

 ほとんどない、というからには、まぁ、それを用いる攻撃手段が存在するということだ。


 その中でも有名なのが少龍シャオロンと呼ばれる技法で、触れた瞬間に相手のロンをかき乱して気絶、あわよくばそのまま殺害することさえ可能な技だ。

 これは、ロンが流れている”龍骨ロングー“と呼ばれる筋道の関節”龍節ロンジェ“に的確に放つことによって、効果を得られる。

 そのため、難易度は高く、実践で狙って打つのは難しい。


 他にもエナジードレインといって、触れた相手のロンを奪うというものもある。


 どれも実践には向かず、どちらかと言えば暗殺術に近い感じたそうだ。

 また、エナジードレインは吸い切るまで時間がかかるので、その間に抵抗される可能性もあるので、利用には要注意だ。


 因みに、この二つは単純なロンを利用しているので、正確には神気を使っているとは言えない。


「──さて、それでは神気の利用したものに何があるかを教えよう」


 そう言うと、ミッドさんは魔力の塊を神気に包んで空間に出現させた。


「これは、抱腹玉という技だ。人は、慣れていないと龍を感じとることができない。だからこうやって、神気で魔力を包んでしまうことで、相手からこの中身を関知されにくくするんだ。中にあるものは別に魔力でなくてもいい。うまくできれば、相手からの認識を阻害することもできる」


「先生。だったら、ロンだけでもよくないですか?」


 不思議に思って、ミッドさんにそう質問すると、彼はいい質問だと返して、質問に答えた。


「前にも言ったが、龍だけだと生命の危険が及ぶことがあるんだ。敵から身を隠しているのに、使っているだけで命を落とすのは本末転倒だろ?それに、感じたと思うが、龍は空気中に放出すると霧散する性質があるんだ。自分の制御下に置けなくなるんだね。だからこうして、神気として利用するんだ」


 なるほど……。


 つまり、龍は空気中に溶け込みやすく、また体外に出ると操作できなくなる。

 魔力は体の一部みたいなものか。


 事実、俺はそうなんだけど。


 それから何回か抱腹玉の練習をこなしている内にだんだんとそれっぽいものができるようになってきた。


 神気は扱うのにコツが要るので、俺でもそう簡単に制御できるものではなかったのが理由だ。

 魔力だけなら、扱えるんだけどな……。


 それからしばらくすると、体の中でドッと何かが抜け落ちるような不快感に見舞われた。


「龍の使いすぎだな。今日はもう終わりにしよう」


 その言葉で、俺は今までそれが生命エネルギー、つまりHPだったということを失念していたことに気がついた。


 危なかった。

 止めてくれなければ、俺は文字通り死んでいたに違いない。


「気を付けろよ?使いすぎると死ぬんだから」


「はい。ありがとうございました」


 俺はそう言うと、発動を中断した。


 すると、待機していた神気が体内へと戻っていくことを確認した。


 俺の頭の中に、とあるアイデアが思い浮かぶ。


(もしかして、この方法を使えば、もしかしてアレができるのでは?)


 俺はその方法を検証したい気分に襲われた。


「さて、まだ少し早いが、お昼にしよう」


「あの、ミッドさん。後で時間空いてますか?」


 その場を去ろうとするミッドさんを呼び止めると、俺の考えを話した。


「……凄いな。もうそれに気がつくのか」


 どうやら、アレは本当に可能らしく、事実仙流の奥義としてあるのだとか。


 アレ、というのはつまりキャンセル技である。

 あるアクションを違うアクションを使ってキャンセルし、次の技を使うことによってアクション毎の硬直時間を消す技術。


 神気は使用すると一瞬だけ硬直する時間が発生するのだが、それを使えばその時間を埋めて連続技が使える。


「でも、今日は止めておけよ?」


 しかし、ミッドさんはそんな俺に釘を刺すのであった。

















 昼食後。

 俺は部屋で紙に色々と書いていた。

 キャンセル技については目処がたったので、今書いているのは換装魔法の設計だった。


 これが完成すれば、一瞬で兵装を別に変換することができる。

 それによって相手の不意をつくこともできる。

 一種の暗器の様なものだ。


 だが、これを自力でするのは、あまり現実的ではない。

 何しろ集中力が要るのだ。

 乱戦中にそんなことはできないだろう。


 そこで考えたのが、変身アイテムだ。


 その武器に、そういう機構を組み込んでおいて、そこに魔力を流すだけで魔法を発動させる。


 最初、充電式を考えたが、それだと発動に時間が掛かる。


 思念伝達によるスイッチならば、魔剣と同じ要領で換装が可能だ。


 魔剣。

 男心くすぐる、いい響きである。


 剣等の物具に魔力を纏わせ、付加能力を与える魔法。

 それが魔剣である。


 俺はとりあえず思い付いた内容をこうして紙に書き留めているわけだが……。


「んー、なんか、人に譲りたくないんだよなぁ。コレ」


 書いている内に、魔法少女ものを頭に思い浮かべてしまっていた俺は、どうも普通の兵士にこれを預けたくない気分になっていた。


 これが普及すれば、兵士の死亡率は格段に下がるだろう。

 結果、この国の繁栄にも繋がる。


 しかし、この国は充分に大きい。


 ロシアほど、とは言わないが、中国並の面積はあるだろう。

 その六割が人の住む居住区域で、残りが自然界。

 手をつけていないものに絞れば、一割もない。


 そういう事実をかんがみれば、人口密度的にも領地は増やしたいところ。

 今朝の新聞で見かけたのだが、以前侵攻してきた敵軍を、俺が蹂躙した結果なのか、かの国は全面降伏。

 ギト王国に吸収されてしまっていた。


 また、俺のことも記事にされていた。

 俺は許可した覚えなどないのだが、そんなものは虚しいあがきだろう。

 抗議したところで無意味だし、これが他国への威嚇?みたいなことにもなるんだろうし。


 政治にはぜんぜん興味ないから知らないけど。


 ……よし。


 俺は伸びをすると、頭の中で纏まった設計を別の紙に書き写していく。


 改編魔法は、情報さえあれば魔力で物を造ることができる。

 それは魔法道具しかり。


 なんというチートか。

 そんなことはどうでもいい。

 俺は、俺の使いたいことのために使うだけだし。


 俺は設計用紙に手をかざし、情報の読み取りを開始する。


 続いて、情報の具現を開始する。


 光の粒が集まっていき、その後それは固形化して、一つの赤い宝珠を形成した。


 あっけないものだ。


 とりあえず俺はそれに、いつか情報を読み取っておいたジャージのデータを、その宝珠に登録する。


「よし。準備完了」


 俺はそう呟くと、キーワードを発声した。


「──換装!」


 キーワードを口にした瞬間、自分の着ている服がスキャンされ、宝珠にデータがバックアップされる。

 次に現在の衣服が分解され、一瞬だけ全裸状態になり、さらにそれを光が包んで、登録していたジャージが装着される。


 間、0.8秒くらいだった。

 そのうち、全裸になっている時間が0.3秒。


 マッパの上から装備が着装されるのは、計算外だった。


「……失敗かなぁ」


 落胆して、自分の体を見下ろした。


 下に何もつけていない状態で、密着型のジャージを着用しているので、色々R指定なアブなさが醸し出されている。


「……」


 そのまま少し動いてみる。


 すると、体のあちこちに食い込んで不快だ。


 これは完全に失敗したかな。


「改良が必要だな。まず、着ているものを全て消して入れ換えるっていうのをどうにかしないと……」


 俺は換装を解いて、元の衣装に戻る。


 戻るときは最初より時間が短かった。

 だいたい0.5秒くらいになった。


 それでも全裸になるシーンはカットされなかったが。


「これも改良しないと。一瞬完全に無防備になるのは避けたいし」


 やっぱり、いきなりフルは無理だったか?


 そんな風に唸っていると、メープルが部屋に入ってきた。


「ロットちゃん。お客さんだよ!」


「お客さん?」


 そう聞き返すと、メープルの後ろから見覚えのある少女が現れた。


「久しぶりだな、ロット。修行は順調か?」


 藍色の袴に、緋色の帯。

 黒い眼帯に、黄色の髪紐で髪を一つに纏めている。


 アグニ・ゼルベノフの使い魔、カギネである。


「はい、まぁそこそこ」


 そう答えると、彼女はそうかと言って、俺が手に持っていた赤い宝珠に視線を向けた。


「それは?見たところ、見たことのない宝珠だが……ふむ。なるほどなるほど。……ほぅ、面白い」


「何々!?私にも見せて!」


 じっくりとそれを眺め、観察するカギネの横から、顔を覗かせるメープル。


「わぁ、綺麗だね!」


「うむ。しかし式が歪だな。まぁ、これほどの効果となると、お前の知能じゃスマートにはなるまい」


 端的な感想をいうメープルに対し、こちらはその内容まで見透かして返答している。


「はい。さっき試したんですけど、欠陥だらけでして」


「だろうな。これ、お前が造ったのか?人工物にしては継ぎ目がないが……」


 宝珠を手にとって、更にしげしげと眺めるカギネ。


「あ、本当だ!ロットちゃん!どうやって造ったの?」


 ……言わないとダメかなぁ?


 言わないとダメだろうなぁ。


 カギネはこういうことに関しては、意外にしつこく問いただしてくる。そのお陰で、俺が使っていた魔力喰いの仕組みを漏らしてしまったわけだが……。


 俺はため息をつくと、諦めて白状することにした。


「改編魔法という魔法を使いました」


「……まさか、また新しい魔法を創り出したと言うまいな?」


 目を細めて、信じられないという風に聞き返してくるカギネに、俺は愛想笑いで返した。


「はぁ、つくづくあきれる奴だと思ってはいたが、まさかここまでだったとは……。私は、お前の認識をまた改めなくてはならなくなる。聞いたぞ、追尾性を持つ魔力弾を戦争に使ったそうだな?聞けば、人為飛行なんて古代の魔術まで使用しおって」


「やっぱり、ダメでした?」


「いや、正解だよ。そのお陰で、こちらの損害は許容範囲内に収まったし何より……いや、何でもない。忘れてくれ」


 言葉を濁すカギネに不審を覚えながら、しかし俺は深く考えないようにする。


「これは私がアブルの所へ持っていくとしよう。あいつなら、これを磨いでくれるやもしれんからな。ところでロット。久しぶりに稽古をつけてやろう。準備をして表に出ろ」


 カギネは宝珠を袖袋に入れると、そんなことを言い出した。


「なに、どれくらい成長したか見せてもらうだけだ」


















 ということで、俺たちは訓練場にやって来た。


 目の前には、自然体で扇子を広げて構えている──傍目からは立っているだけのようにしか見えないが──カギネの姿があった。


 対して俺は、彼女の一挙手一投足を見逃しまいと気を集中させている。が、しかし次の瞬間、俺の体は宙を舞っていた。


「!?」


 カギネの業だ。

 相手の意識の隙間に入り込み、相手の死角から攻撃を加える。


 その成功率は絶対で、誰も逃れることはできない。


 俺は人為飛行で空中に撤退すると、カギネの姿を探した。


「目に頼りすぎだ」


 耳元でそんな言葉が聞こえたかと思えば、次の瞬間には俺は地に伏せていて、俺の首にその下駄を突きつけていた。


「全く、全然なってないぞ。あれほど目に頼るなと言っただろうが」


 俺はインビジブルを使って反撃に出るが、しかし軽くあしらわれてしまっている。


「お前の戦闘センスは皆無だな。全く、あれを滅ぼしたのがデマに聞こえてくるわ」


「っ!?」


 見えないはずの刃をあしらって、しかも欠伸までしている。


 俺の放つインビジブルは既に亜音速に達しているというのに、この余裕。


「この、単能が!」


 一閃。


 その瞬間に、俺のインビジブルが跡形もなく消し去る。


「いくら神気に変えたって、いくら身体能力が向上しようが、それに伴う技術と知恵が無ければ意味がないだろうが!お前がなぜここに連れてこられたのか理解しているのか!」


 叱責。

 俺は、その言葉に動きを止めた。


 たった十数秒のやり取り。

 その短い間で、彼女は俺の怠慢を摘まみだし、そう叱咤する。


「いいか。単能であることというのは、それはつまり特定の状況にしか対応できない無能ということだ。前に言ったことを覚えているか?私は、お前に汎用であれと言ったんだ。器用貧乏でもいい。どれかひとつでも突出した力を持っているなら、劣等したその力を、そこまで引き上げる努力をしろ。でなければ死ぬぞ!」


 彼女はそう怒鳴ると、心を落ち着かせるように大きく息を吸って、長く吐いた。


 そして、厳しいそのまなこで、俺を見る。


「立て。立って戦え。甘えるな。ここは甘く優しい世界ではないのだから。お前には羽がある。翼がある。強靭な牙も、素早い頭もある。だから探れ。ことの本質をことごとく探れ。そして見つけた宝石を、我が物にして見せろ!」


 その言葉で、俺の頭の中の言い訳はすべて消し飛んだ。


 ──そうだ。

 俺は、何のために力を求めたんだ。


 護るためだろうが。

 いざという時に何もできなくて、何が力が欲しいだ!


 沸々と、体の中にある種の執念が咆哮をあげる感覚が芽生える。


 そして、俺は立ち上がり、カギネを観察した。


 重心。視線。体の向き。魔力の流れ。龍の流れ。

 そして──、意識の流れを。


「そうだ。その目だロット。やればできるじゃないか」


 カギネが扇子を前に掲げた。

 右足が少しずれる。


 そして、不意にその重心が乱れた。


「!?……ふふっ。ふははははははは!いいぞ、いいぞロット!その調子だ!」


 瞬間、空を舞う金属製の扇子。

 驚いたような、あっけにとられたような。しかし、嬉しそうな顔を見せるカギネ。


「せい!」


 降り下ろされる手刀。

 これはブラフだ。

 本命はこっち!


 ガツン、と重い音を立てて、死角から攻めいる蹴りを防ぐ。

 それを踏み台にして、二段目の回し蹴りが頭部を攻める。


 腕を出して絡めとる。


 三段目が踵落としで頭頂を責める。

 肩で受ける。


 膝を落として相手のバランスを殺す。

 揺らいだ隙に、腹部へ手刀。


 防がれた。

 瞬間、カギネの魔力の流れが変わった。


 視界から消える。

 しかし、ロンは見えたままだ。


 俺はそれへ向かって攻撃をしようとして、瞬時にバックステップを踏む。

 直後、俺の居た場所に轟と空を切る音が響いた。


 あのロンは残像だったのだ。


 砂ぼこりの影が揺らいだ。

 空気の流れを読む。

 デマだ。


 俺は上空へ防御魔法を展開した。


 ガツンと音が鳴り響いて、扇子の一撃を防ぐ。


 同時に、背後からの蹴りを肘打ちで迎え撃つ。


「……いやぁ、面白いほど成長の早い娘だ」


 呵々、と満足そうに笑うカギネ。


(この娘の成長の速度は異常だな……。伝えた瞬間には、それをもうほぼ完全にマスターしている)


 それは正に、異形。

 1種の才能とも言える何か。


 それか何かは解らないが、しかし──。


 カギネは満足そうな笑顔を浮かべると、ロットに向き直った。


「ちょっとヒントを与えただけでこの有り様だからな?ゼルベノフが一等特急相当と言ったのも頷ける」


「ありがとうございます、師匠」


 礼を述べるが、しかし構えは解かない。


 が──


「だが、今日はこれまでにしよう。面白いものも見れたし、何よりロットが成長したことを見届けたのだ。今日はこれで勘弁してやる」


 ふぅ、やっと終わったか。


 俺はその台詞に安堵して、構えを解いた。


 しかし、その瞬間、俺の体は投げ飛ばされていた。


「しかし、油断しすぎるのは今後の課題だな」


 そう言うと、逆さまの視界の中、カギネはその場を後にしたのであった。


 今日、彼女と戦って、わかったことがいくつかあった。


 一つは、俺がまだ成長の余地があるということ。

 そしてもうひとつは、カギネが本気で戦えば、おそらくこちらは一歩も手がでないであろう、ということ。


 端から見れば拮抗していたように見えたかもしれないが、あいつはまだ余裕を隠していた。


「……今後の課題、か」


 俺はジャージについた砂ぼこりを払い落とすと、痛む体を擦った。

 流石に、痛覚遮断の魔法をかける余裕はなかった。


 いつかカギネが言っていた。

 痛くなければ覚えない、と。


 確かに、その通りだなと実感したのだった。

 次回、Kidnapping


 魔法解説。


 換装魔法:瞬時に主兵装と副兵装を切り替える魔法。高等魔法に分類。

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